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第三章 メイディアの王子

不器用な愛し方

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王子の婚約者を選ぶパーティーで、隣町の名家ブロッサム家のサニー嬢と出会った。
私は真っ黒なドレスを身にまとっていた。

サニー嬢は言った。
「あら、なぜカラスが紛れ込んでいるのかしら?」
扇子で口元を隠し、私は言い返した。
「派手なドレスが、軽い頭に良くお似合いですわよ」
「何よ!?」

サニー嬢が持っていた葡萄酒を私にかけた。
「あら、ごめんなさい。手が滑りましたわ」
そこに、褐色の美青年が現れハンカチを差し出してくれた。
「大丈夫ですか? お嬢様? お名前は?」

「ライム家のレイズと申します」
「そちらのお嬢様も、お行儀が良くありませんよ」
「……失礼致します」
サニー嬢はとがめられたのが気まずかったのか、早々に立ち去った。

「あなたは黒いドレスなのですね。良かったですね」
「ええ、黒は何色にも染まりませんもの」
私がそういうと、青年は美しい笑顔を浮かべた。
「おもしろい方ですね」

パーティーでは、音楽がなり始めた。
「一曲、ごいっしょに踊りませんか?」
「喜んで。ところで貴方のお名前は?」
「申し遅れました。ロイ・レイモンドです」
それを聞いて、私は心臓が止まる思いをした。

「ロイ・レイモンド様? 王子様でしたのね。大変失礼致しました」
「いいえ、お気になさらずに」
レイモンド様は音楽に合わせてステップを踏んだ。
私はレイモンド様のリードに合わせて、くるりと回る。

一曲踊り終わったところで、二人でバルコニーに出た。

「ライム家のレイズ様とは、一度お話をしてみたいと思っていたんです」
「まあ、どうして?」
私がそう言うと、レイモンド様が私の耳元でささやいた。
「正義のために悪役になることも、いとわないと聞いていたものですから」
「あら、悪役ですって? 噂を信じてはいけませんわ」
私はクスクスと笑った。

「貴方の黒く長い髪と、黒い瞳は魅力的ですね」
「カラスのようだと言われましたわ」
私が微笑みながらそう言うと、レイモンド様も微笑んだ。
「ドレスが黒いおかげで、葡萄酒の染みも目立ちませんよ」
レイモンド様はそう言って、私のドレスを軽く撫でた。

「また、お会いしましょう」
「ご縁があれば」

「人混みは苦手なのですが、仕事ですので仕方有りませんね」
レイモンド様はそう言って、パーティー会場に戻っていってしまった。
「王子に見初められたのかしら? 運の良いこと」

悔しがるサニー嬢を思い浮かべて、私は一人微笑んだ。
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