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第十一章 四精霊の愛し子

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「ロベール卿は?」

「ロベール卿は第二王位継承者であること、そして第一王位継承者であるレスター王子が年下であること。この点を快く思っていません。同じ精霊使いではないのなら、年上の自分が王位を継ぐべきだと思っています。その部分を利用されたのではないかと。ルノール側に命綱とも言える精霊について、他国の貴人に打ち明けそうな人物は他にいらっしゃらないので」

「確かにロベール卿は少々考えの甘いところがあるからな。それを阻止できなかったレスター王子にも咎はあろうが」

 こちらの情報が漏れるのと、ルノール側の情報が漏れるのとでは、ルノール側の方が意味は大きい。

 事は精霊に関すること。

 瀬希の言ったようにルノールにとっての命綱だ。

 簡単に他国の貴人に対して打ち明けていいような問題ではない。

 その辺がロベールの器の小ささ、考えの浅さなのだろう。

 その点レスター王子はまだ幼いが、聡明でしっかりした考えの持ち主だ。

「そのことと旅に出ることとなにか関係があるのか、瀬希よ?」

「ええ。実はこれは四精霊から得た情報なんですが、ルノールが今存亡の危機に立たされているとか」

「存亡の危機?」

「精霊が大暴走を引き起こす直前なんだそうです。精霊はこの世界の礎的存在。精霊が大暴走を引き起こせば、世界崩壊の危機だとか」

「‥‥‥だからと言ってそなたが出向く意味はないあるまい? そなたが出向いたところで、なにもできないだろう?」

「それがそうでもないのです」

「どういう意味だ?」

 瞳を細めて問う父に瀬希は自分の問題については打ち明けた。

「私は四神によって選ばれて、四神を召喚できる唯一の存在なのだそうです」

「つまり四神を召喚することはそなたにしかできない? 四神に願いを叶えてもらえるのも、そなたひとり?」

 父王の問いに瀬希はコクンと頷いた。

「そしてその四神は今、ルノールにいます」

「何故ルノールに?」

「ルノールの聖地大神殿。そこで四神は眠っているそうです。それを召喚できるのはわたしひとり。精霊の暴走を抑え、世界を救うためにできることから始めますが、最終的にはわたしが華南を守るために、四神を召喚し精霊の暴走を鎮めなければならないでしょう。でなければルノールの崩壊に巻き込まれて、華南が世界が崩壊してしまいます」

「理屈はわかる。そうしなければ戦争どころではなく、領地の取り扱いも意味がなく、世界が滅んでしまうということは。だが、何故ルノールの聖地に我らが四神が眠っているのだ?」

 眉間に皺を寄せる帝に瀬希は小さく笑う。

「あの大神殿はルノールの聖地となってはいますが、本来四神の管轄なのだそうです。ですから四神もそこで眠っている。それはわたしが四神を召喚できれば、証明できるでしょう」

「イマイチ力関係がわからぬな」

「簡単なことですよ。精霊よりも四神が上位に立っているから、精霊の領域内であっても、四神が己が領域を持てるということです。純然なる力関係の結果と言いますか」

「なるほどな」

 瀬希は言えば止められそうなことは言わなかった。

 例えば現在の四神がルノールの聖火の化身となっていること。

 瀬希が四神を召喚すれば、一時的とは言え聖火が消えて、瀬希が不吉の象徴扱いされて命を狙われる恐れが高いこと。

 そういうことは言わなかった。

 ただ帝を納得させるために、必要最小限のことを打ち明けているだけで。

「認めてやりたいのだがな。それが華南のためになることも認めている」

「陛下?」

「あの綾都という側室を同行させることだけは認められぬ」

「何故ですか? 綾都は必要です。向こうで綾都の力が必要になる場面が必ず出てきます。綾都なしで成功する確率は低いのです」

「だが、アベル皇子とウィリアム大統領の問題が」

「‥‥‥」

「特にアベル皇子とは賭けの最中だ。それを放り出すというのは」

「世界の存亡と色恋を秤にかけるというのは、わたしは感心しません」

「わかってはいるが、では、その理由を言えるのか? そこまで詳しい事情は、おそらくおふたりは知らぬ。知らぬのに価値を見出さし欲している。もし連れて行く理由を打ち明けたら、余計に執着されかねない」

 それはもう帝にも綾都を手放す気はないという意思表示だった。

 瀬希にしてみれば儲け物と言った感じだったが、これ以上帝に興味を持たれても困るので、きっちりとクギを刺した。

「元々わたしには綾を手放す気はないのです。なんでしたら綾都からおふたりに直接、お断りの言葉を言わせても良いのですが?」

「喧嘩を売ってどうする? 瀬希」

 渋面の帝に瀬希ははっきりと言い切った。

「ですがそれがわたしの本音です。そんな価値とは関係なく、私は綾が大切です。相手が誰であれ、綾を手放すつもりはありません」

 そう言い切られ視線を逸らす帝に、やっぱりなと瀬希は嘆息する。

 綾が欲しくなってきているのだ。

 この困った父は。

「とにかくおふたりの説得はわたしにお任せください。今は一刻を争うのです。色恋に時間をかけている場合ではない」

「わかった。気をつけるのだぞ?」

 父の気遣う言葉に瀬希はそれだけを答えた。
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