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第一章【出会い】
第五話 お姉さんの話
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「本当にありがとうございました」
神父さまとアイシャさんに深く頭を下げるお姉さんは、顔色こそよくないが、状態は落ち着いているようだった。
「何があったか、話してくれますね」
神父さまは、拒否するのを躊躇うような声音でお姉さんに訊ねた。
「私は、黒い森の北にある、シズルという村で暮らしていました。たまに、小さな魔獣などは出ていましたが、村人で倒せるほどでした」
お姉さんは諦めたように、暗く話していく。
「シズルの民は、元来強いと聞きます」
「はい、黒い森の近くに住んでいて、弱くては生きていけません。老人や子ども以外は、ほとんどの村人が戦えました」
「しかし、あの日……突然アイツが現れたんです。何の前触れもありませんでした。
私はアイツを魔法で攻撃しながら、白の塔まで連れて行くことにしました」
「白の塔から飛翔して、この村に来たとき、この人に助けられ、教会まで運んでもらいました。アイツが何なのかは、私には解りません」
ん?俺は、白の塔とやらに居たと思うんだけど……
「………」
俺がこの村の人じゃないのは、アイシャさんが一番解っているはず。
でも、黙っているってことは、ずっと知ってたってことじゃないか?
ここまでお世話になっておいて、嘘を吐いたままでいいのか?
黙っていても、何れわかると思う。
「俺は、白の塔に居ました」
お姉さんが、苦虫を潰したような顔になる。
黙ってくれていたのに、ごめんなさい。
黒髪が捕まるとしても、俺はアイシャさん経由がいい。
「ただ、何故白の塔に居たのかは知りません。ここじゃない所から来たので」
「ん…?」
皆の頭の上にクエスチョンマークが見える。
「俺は、地球という星の日本という国から来ました。それは、多分この星じゃないと思うんです」
「地球……」
「はい。白の塔に来る直前の記憶が無いので、確かではないですが、学校の帰りか、家に帰ってすぐにこちらに来たんだと思います」
家に帰ったら、まず着替えるから、十中八九帰りか、帰ってからすぐだと思う。
最後の記憶は、放課後に校舎横で彼女に振られたという最悪なものだった。
「あ!それで、福音を受けてないって……」
「福音を受けてないのか!?」
アイシャさんの言葉に、お姉さんが仰天する。
「地球では、福音は限られた一握りにしか与えられな……待ってください。ここって、もしかして、みんな福音……」
「「「受けてる(ます)」」」
わー!!!
じゃあ、最初のアイシャさんがした質問で、もうアウトだったんじゃん!
素直に言うことにしてよかったー…
「じゃあ、本当に王子とは関係ない……?」
「関係ないと思います。俺、黒髪なので……」
「……!!」
頭に巻いた布を外すと、アイシャさんが息を飲むのが聞こえた。
「黙っていてすみません……」
「マリヤさんは、元居た場所に帰りたいですか?」
神父さまが、重たい空気の中口を開いた。
帰りたいか、帰りたくないかでいったら……
「帰り……たい、です」
彼女に振られたとはいえ、家族や友達も居る。
異世界を探索したいとは思うが、帰れなくなった時の方が怖い。
「私は、その方法を知りませんが、一つだけ、解る可能性があります」
「え……?」
解るの?地球に帰る方法が?
「"賢者"という人がこの世界には居ます」
賢者……?!胸熱!!
いきなり異世界っぽくなってきた展開に、興味がそそられる。
「ただ、"賢者"はどこに居るか、所在もどんな人なのかも知られていません」
それって、本当に居るのか……?
疑問が顔に出ていたのか、神父さまは少し笑って続けた。
「"賢者"には、代々王位の継承者が会っていますので、必ず居ます。一般でも、稀に会えることがあるそうです」
「その……賢者さまは、地球に帰る方法も解るんですか?」
「賢者に会った中の1人は、不治の病が治ったとされています。不可能なことを可能にできる、唯一の希望だと言う人も居ます」
「不治の病かー……」
地球でも、不治の病と言われていた病気が、科学の進歩により治療可能になったりしている。
賢者さまがどれだけすごいのか解らないが、異世界に帰る、なんて途方もない問題は一縷の望みにかけるしかないのかもしれない。
「私の知り合いに、賢者を探してる人が居ます。その旅に同行させてもらえるよう、頼んでみましょうか?」
え……旅に出る?いきなり?新幹線でしか旅行したことないのに?
邪魔にしかならない気がする……
かといって、1人で旅に出た日には早々に死んでしまいそうだ。ここで暮らしていくにしても、神父さまとアイシャさんに依存することになる。
「その方は、裕福なので、同行者が1人増えても問題ないと思いますが……、そうですね、地球での話をしていただければ喜ぶと思います」
ふんふん、暇がすごくありそうな、お金持ちのおじさまって感じだな。
でも、地球の話とかして大丈夫なのだろうか?
「とりあえず、会ってみますか?」
珍しく饒舌な神父さまに、それ以上の案は無いか、と諦め半分に頷いた。
神父さまとアイシャさんに深く頭を下げるお姉さんは、顔色こそよくないが、状態は落ち着いているようだった。
「何があったか、話してくれますね」
神父さまは、拒否するのを躊躇うような声音でお姉さんに訊ねた。
「私は、黒い森の北にある、シズルという村で暮らしていました。たまに、小さな魔獣などは出ていましたが、村人で倒せるほどでした」
お姉さんは諦めたように、暗く話していく。
「シズルの民は、元来強いと聞きます」
「はい、黒い森の近くに住んでいて、弱くては生きていけません。老人や子ども以外は、ほとんどの村人が戦えました」
「しかし、あの日……突然アイツが現れたんです。何の前触れもありませんでした。
私はアイツを魔法で攻撃しながら、白の塔まで連れて行くことにしました」
「白の塔から飛翔して、この村に来たとき、この人に助けられ、教会まで運んでもらいました。アイツが何なのかは、私には解りません」
ん?俺は、白の塔とやらに居たと思うんだけど……
「………」
俺がこの村の人じゃないのは、アイシャさんが一番解っているはず。
でも、黙っているってことは、ずっと知ってたってことじゃないか?
ここまでお世話になっておいて、嘘を吐いたままでいいのか?
黙っていても、何れわかると思う。
「俺は、白の塔に居ました」
お姉さんが、苦虫を潰したような顔になる。
黙ってくれていたのに、ごめんなさい。
黒髪が捕まるとしても、俺はアイシャさん経由がいい。
「ただ、何故白の塔に居たのかは知りません。ここじゃない所から来たので」
「ん…?」
皆の頭の上にクエスチョンマークが見える。
「俺は、地球という星の日本という国から来ました。それは、多分この星じゃないと思うんです」
「地球……」
「はい。白の塔に来る直前の記憶が無いので、確かではないですが、学校の帰りか、家に帰ってすぐにこちらに来たんだと思います」
家に帰ったら、まず着替えるから、十中八九帰りか、帰ってからすぐだと思う。
最後の記憶は、放課後に校舎横で彼女に振られたという最悪なものだった。
「あ!それで、福音を受けてないって……」
「福音を受けてないのか!?」
アイシャさんの言葉に、お姉さんが仰天する。
「地球では、福音は限られた一握りにしか与えられな……待ってください。ここって、もしかして、みんな福音……」
「「「受けてる(ます)」」」
わー!!!
じゃあ、最初のアイシャさんがした質問で、もうアウトだったんじゃん!
素直に言うことにしてよかったー…
「じゃあ、本当に王子とは関係ない……?」
「関係ないと思います。俺、黒髪なので……」
「……!!」
頭に巻いた布を外すと、アイシャさんが息を飲むのが聞こえた。
「黙っていてすみません……」
「マリヤさんは、元居た場所に帰りたいですか?」
神父さまが、重たい空気の中口を開いた。
帰りたいか、帰りたくないかでいったら……
「帰り……たい、です」
彼女に振られたとはいえ、家族や友達も居る。
異世界を探索したいとは思うが、帰れなくなった時の方が怖い。
「私は、その方法を知りませんが、一つだけ、解る可能性があります」
「え……?」
解るの?地球に帰る方法が?
「"賢者"という人がこの世界には居ます」
賢者……?!胸熱!!
いきなり異世界っぽくなってきた展開に、興味がそそられる。
「ただ、"賢者"はどこに居るか、所在もどんな人なのかも知られていません」
それって、本当に居るのか……?
疑問が顔に出ていたのか、神父さまは少し笑って続けた。
「"賢者"には、代々王位の継承者が会っていますので、必ず居ます。一般でも、稀に会えることがあるそうです」
「その……賢者さまは、地球に帰る方法も解るんですか?」
「賢者に会った中の1人は、不治の病が治ったとされています。不可能なことを可能にできる、唯一の希望だと言う人も居ます」
「不治の病かー……」
地球でも、不治の病と言われていた病気が、科学の進歩により治療可能になったりしている。
賢者さまがどれだけすごいのか解らないが、異世界に帰る、なんて途方もない問題は一縷の望みにかけるしかないのかもしれない。
「私の知り合いに、賢者を探してる人が居ます。その旅に同行させてもらえるよう、頼んでみましょうか?」
え……旅に出る?いきなり?新幹線でしか旅行したことないのに?
邪魔にしかならない気がする……
かといって、1人で旅に出た日には早々に死んでしまいそうだ。ここで暮らしていくにしても、神父さまとアイシャさんに依存することになる。
「その方は、裕福なので、同行者が1人増えても問題ないと思いますが……、そうですね、地球での話をしていただければ喜ぶと思います」
ふんふん、暇がすごくありそうな、お金持ちのおじさまって感じだな。
でも、地球の話とかして大丈夫なのだろうか?
「とりあえず、会ってみますか?」
珍しく饒舌な神父さまに、それ以上の案は無いか、と諦め半分に頷いた。
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