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第一章【出会い】

第四話 教会での生活

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「……わかりました。お連れの方が回復するまで、こちらに居てくださってかまいません」

 アイシャさんの言葉にほっとする。

「ありがとうございます」

「しばらく、この部屋を使ってください。滞在中は、できれば教会の仕事を手伝っていただけると嬉しいです」

「はい……」

 マント被ったままできるかな……
 頭だけ何かで覆うか。

「あの、何かタオルみたいな、長方形の長い布が欲しいんですが……」

「タオル……は解らないですが、お持ちしますね。着替えなども、質素な物ですがお渡しします」

「ありがとうございます。お願いします」


 しばらくしてアイシャさんが、綿素材っぽい長い布と、着替えを持って来てくれた。その時に、内鍵があることに気づき、部屋に鍵をかける。
 何だか夢に居るみたいに現実味がなくて、無意識に着替えをチェストに入れようとして、中に本が入っているのを見つけた。

「………!!」

 本の装丁そうていには、見たこともない文字が並んでいる。
 パラッと開いて、全身が総毛立った。
 今まで、アイシャさんと話していた言葉は、恐らく日本語じゃない。

 なぜ、そんな言葉を話せていたのか……

 これは、現実に酷似こくじした夢なのだろうか。そうだとしても、考えてもしょうがない。後ろ向きにベッドに倒れこむと、睡魔が襲ってきた。
 柔らかい布団の偉大さを噛み締める。

「帰りたいな…」

 自分で何と呟いたのかわからないうちに眠りに入る。走ったし、運んだし、緊張したし……
 この時、自分が大きな歯車の一部だとは一欠片も思っていなかった。


ーーーーーー


 朝起きて思ったことは、やっぱり夢じゃなかったってこと。

「まじかー~!」

 自分の部屋とは違う、簡素な部屋。
 頭を抱えていると、コンコンっと扉がノックされた。

「おはようございます。朝ごはんです」

「はい!すぐ行きます」

 着替えもしてなかったなと、慌てて服を替え、頭に布を巻く。
 髪は見えてないと思うけど、だっせー……
 食べ物の匂いを辿って、下に降りて行くと、ビックリしたようなアイシャさんと神父さまがこちらを見ていた。

「あの…?」

 髪の毛出てる!?何!?

「はっ!…すみません、見とれてしまって」

 あー、頭に巻いてるのダサいですよねー。
 神父さまは、驚いた顔などしてなかったように自然に巻物に目を落としていた。

 朝食は、小さなパンと目玉焼きだった。見たことの無い野菜のサラダもある。二人は目を閉じてお祈りっぽいことをすると、そのまま食べ始めた。

「お姉さんの具合、どうですか?」

 神父さまに聞いてみると、少し難しそうな顔になった。

「今は落ち着いていますが、まだ熱もあるので、喋れるのは3、4日後でしょう」

 そうか……、それまでここでお世話にならなきゃならないのか。

「アイシャ」

 神父さまがアイシャさんに目配せをする。

「はい!あ、お名前聞くの忘れてました!ごめんなさい、何てお呼びすれば…」

「あ、神崎 毬也です。好きに呼んでください」

「マリヤさま…?」

「いやいや!さまとかは無しで!」

「では、マリヤさんとお呼びしますね」

 アイシャさんの癒しオーラに自然と笑顔になる。

「朝食が終わったら、畑仕事があるんですけど……」

「あ、お手伝いしますね。全然解らないので、アイシャさんと一緒だと嬉しいんですが……」

「助かります!」

「マリヤさん。アイシャが買い出ししている間は、私の仕事を手伝ってもらえますか?」

「はい」

 他の人に会うのは避けたいので、有難いことこの上ない。お姉さんと会話できるまでは、不用意に出歩いたりするのはよそう。


 畑に行くと、ピンク色をした野菜とか、いろいろな葉物が植えられていた。
 地球と似通った植物が全然なくて怖い。
 アイシャさんと二人で畑仕事をしていると、子どもたちが物陰からこちらを見ているのに気がついた。

 ぜっんぜん隠れられていなくて可愛い。

「みんなー?緊張してるの?」

 天使の微笑みで子どもたちに近づいていくアイシャさん。子どもたちはアイシャさんを物陰にひっぱると、何やらこそこそ話始めた。

「何日かお手伝いをしてくれることになった、マリヤさんだよ」

 アイシャさんが子どもたちを俺の方にぐいっと押し出す。
 皆顔が赤いんだけど……
 にこっと微笑むと、蜘蛛の子を散らすように子どもたちは居なくなった。

「照れちゃったんですね…」

 と苦笑いするアイシャさんに、俺のダメージは蓄積された。


 畑仕事が終わり、お姉さんの様子を見に行くと、なるほどまだ熱があるようだった。
 アイシャさんと神父さまの手伝いをしながら、お姉さんが喋れるようになるのを待とう。

 教会での生活は、とくに厳しくもなく、子どもたちは相変わらず隠れているけど、なんとかやっていた。

 神父さまは言葉少なで、最初の驚いた顔以来、能面を貫いている。


 お姉さんが喋れるようになったのは、それからほどなくしてだった。
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