34 / 36
第十章 巡り合い
(4)
しおりを挟む
「ジュエル。これからどうすんだ? このままおっさんの娘として嫁がせるの、さすがに不味くね? 国の体面的に」
「そういうことを考えられるようになったなんて、ルイも世継ぎらしくなったものだ」
「気付くだろ。普通。それにジュエルには罪はないし、ジェラルドの前では言いにいけど、ジェラルドの地位が危うくなり、ジュエルがエリザベートさんの娘だから、アドラー公爵家から血を引いてるからと、今度はジュエルを俺と結婚させようと企んだとしたら、俺は」
ジュエルに罪はなくても受け入れられないと、ラスの苦い顔が言っている。
その望みはないと言われた妹には悪いが、ジェラルドは違うことを考えていた。
女だからジュエルはダメなのだとしたら、男で弟の自分は可能性はあるのだろうかと。
(あれ? わたしは兄上のことが好きだったのか?)
今までずっと罪を償いたくて兄の力になりたいと思ってきた。
しかし発見された兄は良い意味で予想を裏切っていた。
ひとりで戦えないほど弱くもなかった。
そんな兄を見守る内、次第に憧れていった。
憧れだと思っていた。
でも、もしかして恋だった?
そしてここが兄が育った街。
「マックス。縄を解いてくれないか。逃げないし死なないと誓う。わたしはただ兄上が育った街を見てみたいんだ」
「心配ならマックスが見張ってれば? 俺も付き添うし」
「殿下はああおっしゃっていますが陛下?」
「ジェラルドはもう弱腰にはならないだろう。放してやりなさい」
リカルドに言われて、ヴァンは縄を解いて、マックスが見張りについた。
「じゃあ行こうぜ」
「兄上はわたしを疑わないのですか?」
「ウソを言ってるかどうかは目を見りゃわかるさ」
そう言って頭の後ろで両腕を組むと、ラスはジェラルドを急かした。
「ほら。行かねえのかよ」
「行きます! 行きますから待って下さい、兄上!」
あははと笑いながらラスが店から出て行く。
その後をジェラルドが追いかけて、ヴァンがマックスに指示をした。
頷くとマックスの姿も消えた。
「あのふたり。随分仲がよろしいのですね」
「そう言えば出逢った頃から、そうだったのかもしれないな」
皇帝夫妻の会話にマリアンヌは微笑んでいる。
ラスはともかくとして一途なジェラルドが可愛く見えて仕方なかった。
「兄上! あれはなんですか? どうして街中に櫓があるのですか?」
「あれはこの街独自の自警団が使う櫓だ。あそこで見張ってれば、陸海どこから攻めてきても、一目でわかるからな」
「さっきから肌を晒した女性が誘ってくるのですが。何故ですか?」
質問攻めに遭い前を歩いていたラスが呆れ顔で振り向いた。
「ジェラルド。お前花街のことどこまで知ってる?」
「男が恋を買う街、女が恋を売る街。つまり恋人を探しに来る街なのでは?」
「誰だよ。こんな純真無垢に育てたのは?」
思いもしない返答にラスがげっそりしている。
ジェラルドの考え方は上辺だけを解釈したものだ。
物事の本質を理解しているわけじゃない。
ラスは本当のことを教えた方が、ジェラルドのためだろうと口を開いた。
「男が一夜の恋を買う街というのは、まあお前にわかりやすく例えるなら、一夜限りの伽の相手を探すという意味。決して恋人を探す街じゃない。金で伽の相手を買うそんな汚い街だよ」
「兄上」
ジェラルドは言ってもいいものか、迷いながらも口にした。
「兄上はそんな街でどうやって身を守ってきたのですか?」
「多分今になって思えば、マリアの姐さんのおかげだよ。俺が姐さんの誘いを断ったことを、上手く噂を蒔いて広げて、姐さんでも落とせない俺に手を出しちゃいけない。そんな風潮を作り上げたんだ。マリア姐さん様々だよな」
ラスがこれまで無事だったのは、マリアの英断のおかげ。
そう聞いてジェラルドは気になってたことを聞いた。
「そんなふうに守ってくれた女性に惹かれたりはしなかったんですか?」
「惹かれたぜ?」
「!」
「母親みたいに思ってた」
「母親?」
きょとんとした顔をしてジェラルドは、不思議そうだ。
「近すぎて恋愛関係にはなれなかったよ。今となっては恩人だな。俺の」
「兄上。兄上に想い人は?」
「いねえなあ。今は生き抜くことで精一杯ってことかな」
大きく伸びをするラスに気付いたらジェラルドは言っていた。
「わたしではダメですか?」
「は?」
驚いて振り返るラスにジェラルドは、若さのまま言ってしまった。
「兄上は先程ジュエルではダメだと言っていらした。なら、わたしでは、ダメですか? ずっと兄上をお慕いしてきたんです。仇である祖父の血を引いたわたしではダメですか」
「お前なにか勘違いしてねえか?
ジェラルド」
「勘違い?」
「俺たちの境遇でまず愛だ恋だと騒げるのは、自分たちが無事に生き延びて、すべての問題を片付けた後だ。俺がジュエルはダメだと言ったのも、相手の思惑に乗るからだし。速い話が焦りすぎ。わかったか?」
ジュエルの場合は本人のためにも、見知らぬ男たちに犯されていたことを、エルザベートに伏せるためにも、彼女の素性は明かせない。
最悪修道院行きもありかもしれないなとラスは考えていた。
「そういうことを考えられるようになったなんて、ルイも世継ぎらしくなったものだ」
「気付くだろ。普通。それにジュエルには罪はないし、ジェラルドの前では言いにいけど、ジェラルドの地位が危うくなり、ジュエルがエリザベートさんの娘だから、アドラー公爵家から血を引いてるからと、今度はジュエルを俺と結婚させようと企んだとしたら、俺は」
ジュエルに罪はなくても受け入れられないと、ラスの苦い顔が言っている。
その望みはないと言われた妹には悪いが、ジェラルドは違うことを考えていた。
女だからジュエルはダメなのだとしたら、男で弟の自分は可能性はあるのだろうかと。
(あれ? わたしは兄上のことが好きだったのか?)
今までずっと罪を償いたくて兄の力になりたいと思ってきた。
しかし発見された兄は良い意味で予想を裏切っていた。
ひとりで戦えないほど弱くもなかった。
そんな兄を見守る内、次第に憧れていった。
憧れだと思っていた。
でも、もしかして恋だった?
そしてここが兄が育った街。
「マックス。縄を解いてくれないか。逃げないし死なないと誓う。わたしはただ兄上が育った街を見てみたいんだ」
「心配ならマックスが見張ってれば? 俺も付き添うし」
「殿下はああおっしゃっていますが陛下?」
「ジェラルドはもう弱腰にはならないだろう。放してやりなさい」
リカルドに言われて、ヴァンは縄を解いて、マックスが見張りについた。
「じゃあ行こうぜ」
「兄上はわたしを疑わないのですか?」
「ウソを言ってるかどうかは目を見りゃわかるさ」
そう言って頭の後ろで両腕を組むと、ラスはジェラルドを急かした。
「ほら。行かねえのかよ」
「行きます! 行きますから待って下さい、兄上!」
あははと笑いながらラスが店から出て行く。
その後をジェラルドが追いかけて、ヴァンがマックスに指示をした。
頷くとマックスの姿も消えた。
「あのふたり。随分仲がよろしいのですね」
「そう言えば出逢った頃から、そうだったのかもしれないな」
皇帝夫妻の会話にマリアンヌは微笑んでいる。
ラスはともかくとして一途なジェラルドが可愛く見えて仕方なかった。
「兄上! あれはなんですか? どうして街中に櫓があるのですか?」
「あれはこの街独自の自警団が使う櫓だ。あそこで見張ってれば、陸海どこから攻めてきても、一目でわかるからな」
「さっきから肌を晒した女性が誘ってくるのですが。何故ですか?」
質問攻めに遭い前を歩いていたラスが呆れ顔で振り向いた。
「ジェラルド。お前花街のことどこまで知ってる?」
「男が恋を買う街、女が恋を売る街。つまり恋人を探しに来る街なのでは?」
「誰だよ。こんな純真無垢に育てたのは?」
思いもしない返答にラスがげっそりしている。
ジェラルドの考え方は上辺だけを解釈したものだ。
物事の本質を理解しているわけじゃない。
ラスは本当のことを教えた方が、ジェラルドのためだろうと口を開いた。
「男が一夜の恋を買う街というのは、まあお前にわかりやすく例えるなら、一夜限りの伽の相手を探すという意味。決して恋人を探す街じゃない。金で伽の相手を買うそんな汚い街だよ」
「兄上」
ジェラルドは言ってもいいものか、迷いながらも口にした。
「兄上はそんな街でどうやって身を守ってきたのですか?」
「多分今になって思えば、マリアの姐さんのおかげだよ。俺が姐さんの誘いを断ったことを、上手く噂を蒔いて広げて、姐さんでも落とせない俺に手を出しちゃいけない。そんな風潮を作り上げたんだ。マリア姐さん様々だよな」
ラスがこれまで無事だったのは、マリアの英断のおかげ。
そう聞いてジェラルドは気になってたことを聞いた。
「そんなふうに守ってくれた女性に惹かれたりはしなかったんですか?」
「惹かれたぜ?」
「!」
「母親みたいに思ってた」
「母親?」
きょとんとした顔をしてジェラルドは、不思議そうだ。
「近すぎて恋愛関係にはなれなかったよ。今となっては恩人だな。俺の」
「兄上。兄上に想い人は?」
「いねえなあ。今は生き抜くことで精一杯ってことかな」
大きく伸びをするラスに気付いたらジェラルドは言っていた。
「わたしではダメですか?」
「は?」
驚いて振り返るラスにジェラルドは、若さのまま言ってしまった。
「兄上は先程ジュエルではダメだと言っていらした。なら、わたしでは、ダメですか? ずっと兄上をお慕いしてきたんです。仇である祖父の血を引いたわたしではダメですか」
「お前なにか勘違いしてねえか?
ジェラルド」
「勘違い?」
「俺たちの境遇でまず愛だ恋だと騒げるのは、自分たちが無事に生き延びて、すべての問題を片付けた後だ。俺がジュエルはダメだと言ったのも、相手の思惑に乗るからだし。速い話が焦りすぎ。わかったか?」
ジュエルの場合は本人のためにも、見知らぬ男たちに犯されていたことを、エルザベートに伏せるためにも、彼女の素性は明かせない。
最悪修道院行きもありかもしれないなとラスは考えていた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
双子攻略が難解すぎてもうやりたくない
はー
BL
※監禁、調教、ストーカーなどの表現があります。
22歳で死んでしまった俺はどうやら乙女ゲームの世界にストーカーとして転生したらしい。
脱ストーカーして少し遠くから傍観していたはずなのにこの双子は何で絡んでくるんだ!!
ストーカーされてた双子×ストーカー辞めたストーカー(転生者)の話
⭐︎登場人物⭐︎
元ストーカーくん(転生者)佐藤翔
主人公 一宮桜
攻略対象1 東雲春馬
攻略対象2 早乙女夏樹
攻略対象3 如月雪成(双子兄)
攻略対象4 如月雪 (双子弟)
元ストーカーくんの兄 佐藤明
うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。
春雨
BL
前世を思い出した俺。
外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。
愛が重すぎて俺どうすればいい??
もう不良になっちゃおうか!
少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。
説明は初めの方に詰め込んでます。
えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。
初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。
※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?)
※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。
もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。
なるべく全ての感想に返信させていただいてます。
感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます!
5/25
お久しぶりです。
書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。
俺の事嫌ってたよね?元メンバーよ、何で唇を奪うのさ!?〜嵌められたアイドルは時をやり直しマネージャーとして溺愛される〜
ゆきぶた
BL
時をやり直したアイドルが、嫌われていた筈の弟やメンバーに溺愛される話。R15のエロなしアイドル×マネージャーのハーレム物。
※タイトル変更中
ー ー ー ー ー
あらすじ
子役時代に一世を風靡した風間直(かざまなお)は現在、人気アイドルグループに所属していた。
しかし身に覚えのないスキャンダルで落ちぶれていた直は、ある日事故でマンションの11階から落ちてしまう。
そして何故かアイドルグループに所属する直前まで時間が戻った直は、あんな人生はもう嫌だと芸能界をやめる事にしたのだった。
月日が経ち大学生になった直は突然弟に拉致られ、弟の所属するアイドルグループ(直が元いたグループ)のマネージャーにされてしまう。
そしてやり直す前の世界で嫌われていた直は、弟だけでなくメンバーにも何故か溺愛されるのだった。
しかしマネージャーとして芸能界に戻って来てしまった直は、スキャンダル地獄に再び陥らないかという不安があった。
そんな中、直を嵌めた人間がメンバーの中にいるかもしれない事を知ってしまい───。
ー ー ー ー ー
直のお相手になるアイドルグループには
クール、オレ様、ワンコ、根暗がいます。
ハーレムでイチャイチャ、チュッチュとほんのりとした謎を楽しんでもらえば良いと思ってます。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる