上 下
81 / 130
第十一章 それぞれの代償

(1)

しおりを挟む



 第十一章 それぞれの代償



「ふう。もうダメ。ちょっと休憩」

 そう言ってその場に座り込んだ亜樹に、近くにいたアレスがおかしそうに笑った。

「亜樹は体力がないな。それで本当に男なのか?」

「いやな言い方するなよ。オレだって気にしてるんだから。性別についてはノーコメント」

「の一こめんととはなんだ?」

「簡単に言うとなにを言われようと訊かれようと、こちらからはなにも言わないようって意味」

 クスクス笑う亜樹にアレスは憮然としている。

「しかしエベレストより高いって一樹に聞いたけど、エルダ山の頂上付近って空気が導いんだなあ。慣れるまでちょっと辛いぞ、これは。高山病に気をつけないと」

 とにかく呼吸するだけでも辛い。その上に使ったこともない力を引き出すための訓練をしているのだから、亜樹の体力の消耗はかなり激しかった。

 ここはエルシアたちの屋敷から、ちょっと離れた森林である。

 力の訓練に使われる場所だ。

 亜樹の傍にはアレスとエルシアがいる。

 アレスは同じように訓練を受けているが、その上達振りは凄まじく、エルシアでさえ「もうすぐ教えることがなくなりそうだね」と呆れながら言っていた。

 これだけ物覚えがいいのなら、レダの元にいた半年の間に、母神に習っていたこのに、とは、亜樹の意見だった。

 言われたアレスは「母上からは知識を与えられた。だから、今エルシアたちがなにを求めているかわかるんだ。そういう意味だと無駄ではなかった。違うか?」ということだったが。

 言われたことはなんでも素直にに吸収する。

 それがアレスの最大の長所だった。

 それに引き換え画間は亜樹は。

「うん? アレスと違ってオレはダメな奴だなあと思って。なにしろ葉っぱひとつ動かせないんだから」

「だが、とっさのときには恐ろしい力を発揮しているぞ? あれでなぜ普段使えないのか不思議だ」

「うん。オレも」

 確かに不意打ちを受けたときとか、とっさのときは手に力が迸る。

 それは亜樹にも制御不能なことだった。

 まあできるという確信さえなかったのだから、初めてそれを自覚したときの驚きは、言葉にはできないものがあったが。

 切っ掛けはエルシアの悪巧みだった。

 エルダ山にきて一週間。

 考えられるかぎりで最高の方法で教えていると、エルシアたち豪語しているにも関わらず亜様の力は発現しなかった。

 それどころか、どれほど言われても念じても、なんにもできない。時間だけが無情に流れていく。

 それでも精神は集中させているから、亜樹の消耗は激しかったのだが、このままでは埒があかないと思ったのか、ある日、エルシアたち三人は相談し合い、亜樹に不打ちを仕掛けた。

 巧く亜樹がひとりになるように誘導し、反対して怒っていた一樹を説き伏せ、亜樹を襲ったのである。

 これには正直、驚いた。

 いきなり真空の所謂カマイタチの大群に襲われたのだから。

 切り刻まれるっ!

 そう覚悟を決めた瞬間、それは起こった。

 亜樹の背後から強風が吹き付け、なにかが割れるような音がして、そうして静減が戻った。

 後に残されたのは強風でなぎ倒された大樹の残骸。

 唖然とする亜樹の元に一樹が駆けつけてきたのは、その後だったらしいが、自分がやったと
自覚したとき、亜樹は気絶したので覚えていない。

 それが切っ掛けとなり一応、力らしきものには目覚めた。

 以後、不意打ちを仕掛けられると力が勝手に反するのだ。

 防御、ではなく、反撃。

 これには何故か一樹を含むエルダ神の三兄弟が、とても驚いていたようだが。

 不意打ち仕掛けたときしか発動しない力。それもほとんど暴走だ。制催なんて不能で自分でもどうにもできない。

 エルシアたちは不意打ちを仕掛けるとき、それが訓練だからと手を抜かないから、毎日度こそダメかっ! というような恐布に襲われる。

 彼らに言わせるとその恐怖が、亜樹の力を発動させているのだろう、ということだったか怖いから、だから、反撃する。

 それに対して返す力は自分でも呆れるほどの強さ。

 加減したいと思っても全然言うことをきいてくれなくて、正直、落ち込んでいた。

 エルシアたちの力は確かに強い。

 普通の人間だったら亜樹はもう二十回は死んでいる。

 だから、本気で怖いし力も勝手に反撃するんだと思う。

 でも、反撃すればいいというものでもない。

 ましてや仕掛けられた力の十倍返しなんて幾らなんでもやりすぎだ。

 自分でもそう思うのに、力は全然、自分の意思に従ってくれない。

 それなのに同時期に訓練を始めたアレスはあっという間に制御を身に付けてつけて、これで落ち込むなど言われても無理だ。

 おまけにエルシアたちがなにをしているか知ったアレスまで、ある日、亜樹に不意打ち掛けてきたのだ。

 エルシアたちから受けた事情説明では、こういうことだった。





「亜樹の力を制させるために不打ちを仕掛けているというのは本当か、エルシア?」

 またまた不意打ちでも仕掛けて、制御を覚えさせようと悪巧みをしていたエルシアたちは、突然、割り込んできたアレスに驚いたような顔を向けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【父親視点】悪役令息の弟に転生した俺は今まで愛を知らなかった悪役令息をとことん甘やかします!

匿名希望ショタ
BL
悪役令息の弟に転生した俺は今まで愛を知らなかった悪役令息をとことん甘やかします!の父親視点です。 本編を読んでない方はそちらをご覧になってからの方より楽しめるようになっています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

婚約破棄と言われても・・・

相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」 と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。 しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・ よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。 *********************************************** 誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

処理中です...