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第七章 運命の星
(6)
しおりを挟む「静羅」
休み時間になって和哉が真っ先に寄ってきた。
ラーシャを警戒してのことである。
「心配すんなよ。あれはちょっとした行き違いだから。こいつとはあの事件の前から知り合いだったんだ」
「いつ知り合ったんだ? あのふたりも」
言って和哉が指差したのは柘那と志岐である。
ふたりは静羅の下へ行こうかどうしようか迷っている風だった。
「最近だよ。偶然街で声を掛けられて知り合った。それだけなんだけど」
「ナンパされても無視するおまえが?」
露骨に怪訝な顔をされ、やっぱりこんな言い訳じゃ通じないかと静羅は青ざめる。
「なんか無視できなかったんだ。納得できないだろうけど納得してくれないか? 俺だって嘘ついてないんだし」
「……」
「……紫瑠」
ラーシャの声に前の入り口を見れば紫瑠が覗き込んでいた。
「あ。いたいた。柘那、志岐!!」
「「紫瑠さ……ん」」
ふたりとも「さま」と呼び掛けて「さん」に呼び変える。
それに気付いた静羅は苦笑する。
「無事に静羅に逢えたようだな」
扉から声を投げるのでクラスメイトに筒抜けである。
これでは無用に興味を煽るので静羅は黙って立ち上がった。
「静羅?」
和哉が名を呼ぶ。
「ちょっくら行ってくるわ。あいつ俺に用みたいだから」
「あいつも知り合いなのか?」
「まあな」
「じゃあ俺も行こう。俺も紫瑠にも静羅にも話があったんだ」
「北斗。あいつとも知り合ってたのか?」
「入寮が同時だったんだ。その関係で」
「へえ」
それだけじゃなさそうだと静羅は思ったが、実は同じことを思った者がもうひとりいた。
ラーシャの正体を見抜いている迦陵である。
静羅に妙に絡む夜叉の王子に難しい顔になっている。
それに迦陵は普通の人間を装っている柘那と志岐が人間ではないことにも気付いていたし、新たに現れた紫瑠も人間ではないと見抜いていた。
この辺はやはり迦陵頻伽の王族の血の影響だろう。
これが祗柳だったら柘那と志岐はともかく紫瑠の変装は見抜けなかっただろうから。
夜叉の王子の変装に気付けなかったように。
「すぐ戻ってくるから」
「おいっ!! 静羅!!」
和哉が呼び止めるが静羅は3人を従えるようにして先頭で紫瑠の下へと歩いていった。
「行くぜ」
「ああ。俺は構わないが。いいのか? 彼は納得していないみたいだが」
「だったら手短に用件を終えてくれ。おまえ次第だろ?」
「つれないな。相変わらず」
「ほっとけ」
じゃれるようにそれだけ会話して静羅の姿は消えた。
4人と一緒に。
残された和哉は青ざめていた。
静羅の意外な言動に取り残されて。
嫌な予感がした。
とてつもなく。
「和哉」
迦陵が友として心配そうな声を投げる。
「なんだろう。静羅を失いそうな予感がする。とても嫌な予感だ」
それだけ呟いて和哉はいつまでも拳を握り締めていた。
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