天則(リタ)の旋律

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第二章 新たなる土地で

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 そもそも目覚まし役を買って出るまでは、朝食を一緒に摂ったことがないという、だれに言っても冗談だとしか思ってくれないような過去があるのだ。

 何故なら起こされるまで1週間でも1年でも寝ているのではないか? という奇妙な一面があって、夕方近くまで起きてこないなんていうのも日常だったので。

 そんな非常識な一面を持っているのに、独立したいなんて無謀もいいところだ。

 その辺のところがわかっているのかいないのか。

 心配をかけることに関しては天才的なトラブルメーカーはのほほんとしている。

「どちらにしろ決意は変わらないのだね?」

 父からの問いかけにコクリと頷いた。

「そうか」

 吐き出された答えがやけに重い。

「ひとりになって冷静に考えたいんだ。ワガママばっかり言ってごめん。父さん、母さん」

 それだけを言って部屋に戻った。

 入学式を目前に控えた入寮日まで後1週間と迫ったある日のことだった。




 全国でも屈指の進学校といえば、東に東城大付属、西に翔南高校。

 この2校は全国レベルで有名な2大学園である。

 特に東京近郊にある東城大付属校は、幼稚舍から大学院まで一貫しての教育で有名だ。

 ついでに言うと学力は最高峰で、入学時に必ずと言っていいほど、家柄の有無が問われるため、ブルジョア校としても有名であった。

 政府に関連する大臣や政財界に力を持つ財閥。

 そういった特殊な家柄や立場に立つべき者が多く集まっている。

 そのためか特別視されがちであった。

 そういった特別なものはなにもないのだが、その学力では東城大付属と常に比較される位置にいるのが、関西方面で有名な翔南高校である。

 こちらは家柄などに規制がないせいか、学力がずば抜けているわりに自由な校風がウリだった。

 東城大付属も生徒の自主性を重んじる学校で、生徒会の代わりに全校生徒を纏める生徒総長なる役柄があり、その役目はひとつのエンブレムですらあった。

 特権階級の更に特別職である。

 小学部から生徒総長を中心に纏まって、教師の介入を許さない校風を形作っているのが東城大付属なら、翔南高校は何事においても生徒のやる気を重んじる一風変わった学校だった。

 無意味なほどに学校行事が多く、何故かそのひとつひとつで、やたらと生徒が騒ぎ立てるお祭り高校とまで言われている。

 そこまで馬鹿げた校風であり、生徒もその期待を裏切らない自由奔放な生徒ばかりなのだが、どういうわけか学力は全国でもトップレベルの生徒ばかり。

 東城大付属が上品で特権意識の強い特別な学園だとするなら、翔南高校は実力では劣らないが、だれもが好き勝手に生きている、まあそういう人々に言わせるなら、野蛮、または下品な集まり、となる。

 実力では互角なので、そういうやっかみも意味を持たないのだが。

 そういうわけで東城大付属は、入学するのに家柄の有無が問われるので、生徒は大体自宅通学である。

 しかも自家用車での通学が多かったりする。

 それをしない変わり種は、小学部の頃から生徒総長を歴任していた東城大付属でも、ずば抜けた家柄と不動の学力ナンバーワンを維持してきた怪物だけだった。

(今年もやるのかな。恒例のアレ)

 なんて考えると、それだけでも懐かしい。

 家を出るまでが大変だったが、なんとかここまでこぎつけた。

 しかし。

「おいおい。ここは関西の学校だろ? なんだよ、この煉瓦作りの、まるでイギリスのハイスクールみたいな寮は」

 おまけに。

 そっと門に手をかけるとギシィと不気味な音がした。

「これ、絶対、軋んでるぞ。大丈夫かよ?」

 おそらく建った頃はハイセンスな建物だったのだろう。

 元々関西は(神戸方面は特に)異国情緒溢れる街だし。

「に、してもなんだって建て直しをしてないんだ? いくらなんでもひでぇよ、これは」

 思わず青ざめる。

 今までが今までだったので、こういう建物には縁がなかった。

 一歩引いてしまうのもそのせいである。

 その反面、ウキウキと気分が弾んでしまうのも事実だったけれど。

「ははは。そういうことを言うってことは、関西人じゃないな?」

 突然の声に顔をあげれば、寮に続く道の途中に男子生徒が立っていた。

 運動部に所属しているのだろう。

 鍛えられた身体付きをしているのがわかる。


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