一人では戦えない勇者

高橋

文字の大きさ
上 下
209 / 285
7章

13話 三日目の報告

しおりを挟む
 本日は七月二十八日。
 戦争三日目だ。

「以上。本日の行動報告でした」

 恒例となりつつある行動報告を、元城門前でする。
 うん。“元”だ。
 僕の目の前には、城壁で見えないはずの帝都平民街が広がっている。そこにあるはずの物を探してキョロキョロする都民も見える。
 しかし、本来見えないそれを遮るはずの城門も城壁も、そこには存在しない。

 理由は簡単。
 奪ったからだ。
 誰が?
 決まってる。うちの嫁たちだ。
 ついでに言うと、皇城から煙が立ちのぼっている。

 どうして城壁がなくなり城から煙が出ているのか説明する前に、昨日の戦闘について話さなければならない。
 ああ、大丈夫。ちょっと長くなるけど、気軽に聞いてほしい。

 七月二十七日。

 まず、平地に展開した第九騎士団が、人馬部隊に轢き逃げされて壊滅。

 続いて、第二騎士団が、高高度から竜部隊の爆撃を受けて半壊。

 最後に、第十二騎士団が狼部隊により、全員手足をメキョってされて壊滅。

 以上が昨日の戦闘だ。

 二日目にして帝都外に布陣する騎士団を全て壊滅させてしまい、僕たちは困ってしまった。だって、皇帝が謝ってくれるまで終わらないのに、残りの敵戦力は、帝都守備軍と近衛騎士団だけになってしまったからだ。
 第二、第九、第十二の残存兵力も期待できない。再編成以前に、無傷の者がごく少数だから。
 なので、翌日、今日だな。戦闘三日目の今日に行動する予定だった樹部隊と狐部隊は考えた。なにをすれば皇帝は謝ってくれるだろうか、と。

 ちなみに、行動予定の三部隊目は、僕が城壁前をウロウロするだけにしよう、と思っていた。

 で、城壁がなくなった理由の、先程報告した本日、七月二十八日の戦闘だ。

 暇潰しに樹部隊が、帝都守備軍が展開している城壁を、守備軍を一切攻撃せず、城壁を一ブロックずつ崩して奪ってしまった。しかも、全ての城壁を。帝都外周の城壁だけでなく、平民街と貴族街を隔てる城壁も。
 それだけじゃない。貴族街と皇城を隔てる歴史的価値がある城壁すらも、根こそぎ奪ってしまった。
 ジェンガみたいで面白かったそうだ。

 続いて、これを見た狐部隊は、モン・サン・ミシェルの近くにある離宮を襲撃、占拠。そして、そこで働く人を追い出し、装飾品や植木に至るまで全てを奪い、建物は建材として回収し、その跡地を綺麗に整地して帰ってきた。

 最後に僕。
 松風と散歩がてら、帝都で守備軍を相手に鬼ごっこでも、と思って拠点を出たら、縁に呼び止められ、新兵器の実践テストを任された。

 新兵器。
 うん。僕は銃みたいな携行兵器だと思ったから、軽い気持ちで引き受けたんだ。でも、縁が「じゃあ、これを」と出した物は、戦車だった。まごうことなくティーガーだった。ただし、フルオリハルコン装甲なので、完全にティーガーを再現しているわけではない。中身も全くの別物。一人で操縦できるように設計されているのに操縦が簡単だった。なんか、リアル『メタル◯ックス』みたいだったよ。
 そのティーガー改? を城壁のない帝都へキュラキュラ走らせて、皇帝に謝ってもらう予定の平民街中央広場で停車。勢い余って噴水を踏み潰してしまったけど、気にしない。
 ワクワクしながら、城に戦車砲をぶっぱなす。
 凄かったよ。
 一応、発射前に外部スピーカーで、戦車を包囲する守備軍やギャラリーの帝都民へ向けて「目をつむって耳を塞いで口を開けろ」って注意喚起したけど、数人が鼓膜にダメージを受けていた。
 二発目は、自動装填装置で次弾が三秒ほどで装填されたけど、射たなかった。
 だって、射線近くの家が、衝撃でえらいことになってるんだもん。
 民間人への被害を最小限にしたい僕にとって、これは大誤算だったよ。地球の戦車砲でもこれくらいの被害が出るだろうから、考えれば予想できたけどね。
 けど、言い訳させてくれ。男の子なら、目の前に戦車砲のトリガーがあったら、どうする? 引くだろ? 被害とか考えずに、とりあえず狙いやすそうな的に照準して「ファイエル!」ってやっちゃうだろ?
 だから僕は悪くない。……とは言えない。言いたいけど言えない。
 なので、一発射った後は、暇してた樹部隊に、巻き込まれた家の修繕と巻き込まれた人たちの治療をお願いし、被害を受けた民間人に慰謝料として幾ばくかの銀貨を握らせておいた。
 んで、それらが終わるのを見届けてから、バックで帝都を出て、拠点に引き上げました。

 以上が、歴史あるシュトルム帝国帝都から城壁がなくなり、城から煙が出ている理由だ。

「……帝都に侵入し放題だな」

 町並みをボンヤリ眺めていたら、多くの人は城門があった場所から帝都に出入りしているのだけど、数人が城門跡地以外から出入りしている。後ろ暗い人かな? 平民街南西の歓楽街からの出入りが多いように見える。

 ふむ。明日は一部隊を治安維持に回すか。
 人数が多い樹部隊に任せるかな。いや、街中での活動となると、狼部隊の方がいいかな。

 ……あ、これ、娼館に行くチャンスか?
 上手く部隊を歓楽街から遠い場所に派遣して……。
 行けるか?
 護衛のフレキとゲリとウカは子守りだし、松風はお願いすれば乗せてってくれる。マーヤもお願いすれば見逃してくれるし……。
 行けるな。
 商人のベアケル氏から教えてもらった店の場所は頭に入っている。城壁がなくなり最短距離も更新された。……うん。大丈夫。松風には店の裏に隠れてもらって、一時間コースでパパっと済ませれば……いや、しかし、性欲が強いことでお馴染みの兎人族のお姉さんがいるらしいから、じっくり時間をかけて楽しみたい。むー、どうしたものか。つっ! また、頭痛だ。兎人族のお姉さんのことを考えちゃダメなの? これ、ひょっとして、ユリアーナの仕業か?

 まあ、いい。
 今は、部隊をどう動かせば娼館に行けるかを考える方が重要だ。
 いっそ、我が家の軍師様に御伺いをたてるか? しかし、マルレーンの場合、僕にお仕置きされるために、ユリアーナに情報を流しそうだ。
 ……うん。ダメだ。マルレーンに相談するのはなしだな。
 なら、自分で考えるしかないかぁ。

 帝都周辺の魔物狩りに部隊を派遣すれば、こっそり行けそうだな。
 ……よし。真剣に考えてみるか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ
ファンタジー
 河井信也は会社帰りに、かつての親友である茂と再会する。  何年か振りの再会に、二人が思い出話に花を咲かせていると、茂は自分が神であると言い出してきた。  怪しい宗教はハマったのかと信也は警戒するが、茂は神であることを証明するように、自分が支配する異世界へと導いた。  そこは高校時代に二人で共同制作していた自作ゲームをそのまま異世界化させた世界だという。  驚くのも束の間、茂は有無を言わさず、その世界に信也を置いて去ってしまう。  そこで信也は、高校時代に喧嘩別れしたことを恨まれていたと知る。  異世界に置いてけぼりとなり、途方に暮れる信也だが、デバックルームの存在を思い出し、脱出の手立てを思いつく。  しかしデバックルームの場所は、最難関ダンジョン最奥の隠し部屋。  信也は異世界から脱出すべく、冒険者としてダンジョンの攻略を目指す。

猫カフェを異世界で開くことにした

茜カナコ
ファンタジー
猫カフェを異世界で開くことにしたシンジ。猫様達のため、今日も奮闘中です。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...