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仕事と役割と目標
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女官とは宮廷において、王妃や王女などの高貴な女性に仕えるいわば国家公務員である。
女主人より階級は低いが主に貴族の女性がなる仕事で、侍女や召使いとは立場が少々異なる。
身辺の物やスケジュールの管理などが主な仕事だ。
王族などは命の危険もあるので、国によっては王族の縁者など本当に信頼できる者をその職につけることもある。
つまり私が女官になるなど、異例中の異例なのだ。
ロクに身辺の調査もされず、この職につくなどまずあり得ない。
そして女官は通常男性の主人には仕えない。
なぜなら男女の間違いが起こってはいけないからだ。
よって男性が主人の場合は、侍従がその役割りを担う。
つまり私はひと月の間、女主人に仕え乗り切ればいいのだ。
この勝負、もろたで!
と、数時間前の私は思っていた。
あの強引な男相手に、そんな甘ちゃんなことを考えた自分を恥じた……。
今現在私は、ウィル様のお茶の支度をしている。
私の配属先はウィル様付きの女官だった。
……………………間違いを起こせと?
この異常事態を前に、何故か周囲は平然としている。
「あの、ハンス侍従長。
私が異例の配属をされたのに、何故皆様眉1つ動かさないのですか?」
ビックリするほど皆通常運転なのである。
「それは異例ではないからですよ、レベッカ嬢。
ウィルヘルム様はこの国の唯一の王位継承者です。
ですが、ウィルヘルム様は頑なに妃を娶ろうとはしないのですよ。」
ナルホド、王室公認の色仕掛け戦法なのか。
ウィル様のお眼鏡に叶うご令嬢はいないものかと、悩んだ挙句の苦肉の策なのね。
あぁ……気配の消し方を習得しとけば良かった……。
どうか彼の視界に入りませんように……。
いやその前に、私などウィル様の好みではないか。
そういや容姿を褒められたことは一度もなかったなぁ……。
地味に凹む……。
しかしここで1つ気になることがある。
ヒロインはどうしたの?
「今まで良いお方は1人も現れなかったのですか?」
「………昔聖女様が妃になるはずだったのですが、聖女様は辞退されて修道女になられたそうです。
ウィルヘルム様はよほど聖女様をお好きだったのでしょうね。」
まさかとは思うが、ヒロインは私が自害したことに責任を感じ、妃を辞退したのだろうか……。
シナリオにイレギュラーがあるとすれば私がヒロインを虐めなかったことと、私が断罪されずに自ら姿を消したことだ。
もしかしてそれでシナリオに歪みが生じ、2人は結ばれなかったの?
再会したときは緊張で気づかなかったが、ウィル様はとても暗い表情をしていたように思う。
全てを諦めたような。
とても、彼女のことを愛していたのかも……。
遣る瀬無さにまた爪を噛む。
なんとかヒロインの説得は出来ないものか。
15年経った今でも他の女性に見向きもしないほど、ウィル様は彼女を愛しているのだ……。
辛くないと言えば嘘になる。
けれど私は彼を不幸にしたかったわけではない。
もしかすると愛した彼が幸せになれる道を探すために、私は生まれ変わったのだろうか?
ユーリウス様は、私に責任を取れと言いたいのかもしれない。
「ところでレベッカ嬢、何故そんなに周囲を威嚇しているのでしょうか?
皆、怯えております……。」
ハッ!
いけない、いけない。
人前で物思いにふけるのは、私にとってガンとばしと同等の行為だ。
威嚇したつもりなどないが、ボンヤリしてて気の弱いお嬢さんを気絶させたことが数回ある。
日本で過ごしていた頃には、よく職務質問もされていたなぁ……。
一度中年のおじさんに、泣きながらソッと財布を差し出された記憶は決して忘れられない。
「さぁ、微笑んでみてください。」
…………やめた方がいいと思いますよ?
ニヤリ………。
ザワッ………。
蜘蛛の子を散らすように、周囲の人達が三歩下がった……。
左から三番目の騎士様、恐怖のあまり思わず剣の柄に手をかけたのは見逃しませんよ?
こうして王宮生活での最初の目標は、"人を怯えさせない"ことと"爽やかな笑顔をマスターする"ことに決定したのだった。
女主人より階級は低いが主に貴族の女性がなる仕事で、侍女や召使いとは立場が少々異なる。
身辺の物やスケジュールの管理などが主な仕事だ。
王族などは命の危険もあるので、国によっては王族の縁者など本当に信頼できる者をその職につけることもある。
つまり私が女官になるなど、異例中の異例なのだ。
ロクに身辺の調査もされず、この職につくなどまずあり得ない。
そして女官は通常男性の主人には仕えない。
なぜなら男女の間違いが起こってはいけないからだ。
よって男性が主人の場合は、侍従がその役割りを担う。
つまり私はひと月の間、女主人に仕え乗り切ればいいのだ。
この勝負、もろたで!
と、数時間前の私は思っていた。
あの強引な男相手に、そんな甘ちゃんなことを考えた自分を恥じた……。
今現在私は、ウィル様のお茶の支度をしている。
私の配属先はウィル様付きの女官だった。
……………………間違いを起こせと?
この異常事態を前に、何故か周囲は平然としている。
「あの、ハンス侍従長。
私が異例の配属をされたのに、何故皆様眉1つ動かさないのですか?」
ビックリするほど皆通常運転なのである。
「それは異例ではないからですよ、レベッカ嬢。
ウィルヘルム様はこの国の唯一の王位継承者です。
ですが、ウィルヘルム様は頑なに妃を娶ろうとはしないのですよ。」
ナルホド、王室公認の色仕掛け戦法なのか。
ウィル様のお眼鏡に叶うご令嬢はいないものかと、悩んだ挙句の苦肉の策なのね。
あぁ……気配の消し方を習得しとけば良かった……。
どうか彼の視界に入りませんように……。
いやその前に、私などウィル様の好みではないか。
そういや容姿を褒められたことは一度もなかったなぁ……。
地味に凹む……。
しかしここで1つ気になることがある。
ヒロインはどうしたの?
「今まで良いお方は1人も現れなかったのですか?」
「………昔聖女様が妃になるはずだったのですが、聖女様は辞退されて修道女になられたそうです。
ウィルヘルム様はよほど聖女様をお好きだったのでしょうね。」
まさかとは思うが、ヒロインは私が自害したことに責任を感じ、妃を辞退したのだろうか……。
シナリオにイレギュラーがあるとすれば私がヒロインを虐めなかったことと、私が断罪されずに自ら姿を消したことだ。
もしかしてそれでシナリオに歪みが生じ、2人は結ばれなかったの?
再会したときは緊張で気づかなかったが、ウィル様はとても暗い表情をしていたように思う。
全てを諦めたような。
とても、彼女のことを愛していたのかも……。
遣る瀬無さにまた爪を噛む。
なんとかヒロインの説得は出来ないものか。
15年経った今でも他の女性に見向きもしないほど、ウィル様は彼女を愛しているのだ……。
辛くないと言えば嘘になる。
けれど私は彼を不幸にしたかったわけではない。
もしかすると愛した彼が幸せになれる道を探すために、私は生まれ変わったのだろうか?
ユーリウス様は、私に責任を取れと言いたいのかもしれない。
「ところでレベッカ嬢、何故そんなに周囲を威嚇しているのでしょうか?
皆、怯えております……。」
ハッ!
いけない、いけない。
人前で物思いにふけるのは、私にとってガンとばしと同等の行為だ。
威嚇したつもりなどないが、ボンヤリしてて気の弱いお嬢さんを気絶させたことが数回ある。
日本で過ごしていた頃には、よく職務質問もされていたなぁ……。
一度中年のおじさんに、泣きながらソッと財布を差し出された記憶は決して忘れられない。
「さぁ、微笑んでみてください。」
…………やめた方がいいと思いますよ?
ニヤリ………。
ザワッ………。
蜘蛛の子を散らすように、周囲の人達が三歩下がった……。
左から三番目の騎士様、恐怖のあまり思わず剣の柄に手をかけたのは見逃しませんよ?
こうして王宮生活での最初の目標は、"人を怯えさせない"ことと"爽やかな笑顔をマスターする"ことに決定したのだった。
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