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リネーア嬢の復讐劇

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「悪いが君とは婚約破棄させてもらう」
遂にこの瞬間が来た。
私は乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまった。
どんなに抗おうと、こうなる未来は知っていた。
元が付いてしまった婚約者の背後には、涙ぐみながら「ごめんなさい……」とほざくヒロイン。
つまり元婚約者のロイ様は攻略されてしまった……ということ。

アホですか?
並みの常識があったら浮気相手を現婚約者の屋敷に連れてきて、「浮気してます、別れてくれ(`・ω・´)キリッ」なんてやらないだろう。
元の世界なら、弁護士挟んで相手有責で慰謝料ふんだくれる案件ですわ。
なので一応それらしいことを言ってみることにする。
「あんまりじゃございませんこと?婚約破棄をなさりたいなら、それ相応の誠意を見せてくださいな」
「………要は金か?」
ロイ様がおお嫌だとばかりにため息をはく。
「貴女がそんな風にお金に汚いから、彼の愛情が離れてしまったんです。私はロイ様がたとえ庶民でも一文無しでも、心から愛し支える覚悟があります!」
アホか再び。
お金くれなんて一言も言ってない。
「本物の愛の前でお金の話なんて、貴女がロイ様を愛してらっしゃらなかった証拠です!」
本物の愛ですか、はいはいワロスワロス。
こちとら不誠実な相手に愛情なんてスッカラカンですわ。
寧ろゲージはマイナスを振り切っている。
「わたくしの婚約者を奪っておいて、何の責任も果たさないなんて失礼じゃありませんの?」
「それはロイ様をお金で売る、ということですか?」
………何がどうしてそうなった。
ユー、頭大丈夫?
「言っている意味が分かりませんわ」
「私がリネーア様の立場なら、自分に魅力が足りなかったと反省し、彼に振り向いてもらえるよう自分を磨きます!愛に金銭を持ち込むだなんて、卑しい考えだとは思わないんですか?」
「ミリア……」
ダメだ、こんなトンデモナイ理論に感激してる時点で、ロイ様終了のお知らせだわ。
ヒロインは金銭に拘るのは卑しいと言いながら、慰謝料なんて払いたくないとイチャモンつけてるのよね?これって。
「分かりました。ではわたくしは金銭を一切請求しませんわ」
あくまでも  私  は  ね。
正直お金には困ってないから慰謝料なんてどうでもいいんだ。
ただ、私には他に目的がある。
「分かってくれたのですね、リネーア様」
「では崇高な愛の証拠として、一筆もらえるかしら?」
「「え?」」
二人には是非結婚してもらおう。
いや、してもらわなきゃ困る。
「ロイ様、ミリア様は互いに相手を生涯愛し、添い遂げるということを書面で誓っていただきたいのですわ」
「それで君の気がすむなら喜んで。ミリアも構わないだろう?」
「……………」
「ミリア?」
「あら?誓えませんの?」
「何故貴女に誓わなければいけないのですか?」
「わたくしは侯爵家の娘。婚約破棄になれば嫌でも社交界では有名になってしまいますわ。今一筆いただけるなら、わたくしの都合で破棄になったことにして差し上げてもよろしいのですよ?」
ミリア様は男爵令嬢だ。
庶民に毛の生えた程度の貴族が、高位貴族の婚約者を奪ったと知れ渡れば一家諸共社交界から爪弾きにされてしまうだろう。
この申し出はさぞミリア様には魅力的だろう。
「………分かりました」
イエーーーーーース!!
心の中で盛大にガッツポーズをとり、二人には今後何が起ころうとも愛(笑)の名の下に一生添い遂げるという誓約書を書いてもらった。
こちらの条件は、私から金銭の請求は一切しない、婚約破棄の真相を一切社交界では語らない、今後一切お互いに関わりを持とうとしない、という内容を親切丁寧に書いてやった。
「では用も済みましたし、お引き取りくださいな」
「すまないリネーア。さ、ミリア、行こうか」
「え、ええ……」
二人は腕を組んで退室しようと扉を開けた。
そして扉の前に立つ面々に、二人仲良く顔面蒼白になる。
そう、ロイ様から話があるから屋敷に来ると知らせを受け、婚約破棄イベントだ!と察知し、兼ねてから用意していた証人を呼んでいたのだ。

実は私達の婚約は子爵であるロイ様のお父様が事業で失敗してしまい、友人である私のお父様が援助をしたため決まった婚約だったのだ。
ロイ様のお父様の子爵が亡くなり、ロイ様が爵位を継いだ辺りでゲームスタート。
借金があること、知らない訳ないんだけどなぁ。
ゲームのシナリオでは悪役令嬢の私が悪の限りを尽くしヒロインをイビリ倒したことが明るみになり、父が謝罪のために借金をチャラにするのだが、現実私はヒロインをイビってなどいない。
よってロイ様は、当然私と婚姻する以外に借金をチャラにする方法はない。
「残念だよ、ロイ」
「お、オークランス侯爵!」
「君が何を投げ打っても結ばれたい人がいるなら、娘との婚約は破棄だ。子爵に貸した金銭は全額返済してもらうとしよう」
「えっ!?」
えっ!?ってアナタ………。
「ま、待ってください!」
「あぁ、貸した金銭の返還を要求するのは当然の権利だよね?本当の愛とやらと全く関係ない話なんで、まさか卑しいなんて言ったりしないよね?」
お父様、笑顔なのに般若のようですわ。
お父様曰く、婚約破棄をするなら当然借金の返済をするのが筋である。
ロイ様が縋るような目で私を見てるけど、私は慰謝料をお二人に請求しないという約束だけなので、借金についての話は一切関係ないのでシラネ。
婚約者がいながら浮気をするような男など、当然イラネ。
ゲーム内では私とロイ様の婚約についての詳細は語られなかったので、ヒロインは何も知らないだろうから敢えて黙って一筆書かせた。
借金の存在を知られて、逃げられたらたまったもんじゃないしね。
私的には二人に結婚してもらわないと困るんだ。
「ミリア、まさか本当にロイと浮気をしていたなんて………」
「ち、違うの!フレデリク様!!」
私の本当の目的はこっち。
ヒロイン、本命は公爵家嫡男のフレデリク様だと踏んでいたんだ。
子爵のロイ様より高位の貴族で財力もあり、何より美麗スチルのあまりの破壊力に、数多の乙女達が陥落しまくったほどの美貌の持ち主だったからだ。
加えて優しく硬派で、この人と心に決めたら一途に守り抜いてくれる人。
故に、浮気なんて絶対許せないタイプ。
なので近々ヒロインと婚約すると噂を聞いたこともあり、たまたま偶然うっかり今日我が家にお呼びして、これまたうっかり扉の前でお待たせしてしまっていた。
「ずっと扉の前で話を聞いていた。何が誤解なんだろうか?」
「違う!違うの!!私はリネーア様に嵌められただけなの!酷いわリネーア様!!」
なんでやねん(´・ω・`)
私は不貞の事実を明るみにしただけなので、悪くも酷くもないと思うんだ。

最初私は運命を呪っていた。
フレデリク様ラブなのに、何故に悪役令嬢なんぞに転生してしまったのかと。
だが泣こうが途方に暮れようが、現実は何も変わらないと気持ちを切り替えた。
ヒロインのお目当がロイ様でないことをひたすら願い続けたが、願い虚しく貴族子女が通う学園でチョッカイかけられてることが判明。
ゲームのシナリオ上ロイ様とフレデリク様は友人なので、双方の好感度を上げておかないとトゥルーエンドに辿り着けない。
ヒロイン、馬鹿正直に二人の好感度を上げていたことも判明。
現実的に考えれば二股だっちゅーねん。

そこで私は考えた。
正攻法でフレデリク様を奪う方法はないだろうかと。

「ミリア!俺だけを愛してると言っていたのは嘘だったのか!?」
「ロイ様!ち、違うの!リネーア様の罠なの!!」
だからなんでやねん(´・ω・`)
「リネーア、俺が馬鹿だったんだ。それが良く分かった。もう二度と心変わりなどしないから、俺とやり直してくれないか?」
本物の愛(笑)、終了早いな。
浮気相手がまさかの二股、そりゃ元の鞘に戻れば借金も無くなるわけだし、ミリア様を切ったほうが得策だよね。
仕方がないので、私はロイ様に一枚の紙を見せる。
するとロイ様の顔色は青を通り越して真っ白になった。
「今後一切わたくしに関わらない約束、もうお忘れですの?」
誓約書にしっかり全員分のサインがあるので、「あ、やっぱ無し!」とはならない。
ヒロインは強制的にロイ様エンドに突入するけど、いいよね?
だってヒロイン、ロイ様が一文無しでも心から愛し支える覚悟があるって言ってたし、ね?


その後、フレデリク様とはお友達から始めている。
少しづつ距離を縮めていければいい。
最初はフレデリク様は婚約破棄された私を気遣ってくれていただけだったのだが、最近では「君の側は落ち着くな」と少しづつ心を許してくれるようになった。
ロイ様が舞踏会のたびに「やはり愛しているのは君だけだ!もう一度婚約しよう!」と突撃してくるのだけど、お父様が和かに般若顔で立ちはだかったり、フレデリク様が「君の愛はミリアにあるのだろう?」と阻止するたびに、ションボリしながら帰っていく。
自業自得いう言葉がこれほどしっくりくる人はなかなかいない。


私は悪役令嬢だけれど、攻略対象者と幸せになる未来を目指しても、いいよね?
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みんなの感想(6件)

みもり
2018.08.30 みもり

どの作品も主人公がちゃんと幸せになるのが良いです♪全部好きなお話ですが、中でも黒猫ちゃんのお話と目当ての彼をゲットするために一筆書かせる策略家な彼女の話がお気に入りです。とても満足していますが、ゴスロリドレス→ベビードールへ進化した黒猫嫁がデレ夫にどんな風に構い倒されているのか…凄く気になります(笑)

紫月
2018.08.30 紫月

お久しぶりです(*´ω`*)ノシ黒猫ちゃんの話は私も気に入っていて、短編集でなければもっとツンツン嫁とドSデレ夫を書きたかったですw溺愛は間違いありませんねw

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2018.08.09 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

紫月
2018.08.30 紫月

感想ありがとうございます!彼女の作戦が成功して私もホッとしてますw

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hiyo
2018.03.05 hiyo

とっても楽しいお話でした。
また何か書いていただける事を期待して
お待ちしています~!

紫月
2018.03.05 紫月

ご感想ありがとうございます!マティアスとクローディアの攻防戦、楽しんでいただけて良かったですwまた読んでやってくださいね(´∀`)ノシ

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