上 下
33 / 147
第二章【旅立ち】

第三十二話 キス

しおりを挟む
 帰りの馬車はお通夜のように静かだった。俺も何だかよくわからなくて混乱している。

 私邸に着くと、エリオネルは出発の準備をするとラブラドさんに伝えていた。明日出発するらしい。随分と急だ。

「マリヤ、明日出発することになったから、荷物をまとめてくれる?」

 真面目な雰囲気のエリオネルに俺は頷くしかなかった。一人で部屋まで行って、荷物を詰める。

 エリオネルのお兄さん変な人だったな。だから紹介したくなかったのかな?


 それから、眠りにつくまでエリオネルは部屋に帰って来なかった。



ーーーーーー


 柔らかい感触がする。何だかふわふわしていて、これは夢の中だとわかった。

 エリオネルとキスする夢。

 俺がエリオネルの首に腕を回すと、エリオネルがビクッとしたのがわかった。

 口を少し開けて、エリオネルの口に自分の舌を入れる。ぬるぬるとした感触が気持ちいい。

 夢中でキスしていると、またふわふわし始めて、気づいたら夢は終わっていた。


ーーーーーー


 目を開けると見たことない部屋の天井で、周りを見ると借りていた自分の部屋だった。

 エリオネルとキスする夢見たな、と余韻にひたる。

 すっごくリアルで気持ちよかった。

 一人で余韻に浸っていると、扉がコンコンとノックされた。

「はーい」

 扉を開けると、エリオネルと目が合った。

 途端にエリオネルの顔が赤くなる。

 え、ちょっと待って、夢じゃなかった感じ?!胸が急に早鐘を打ち始める。
 耳にドクドクという心臓の音が響いて煩い。

「エリオネル、夜俺の部屋来た?」

「行った……」

 エリオネルは見たことないほど真っ赤になっており、キスしてしまったのが本当なんだとわかった。

「顔を見に行ったら、あの、急にマリヤが抱きついてきて……」

「あー!!ごめん!完全に夢だと思って寝ぼけてた!!」

 やってしまった!!やけにリアルだと思ったんだよ!!
 穴があったら入りたい。

「いや、夜中に行った私も悪いし」

「いやいや!気持ち悪かったよな!ごめん」

 顔の前で手のひらを合わせて、謝るポーズをする。本当に悪いことをしてしまった。

 何も言わないエリオネルに、そーっと目を開けると、まだ真っ赤になっている。

「気持ち悪いというか、よかったけど」

 ぽーっとなってるエリオネルが呟く。

 ええ!?よかったって、エリオネル!?

 これ以上赤くなれないだろうと思っていたエリオネルの顔が、一段と赤くなった。

「この話はおしまい!朝早いけど、出発するから用意して」

 バタンと目の前で、扉を閉められてしまった。


 朝食を取ったときには、エリオネルは普通に戻っていて、食べてすぐに馬車に乗せられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

【R18】お嫁さんスライム娘が、ショタお婿さんといちゃらぶ子作りする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 前話 【R18】通りかかったショタ冒険者に襲い掛かったスライム娘が、敗北して繁殖させられる話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/384412801 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

住所不定の引きこもりダンジョン配信者はのんびりと暮らしたい〜双子の人気アイドル配信者を助けたら、目立ちまくってしまった件〜

タジリユウ
ファンタジー
外の世界で仕事やお金や家すらも奪われた主人公。 自暴自棄になり、ダンジョンへ引きこもってひたすら攻略を進めていたある日、孤独に耐えられずにリスナーとコメントで会話ができるダンジョン配信というものを始めた。 数少ないリスナー達へ向けて配信をしながら、ダンジョンに引きこもって生活をしていたのだが、双子の人気アイドル配信者やリスナーを助けることによってだんだんと… ※掲示板回は少なめで、しばらくあとになります。

王様ゲームで弄ばれる話

ミツミチ
BL
飲み会のあとに立ち寄った後輩の家で、後輩らに王様ゲームで弄ばれるチョロ先輩の話 (冗長没カットのおまけの初夜 https://mitsumichi.fanbox.cc/)

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

処理中です...