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いざ、決戦の場へ

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馬車は豪奢な屋敷が多く並ぶ貴族の住居区を抜け、町外れの少し寂れた印象を受ける一軒の屋敷の前で停車する。
アンナの問題は一先ず置いといて、今は目先のことに集中せねば。
ミシェルは無事なんだろうか?
一刻も早く無事を確認したい。
私はある作戦を決行するために、一度公爵家によってもらい変装をしてきている。
正直成功するかどうかは分からない。
ナターシャ様が協力を申し出てくれたので、遠慮なくお願いした。


「ほう、これは見事ですね。」
「そうでしょう?
職人が丹精込めて作った一点物ですのよ。」
「こちらを侯爵様にお渡しすればよろしいのですか?」
「ええ、侯爵様はアンティーク人形の収集家でしたわね?
以前その話を伺ったときに、侯爵様にお譲りする約束をいたしましたの。
きっとお気に召されるかと思いますわ。」
「賜りました。
侯爵様もさぞお喜びになられるでしょう。」
通った!
なんの疑いもなく人形の贈答品で通った!
以前王宮での夜会で着たドレスを身に纏い、人形のフリして潜入することにしたのだ。
夜会ではそんな馬鹿なと半信半疑だったが、門番の彼はすっかり騙されてくれたのだから、私の人形っぷりはなかなか完璧なのかもしれない。
こんな事に役立つ日がくるとは思ってもみなかったが……。

馬車の中で現場に向かいながら、ナターシャ様が侯爵についていろいろ情報を提供してくれた。
さすが一流のご令嬢だけあって情報通だったのだが、侯爵がアンティーク人形の収集家だと聞いて閃いたのだ。
ジーク様とカイザー様には猛反対されたがここは譲れない。
ジーク様はため息を一つつくと、条件を出してきた。
「貴女の熱意は伝わりました。
ですが条件として、俺を荷物持ちの使用人として付けてください。
貴女をみすみす危険に晒すわけにはいかない。」
キュン……。
だから不謹慎だって!
「そ、それなら俺が…」
「お前は大柄で目つきが悪いから警戒される。」
身もふたもない指摘に、カイザー様がションボリなさってる。
戦いに行けないのがそんなにショックだなんて、血の気が多い方なのかな?
結局カイザー様には、侯爵家の周囲を包囲するための、騎士団の陣頭指揮をとってもらうことになった。
ジーク様が使用人扱いなのは大変申し訳ないが、1人で立ち回るのにも不安がある。
ならば有難くお言葉に甘えるべきだ。
一刻の猶予もない。
正面突破をしてもミシェルの命を盾にとられたら元も子もない。
他に名案も浮かばない。
上手くいく保証もないが、僅かでも可能性があるならそれに賭けるしかないと思う。
今日は父が訪れているため、来客は全て追い返されてるようだ。
だが贈答品なら中に入れる。
侯爵が人形コレクターであることを熟知している使用人なら、迷わず通してくれると踏んだのだ。
ジーク様を通すかは一か八かの賭けだったが、取り扱いが繊細だからと押し切って付いてきてもらうことに成功した。

門番の青年は、使用人が侯爵に許可をもらいに行っている待ち時間に、ジッとクリスティナを見つめる。
「最近のアンティークドールは精巧に出来てんだなぁ。」
ば、バレる!?
ヤバい……背中から変な汗出てきた……。
「なかなか俺好みな顔立ちだなぁ……。」
ギャッ!へ、変な事しないよね!?
「あと少し胸がデカければ言うことないのになぁ……。」

……事件が片付いたらシバいていいよね?

クリスティナの放つ殺気に、ジークは苦笑いを漏らす。
ジークが「追々自分がその胸を育ててやらねば」と、けしからん事を考えていたことなど彼女は知らない。
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