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第二章 新たなる土地で
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髪も瞳も茶色がかっていて純粋な日本人というより、すこし異国の血でも混じっていそうな不思議な容貌だ。
また美少女でも通る美貌を持つ弟、静羅と並んでも見劣りしない美貌の持ち主でもある。
その意味は180度違うが。
外見だけなら軽薄な美少年と言われても不思議のない和哉だが、幼い頃よりやっている武道のせいで身体は鍛えられている。
おまけに4年生の頃から総長を歴任していて、自然と身についた優等生然とした雰囲気もある。
お陰で不愉快な誤解はされずに済んでいた。
「だってさ、おまえ普通の美少女を見ても感慨ひとつ沸かないんじゃないのか?」
「は?」
「物心つく前からさ、あれだけの美貌を持つ奴が傍にいたんじゃ、並の美少女には関心すら持てないだろ?」
ズバズバと切り込んでくる東夜に和哉も呆れ顔である。
静羅が聞いたら怒鳴り散らしているところだ。
たしかに静羅の美貌はどちらかと言えば少女的で、中性的を通り越しているが、本人はそれが気に入らないらしく、ほとんどお洒落をしない。
ズボラを極めている節があるのだ。
何度も怒ったが静羅は頑として譲らなかった。
たぶんお洒落をするばするほど、そういうふうに見られると、自分でも気付いていたのだろう。
言ってみれば静羅にとって絶対に触れられたくない話題なのだ。
本人の前で言っていたら、今頃どんな騒ぎになっているやら。
「東夜。それ静羅の前で言ったら、とんでもないことになるから、絶対にするなよ?」
「俺だって生命は惜しい」
真顔で言う東夜に和哉はドッと脱力してしまう。
「それに兄貴として言わせてもらうなら、あれでも静羅は弟だ。比較する方が間違ってないか?」
「あれが男に見えるなら、おまえ眼科行った方がいいぞ」
不敵に告げる東夜を見て、一体どこが生命が惜しいのだろうと、和哉は悩んでしまった。
命知らずな発言としか思えなくて。
「俺が言ってんのは見掛け、つまり外見の問題なわけ。実際あいつが喋らずにただ立ってたら、すぐに見物人の山ができるって。それも男だけの」
「東夜」
言葉の正当性は認めても、思わず頭を抱えてしまう和哉だった。
ここに静羅がいなくてよかったと心の底から思う。
「あいつ絶対に生まれてくる性別を間違えてるって。外見だけならものすげぇ美少女じゃん? それも絶世ってつくような。あれが男だなんてホント勿体ないよなあ」
「おまえさ、ホントに生命が惜しいのか、東夜? オレには殺してくれって主張してるように聞こえるんだけど」
「でも、そうだってことは和哉も認めるだろ? あいつの外見が、ちょっと見掛けないくらいの絶世の美少女だってことは」
否定できない和哉は黙秘するしかなかった。
常識的な見解だが真実を知る和哉は、肯定も否定もできなかったのである。
静羅という名の由来。
その意味は今のところ家族しか知らないので。
「俺が言いたいのはおまえのことだよ、和哉」
「だから、なにが言いたいんだ?」
「ああいう弟が傍にいて、ごく普通の世間一般的な美少女に、おまえちょっとでも好奇心覚えるのか?」
これには二の句が継げない和哉だった。
確かに少々の美少女では全く動じずに今までを生きてきたので。
「その顔だと自覚してなかったって感じだな。おまえさ、今まで告ってきた中には周囲が羨むような美少女だっていたんだぞ?
それを一顧だにせずに断って。理由は静羅だろ? 最上の美を見慣れてるから、ちょっとやそっとの美では心が動かない。違うか?」
言われてみれば一々ご尤もである。
告白されて断った後で周囲の男子からは、羨望と嫉妬の眼差しが向けられたことは多々あった。
ただ和哉がその意味に気付かなかっただけで。
「……そんなに綺麗な子いたか?」
控えめに訴える和哉に周囲のクラスメイトたちも和哉の基準の高さを知って、女子は諦めたような眼差しを男子は同情の眼差しを送っている。
静羅の美貌を思い出し、あれを基準にしたら、だれも残らないだろうなと、しみじみと思いつつ。
「まあおまえには静羅より劣っていたら、美少女には見えないのかもしれないけど」
言い返せないところが辛い。
無意識とはいえ周囲から見れば前例を作っていたらしいので。
「だけどな、和哉。どんなにキレーだろうが、どんなに素晴らしい外見をしてようが、あれは男、なんだよ」
「なに当たり前のことを」
「だったらおまえ好みのタイプの基準、静羅より下だって言えるのか?」
ズブリと心臓に切り込んできた気がして答えに詰まった。
静羅より劣っていたら興味も沸かないかも。
「だから、不遇だって言ったんだよ。夢を見る前におまえの傍には最高の答えがあって、おまえさ、自然と目が肥えてるんだよ。審美眼の基準が信じられないほど高くなってるわけなんだ。自覚したか?」
ムスッとしつつ頬杖をつき、顔を背ける。
「あれが男じゃなかったら、まだマシだったのかもしれないけど、男な上に弟だろ? これが不遇じゃなくてなんなんだよ? 双生児の弟の美貌が判断基準なんて、かなーり不遇だぞ、和哉?」
「おまえ……ケンカ売ってんのか、オレに?」
低い声で凄む和哉に東夜はあっけらかんと答えた。
「現実を指摘してるだけだ」
これにはガクーと机に突っ伏してしまった和哉だった。
流星が集まる地。
時代が動き出すとき、運命の星が集まる。
赤い鬼火がひとつ。
紅蓮の星と添え星がひとつ。
幾つもの宿命の星が集まる地。
そこにいるのは果たして「だれ」なのか。
それとも「なにか」が待っているのか。
時が動きすべてが変わりはじめる。
血の色に染めて。
また美少女でも通る美貌を持つ弟、静羅と並んでも見劣りしない美貌の持ち主でもある。
その意味は180度違うが。
外見だけなら軽薄な美少年と言われても不思議のない和哉だが、幼い頃よりやっている武道のせいで身体は鍛えられている。
おまけに4年生の頃から総長を歴任していて、自然と身についた優等生然とした雰囲気もある。
お陰で不愉快な誤解はされずに済んでいた。
「だってさ、おまえ普通の美少女を見ても感慨ひとつ沸かないんじゃないのか?」
「は?」
「物心つく前からさ、あれだけの美貌を持つ奴が傍にいたんじゃ、並の美少女には関心すら持てないだろ?」
ズバズバと切り込んでくる東夜に和哉も呆れ顔である。
静羅が聞いたら怒鳴り散らしているところだ。
たしかに静羅の美貌はどちらかと言えば少女的で、中性的を通り越しているが、本人はそれが気に入らないらしく、ほとんどお洒落をしない。
ズボラを極めている節があるのだ。
何度も怒ったが静羅は頑として譲らなかった。
たぶんお洒落をするばするほど、そういうふうに見られると、自分でも気付いていたのだろう。
言ってみれば静羅にとって絶対に触れられたくない話題なのだ。
本人の前で言っていたら、今頃どんな騒ぎになっているやら。
「東夜。それ静羅の前で言ったら、とんでもないことになるから、絶対にするなよ?」
「俺だって生命は惜しい」
真顔で言う東夜に和哉はドッと脱力してしまう。
「それに兄貴として言わせてもらうなら、あれでも静羅は弟だ。比較する方が間違ってないか?」
「あれが男に見えるなら、おまえ眼科行った方がいいぞ」
不敵に告げる東夜を見て、一体どこが生命が惜しいのだろうと、和哉は悩んでしまった。
命知らずな発言としか思えなくて。
「俺が言ってんのは見掛け、つまり外見の問題なわけ。実際あいつが喋らずにただ立ってたら、すぐに見物人の山ができるって。それも男だけの」
「東夜」
言葉の正当性は認めても、思わず頭を抱えてしまう和哉だった。
ここに静羅がいなくてよかったと心の底から思う。
「あいつ絶対に生まれてくる性別を間違えてるって。外見だけならものすげぇ美少女じゃん? それも絶世ってつくような。あれが男だなんてホント勿体ないよなあ」
「おまえさ、ホントに生命が惜しいのか、東夜? オレには殺してくれって主張してるように聞こえるんだけど」
「でも、そうだってことは和哉も認めるだろ? あいつの外見が、ちょっと見掛けないくらいの絶世の美少女だってことは」
否定できない和哉は黙秘するしかなかった。
常識的な見解だが真実を知る和哉は、肯定も否定もできなかったのである。
静羅という名の由来。
その意味は今のところ家族しか知らないので。
「俺が言いたいのはおまえのことだよ、和哉」
「だから、なにが言いたいんだ?」
「ああいう弟が傍にいて、ごく普通の世間一般的な美少女に、おまえちょっとでも好奇心覚えるのか?」
これには二の句が継げない和哉だった。
確かに少々の美少女では全く動じずに今までを生きてきたので。
「その顔だと自覚してなかったって感じだな。おまえさ、今まで告ってきた中には周囲が羨むような美少女だっていたんだぞ?
それを一顧だにせずに断って。理由は静羅だろ? 最上の美を見慣れてるから、ちょっとやそっとの美では心が動かない。違うか?」
言われてみれば一々ご尤もである。
告白されて断った後で周囲の男子からは、羨望と嫉妬の眼差しが向けられたことは多々あった。
ただ和哉がその意味に気付かなかっただけで。
「……そんなに綺麗な子いたか?」
控えめに訴える和哉に周囲のクラスメイトたちも和哉の基準の高さを知って、女子は諦めたような眼差しを男子は同情の眼差しを送っている。
静羅の美貌を思い出し、あれを基準にしたら、だれも残らないだろうなと、しみじみと思いつつ。
「まあおまえには静羅より劣っていたら、美少女には見えないのかもしれないけど」
言い返せないところが辛い。
無意識とはいえ周囲から見れば前例を作っていたらしいので。
「だけどな、和哉。どんなにキレーだろうが、どんなに素晴らしい外見をしてようが、あれは男、なんだよ」
「なに当たり前のことを」
「だったらおまえ好みのタイプの基準、静羅より下だって言えるのか?」
ズブリと心臓に切り込んできた気がして答えに詰まった。
静羅より劣っていたら興味も沸かないかも。
「だから、不遇だって言ったんだよ。夢を見る前におまえの傍には最高の答えがあって、おまえさ、自然と目が肥えてるんだよ。審美眼の基準が信じられないほど高くなってるわけなんだ。自覚したか?」
ムスッとしつつ頬杖をつき、顔を背ける。
「あれが男じゃなかったら、まだマシだったのかもしれないけど、男な上に弟だろ? これが不遇じゃなくてなんなんだよ? 双生児の弟の美貌が判断基準なんて、かなーり不遇だぞ、和哉?」
「おまえ……ケンカ売ってんのか、オレに?」
低い声で凄む和哉に東夜はあっけらかんと答えた。
「現実を指摘してるだけだ」
これにはガクーと机に突っ伏してしまった和哉だった。
流星が集まる地。
時代が動き出すとき、運命の星が集まる。
赤い鬼火がひとつ。
紅蓮の星と添え星がひとつ。
幾つもの宿命の星が集まる地。
そこにいるのは果たして「だれ」なのか。
それとも「なにか」が待っているのか。
時が動きすべてが変わりはじめる。
血の色に染めて。
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