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間章9
北の魔王
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マゴイチのせいで大森林のダンジョン討伐は滞っている。
『神穿つ如意棒事件』から半月。
使用を禁止されたのに犠牲者は後を絶たず、大森林の北部から動けずにいる。
周辺のダンジョンは全て討伐してしまったので、私は暇を持て余してるの。
「で、あまりにも暇なので、北の魔王を討伐することにしたわけだけど……」
氷に閉ざされたフィールド型ダンジョンを前に、討伐メンバーを振り返る。
「暇な人は多いはずなんだけどねぇ」
私の人望に問題はないはずよ。
「鍛える目的のお義母様はともかく、シャルとマヒロだけって……」
私の人望……。
「ユリアーナに人望がないのは今更だから、気にすることじゃないわ」
親友だと思ったシャルに、言葉のナイフで心臓を抉られた。
こいつとは、また殴り合ってわかり合う必要があるのかしら。
「まあまあ。寒いから、みんな来なかっただけだよ」
マヒロはフォローしてくれる。
「そう言う真弘ちゃんは寒いの平気なの?」
モッコモコに厚着したお義母様は、寒いのが苦手なんだろう。
「私は、拠点にいると同級生三人に捕まるから……」
お義母様が可愛く小首を傾げる。
「ああ、依存症になっちゃった?」
マゴイチに気持ち良くされて、盛ってしまったのね。
私の問いに、お義母様も察してくれたようだ。
マヒロはモジモジして答える。
「そこまではいってないけど……まあ、それに近いか」
「私の予想では、マヒロが一番お猿さんになると思ったわ」
次いでアサギリ。ヒサメとウミカは、何度かヤったら落ち着くと思った。
「三人のアレな姿を見て我に返った、というかなんというか……」
「ああ、寝室にあるでっかい姿見を見て自分を客観視できたのね」
「なんでわかったの?」
経験済みだからよ。
というか、あの鏡はヤってる自分を見るために置いてあるから、自然と目に入るのよ。
んで、自分のアレな姿を見て我に返るの。
私だけじゃなく、多くの妻がそこを通っている。
通っていながら我に返らず、アレな姿の自分に興奮しちゃう子もいるけどね。
マヒロの場合は、自分のアレな姿で我に返ったのを知られたくなくて、あの三人のアレな姿で我に返ったことにしたかったのね。
「大丈夫よ。私たちのアレな姿をマヒロが知っているように、マヒロのアレな姿も私たちで共有してるから」
知らなかったのだろう。
仮面のネットワークには、会員制のサイトが存在する。
これにアクセスできるのは、魔王戦を経験済みの妻とユカリとお義母様だけ。
ヒサメもアクセスできるようになったから、今後は彼女秘蔵の隠し撮りも観れるようになるでしょうね。
「えっと……じゃあ、初夜のアレも?」
「うん。可愛くおねだりできたね」
マヒロが奇声を発しながら走っていった。
……たぶん、そっちに魔王がいると思うんだけど……まあ、大丈夫でしょう。
奇声に引き寄せられた魔物が、こちらに向かってくる。
「魔物の処理はお義母様にお任せします」
「ええ。そのために来たのだから、任せてちょうだい」
動きにくそうなモコモコが、ヨチヨチ歩きで魔物へ向かう。
やけにスタイリッシュで足が速い氷のゴーレムが、氷の狼を連れて向かってくる。
お義母様から魔物の手前に魔力が放出される。
魔力の操作が上手い。
「……氷の魔物に氷、ですか……」
ゴーレムも狼も氷の杭に貫かれ、砕け散った。
「なぜ氷?」
「……特に意味は……」
お義母様も、なんとなくで魔法を使えるレベルになっていたのね。
ゲームみたいに弱点属性によるダメージ補正とかはないから、なにを使ってもいいのよ。でも、氷に対して氷はあまり効果がないような気がするから、そのイメージが魔法に出てしまうのが普通なの。
その後の攻撃は、炎だったり水だったりで、本当に気分次第のようだった。
二時間ほど進むと、お義母様の魔法でも一撃では倒せなくなる。
数が多い時は、私とシャルで間引きしてお義母様が戦いやすい状況を作った。
「そういえば、孫一は最近、ポニーテールが好きなのかしら?」
「どうでしょう? ショートよりロングの方が好きみたいですけど、ポニーテールじゃなきゃダメってわけではないみたいですよ」
あと、あれはポニーテールが好きなんじゃなくて、うなじが好きなだけ。
「そうなの? 回収した外付けハードには、ヒロインがポニテのエロゲが多かったわよ」
やめてあげて。どんな内容だったか教えなくていいから。マゴイチの性癖をバラさないで。「輪姦は好きじゃないみたいね」は知ってるから、言わなくていいよ。でも、「旧スクに強い拘りがあるみたい」は知らなかったわ。
「夫が攻略したエロゲヒロインの話を姑から聞かされたら、どんな顔すればいいのかしら」
笑えばいいのかしら。
なんとも言えない気分だわ。
シャルも微妙な顔。私もこんな顔しているのだろうか。
話題を変えよう。
「お義母様は、まだ白面でいるつもりですか?」
「医療系の魔法やスキルを極めてみようかと思ってるから、新しく医療部隊を作ってもらおうかしら」
「医療部隊、ですか?」
「ええ。ラルスちゃんの件では、なにもできなかったから……」
うちで対応できたのはユカリだけだったからね。私を含めてみんな無力だったわ。
医療部隊か……。
私たちは自前の魔法でなんとかなるけど、子供たちはそうじゃない。
というか、傭兵団なら、いてもおかしくないはずの衛生兵が一人もいないのは、これから先、不味いことがあるかもしれない。
会議では何度か議題に上がってはいたのだけど、急務ではないのと、知識と機材の不足から設立は見送ってきた。
「医療部隊の設立は必要ですね。でも、隊員はどうします? 当面はお義母様一人で、必要に応じて他の隊から人手を借りる感じですかね?」
「そうね。リーゼさんは、ラルスちゃんの件で医術に興味を持ってるみたいだから、誘ってみようと思ってるわ」
急務というほど急いではいないけれど、早めに作っておこう。
「戻ったら話し合いましょう」
マゴイチ不在の会議はよくある。けど、この案件はマゴイチにも参加してもらいましょう。
「あ、そうだったわ。ここには、ついでに移動用の足を探しに来たの」
ここに来るのにも、ザビーネに私と二人乗りしてたわね。
「なにか目当ての魔物がいるんですか?」
「龍に乗ってみたいのよ。昔見たアニメみたいに」
昔話のヤツかしら?
「龍って、なにから進化するのかしら?」
聞かれてもねぇ。うちには竜はいるけど龍はいないから。
竜なら蜥蜴系の魔物から進化する。
龍はどうかしら。蛇? 鯉?
世界の管理システムで調べればわかると思うけど、あれ、疲れるのよね。
「蛇から試してみては?」
失敗しても、子供たちに人気のマゴロクが二匹になるだけ。損はない。
「そうね。鯉は手頃な滝を探すのが面倒ね」
鯉が龍になる条件に、登龍門は必要なのかしら?
「でも、氷のダンジョンに蛇はいますかね?」
爬虫類は、こんな低温では活動できないでしょ。
「そこにいるのは蛇じゃないかしら?」
私たちの前を横切る川に薄い気配がある。これのこと?
川岸に青白い蛇が姿を現す。見た目からして蝮の魔物かしら。動きからすると、寒くても平気みたいね。
「ベアトさんの長い話を聞いた甲斐があったわね」
あの長い話を聞いたんだ。
お義母様が蛇へと歩く。一見、無防備に見えるけど、幾重にも結界が張られている。あの蛇には結界を一枚抜くのも無理だろう。
蛇がお義母様に飛び掛かる。思ったより小さい。
モコモコの手袋をした手で、蛇の首を無造作に捕まえた。血の繋がりはないのに、こういう所はユカリはお義母様に似ている。
蛇にお義母様の魔力が流れ、従属契約の術式が刻まれた。
「名前は何にしますか?」
そういえば、お義母様のネーミングセンスってどうなのかしら。
あの息子とあの娘のセンスなら、お義母様も……。
「……すぐには思い付かないわね。とりあえず、保留で」
大丈夫と思うことにしましょう。
*
一時間だ。
たった一時間だけ目を離していたら、青白い蛇が黄金の龍になっていた。
巨大な龍が、空の上から私たちを見下ろす。
四本足で蛇のような黄金の体躯。翼はない。足には指が三本。
「それって、もしかして……黄龍?」
「ええ。ちょっと前まで応龍だったの。ビックリね」
お義母様が言うには、蝮が蛟という亜龍になり、蛟が成龍となり、成龍が角龍、角龍が応龍、んで、ついさっき、黄龍になったそうだ。
一時間で。
驚いたわ。麒麟に並ぶ神獣じゃないの。
それが一時間で爆誕。意味がわからない。
「でも、欲しかったのは色違いなのよね」
昔話のヤツか。
そういえば、マツカゼが麒麟に進化した時のことをマゴイチが「間違い探しで誰もが最初に気づく間違いみたいだった」って言ってたけど、これのことか。
たしかに、一番最初に気づく間違いだわ。
「お義母様、マツカゼに乗ってましたね」
「ええ。みんな乗れないんですってね。あの子、我が儘なのかしら」
違います。主と認めた相手しか乗せないんです。私ですら乗せてくれない。
「私も触るのが限界ですね。無理に乗ろうとしたら攻撃されました」
「そうなの? 縁も触れるだけって言ってたわね」
ユカリに触られると、凄く嫌そうにしてたわ。マーヤはもっと嫌がってたけどね。
というか、黄龍の魔力、凄いわね。ロクサーヌさんくらいあるんじゃないの?
少なくとも、遠くに感じる北の魔王より多いと思う。
「ん? あれ?」
その魔王となにかが戦ってる。マヒロかしら?
北東の空にマヒロのプラーナを感じる。
あ、空からたくさんの光柱が降り注いだ。
間違いない。マヒロの魔法だ。【光の勇者】以上の〈光魔法〉じゃないの。
「……苦戦してるわけじゃなさそうだし、マヒロは放置しよう」
「いいの? 仮面に救援要請が来てるよ?」
気づいてる。シャルに言われるまでもなく気づいてるよ。着信音がポコポコ五月蝿いもん。
そもそも、救援要請を連投できる余裕があるんだし、大丈夫でしょ。
「見た目がキモイから助けてほしいって。ヌメヌメした六足歩行のなにか、ってなんだろう?」
「死体の回収もしなくていいかも」
魔石さえあればいい。
「“モェー”って鳴く、って」
「ますます行きたくなくなった」
私が言ったことをそのままシャルが返信したのか、一際巨大な光柱が落ちた。
あっちの方は、レーザーで熱せられて湿度が高そうだな。
「じゃあ、マヒロが魔王と戦ってる間に、黄龍の名前を考えましょうか」
この一時間後、マヒロが北の魔王を討伐する。
死体はいらないって言ったのに、ヌメヌメしたなにかを引き摺って来たので、うっかりマヒロごと燃やしてしまった。
ちなみに、黄龍の名前は“こー”に決定。
お義母様に「こーちゃん」と呼ばれた黄龍は困惑していた。龍の困り顔って初めて見たよ。
『神穿つ如意棒事件』から半月。
使用を禁止されたのに犠牲者は後を絶たず、大森林の北部から動けずにいる。
周辺のダンジョンは全て討伐してしまったので、私は暇を持て余してるの。
「で、あまりにも暇なので、北の魔王を討伐することにしたわけだけど……」
氷に閉ざされたフィールド型ダンジョンを前に、討伐メンバーを振り返る。
「暇な人は多いはずなんだけどねぇ」
私の人望に問題はないはずよ。
「鍛える目的のお義母様はともかく、シャルとマヒロだけって……」
私の人望……。
「ユリアーナに人望がないのは今更だから、気にすることじゃないわ」
親友だと思ったシャルに、言葉のナイフで心臓を抉られた。
こいつとは、また殴り合ってわかり合う必要があるのかしら。
「まあまあ。寒いから、みんな来なかっただけだよ」
マヒロはフォローしてくれる。
「そう言う真弘ちゃんは寒いの平気なの?」
モッコモコに厚着したお義母様は、寒いのが苦手なんだろう。
「私は、拠点にいると同級生三人に捕まるから……」
お義母様が可愛く小首を傾げる。
「ああ、依存症になっちゃった?」
マゴイチに気持ち良くされて、盛ってしまったのね。
私の問いに、お義母様も察してくれたようだ。
マヒロはモジモジして答える。
「そこまではいってないけど……まあ、それに近いか」
「私の予想では、マヒロが一番お猿さんになると思ったわ」
次いでアサギリ。ヒサメとウミカは、何度かヤったら落ち着くと思った。
「三人のアレな姿を見て我に返った、というかなんというか……」
「ああ、寝室にあるでっかい姿見を見て自分を客観視できたのね」
「なんでわかったの?」
経験済みだからよ。
というか、あの鏡はヤってる自分を見るために置いてあるから、自然と目に入るのよ。
んで、自分のアレな姿を見て我に返るの。
私だけじゃなく、多くの妻がそこを通っている。
通っていながら我に返らず、アレな姿の自分に興奮しちゃう子もいるけどね。
マヒロの場合は、自分のアレな姿で我に返ったのを知られたくなくて、あの三人のアレな姿で我に返ったことにしたかったのね。
「大丈夫よ。私たちのアレな姿をマヒロが知っているように、マヒロのアレな姿も私たちで共有してるから」
知らなかったのだろう。
仮面のネットワークには、会員制のサイトが存在する。
これにアクセスできるのは、魔王戦を経験済みの妻とユカリとお義母様だけ。
ヒサメもアクセスできるようになったから、今後は彼女秘蔵の隠し撮りも観れるようになるでしょうね。
「えっと……じゃあ、初夜のアレも?」
「うん。可愛くおねだりできたね」
マヒロが奇声を発しながら走っていった。
……たぶん、そっちに魔王がいると思うんだけど……まあ、大丈夫でしょう。
奇声に引き寄せられた魔物が、こちらに向かってくる。
「魔物の処理はお義母様にお任せします」
「ええ。そのために来たのだから、任せてちょうだい」
動きにくそうなモコモコが、ヨチヨチ歩きで魔物へ向かう。
やけにスタイリッシュで足が速い氷のゴーレムが、氷の狼を連れて向かってくる。
お義母様から魔物の手前に魔力が放出される。
魔力の操作が上手い。
「……氷の魔物に氷、ですか……」
ゴーレムも狼も氷の杭に貫かれ、砕け散った。
「なぜ氷?」
「……特に意味は……」
お義母様も、なんとなくで魔法を使えるレベルになっていたのね。
ゲームみたいに弱点属性によるダメージ補正とかはないから、なにを使ってもいいのよ。でも、氷に対して氷はあまり効果がないような気がするから、そのイメージが魔法に出てしまうのが普通なの。
その後の攻撃は、炎だったり水だったりで、本当に気分次第のようだった。
二時間ほど進むと、お義母様の魔法でも一撃では倒せなくなる。
数が多い時は、私とシャルで間引きしてお義母様が戦いやすい状況を作った。
「そういえば、孫一は最近、ポニーテールが好きなのかしら?」
「どうでしょう? ショートよりロングの方が好きみたいですけど、ポニーテールじゃなきゃダメってわけではないみたいですよ」
あと、あれはポニーテールが好きなんじゃなくて、うなじが好きなだけ。
「そうなの? 回収した外付けハードには、ヒロインがポニテのエロゲが多かったわよ」
やめてあげて。どんな内容だったか教えなくていいから。マゴイチの性癖をバラさないで。「輪姦は好きじゃないみたいね」は知ってるから、言わなくていいよ。でも、「旧スクに強い拘りがあるみたい」は知らなかったわ。
「夫が攻略したエロゲヒロインの話を姑から聞かされたら、どんな顔すればいいのかしら」
笑えばいいのかしら。
なんとも言えない気分だわ。
シャルも微妙な顔。私もこんな顔しているのだろうか。
話題を変えよう。
「お義母様は、まだ白面でいるつもりですか?」
「医療系の魔法やスキルを極めてみようかと思ってるから、新しく医療部隊を作ってもらおうかしら」
「医療部隊、ですか?」
「ええ。ラルスちゃんの件では、なにもできなかったから……」
うちで対応できたのはユカリだけだったからね。私を含めてみんな無力だったわ。
医療部隊か……。
私たちは自前の魔法でなんとかなるけど、子供たちはそうじゃない。
というか、傭兵団なら、いてもおかしくないはずの衛生兵が一人もいないのは、これから先、不味いことがあるかもしれない。
会議では何度か議題に上がってはいたのだけど、急務ではないのと、知識と機材の不足から設立は見送ってきた。
「医療部隊の設立は必要ですね。でも、隊員はどうします? 当面はお義母様一人で、必要に応じて他の隊から人手を借りる感じですかね?」
「そうね。リーゼさんは、ラルスちゃんの件で医術に興味を持ってるみたいだから、誘ってみようと思ってるわ」
急務というほど急いではいないけれど、早めに作っておこう。
「戻ったら話し合いましょう」
マゴイチ不在の会議はよくある。けど、この案件はマゴイチにも参加してもらいましょう。
「あ、そうだったわ。ここには、ついでに移動用の足を探しに来たの」
ここに来るのにも、ザビーネに私と二人乗りしてたわね。
「なにか目当ての魔物がいるんですか?」
「龍に乗ってみたいのよ。昔見たアニメみたいに」
昔話のヤツかしら?
「龍って、なにから進化するのかしら?」
聞かれてもねぇ。うちには竜はいるけど龍はいないから。
竜なら蜥蜴系の魔物から進化する。
龍はどうかしら。蛇? 鯉?
世界の管理システムで調べればわかると思うけど、あれ、疲れるのよね。
「蛇から試してみては?」
失敗しても、子供たちに人気のマゴロクが二匹になるだけ。損はない。
「そうね。鯉は手頃な滝を探すのが面倒ね」
鯉が龍になる条件に、登龍門は必要なのかしら?
「でも、氷のダンジョンに蛇はいますかね?」
爬虫類は、こんな低温では活動できないでしょ。
「そこにいるのは蛇じゃないかしら?」
私たちの前を横切る川に薄い気配がある。これのこと?
川岸に青白い蛇が姿を現す。見た目からして蝮の魔物かしら。動きからすると、寒くても平気みたいね。
「ベアトさんの長い話を聞いた甲斐があったわね」
あの長い話を聞いたんだ。
お義母様が蛇へと歩く。一見、無防備に見えるけど、幾重にも結界が張られている。あの蛇には結界を一枚抜くのも無理だろう。
蛇がお義母様に飛び掛かる。思ったより小さい。
モコモコの手袋をした手で、蛇の首を無造作に捕まえた。血の繋がりはないのに、こういう所はユカリはお義母様に似ている。
蛇にお義母様の魔力が流れ、従属契約の術式が刻まれた。
「名前は何にしますか?」
そういえば、お義母様のネーミングセンスってどうなのかしら。
あの息子とあの娘のセンスなら、お義母様も……。
「……すぐには思い付かないわね。とりあえず、保留で」
大丈夫と思うことにしましょう。
*
一時間だ。
たった一時間だけ目を離していたら、青白い蛇が黄金の龍になっていた。
巨大な龍が、空の上から私たちを見下ろす。
四本足で蛇のような黄金の体躯。翼はない。足には指が三本。
「それって、もしかして……黄龍?」
「ええ。ちょっと前まで応龍だったの。ビックリね」
お義母様が言うには、蝮が蛟という亜龍になり、蛟が成龍となり、成龍が角龍、角龍が応龍、んで、ついさっき、黄龍になったそうだ。
一時間で。
驚いたわ。麒麟に並ぶ神獣じゃないの。
それが一時間で爆誕。意味がわからない。
「でも、欲しかったのは色違いなのよね」
昔話のヤツか。
そういえば、マツカゼが麒麟に進化した時のことをマゴイチが「間違い探しで誰もが最初に気づく間違いみたいだった」って言ってたけど、これのことか。
たしかに、一番最初に気づく間違いだわ。
「お義母様、マツカゼに乗ってましたね」
「ええ。みんな乗れないんですってね。あの子、我が儘なのかしら」
違います。主と認めた相手しか乗せないんです。私ですら乗せてくれない。
「私も触るのが限界ですね。無理に乗ろうとしたら攻撃されました」
「そうなの? 縁も触れるだけって言ってたわね」
ユカリに触られると、凄く嫌そうにしてたわ。マーヤはもっと嫌がってたけどね。
というか、黄龍の魔力、凄いわね。ロクサーヌさんくらいあるんじゃないの?
少なくとも、遠くに感じる北の魔王より多いと思う。
「ん? あれ?」
その魔王となにかが戦ってる。マヒロかしら?
北東の空にマヒロのプラーナを感じる。
あ、空からたくさんの光柱が降り注いだ。
間違いない。マヒロの魔法だ。【光の勇者】以上の〈光魔法〉じゃないの。
「……苦戦してるわけじゃなさそうだし、マヒロは放置しよう」
「いいの? 仮面に救援要請が来てるよ?」
気づいてる。シャルに言われるまでもなく気づいてるよ。着信音がポコポコ五月蝿いもん。
そもそも、救援要請を連投できる余裕があるんだし、大丈夫でしょ。
「見た目がキモイから助けてほしいって。ヌメヌメした六足歩行のなにか、ってなんだろう?」
「死体の回収もしなくていいかも」
魔石さえあればいい。
「“モェー”って鳴く、って」
「ますます行きたくなくなった」
私が言ったことをそのままシャルが返信したのか、一際巨大な光柱が落ちた。
あっちの方は、レーザーで熱せられて湿度が高そうだな。
「じゃあ、マヒロが魔王と戦ってる間に、黄龍の名前を考えましょうか」
この一時間後、マヒロが北の魔王を討伐する。
死体はいらないって言ったのに、ヌメヌメしたなにかを引き摺って来たので、うっかりマヒロごと燃やしてしまった。
ちなみに、黄龍の名前は“こー”に決定。
お義母様に「こーちゃん」と呼ばれた黄龍は困惑していた。龍の困り顔って初めて見たよ。
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