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8章
4話 黒も良い
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翌日の早朝。
明るくなり始めた東の空を見ながら縁側でお茶を啜る。
「白い下着は良いものだ」
全ての欲望を吐き出して賢者となった勇者が呟く。
「だが、黒も良い」
ペトラは黒だった。
自分で選んだわけではないらしい。次は自分で選んでほしい。その方が興奮するから。
ユリアーナが用意したらしいので、後で尻尾を綺麗にしてあげよう。
と思っていたら、隣に座ってお茶を啜っていた。その羊羮、どうしたの? 僕のは? え? 取りに行け? いや、自分で取りに行くほど食べたいわけじゃないよ。
「マゴイチ。理性って知ってる?」
「ああ、知ってるよ。放浪癖のあるアイツだろ?」
呆れられた。
ご機嫌取りに、尻尾を綺麗にしてあげよう。
あ、ブラシがない。
後ろからブラシを持った手がニュッと現れた。たぶん、マーヤ。
「お、ありがと」
ユリアーナの尻尾を膝に乗せ、ブラシを……の前に、毛に絡まっているであろう石や葉っぱを……あれ? ない。
「自分でやってみた」
自慢気だけど、普通のことだよ。
「おー、ブラシが抵抗なく入る」
マーヤの尻尾なら当たり前なんだけど、これがユリアーナの尻尾だと、ちょっと感動する。
これならモフモフしていたい。というわけで、モフります。
ブラシを後ろに差し出すと、マーヤが受け取ってくれる。
マーヤより少し小振りで短い尻尾に、顔を埋める。
「……やればできるんじゃん」
「当然よ」
ユリアーナの尻尾から手を離し、縁側に横になって彼女の尻尾を枕にする。
んー、枕としてはクッションが足りない。
「やっぱ、マーヤの尻尾がいちば、いったっ」
枕が消えて、床に頭を打ち付けてしまった。
今のは僕の失言だ。「ごめん」と謝って尻尾に手を伸ばし引き寄せると、抵抗はなかったから、許してくれたんだろう。
尻尾に頭を乗せ天井をボンヤリ見ていたら、昨日のことを思い出した。
「そういえば、昨日の体育祭はどうなったの?」
「白組が勝ったわよ」
いや、組分けを知らん。
紅白でやってたのは知ってるけど、誰がどっちとかは知らないので、どちらが勝ったかは興味がない。
「問題はなかった?」
「ユーキ君が負けた腹いせに、優勝商品に手を出そうとしてボコられた」
「豪華デザートセットだっけ?」
由香と由希が作っためちゃうまデザートだ。
奪われまいと、勝者は暴力を行使したらしい。ちょっとやり過ぎな気もするけど、食べ物の怨みは怖いから、結城君を擁護する気はない。
「負けておきながら商品を奪おうとしたからね。しかも、全然活躍してないのに、負けたのはチームのせいだ、って八つ当たりしちゃって、赤組にも喧嘩売っちゃったのよ」
「活躍しなかったの? 太って動きが鈍くなったとはいえ、元のスペックは高いんだから、少しくらいは……」
ユリアーナが首を横に振る。
「ニホンに戻ってから苦労するだろうから、帰還後に助け合えるよう、チームで競う競技を多くしたんだけど、それが裏目に出ちゃった。あそこまで我儘放題に振る舞われてしまうと、ね」
騎馬戦では、体重九十オーバーなのに上に乗り、動きの遅い騎馬の頭をバシバシとシバいたりとか。
最終種目の全員参加リレーでは、自らアンカーに名乗り出て、白組の転倒により圧倒的大差でバトンを受け取りながら、白組アンカーの生徒会長にアッサリ追い抜かれて、アッサリ諦めてゴール手前で歩いてしまう。
リレーまではギリギリ勝っていた点差が逆転されてしまったのに「お前らが遅いのが悪い」と宣い、商品を奪おうと由香と由希を襲う。勿論、アッサリ返り討ち。
それでもデザートが欲しくて、女子生徒から奪おうとしたら、白組男子にボコられる。
ならば、と赤組を煽動して奪おうとするも、誰も聞いてくれず、暴言を吐き散らして赤組全員から暴行を受け、結局、授賞式どころではなくなってしまったそうだ。
「カイチョーが仲裁に走り回ってくれたけど、まだユーキ君への怒りが燻ってる感じ」
「それ、解決しないままあっちに送り還したら、不味くね?」
「ミカゲさんもなんとかしたいみたいだけど、出産予定日が近いから無理させたくないのよ」
「会長だけじゃダメか。生徒会長以外の生徒会メンバーを引き抜いてしまったのも不味いのか? 後悔も反省もしてないけど」
「カイチョーが走り回っている時、マゴイチはお楽しみだったのよね。そこは反省しなさい」
なんかゴメン。
「いや、そこは、精のつくお弁当を用意したユリアーナにも反省してほしい」
どうなるか、結果の予想はついてただろうに。
「うん。ユーキ君のアホさ加減を予想できなかった。反省してます」
お弁当は反省してないんだ。
「なんで、あのお弁当を?」
「エミさんに“どうすれば殿方を誘惑できるのですか?”ってストレートに聞かれたから、ストレートにマゴイチの理性をブッ飛ばす方法を教えたの」
ブッ飛んだねぇ。
「まさか、ペトラちゃんとマイケさんにまで手を出すとは……」
僕が悪いみたいな言い方。いや、悪いんだけどね。けど、原因はユリアーナだよ。
「あのお弁当は危険なので、二度と作らせません」
「あのお弁当の効果をユリアーナにも体感してもらってから、危険性を充分に理解した上で禁止にするべきだと思うよ」
お弁当箱を持ったマーヤがスルッと現れる。
さすがマーヤさん。
「オーケー、私が悪かった。なので、これは私が処分します」
マーヤの手からお弁当箱を素早く奪い、黒い炎で焼き尽くした。なんかカッコイイ。僕の中の中学二年生が顔を出しかけた。
というか、食べ物を無駄にすんな。
「もったいないお化けが出るよ」
「【創造神】自ら浄化してやんよ」
「ここで言うもったいないお化けは、由香と由希だよ」
あの二人は、食べ物を無駄にする奴を許さない。食べ過ぎてリバースした男子生徒が、拳でお説教されてた。
「……後で謝っとく」
【創造神】もあの二人に胃袋を掴まれてる。
シュンとなった耳を見て、慰めようと頭に手を伸ば……すまでもなく届かないので、代わりにお尻を撫でたら、額をペシリと叩かれた。
「ん?」
ユリアーナの耳が後ろに向けられる。
「なに?」
「この泣き声はヴィオラートかしら?」
「そう。なら、俺が行くよ」
寝直すような時間じゃないし、朝稽古まで暇だからね。
「マゴイチ、オッパイ出ないでしょ」
「お腹すいてんの? オムツじゃなく?」
「ヴィオはお腹空いた時しか泣かないわ。アルベルトとルーペルトはお腹すいてても泣かないから、二人は大体同じ時間に飲ませてる」
僕が行っても役に立たないけど、僕もヴィオの顔を見たいので、二人並んで子供部屋へ行く。すると、マーヤが既にヴィオをあやしていた。
「……なあ、ヴィオの泣き声って、小さくない?」
マーヤが先回りしていたことに疑問はない。
「そうね。小声で泣く赤ん坊っているのね」
「マーヤ、なんかしたの?」
左の胸をポロンと出してヴィオに授乳していたマーヤが、しばらく考える。
「以前、夜泣きした時に、御主人様の手を煩わせるな、と言い含めました」
妻が娘を虐待してた。
「マーヤ、それはダメ。子供たちには将来を自由に選んでほしい」
そのための環境作りを御影さんに丸投げしてるけどね。
「ヴィオラートにも、自分がなりたいものになってほしい」
本当は、マーヤにも言いたいのだけど、今が成りたいものなんだろうから、言うだけ無駄になる。
「ああ、でも、変な男を連れてくるのは阻止したい。授かり婚もやめてほしい。順番は守って。あと、できるだけ長く一緒にお風呂に入りたい。洗濯物は別でいいから、パパ臭いって言わないで」
想像したら吐きそう。
「言ったら私が首を落とします」
「「絶対ダメ!」」
明け方の我が家に、僕とユリアーナの声が響いた。
「臭い、って言われるのも、父親の役目だと思うから」
むしろ、親離れのためには必要な行事だと思う。思うことにする。思いたくないけど。
「実際、今のマゴイチ、結構、臭うしね」
ああ、うん。自分ではわからないけど、性的なアレコレの臭いがプンプンしてるだろうね。
「これが母の臭いですか」
合ってるけど、言い方。あと、ペトラの臭いも混ざってる。
「そういえば、マーヤはマイケさんを側室にしたかったの?」
だからこそ、僕の通り道に、僕好みの下着を着けたマイケさんを待たせていたのだろう。
と思ったら、マーヤは首を横に振る。
「母親とはいえ、娼館での御主人様への失礼な態度を、見逃すわけにはいきませんから」
「なんかあったっけ?」
「胡散臭そうな目で御主人様を見ていました」
「勇者と名乗ったら、大体の人が胡散臭そうに見るよ」
普通の反応でしょ。てか、それって失礼な態度か?
僕の蛙顔を見たら、大体の人が嫌悪感を顕にする。そっちで慣れてるから、胡散臭そうにするくらい、なんとも思わない。
「それに、ユリアーナも、最初は結構失礼だったじゃん」
ユリアーナもおっちゃんも、胡散臭そうに見てたよ。マーヤは、包帯で表情はわからなかったけど、感情の色は不信と戸惑いが強く出ていた。
マーヤがヴィオをベビーベッドに戻す。ほんと、大人しい子だな。母乳を飲んだら、もう寝ちゃった。
アルベルトとルーペルトを起こさないよう、縁側に戻る。というか、あれだけ騒がしくしていてたのに、二人は起きなかったな。
「そんで? マイケさんは俺の側室になるって言ってたけど、マーヤとしてはどうなの?」
「どう、とは?」
「いや、親子で同じ人に嫁ぐのは、って、うちには他にもいたな」
言ってから、エロい飛翼族母娘と緊縛エロフ母娘を思い出した。
どちらも親子で僕に嫁いでいるけど、気にしている様子はない。むしろ、母娘一緒に孕ませた僕が少しだけ気にしている。
「私は気になりません。母も気にしないと思います」
「マゴイチって、ロクサーヌさんとフルールを抱く時、凄く楽しそうよ」
「え? マジで?」
僕は、背徳感を気に病んでいるのではなく、楽しんでいたのか。
「じゃあ、イレーヌとイヴェットの時は? どう見えた?」
「あの二人は……吊るすのがしんどそう」
「それ、樹部隊全員だよ」
森人族は、痩せてるし胸も小さいので体重も軽い。でも、人一人を縛って吊るすのは、結構な重労働だ。そろそろ、寝室に滑車を設置してほしい。人類の叡知をプレイに利用したい。使い方が先人への冒涜のような気がするけどね。
「でも、いい筋トレになってるでしょ?」
「吊るすための筋肉が、なんの役に立つのかわかんねぇ」
「えっと……こう、剣を振る動作と同じ?」
「いや、最近は、綱を持ったまま後ろに倒れる感じで持ち上げてる」
いろいろとやり方を変えて、今のやり方に落ち着いた。てか、腕だけで吊るそうとすると、腰をヤりそうだから。
「前に腕がプルプルしてたのは?」
「あれは……駅弁の連発で……」
「なんで、わざわざ疲れる体位を?」
「ユリアーナの同族に連続で求められて……」
「……なんかゴメン」
なぜか変な空気になった。
「と、ともかく、マイケさんが側室になることに反対はしないんだな?」
「はい。母共々、末永くお世話させていただきます」
なんか違う気がするけど、マーヤだからしょうがない。
明るくなり始めた東の空を見ながら縁側でお茶を啜る。
「白い下着は良いものだ」
全ての欲望を吐き出して賢者となった勇者が呟く。
「だが、黒も良い」
ペトラは黒だった。
自分で選んだわけではないらしい。次は自分で選んでほしい。その方が興奮するから。
ユリアーナが用意したらしいので、後で尻尾を綺麗にしてあげよう。
と思っていたら、隣に座ってお茶を啜っていた。その羊羮、どうしたの? 僕のは? え? 取りに行け? いや、自分で取りに行くほど食べたいわけじゃないよ。
「マゴイチ。理性って知ってる?」
「ああ、知ってるよ。放浪癖のあるアイツだろ?」
呆れられた。
ご機嫌取りに、尻尾を綺麗にしてあげよう。
あ、ブラシがない。
後ろからブラシを持った手がニュッと現れた。たぶん、マーヤ。
「お、ありがと」
ユリアーナの尻尾を膝に乗せ、ブラシを……の前に、毛に絡まっているであろう石や葉っぱを……あれ? ない。
「自分でやってみた」
自慢気だけど、普通のことだよ。
「おー、ブラシが抵抗なく入る」
マーヤの尻尾なら当たり前なんだけど、これがユリアーナの尻尾だと、ちょっと感動する。
これならモフモフしていたい。というわけで、モフります。
ブラシを後ろに差し出すと、マーヤが受け取ってくれる。
マーヤより少し小振りで短い尻尾に、顔を埋める。
「……やればできるんじゃん」
「当然よ」
ユリアーナの尻尾から手を離し、縁側に横になって彼女の尻尾を枕にする。
んー、枕としてはクッションが足りない。
「やっぱ、マーヤの尻尾がいちば、いったっ」
枕が消えて、床に頭を打ち付けてしまった。
今のは僕の失言だ。「ごめん」と謝って尻尾に手を伸ばし引き寄せると、抵抗はなかったから、許してくれたんだろう。
尻尾に頭を乗せ天井をボンヤリ見ていたら、昨日のことを思い出した。
「そういえば、昨日の体育祭はどうなったの?」
「白組が勝ったわよ」
いや、組分けを知らん。
紅白でやってたのは知ってるけど、誰がどっちとかは知らないので、どちらが勝ったかは興味がない。
「問題はなかった?」
「ユーキ君が負けた腹いせに、優勝商品に手を出そうとしてボコられた」
「豪華デザートセットだっけ?」
由香と由希が作っためちゃうまデザートだ。
奪われまいと、勝者は暴力を行使したらしい。ちょっとやり過ぎな気もするけど、食べ物の怨みは怖いから、結城君を擁護する気はない。
「負けておきながら商品を奪おうとしたからね。しかも、全然活躍してないのに、負けたのはチームのせいだ、って八つ当たりしちゃって、赤組にも喧嘩売っちゃったのよ」
「活躍しなかったの? 太って動きが鈍くなったとはいえ、元のスペックは高いんだから、少しくらいは……」
ユリアーナが首を横に振る。
「ニホンに戻ってから苦労するだろうから、帰還後に助け合えるよう、チームで競う競技を多くしたんだけど、それが裏目に出ちゃった。あそこまで我儘放題に振る舞われてしまうと、ね」
騎馬戦では、体重九十オーバーなのに上に乗り、動きの遅い騎馬の頭をバシバシとシバいたりとか。
最終種目の全員参加リレーでは、自らアンカーに名乗り出て、白組の転倒により圧倒的大差でバトンを受け取りながら、白組アンカーの生徒会長にアッサリ追い抜かれて、アッサリ諦めてゴール手前で歩いてしまう。
リレーまではギリギリ勝っていた点差が逆転されてしまったのに「お前らが遅いのが悪い」と宣い、商品を奪おうと由香と由希を襲う。勿論、アッサリ返り討ち。
それでもデザートが欲しくて、女子生徒から奪おうとしたら、白組男子にボコられる。
ならば、と赤組を煽動して奪おうとするも、誰も聞いてくれず、暴言を吐き散らして赤組全員から暴行を受け、結局、授賞式どころではなくなってしまったそうだ。
「カイチョーが仲裁に走り回ってくれたけど、まだユーキ君への怒りが燻ってる感じ」
「それ、解決しないままあっちに送り還したら、不味くね?」
「ミカゲさんもなんとかしたいみたいだけど、出産予定日が近いから無理させたくないのよ」
「会長だけじゃダメか。生徒会長以外の生徒会メンバーを引き抜いてしまったのも不味いのか? 後悔も反省もしてないけど」
「カイチョーが走り回っている時、マゴイチはお楽しみだったのよね。そこは反省しなさい」
なんかゴメン。
「いや、そこは、精のつくお弁当を用意したユリアーナにも反省してほしい」
どうなるか、結果の予想はついてただろうに。
「うん。ユーキ君のアホさ加減を予想できなかった。反省してます」
お弁当は反省してないんだ。
「なんで、あのお弁当を?」
「エミさんに“どうすれば殿方を誘惑できるのですか?”ってストレートに聞かれたから、ストレートにマゴイチの理性をブッ飛ばす方法を教えたの」
ブッ飛んだねぇ。
「まさか、ペトラちゃんとマイケさんにまで手を出すとは……」
僕が悪いみたいな言い方。いや、悪いんだけどね。けど、原因はユリアーナだよ。
「あのお弁当は危険なので、二度と作らせません」
「あのお弁当の効果をユリアーナにも体感してもらってから、危険性を充分に理解した上で禁止にするべきだと思うよ」
お弁当箱を持ったマーヤがスルッと現れる。
さすがマーヤさん。
「オーケー、私が悪かった。なので、これは私が処分します」
マーヤの手からお弁当箱を素早く奪い、黒い炎で焼き尽くした。なんかカッコイイ。僕の中の中学二年生が顔を出しかけた。
というか、食べ物を無駄にすんな。
「もったいないお化けが出るよ」
「【創造神】自ら浄化してやんよ」
「ここで言うもったいないお化けは、由香と由希だよ」
あの二人は、食べ物を無駄にする奴を許さない。食べ過ぎてリバースした男子生徒が、拳でお説教されてた。
「……後で謝っとく」
【創造神】もあの二人に胃袋を掴まれてる。
シュンとなった耳を見て、慰めようと頭に手を伸ば……すまでもなく届かないので、代わりにお尻を撫でたら、額をペシリと叩かれた。
「ん?」
ユリアーナの耳が後ろに向けられる。
「なに?」
「この泣き声はヴィオラートかしら?」
「そう。なら、俺が行くよ」
寝直すような時間じゃないし、朝稽古まで暇だからね。
「マゴイチ、オッパイ出ないでしょ」
「お腹すいてんの? オムツじゃなく?」
「ヴィオはお腹空いた時しか泣かないわ。アルベルトとルーペルトはお腹すいてても泣かないから、二人は大体同じ時間に飲ませてる」
僕が行っても役に立たないけど、僕もヴィオの顔を見たいので、二人並んで子供部屋へ行く。すると、マーヤが既にヴィオをあやしていた。
「……なあ、ヴィオの泣き声って、小さくない?」
マーヤが先回りしていたことに疑問はない。
「そうね。小声で泣く赤ん坊っているのね」
「マーヤ、なんかしたの?」
左の胸をポロンと出してヴィオに授乳していたマーヤが、しばらく考える。
「以前、夜泣きした時に、御主人様の手を煩わせるな、と言い含めました」
妻が娘を虐待してた。
「マーヤ、それはダメ。子供たちには将来を自由に選んでほしい」
そのための環境作りを御影さんに丸投げしてるけどね。
「ヴィオラートにも、自分がなりたいものになってほしい」
本当は、マーヤにも言いたいのだけど、今が成りたいものなんだろうから、言うだけ無駄になる。
「ああ、でも、変な男を連れてくるのは阻止したい。授かり婚もやめてほしい。順番は守って。あと、できるだけ長く一緒にお風呂に入りたい。洗濯物は別でいいから、パパ臭いって言わないで」
想像したら吐きそう。
「言ったら私が首を落とします」
「「絶対ダメ!」」
明け方の我が家に、僕とユリアーナの声が響いた。
「臭い、って言われるのも、父親の役目だと思うから」
むしろ、親離れのためには必要な行事だと思う。思うことにする。思いたくないけど。
「実際、今のマゴイチ、結構、臭うしね」
ああ、うん。自分ではわからないけど、性的なアレコレの臭いがプンプンしてるだろうね。
「これが母の臭いですか」
合ってるけど、言い方。あと、ペトラの臭いも混ざってる。
「そういえば、マーヤはマイケさんを側室にしたかったの?」
だからこそ、僕の通り道に、僕好みの下着を着けたマイケさんを待たせていたのだろう。
と思ったら、マーヤは首を横に振る。
「母親とはいえ、娼館での御主人様への失礼な態度を、見逃すわけにはいきませんから」
「なんかあったっけ?」
「胡散臭そうな目で御主人様を見ていました」
「勇者と名乗ったら、大体の人が胡散臭そうに見るよ」
普通の反応でしょ。てか、それって失礼な態度か?
僕の蛙顔を見たら、大体の人が嫌悪感を顕にする。そっちで慣れてるから、胡散臭そうにするくらい、なんとも思わない。
「それに、ユリアーナも、最初は結構失礼だったじゃん」
ユリアーナもおっちゃんも、胡散臭そうに見てたよ。マーヤは、包帯で表情はわからなかったけど、感情の色は不信と戸惑いが強く出ていた。
マーヤがヴィオをベビーベッドに戻す。ほんと、大人しい子だな。母乳を飲んだら、もう寝ちゃった。
アルベルトとルーペルトを起こさないよう、縁側に戻る。というか、あれだけ騒がしくしていてたのに、二人は起きなかったな。
「そんで? マイケさんは俺の側室になるって言ってたけど、マーヤとしてはどうなの?」
「どう、とは?」
「いや、親子で同じ人に嫁ぐのは、って、うちには他にもいたな」
言ってから、エロい飛翼族母娘と緊縛エロフ母娘を思い出した。
どちらも親子で僕に嫁いでいるけど、気にしている様子はない。むしろ、母娘一緒に孕ませた僕が少しだけ気にしている。
「私は気になりません。母も気にしないと思います」
「マゴイチって、ロクサーヌさんとフルールを抱く時、凄く楽しそうよ」
「え? マジで?」
僕は、背徳感を気に病んでいるのではなく、楽しんでいたのか。
「じゃあ、イレーヌとイヴェットの時は? どう見えた?」
「あの二人は……吊るすのがしんどそう」
「それ、樹部隊全員だよ」
森人族は、痩せてるし胸も小さいので体重も軽い。でも、人一人を縛って吊るすのは、結構な重労働だ。そろそろ、寝室に滑車を設置してほしい。人類の叡知をプレイに利用したい。使い方が先人への冒涜のような気がするけどね。
「でも、いい筋トレになってるでしょ?」
「吊るすための筋肉が、なんの役に立つのかわかんねぇ」
「えっと……こう、剣を振る動作と同じ?」
「いや、最近は、綱を持ったまま後ろに倒れる感じで持ち上げてる」
いろいろとやり方を変えて、今のやり方に落ち着いた。てか、腕だけで吊るそうとすると、腰をヤりそうだから。
「前に腕がプルプルしてたのは?」
「あれは……駅弁の連発で……」
「なんで、わざわざ疲れる体位を?」
「ユリアーナの同族に連続で求められて……」
「……なんかゴメン」
なぜか変な空気になった。
「と、ともかく、マイケさんが側室になることに反対はしないんだな?」
「はい。母共々、末永くお世話させていただきます」
なんか違う気がするけど、マーヤだからしょうがない。
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