上 下
1 / 130
序章

予期しない異世界への召喚

しおりを挟む


 



 序章


 失いたくない。

 ずっとそう思っていた。

 相手より自分の方が、きっと何倍もそう思っている。

 ずっとそう信じてきた。

 でも、今はもうわからない。

 どちらが強くそう思っていたかなんて。

 ただ今思うのは、

(おいて逝きたくなかった)

(おいて逝かれたくなかった)

 ただそればかり。

 もしもう一度出逢えるなら、そのときはもう離れない。

 離さない。

 ふたりを引き裂く運命なら、そんなものいらないっ!!

 運命にだって抗ってみせる。

 再び共に生きるために。

 そう思っていたのに……。

「いない。この世界のどこにもいない。おまえがいないなら、生きていく意味がない!!」

 全身全霊で泣き叫んだ。魂が慟哭した。

 死んでもいい。

 生きていても意味がない。

 そう自暴自棄に陥ろうとしたとき、不意に目の前に幻影が浮かんだ。

 それは懐かしい愛する人のようでもあり、全然知らない人にもみえた。

 それでも永い時を一緒に生きてきた自分だからわかる。

 あれは「彼」だ。

『こっちだよ。オレはこっちだよ』

 そう言って手招きする人の背後に青く美しい星が浮かび上がる。

 そうして思い出した。

 自分が転生したのは、そもそもこの世界ではなかったと。

 本来、転生できないはずの自分が転生できたのは、おそらく「彼」の影響。

 不可能を可能にした「彼」との繋がりは深い。

 だったら「彼」が転生したのも、たぶんこの世界ではなく異世界だ。

「思い出した。おれは時空の迷子になって、偶然この世界に戻ってきたんだ」

 だから、離ればなれになった。

 そう気づいた瞬間、力を放っていた。

 自分が転生した世界に戻るために。

 愛してくれた人々。

 こちらで築いてきた関係。

 すべてを放棄して。

 これが長く辛い旅の始まり。

 育ってきた常識の違う世界に戻っても、待っているのは苦労だけ。

 ましてやはぐれてしまった半身を見つけ出すことなんて不可能に近い。

 それでも近くにいたかった。

 同じ世界の空気を吸っていたい。

 そんな願いに突き動かされて。

 このときは思いもしなかった。

 自分が後にした世界に今度は「彼」の方が迷い込んでしまうなんて……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、

ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。 そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。 元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。 兄からの卒業。 レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、 全4話で1日1話更新します。 R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【父親視点】悪役令息の弟に転生した俺は今まで愛を知らなかった悪役令息をとことん甘やかします!

匿名希望ショタ
BL
悪役令息の弟に転生した俺は今まで愛を知らなかった悪役令息をとことん甘やかします!の父親視点です。 本編を読んでない方はそちらをご覧になってからの方より楽しめるようになっています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

婚約破棄と言われても・・・

相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」 と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。 しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・ よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。 *********************************************** 誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...