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間章10
矢萩弓弦35
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清々しい朝。
隣で眠る二人の美女。
ジト目で僕を見つめる少女。
……二度寝しよっかな。
…………瞼を閉じても、ヴァルトルートのジト目が僕を見続けているのを感じる。
しょうがない。起きるか。
「おはようございます。旦那様」
「おはよう。ヴァルトルート」
両サイドのレオノーレさんとシュイユエさんも起きてるはずなんだけど、寝た振りを続けるようだ。
「旦那様は、側室は持たない、と仰ってませんでしたか?」
全裸で狸寝入りを続ける二人の美女を順に見る。
右のレオノーレさん。
口元がニヤけてますよ。
左のシュイユエさん。
僕の左手を立派なお胸に誘導しないで。
「御二人も起きてますよね?」
ヴァルトルートのジト目が二人にも向けられる。
観念したように二人も上体を起こす。
「旦那様、一応、お聞きします。私を娶るつもりはあるのですよね?」
「勿論」
今更、実家に帰せない。あの国、内乱の後もごたついてるし、オマケに、内乱の中心が実家のエッゲリング侯爵家だもん。
まだ二年くらいの付き合いだけど、そんなとこに放り出すほど僕は薄情じゃないよ。
「以前も仰ってましたが、年齢が問題なんですか?」
「そうだね。日本では十四歳はアウトだよ。むしろ、年齢だけが問題なんだ」
【土の勇者】という反面教師のおかげで、そこは踏み越えれない。というか、踏み越えたくない。
「私自身にはなんの問題も?」
「ないよ。日本の倫理観にいつまでも縛られてる僕に問題がある、とも言える」
直そうとは思わないけど。
「安心しました」
ヴァルトルートのジト目が病み付きになる前に、理解してもらえた。
「そんなに不安にさせた?」
「ええ。私だけの問題ではありませんから」
どゆこと?
ヴァルトルートの年齢の話でしょ?
「私の後にはフイちゃんが控えてますからね」
ん?
「フイちゃんも娶って頂けるのですよね?」
なぜに?
そう思って母親のシュイユエさんを見ると、不安そうな目で僕を見つめていた。
「ユヅル君、フイちゃんの角、灰色の角は、鬼人族の間ではなんの才能もない者、なのよ」
実際には〈支援魔術〉の才能がある。
「つまり、同族相手だと結婚できない?」
「そうなのよ」
「母親としては、どうなの?」
「ユヅル様なら安心です」
僕だけ状況についていけなくて、天を仰ぐ。
……なんか、楽しそうな師匠の顔が見えた気がした。
慌てて頭を振り、師匠を追い出す。
「フイちゃんは、どう思ってるのかな?」
「ユヅル様をお慕いしていますよ」
まだ十歳だよ?
身近にいる頼れるお兄さんに懐いてるだけなんじゃないの?
「大丈夫です。ユヅル様だから、お慕いしているのです」
顔に出てたかな? 先回りされた。
「まあ、フイちゃんも、今すぐってわけじゃないから、未来の僕に丸投げするよ」
未来の僕の自力本願で。
*
「で? フイちゃんの件は保留にしたの?」
ロジーネさんと町の清掃活動をしながら今朝のやり取りを話すと、なんか責めるような目で詰められた。
「十歳の女の子にプロポーズするのはちょっと……」
「まあ、ヒカルゲンジになったと思って、自分好みの女の子に育ててみたら?」
それは……割り切れないなぁ。育成ゲーと思えばいいんだろうけど、育てるのはデータじゃなくて、生身の人間だから、割り切れないなぁ。
「あれは、日本最古の“ただしイケメンに限る”じゃないですかね」
イケメンだから、幼女を自分好みに育てて美味しくいただいてもロリコン認定されないんだろう。
日本の女性はイケメンに甘いからねぇ。
……逆も同じか。日本の男は美女や美少女に甘い。
かぐや姫だって、日本最古の“ただし美少女に限る”だ。
要するに、日本じゃ顔が全てってことだな。
「あ、ここがラストね」
スラムをブラつきながらこちらを監視するチンピラを狩っていると、大きな屋敷の前でロジーネさんが立ち止まって言った。
「既に廃墟ですね」
だからこそ、見逃していたとも言える。
神様の調査から逃れるほどの崩れっぷりだ。
瓦礫の山と言った方が正確かも。
ロジーネさんが前庭の中心にある噴水を調べる。
なにかの魔道具があったようで、そのなにかにプラーナを流した。
「さて、どこの仕掛けなんだろうね?」
「あっちから音がしましたね」
位置的には屋敷の奥。中庭辺りかな?
てか、獣人種なんだから、人族の僕でも聞こえた音くらい聞こえてるでしょ。
中庭だった場所に行ってみると、石畳の一つが起き上がっていて、その下に地下への階段があった。
「こういう仕掛けって、本当にあるんですね」
フィクションでしか見たことない。
というのも、魔道具でこういった仕掛けを作っても維持するコストが高すぎるので、普通に手動の仕掛けが好まれる。
「うちでは、よく見るわね」
きっと、平賀さんが作ってるからだろう。
「便利な家に慣れすぎるのも考えものよね。町が不便でしょうがない」
でしょうね。
大きな町ですら、日本とは比較にならないくらい不便だもん。
「ここは鬼人族の町ですよね。鬼人族って、そんなに技術力があるとは思えないんですけど……」
「まあ、男女問わず、技術者よりも武人が多いわね」
ロジーネさんの先導で階段を降りる。
「この屋敷は、竜人族の時代からあったみたい」
「龍人族ではなく?」
龍人族なら今も存在するが、竜人族は存在しないらしい。
「そういえば、ユヅルちゃんに東域の歴史を話したことってあったっけ?」
「大まかなら」
龍神が龍人族に玉璽を授けて、龍人族が東域を統一しかけたけど、鬼人族によって阻止され、少し前までは東域の東端に追いやられていた。
十年くらい前に、陸皇亀のお散歩で鬼人族の大都市が軒並み壊滅した。
これを好機と見た龍人族が、鬼人族の国へ侵攻を開始。
立場が逆転するかに見えたが、龍人族の町も陸皇亀に踏み潰されて痛み分けに終わった。
知ってるのは、これくらいかな。
「王権神授の前に、竜人族と龍人族の戦争があったの」
ロジーネさんたちが世界を管理するシステムのログを調べていたら出てきた情報によると、当時の竜人族と龍人族は長いこと戦争をしていた。
その原因は、竜神と龍神が非常に仲が悪かったから、らしい。くだらない理由だ。
戦況は圧倒的に竜人族側の有利。龍人族の国のほぼ全域を支配していた。
他の種族にもちょっかいをかける余裕っぷりだったとか。
これには東域に住む多くの種族がうんざりしていた。
そんな時に、龍人族へ王権神授があった。
これにうんざりしていた種族がこぞって乗っかる。
戦況はあっという間に逆転。
多種族連合の助けを得た龍人族は、一気に勢力を拡大。残るは首都だけとなった。
ここで多種族連合は、竜人族へ降伏勧告をするよう龍人族に要請する。
しかし、龍人族はこれを拒否。
首都へ乗り込み、残った竜人族を虐殺し、都市を徹底的に破壊した。
「なんで、そんな敵を作るようなことを……」
「龍人族は、プライドの塊みたいな奴らだから、今まで自分たちを支配していた連中に復讐したかったんだよ」
復讐ねぇ。どっかの半島の民族みたいに、怨みを代々伝えていたんだろうか。
「あと、全滅させたのは、やり返されるのを恐れてたのかも」
まあ、いなくなれば復讐されないしね。理解はできるけど共感はできない。
「で、終戦後は他種族から総スカン。むしろ、多種族連合は、龍人族を監視する組織になったの」
その後、監視されてる状況に嫌気がさして、連合の弱そうな種族に宣戦布告。
これに鬼人族が素早く対応し、龍人族軍の横っ面をぶん殴る。玉璽は、この時、行方不明になった。王様が先陣の先頭を突っ走っていたらしい。脳筋だね。
それで、この初戦で大体の戦況は決まった。
あっさり負けた龍人族の国は、多種族連合によって分割統治されるのだけど、大人しく従うような連中ではない。
分断された少数で反乱を起こし、各個撃破される、というのを学習せずに繰り返し、最後は唯一自治権を認められていた首都だけとなった。
それからは、さすがに大人しくなる。しばらくは大人しく首都に引きこもっていた。
これが十年ちょっと前、陸皇亀が南域から来るまで続いた。
「連合の中心だったから、鬼人族を怨んでいるんですかね?」
「それだけじゃなく、龍人族の首都を監視していた軍が鬼人族の軍だったのが原因みたい」
常に監視されてる状況に怨みを募らせた、と。
「そんで、陸皇亀が去った後に、真っ先に鬼人族の国へ侵攻したわけ」
「龍人族は陸皇亀にやられなかったんですか?」
「この時点では、ほぼ被害なし、ね」
「ん?」
「どこにでもバカがいるのよ」
陸皇亀に立ち向かった脳筋がいたらしい。
「そいつ、クスリやってました?」
話に聞いただけで実物の陸皇亀を見たことないけど、ちょっと強いだけの人間に勝てるような相手ではないだろう。かなり強い神様なら別だけど。
「それで? 勝ったはずの龍人族が、支配域を広げていないのは、どうしてなんですか?」
「主力と王様が陸皇亀のブレスで消滅したみたい」
「マジっすか?」
鬼人族の主力軍を破り、町を破壊して回った後、陸皇亀を監視していた、という所まではいくつかの文書に残っていた。
しかし、ブレスを吐くのか……ん? ブレス……。
「あ、南の方にあった広域の破壊痕って……」
なんか、スッゴい広範囲の焼け野原があった。
他にやることがあったから、報告だけして、ちゃんと調査はしなかったけど。
「うん。かなり遠くに布陣してたから安心してたんだろうね。生き残った伝令兵が言うには、陸皇亀に挑む前に、陸皇亀を見ながら宴会してたらしいのよ」
それ、楽しいの?
陸皇亀は関係なく、宿敵の鬼人族を討って盛り上がってただけなのかな?
「では、龍人族は、連中の首都にいるのが全てですか?」
「そうね。密偵と首都の防衛部隊以外は、鬼人族の殲滅に出て、全軍で酒盛りしてたみたいだから」
そんな話をしながら、地下にいたチンピラを殲滅していく。
これで、近辺の町にいるチンピラに扮した密偵は、この地下を最後に全滅したことになる。
複雑な構造の地下室を虱潰しにして、最後の一部屋の前に立つ。
室内の気配は五つ。一つは上手く隠しているけど、インゴ君より下手だ。
ロジーネさんが横に避ける。僕が開けるの?
『あの弓』を構え、魔力を注ぐ。
発光する機能は目立つからなんとかしてほしい、と要望を出したけど、なんの音沙汰もない。
……全員の肩を狙うか。
閉じた扉越しに狙う。
一射目、命中。
二射目、命中。
三射目、命中。
四射目、お、扉の横で気配を隠していた奴が庇った。
剣かなにかで防ごうとしたようだけど、不可視で無音の矢を、扉に空いた穴を頼りに防ぐほどの技量はなかった。首の近くに命中して倒れる。
ラスト、命中。
「終わりましたよ」
ロジーネさんを見ると、仮面を操作してなにか遣り取りしていて返事がない。
拘束も僕がやるわけですね。
ため息を一つ吐いて、扉を開けた。
隣で眠る二人の美女。
ジト目で僕を見つめる少女。
……二度寝しよっかな。
…………瞼を閉じても、ヴァルトルートのジト目が僕を見続けているのを感じる。
しょうがない。起きるか。
「おはようございます。旦那様」
「おはよう。ヴァルトルート」
両サイドのレオノーレさんとシュイユエさんも起きてるはずなんだけど、寝た振りを続けるようだ。
「旦那様は、側室は持たない、と仰ってませんでしたか?」
全裸で狸寝入りを続ける二人の美女を順に見る。
右のレオノーレさん。
口元がニヤけてますよ。
左のシュイユエさん。
僕の左手を立派なお胸に誘導しないで。
「御二人も起きてますよね?」
ヴァルトルートのジト目が二人にも向けられる。
観念したように二人も上体を起こす。
「旦那様、一応、お聞きします。私を娶るつもりはあるのですよね?」
「勿論」
今更、実家に帰せない。あの国、内乱の後もごたついてるし、オマケに、内乱の中心が実家のエッゲリング侯爵家だもん。
まだ二年くらいの付き合いだけど、そんなとこに放り出すほど僕は薄情じゃないよ。
「以前も仰ってましたが、年齢が問題なんですか?」
「そうだね。日本では十四歳はアウトだよ。むしろ、年齢だけが問題なんだ」
【土の勇者】という反面教師のおかげで、そこは踏み越えれない。というか、踏み越えたくない。
「私自身にはなんの問題も?」
「ないよ。日本の倫理観にいつまでも縛られてる僕に問題がある、とも言える」
直そうとは思わないけど。
「安心しました」
ヴァルトルートのジト目が病み付きになる前に、理解してもらえた。
「そんなに不安にさせた?」
「ええ。私だけの問題ではありませんから」
どゆこと?
ヴァルトルートの年齢の話でしょ?
「私の後にはフイちゃんが控えてますからね」
ん?
「フイちゃんも娶って頂けるのですよね?」
なぜに?
そう思って母親のシュイユエさんを見ると、不安そうな目で僕を見つめていた。
「ユヅル君、フイちゃんの角、灰色の角は、鬼人族の間ではなんの才能もない者、なのよ」
実際には〈支援魔術〉の才能がある。
「つまり、同族相手だと結婚できない?」
「そうなのよ」
「母親としては、どうなの?」
「ユヅル様なら安心です」
僕だけ状況についていけなくて、天を仰ぐ。
……なんか、楽しそうな師匠の顔が見えた気がした。
慌てて頭を振り、師匠を追い出す。
「フイちゃんは、どう思ってるのかな?」
「ユヅル様をお慕いしていますよ」
まだ十歳だよ?
身近にいる頼れるお兄さんに懐いてるだけなんじゃないの?
「大丈夫です。ユヅル様だから、お慕いしているのです」
顔に出てたかな? 先回りされた。
「まあ、フイちゃんも、今すぐってわけじゃないから、未来の僕に丸投げするよ」
未来の僕の自力本願で。
*
「で? フイちゃんの件は保留にしたの?」
ロジーネさんと町の清掃活動をしながら今朝のやり取りを話すと、なんか責めるような目で詰められた。
「十歳の女の子にプロポーズするのはちょっと……」
「まあ、ヒカルゲンジになったと思って、自分好みの女の子に育ててみたら?」
それは……割り切れないなぁ。育成ゲーと思えばいいんだろうけど、育てるのはデータじゃなくて、生身の人間だから、割り切れないなぁ。
「あれは、日本最古の“ただしイケメンに限る”じゃないですかね」
イケメンだから、幼女を自分好みに育てて美味しくいただいてもロリコン認定されないんだろう。
日本の女性はイケメンに甘いからねぇ。
……逆も同じか。日本の男は美女や美少女に甘い。
かぐや姫だって、日本最古の“ただし美少女に限る”だ。
要するに、日本じゃ顔が全てってことだな。
「あ、ここがラストね」
スラムをブラつきながらこちらを監視するチンピラを狩っていると、大きな屋敷の前でロジーネさんが立ち止まって言った。
「既に廃墟ですね」
だからこそ、見逃していたとも言える。
神様の調査から逃れるほどの崩れっぷりだ。
瓦礫の山と言った方が正確かも。
ロジーネさんが前庭の中心にある噴水を調べる。
なにかの魔道具があったようで、そのなにかにプラーナを流した。
「さて、どこの仕掛けなんだろうね?」
「あっちから音がしましたね」
位置的には屋敷の奥。中庭辺りかな?
てか、獣人種なんだから、人族の僕でも聞こえた音くらい聞こえてるでしょ。
中庭だった場所に行ってみると、石畳の一つが起き上がっていて、その下に地下への階段があった。
「こういう仕掛けって、本当にあるんですね」
フィクションでしか見たことない。
というのも、魔道具でこういった仕掛けを作っても維持するコストが高すぎるので、普通に手動の仕掛けが好まれる。
「うちでは、よく見るわね」
きっと、平賀さんが作ってるからだろう。
「便利な家に慣れすぎるのも考えものよね。町が不便でしょうがない」
でしょうね。
大きな町ですら、日本とは比較にならないくらい不便だもん。
「ここは鬼人族の町ですよね。鬼人族って、そんなに技術力があるとは思えないんですけど……」
「まあ、男女問わず、技術者よりも武人が多いわね」
ロジーネさんの先導で階段を降りる。
「この屋敷は、竜人族の時代からあったみたい」
「龍人族ではなく?」
龍人族なら今も存在するが、竜人族は存在しないらしい。
「そういえば、ユヅルちゃんに東域の歴史を話したことってあったっけ?」
「大まかなら」
龍神が龍人族に玉璽を授けて、龍人族が東域を統一しかけたけど、鬼人族によって阻止され、少し前までは東域の東端に追いやられていた。
十年くらい前に、陸皇亀のお散歩で鬼人族の大都市が軒並み壊滅した。
これを好機と見た龍人族が、鬼人族の国へ侵攻を開始。
立場が逆転するかに見えたが、龍人族の町も陸皇亀に踏み潰されて痛み分けに終わった。
知ってるのは、これくらいかな。
「王権神授の前に、竜人族と龍人族の戦争があったの」
ロジーネさんたちが世界を管理するシステムのログを調べていたら出てきた情報によると、当時の竜人族と龍人族は長いこと戦争をしていた。
その原因は、竜神と龍神が非常に仲が悪かったから、らしい。くだらない理由だ。
戦況は圧倒的に竜人族側の有利。龍人族の国のほぼ全域を支配していた。
他の種族にもちょっかいをかける余裕っぷりだったとか。
これには東域に住む多くの種族がうんざりしていた。
そんな時に、龍人族へ王権神授があった。
これにうんざりしていた種族がこぞって乗っかる。
戦況はあっという間に逆転。
多種族連合の助けを得た龍人族は、一気に勢力を拡大。残るは首都だけとなった。
ここで多種族連合は、竜人族へ降伏勧告をするよう龍人族に要請する。
しかし、龍人族はこれを拒否。
首都へ乗り込み、残った竜人族を虐殺し、都市を徹底的に破壊した。
「なんで、そんな敵を作るようなことを……」
「龍人族は、プライドの塊みたいな奴らだから、今まで自分たちを支配していた連中に復讐したかったんだよ」
復讐ねぇ。どっかの半島の民族みたいに、怨みを代々伝えていたんだろうか。
「あと、全滅させたのは、やり返されるのを恐れてたのかも」
まあ、いなくなれば復讐されないしね。理解はできるけど共感はできない。
「で、終戦後は他種族から総スカン。むしろ、多種族連合は、龍人族を監視する組織になったの」
その後、監視されてる状況に嫌気がさして、連合の弱そうな種族に宣戦布告。
これに鬼人族が素早く対応し、龍人族軍の横っ面をぶん殴る。玉璽は、この時、行方不明になった。王様が先陣の先頭を突っ走っていたらしい。脳筋だね。
それで、この初戦で大体の戦況は決まった。
あっさり負けた龍人族の国は、多種族連合によって分割統治されるのだけど、大人しく従うような連中ではない。
分断された少数で反乱を起こし、各個撃破される、というのを学習せずに繰り返し、最後は唯一自治権を認められていた首都だけとなった。
それからは、さすがに大人しくなる。しばらくは大人しく首都に引きこもっていた。
これが十年ちょっと前、陸皇亀が南域から来るまで続いた。
「連合の中心だったから、鬼人族を怨んでいるんですかね?」
「それだけじゃなく、龍人族の首都を監視していた軍が鬼人族の軍だったのが原因みたい」
常に監視されてる状況に怨みを募らせた、と。
「そんで、陸皇亀が去った後に、真っ先に鬼人族の国へ侵攻したわけ」
「龍人族は陸皇亀にやられなかったんですか?」
「この時点では、ほぼ被害なし、ね」
「ん?」
「どこにでもバカがいるのよ」
陸皇亀に立ち向かった脳筋がいたらしい。
「そいつ、クスリやってました?」
話に聞いただけで実物の陸皇亀を見たことないけど、ちょっと強いだけの人間に勝てるような相手ではないだろう。かなり強い神様なら別だけど。
「それで? 勝ったはずの龍人族が、支配域を広げていないのは、どうしてなんですか?」
「主力と王様が陸皇亀のブレスで消滅したみたい」
「マジっすか?」
鬼人族の主力軍を破り、町を破壊して回った後、陸皇亀を監視していた、という所まではいくつかの文書に残っていた。
しかし、ブレスを吐くのか……ん? ブレス……。
「あ、南の方にあった広域の破壊痕って……」
なんか、スッゴい広範囲の焼け野原があった。
他にやることがあったから、報告だけして、ちゃんと調査はしなかったけど。
「うん。かなり遠くに布陣してたから安心してたんだろうね。生き残った伝令兵が言うには、陸皇亀に挑む前に、陸皇亀を見ながら宴会してたらしいのよ」
それ、楽しいの?
陸皇亀は関係なく、宿敵の鬼人族を討って盛り上がってただけなのかな?
「では、龍人族は、連中の首都にいるのが全てですか?」
「そうね。密偵と首都の防衛部隊以外は、鬼人族の殲滅に出て、全軍で酒盛りしてたみたいだから」
そんな話をしながら、地下にいたチンピラを殲滅していく。
これで、近辺の町にいるチンピラに扮した密偵は、この地下を最後に全滅したことになる。
複雑な構造の地下室を虱潰しにして、最後の一部屋の前に立つ。
室内の気配は五つ。一つは上手く隠しているけど、インゴ君より下手だ。
ロジーネさんが横に避ける。僕が開けるの?
『あの弓』を構え、魔力を注ぐ。
発光する機能は目立つからなんとかしてほしい、と要望を出したけど、なんの音沙汰もない。
……全員の肩を狙うか。
閉じた扉越しに狙う。
一射目、命中。
二射目、命中。
三射目、命中。
四射目、お、扉の横で気配を隠していた奴が庇った。
剣かなにかで防ごうとしたようだけど、不可視で無音の矢を、扉に空いた穴を頼りに防ぐほどの技量はなかった。首の近くに命中して倒れる。
ラスト、命中。
「終わりましたよ」
ロジーネさんを見ると、仮面を操作してなにか遣り取りしていて返事がない。
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