上 下
40 / 50
第十章 ルノールの混乱

(6)

しおりを挟む
「わたしの存在そのものが、ルノール人にとっては不吉ということか。やれやれだ。レスターとは親しくしているからまだマシだか、これがレスターと面識を持つ前なら、華南とルノールは戦争状態に入りかねない」

「やけに落ち着いてるね、瀬希? きみの命が狙われる可能性が高いんだよ?」

「その辺はあまり心配していないというか」

「どうして?」

「綾が水神と逢っているからだ。そういう可能性が高いと知っていて、綾がオロオロしたままなんの策も持たずに帰還するとは思えない。なにか水神から解決策を貰ってるんじゃないのか? 綾?」

「あ、うん」

 頷いて綾は打ち明けた。

 瀬希の身は四神が護ること。

 それは瀬希の願いのひとつにはならないこと。

 瀬希を護ることが四神の義務であること。

 精霊使いでは四神には敵わないこと。

 だから、事実上瀬希皇子の暗殺は成功しないことを。 

「でも、綾。それはさ、言いにくいけど四神が召還されたらって条件付きの解決策じゃないのか? つまり問題の事態が起きた後しか解決策は用意されてない。違うか?」

「うん。そうなんだよね、兄さん。四神が今大人しく聖火を灯す役割に徹しているのは弱っているからで、力も大半を失っているみたい。それを取り戻させることができるのは、唯一瀬希皇子だけで、だから、召還は欠かせないんだけど」

「だか、それで十分じゃないか? わたしが四神を召還すれば聖火は消える。それが知られていなければ暗殺なんて起きようがないし、現実問題としてこれが漏れたとしても、朝斗やルパート、ルノエがいるからな。綾が望まないわたしの暗殺なんて許さないだろう?」

「あんた意外と計算高いな、瀬希皇子?」

「世継ぎなんてこのくらいでなければな」

 途中で暗殺されて終わりだと言われ、朝斗も肩を竦めた。

 深々とため息をつく。

「あ。瀬希皇子がルノールに行くのは、ぼくは反対だけど、ルパートとルノエは一度戻った方がいいかも」

「「どうしてですか?」」

「ふたりともルノールから離れ過ぎてて気付いてないのかな? それともぼくが幽体だったから気付いたのかな?」

「「あの?」」

 混乱しているふたりに綾都は打ち明ける。

 ルノールに行って感じたことを。

 レスターは二度目の驚愕を覚えた。

「つまり? 精霊たちが暴走しつつある?」

「うん。精霊たちの頂点に立つべきふたりがいるせいで、ルノールが活性化を引き起こしてるんだ。大神殿も混乱しているようだったし、それをなんとかできるのって、ルパートとルノエだけでしょ?」

「その状況だとボクは帰れないね」

「レスター?」

 瀬希が不思議そうな顔になる。

「ルノール最強の精霊はボクについてきてる。だから、その程度で済んでいる可能性が高いんだ。だから、ボクが四精霊を連れて戻れは、事態を悪化させる可能性が高いということ」

「いや。その状況だと俺たち全員一度ルノールに行った方がいい」

「兄さん?」

「「朝斗様?」」

「一段階めの方法として四精霊に精霊たちを静めてもらうようにレスターが頼む。これがダメならルパートたちにやらせる。それでもダメなら四神を召還するしかない」

「どうして? 四神を召還はさたら聖火が消えて、ルノールは余計に混乱するよ」

「精霊を超える力は四神しか持ってない。つまりその混乱状態をなんとかできるのは、最終的には四神のみということになるんだ」

 朝斗の指摘にレスターは思わずため息をついた。

 それは確かに最終的な手段だろうと。

 四神を召還すれば現在の混乱は静められる。

 だが、四神が召還されたことで、聖火が消えて二度目の大混乱が引き起こされるのだ。

 どうしろというのかとレスターは言いたかった。

 ルノールにとっては、どちらも存亡の危機なので。

「一段階めの作戦が成功するかどうかは、レスターにかかってる」

「ボクに?」

「レスターが最上級の精霊使いとして、直接四精霊を使役する。そうして使役した四精霊たちに他の精霊たちを静めさせる。それがレスターにできるかどうか、それにかかってるって言ってるんだよ」

「でも、ボクは今まで盛大に力を使ったことは」

「わかってる。だから、できない場合を考えて、全員で行った方がいいと言ってるんだ。ルパートたちを使うにしろ、四神を使うにしろ、できれば使いたくない手だけどな」

 ルパートたちについては朝斗が言えば嫌だとは言わないだろう。

 ルノールを救うことは綾都の望みでもあるのだ。

 そうなるとふたりとも綾都の願いは無視できない。

 だが、四神に関しては召還では瀬希に頼るしか手段がない。

 それは彼の身に危険を招く。

 それだけなら四神がなんとかしてくれるが、最悪国家間の問題になったら、朝斗の手には余る。

 それは一介の側室にどうにかできる問題ではないからだ。

 だから、なるべく使いたくない手だと言ったのだが。

「もう隠せないんだね。ボクが精霊使いであることは」

「仕方ないさ。それが一番安全な手なんだから」

「うん」


 ルノールを救うためにレスターは精霊使い、それも最上級の最高位の精霊使いとして立ち上がらなければならない。

 これは今まで己の役目から目を逸らし続けて来た報いだろうか。

 ロベールはどう思うだろう。

 それだけが気掛かりだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

行ってみたいな異世界へ

香月ミツほ
BL
感想歓迎!異世界に憧れて神隠しスポットへ行ったら本当に転移してしまった!異世界では手厚く保護され、のんびり都合良く異世界ライフを楽しみます。初執筆。始めはエロ薄、1章の番外編からふつうにR18。予告無く性描写が入る場合があります。残酷描写は動物、魔獣に対してと人間は怪我です。お楽しみいただけたら幸いです。完結しました。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

口枷のついたアルファ

松浦そのぎ
BL
〇Ωより先に‪α‬がラットに入る系カップル〇噛みたい噛みたいって半泣きの攻めと余裕綽綽の受けのオメガバースです。大丈夫そうな方だけお願いします。短いです! 他国の剣闘士であるルドゥロとリヴァーダ。 心躍る戦いを切望していた「最強の男」ルドゥロにリヴァーダは最高の試合をプレゼントする。

『ユキレラ』義妹に結婚寸前の彼氏を寝取られたど田舎者のオレが、泣きながら王都に出てきて運命を見つけたかもな話

真義あさひ
BL
尽くし男の永遠の片想い話。でも幸福。 ど田舎村出身の青年ユキレラは、結婚を翌月に控えた彼氏を義妹アデラに寝取られた。 確かにユキレラの物を何でも欲しがる妹だったが、まさかの婚約者まで奪われてはさすがに許せない。 絶縁状を叩きつけたその足でど田舎村を飛び出したユキレラは、王都を目指す。 そして夢いっぱいでやってきた王都に到着当日、酒場で安い酒を飲み過ぎて気づいたら翌朝、同じ寝台の中には裸の美少年が。 「えっ、嘘……これもしかして未成年じゃ……?」 冷や汗ダラダラでパニクっていたユキレラの前で、今まさに美少年が眠りから目覚めようとしていた。 ※「王弟カズンの冒険前夜」の番外編、「家出少年ルシウスNEXT」の続編 「異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ」のメインキャラたちの子孫が主人公です

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...