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6章
2話 勇者VS幼女
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「あいつの犠牲者かぁ」
マルレーンさんから聞き出した話に、天を仰ぐ。
ゾフィーアちゃんは、膝裏をペロペロされた犠牲者で、仰向けになったあいつの顔を踏まされスカートの中をガン見された犠牲者だった。
マルレーンさんも確認したわけではないけど、ゾフィーアちゃんの様子からすると、それ以上のこともされていたようだ。
……うん。そりゃあ、吐くわ。
というか、リーゼからのメッセージに書いてあったわ。迂闊。
「これはクラリッサに丸投げする案件?」
「幼女の力を見せる、と?」
いまだに、幼女の力がなんなのかわからない。
「幼女帝の玉座に成り下がったあいつを見るだけで、トラウマを克服できると思うんだけど」
「いきなりアレを見せるのは……どうかしら?」
マルレーンさんは、僕とユリアーナの会話を大人しく聞いてたけど、“幼女帝の玉座”に首を傾げている。
「けど、うちで雇うってことは、遅かれ早かれアレにエンカウントするよ? なら、最初にアレを見せて、ゾフィーアちゃんがどう反応するか見た上で、俺たちが対処すればいんじゃないかな?」
「んー……まあ、それが一番なのかなぁ」
「一応、見せる前に御影さんに相談しておこう」
「んー、そうね」
「なんか、乗り気じゃないね?」
「私としてはね、【土の勇者】をニホンに送り還したいの」
本人はこちらに残るつもりみたいだよ。
まあ、僕もあれは送り還したいけどね。
「クーリングオフ期間、過ぎてるかしら」
「日本政府なら永久保証だよ。きっと」
そうであってほしい。
「でも、あのガチロリ野郎をニホン政府が受け入れてくれるの?」
「大丈夫だよ。受け入れ先が刑務所かもしれないけど」
受け入れてくれなくても、放り投げるつもりになってるけどね。
「俺もアレは不快に思ってるけど、そこまで毛嫌いする理由ってなに?」
「この世界の管理権限を私たちが奪ったじゃない?」
奪ったねぇ。
「つまり、この世界は私たちの世界。私たちの箱庭なのよ」
「うん。まあ、そうなるね」
マルレーンさんには「うちの奥さん【創造神】になったんだよ」と、こっそり教えてあげたら、「さすが、勇者様」って返された。思考停止?
「だから、ぶっちゃけさぁ、アレを私たちの世界に残したくない」
神からの拒絶。
それはそれで救いがない。
「ともかく、今日はこの村の近くで夜営しよう。村長との交渉はイルムヒルデに。設営は小規模に。あとは……周辺の魔物を人馬部隊に間引いてもらおうか」
最後のは、村との交渉で役立つ。
村によっては、傭兵が村に近づくのを嫌がる村もある。そういった村でも、周囲の魔物を狩って、その素材や肉を村に納めれば、大体が夜営を許可してくれる。
まあ、利のない傭兵団は、ただの暴力組織だもんな。
「マルレーンさんとゾフィーアちゃんの紹介は、夕飯の時でいいか」
まだ昼前だけど、やることは多いから、みんなの手が空くのがそれくらいかな?
それまでに個別に自己紹介するだろうけど、一応、場を作ってあげよう。
ゾフィーアちゃんを胸に抱いたリーゼの下へ戻る。
「なんか、母性が凄いな」
胸の大きさもあってか、ゾフィーアちゃんが幸せそうだ。
「リーゼもマゴイチの子を身籠ったしね」
そういう重要な話をシレっとするのやめてよ。
あと、「わたくしも頑張ります」じゃねぇよ。
*
村の許可を取って夜営地を設営。
案の定、【土の勇者】とエンカウントしたゾフィーアちゃんが吐いた。
というか、いつもより小規模な城壁を造り終えたクラリッサ陛下が、その玉座を引き摺ってきたからだ。
どうやら、陛下はユリアーナから話を聞いたようだ。
魔法によって数秒で出来上がる小規模な拠点を前に、呆然としていたマルレーンさんとゾフィーアちゃんの前に、一仕事終えた幼女が、巨漢の高校生の襟首を掴んで、文字通り引き摺ってきた。
引き摺られたソレを認識した瞬間、脊髄反射のように吐いた。さっき吐いたばかりなので、胃液しか出ていない。けど、隣で吐かれたら、臭いはダイレクトに届く。
ここで貰うわけにはいかないので、手早く仮面を被り、消臭機能をオンにする。
あって良かった消臭機能。
この機能、縁が先日追加したんだけど、話を聞いた時は「これ、要る?」とか「もしかして、僕が臭いの?」って思ったけど、さすが縁だ。
こんな時に必要なんだね。
仮面の男が幼女の背中を撫でる事案は、反対側からマルレーンさんも撫でてるからマイルドになってるはず。
しゃがんでる僕らの前にクラリッサが来る。
客観的に見て、幼女帝に跪いてるように見える。
「お兄様。コレにイジメられていたのは、その子ですね?」
大人のレディとして扱ってほしいと言う割りに、“お兄様”呼びはやめようとしないクラリッサが、ソレを放す。
「ブヒッ」っと落ちたソレがゾフィーアちゃんに気づきながらも、迷うことなくクラリッサの玉座になるべく四つん這いになった。
うん。やっぱ、クーリングオフしよう。
陛下が白い布を出して玉座に被せると、ピョンと玉座にお座りあそばされる。布越しに「ん、ふぅ」と嬉しそうな吐息が聞こえた。誰得よ。
「ゾフィーアさんでしたか? 貴女には、お兄様の魔法で強くなっていただきます。この椅子に勝てる程度に」
「現状でも、近接戦なら勝てそうだけど?」
「お兄様は、コレと近接戦をしろと?」
ごめんなさい。
トラウマ克服のためとはいえ、女の子に強要することではない。
「わかった。ほんじゃあ……神聖樹に着くまであと三日くらいか。二日後に二人には戦ってもらおうかね」
神聖樹の側でやると、飛翼族を刺激してしまうかもしれないから、一日分の距離を取っておこう。
「ゾフィーアちゃん。君に負担がかかるけど、俺もできるだけ支援するから、アレを踏み越えてほしい」
僕には支援しかできないけど、結果としてアレのこの世界への未練を絶つことができるのなら、可能な限り支援をする。できれば自分の意思で帰ってほしいからね。
……これで未練を絶てるのかな? むしろ、幼女からの被虐趣味が加速しそうだ。
もういっそ、命を絶つ方向へ持っていった方がいいのではないか?
命のやり取りに慣れてきたのか、他人の命を諦めるのも慣れてしまったな。気をつけよう。いくら玉座が板についた変態でも、生きる権利があるんだ。それを安易に奪ってはいけない。
「うほぉ! 幼女様に踏んでいただけるのですね?」
よし、殺そう。
「お兄様。『偽パイ』を仕舞ってください」
おっと、いかんいかん。脊髄反射で殺そうとしてしまった。この物騒な思考も改めないといけないな。
それにしても……。
「調教の方向を間違えたんじゃないか?」
「はて、お兄様の真似ですよ?」
クラリッサの視線の先には人馬部隊が見える。
「あいつらは、調教前からあんな感じだぞ」
「お姉様方が仰るには、お兄様の調教の賜物だそうです」
違う。僕は無実だ。
「それに、百歩譲って人馬部隊は元々だったとして、ラーエルお姉様はどう説明します?」
ああ、うん。そうね。ラーエルに関しては、100%僕の調教だね。
最初の調教はまるっきり記憶にないんだけど、最近のはちゃんと覚えている。
うん。僕の調教の賜物だ。
ほんと、なんか、いろんなことに謝罪したい。
*
六月三日。
決戦の日だ。
ついに幼女が勇者に挑む日が来た。
土を盛り上げただけの舞台の下で両雄の入場を待つ。
入場と言っても、建物の中ではなく、吹きっさらしの土舞台があるだけだ。
さすがに、飛翼族を刺激するようなデカい建物を造るのは止めておいた。だって、後楽園ホールを造ろうとしてたんだもん。止めるでしょ。
なぜか話を聞きつけたギャラリーが、土舞台を囲んでいる。
東側のギャラリーが左右に割れる。
その間を、クラリッサの先導でゾフィーアちゃんが拍手で迎えられて舞台へ上がる。セコンド? まあ、クラリッサが鍛えていたようだし、セコンドで間違いではないか。
西側のギャラリーが割れる。
ギャラリーの間を、【風の勇者】八神和麻と並んで【土の勇者】土門堅太郎が現れる。
女生徒からのブーイングをそよ風のように流しながら、舞台へ上がる。
舞台中央に立つ審判のユリアーナを挟んで、右にゾフィーアちゃんが、左に土門君が立ち、セコンドと共にユリアーナのルール説明を聞いている。
ちなみに、僕はルールを知らない。どうせすぐ終わるし、知る必要はないかな、って。
セコンドが舞台から下りる。
デブと幼女が見詰め合う。
ゾフィーアちゃんの目に怯えは見えない。どんな鍛え方をしたんだろう?
ユリアーナの右手が上がる。
その手を振り下ろすと同時に、両者のプラーナが膨れ上がる。
先に魔法を発動させたのは土門君。
地面から伸びた大量の土槍が、ゾフィーアちゃんを襲う。
遅れて発動したゾフィーアちゃんの魔法は、シンプルにして効果的なもの。
土門君の股下から、彼女の腕くらいの太さの土杭が生えて、土門君の土門君にクリティカルヒットする。
土杭は土門君の土門君に恨みがあるのか、使用不能にする勢いで、土門君を数センチほど浮かせて止まった。
僕を含めたギャラリーの男性陣が、幻痛に呻き声を漏らす。
土門君は、杭の上で白眼を剥いて意識を失っていた。
グラリと揺れて、顔から土舞台に落ちる。
ゾフィーアちゃんを襲った土槍は、魔力を供給し続けるタイプだったようで、魔力供給が途絶えたことにより形を失い、ただの土に戻っていた。
「ん。ゾフィーアちゃんの勝ちー」
気の抜けるようなユリアーナの勝ち名乗りを聞き流す。
その側で、八神君が土門君に駆け寄り「衛生兵ー!」とコントを始める。意外なことに、乗っかる奴が数人いた。うちの学校って、ノリのいい奴が結構いるんだな。
あれ? 八神君といつも一緒にいる【雷の勇者】がいない。ざっと見渡しただけだけど、見える所にはいないようだ。
まあ、いつも一緒にいるように見えても、本当にいつも一緒にいるわけではないだろうから、気にする必要はないか。
視線を右に向けると、ゾフィーアちゃんが、フンスと拳を握って僕を見ていた。
なんだかよくわからないけど、とりあえず拍手しておいたら、満開の花のような笑顔が咲いた。
「兄さん。幼女を堕とすのは……」
拍手しただけじゃん。
「兄さんの手が早くなってて心配です」
「俺は常に受け身だよ」
自分から口説きにいくのは……あまりない、はず。あれ? 思い起こしてみたら、結構あるぞ。
「マルレーン姉さんにも、早速、手を出しちゃってますよね?」
ですね。
でもね、彼女の場合、僕が押し倒されて襲われそうになってたんだよ。生憎、僕にはマゾっ気がないので、性感強化で返り討ちにしたんだけどね。
「あ、あの、勇者様。見てくださいましたか?」
いつの間にかゾフィーアちゃんが目の前にいた。てか、気配出して。ビクってなったよ。
「う、うん。見てたよ。強くなったね」
ゾフィーアちゃんの場合、最初から強かったけど、魔法どころか魔術も一切使えなかった。
……たった二日で強くなりすぎじゃね?
「ひょっとして、成長チートの加減を間違えた?」
成長期の体に過度な負担をかけてしまうかもしれないので、成人前、十四歳未満の子供たちには弱めの成長チートを使っている。
でも、ゾフィーアちゃんの成長速度は、それを越えているような気がした。
「おそらく、【土の勇者】への嫌悪感が、ゾフィーアちゃんへの成長チートに流れていたのでは?」
僕の魔力制御はまだまだ下手くそだから、無意識に強弱が出てしまう。
「あれ? 同時期に成長チートを本格的に使うようになったマルレーンは、ここまで強くなってないよね?」
「マルレーン姉さんは、この二日間、午前中はダウンしてましたから」
あの露出狂メイド、全裸で天幕の外に出ようとしたので慌てて止めたよ。僕に露出癖はないのです。
秘めてこその秘め事だと思うのですよ。
で、止める際に、強行手段として、ちょっとばかし強めの性感強化を使ってしまい、二日連続で虚ろな目のまま馬車に運ばれていた。復帰に半日を要したので、強化期間は実質一日だ。
でで、現在、僕の斜め後ろでおすましメイドをしている彼女と話し合った結果、露出プレイをしたくない僕の妥協案として、ノーパンノーブラは許可。局部の露出は不許可となった。
これでもかなりの妥協だ。だって、ほぼ裸のエロメイド服をミアに発注してやがったんだもん。
発注は取り消さなかったけどね。
完成が楽しみだけどね!
……緊縛とノーパンノーブラだと、どっちが健全なんだろう?
「緊縛エロフを、脱がして、縛って、ヒッポグリフに吊るして、お空の散歩をするのは良くて、地面の上での野外露出はダメなんですか?」
「他の男に見せたくないんだよ」
「お空の散歩は、コンラートさんが偶然見ちゃって、ビルギットさんにボコられてましたよ」
え? マジで? なんかすいません。
「ハーロルトも目撃しちゃって、御影姉さんに“忘れなさい”って笑顔で言われて、泣いてましたよ」
うん。ごめんね。
「勇者の物語が好きなヴィンツェンツには、“物語のような、まともな勇者はいないのでしょうか?”って相談されました」
ほんとごめん。夢を壊してしまい、申し訳なく思っています。
「あと、駄馬部隊の野外スパンキングも、結構目撃されてます」
ごめんなさい。以後、気をつけます。
あと、ゾフィーアちゃんの耳を塞いで。すっごい興味津々だよ。
「あー、ゾフィーアちゃん? もう、アレは怖くない?」
わざとらしいけど、なんでもいいから話題を変えたい。
「はい。次は子作りが怖いので教えて下さい」
まんじゅう怖いみたいに言うなよ。
「こう言えばいいって、お姉様が言ってました」
軍師の家系が無駄な献策をしやがった。
てへ、じゃねぇよ。明日も昼まで足腰立たなくしてやる。
マルレーンさんから聞き出した話に、天を仰ぐ。
ゾフィーアちゃんは、膝裏をペロペロされた犠牲者で、仰向けになったあいつの顔を踏まされスカートの中をガン見された犠牲者だった。
マルレーンさんも確認したわけではないけど、ゾフィーアちゃんの様子からすると、それ以上のこともされていたようだ。
……うん。そりゃあ、吐くわ。
というか、リーゼからのメッセージに書いてあったわ。迂闊。
「これはクラリッサに丸投げする案件?」
「幼女の力を見せる、と?」
いまだに、幼女の力がなんなのかわからない。
「幼女帝の玉座に成り下がったあいつを見るだけで、トラウマを克服できると思うんだけど」
「いきなりアレを見せるのは……どうかしら?」
マルレーンさんは、僕とユリアーナの会話を大人しく聞いてたけど、“幼女帝の玉座”に首を傾げている。
「けど、うちで雇うってことは、遅かれ早かれアレにエンカウントするよ? なら、最初にアレを見せて、ゾフィーアちゃんがどう反応するか見た上で、俺たちが対処すればいんじゃないかな?」
「んー……まあ、それが一番なのかなぁ」
「一応、見せる前に御影さんに相談しておこう」
「んー、そうね」
「なんか、乗り気じゃないね?」
「私としてはね、【土の勇者】をニホンに送り還したいの」
本人はこちらに残るつもりみたいだよ。
まあ、僕もあれは送り還したいけどね。
「クーリングオフ期間、過ぎてるかしら」
「日本政府なら永久保証だよ。きっと」
そうであってほしい。
「でも、あのガチロリ野郎をニホン政府が受け入れてくれるの?」
「大丈夫だよ。受け入れ先が刑務所かもしれないけど」
受け入れてくれなくても、放り投げるつもりになってるけどね。
「俺もアレは不快に思ってるけど、そこまで毛嫌いする理由ってなに?」
「この世界の管理権限を私たちが奪ったじゃない?」
奪ったねぇ。
「つまり、この世界は私たちの世界。私たちの箱庭なのよ」
「うん。まあ、そうなるね」
マルレーンさんには「うちの奥さん【創造神】になったんだよ」と、こっそり教えてあげたら、「さすが、勇者様」って返された。思考停止?
「だから、ぶっちゃけさぁ、アレを私たちの世界に残したくない」
神からの拒絶。
それはそれで救いがない。
「ともかく、今日はこの村の近くで夜営しよう。村長との交渉はイルムヒルデに。設営は小規模に。あとは……周辺の魔物を人馬部隊に間引いてもらおうか」
最後のは、村との交渉で役立つ。
村によっては、傭兵が村に近づくのを嫌がる村もある。そういった村でも、周囲の魔物を狩って、その素材や肉を村に納めれば、大体が夜営を許可してくれる。
まあ、利のない傭兵団は、ただの暴力組織だもんな。
「マルレーンさんとゾフィーアちゃんの紹介は、夕飯の時でいいか」
まだ昼前だけど、やることは多いから、みんなの手が空くのがそれくらいかな?
それまでに個別に自己紹介するだろうけど、一応、場を作ってあげよう。
ゾフィーアちゃんを胸に抱いたリーゼの下へ戻る。
「なんか、母性が凄いな」
胸の大きさもあってか、ゾフィーアちゃんが幸せそうだ。
「リーゼもマゴイチの子を身籠ったしね」
そういう重要な話をシレっとするのやめてよ。
あと、「わたくしも頑張ります」じゃねぇよ。
*
村の許可を取って夜営地を設営。
案の定、【土の勇者】とエンカウントしたゾフィーアちゃんが吐いた。
というか、いつもより小規模な城壁を造り終えたクラリッサ陛下が、その玉座を引き摺ってきたからだ。
どうやら、陛下はユリアーナから話を聞いたようだ。
魔法によって数秒で出来上がる小規模な拠点を前に、呆然としていたマルレーンさんとゾフィーアちゃんの前に、一仕事終えた幼女が、巨漢の高校生の襟首を掴んで、文字通り引き摺ってきた。
引き摺られたソレを認識した瞬間、脊髄反射のように吐いた。さっき吐いたばかりなので、胃液しか出ていない。けど、隣で吐かれたら、臭いはダイレクトに届く。
ここで貰うわけにはいかないので、手早く仮面を被り、消臭機能をオンにする。
あって良かった消臭機能。
この機能、縁が先日追加したんだけど、話を聞いた時は「これ、要る?」とか「もしかして、僕が臭いの?」って思ったけど、さすが縁だ。
こんな時に必要なんだね。
仮面の男が幼女の背中を撫でる事案は、反対側からマルレーンさんも撫でてるからマイルドになってるはず。
しゃがんでる僕らの前にクラリッサが来る。
客観的に見て、幼女帝に跪いてるように見える。
「お兄様。コレにイジメられていたのは、その子ですね?」
大人のレディとして扱ってほしいと言う割りに、“お兄様”呼びはやめようとしないクラリッサが、ソレを放す。
「ブヒッ」っと落ちたソレがゾフィーアちゃんに気づきながらも、迷うことなくクラリッサの玉座になるべく四つん這いになった。
うん。やっぱ、クーリングオフしよう。
陛下が白い布を出して玉座に被せると、ピョンと玉座にお座りあそばされる。布越しに「ん、ふぅ」と嬉しそうな吐息が聞こえた。誰得よ。
「ゾフィーアさんでしたか? 貴女には、お兄様の魔法で強くなっていただきます。この椅子に勝てる程度に」
「現状でも、近接戦なら勝てそうだけど?」
「お兄様は、コレと近接戦をしろと?」
ごめんなさい。
トラウマ克服のためとはいえ、女の子に強要することではない。
「わかった。ほんじゃあ……神聖樹に着くまであと三日くらいか。二日後に二人には戦ってもらおうかね」
神聖樹の側でやると、飛翼族を刺激してしまうかもしれないから、一日分の距離を取っておこう。
「ゾフィーアちゃん。君に負担がかかるけど、俺もできるだけ支援するから、アレを踏み越えてほしい」
僕には支援しかできないけど、結果としてアレのこの世界への未練を絶つことができるのなら、可能な限り支援をする。できれば自分の意思で帰ってほしいからね。
……これで未練を絶てるのかな? むしろ、幼女からの被虐趣味が加速しそうだ。
もういっそ、命を絶つ方向へ持っていった方がいいのではないか?
命のやり取りに慣れてきたのか、他人の命を諦めるのも慣れてしまったな。気をつけよう。いくら玉座が板についた変態でも、生きる権利があるんだ。それを安易に奪ってはいけない。
「うほぉ! 幼女様に踏んでいただけるのですね?」
よし、殺そう。
「お兄様。『偽パイ』を仕舞ってください」
おっと、いかんいかん。脊髄反射で殺そうとしてしまった。この物騒な思考も改めないといけないな。
それにしても……。
「調教の方向を間違えたんじゃないか?」
「はて、お兄様の真似ですよ?」
クラリッサの視線の先には人馬部隊が見える。
「あいつらは、調教前からあんな感じだぞ」
「お姉様方が仰るには、お兄様の調教の賜物だそうです」
違う。僕は無実だ。
「それに、百歩譲って人馬部隊は元々だったとして、ラーエルお姉様はどう説明します?」
ああ、うん。そうね。ラーエルに関しては、100%僕の調教だね。
最初の調教はまるっきり記憶にないんだけど、最近のはちゃんと覚えている。
うん。僕の調教の賜物だ。
ほんと、なんか、いろんなことに謝罪したい。
*
六月三日。
決戦の日だ。
ついに幼女が勇者に挑む日が来た。
土を盛り上げただけの舞台の下で両雄の入場を待つ。
入場と言っても、建物の中ではなく、吹きっさらしの土舞台があるだけだ。
さすがに、飛翼族を刺激するようなデカい建物を造るのは止めておいた。だって、後楽園ホールを造ろうとしてたんだもん。止めるでしょ。
なぜか話を聞きつけたギャラリーが、土舞台を囲んでいる。
東側のギャラリーが左右に割れる。
その間を、クラリッサの先導でゾフィーアちゃんが拍手で迎えられて舞台へ上がる。セコンド? まあ、クラリッサが鍛えていたようだし、セコンドで間違いではないか。
西側のギャラリーが割れる。
ギャラリーの間を、【風の勇者】八神和麻と並んで【土の勇者】土門堅太郎が現れる。
女生徒からのブーイングをそよ風のように流しながら、舞台へ上がる。
舞台中央に立つ審判のユリアーナを挟んで、右にゾフィーアちゃんが、左に土門君が立ち、セコンドと共にユリアーナのルール説明を聞いている。
ちなみに、僕はルールを知らない。どうせすぐ終わるし、知る必要はないかな、って。
セコンドが舞台から下りる。
デブと幼女が見詰め合う。
ゾフィーアちゃんの目に怯えは見えない。どんな鍛え方をしたんだろう?
ユリアーナの右手が上がる。
その手を振り下ろすと同時に、両者のプラーナが膨れ上がる。
先に魔法を発動させたのは土門君。
地面から伸びた大量の土槍が、ゾフィーアちゃんを襲う。
遅れて発動したゾフィーアちゃんの魔法は、シンプルにして効果的なもの。
土門君の股下から、彼女の腕くらいの太さの土杭が生えて、土門君の土門君にクリティカルヒットする。
土杭は土門君の土門君に恨みがあるのか、使用不能にする勢いで、土門君を数センチほど浮かせて止まった。
僕を含めたギャラリーの男性陣が、幻痛に呻き声を漏らす。
土門君は、杭の上で白眼を剥いて意識を失っていた。
グラリと揺れて、顔から土舞台に落ちる。
ゾフィーアちゃんを襲った土槍は、魔力を供給し続けるタイプだったようで、魔力供給が途絶えたことにより形を失い、ただの土に戻っていた。
「ん。ゾフィーアちゃんの勝ちー」
気の抜けるようなユリアーナの勝ち名乗りを聞き流す。
その側で、八神君が土門君に駆け寄り「衛生兵ー!」とコントを始める。意外なことに、乗っかる奴が数人いた。うちの学校って、ノリのいい奴が結構いるんだな。
あれ? 八神君といつも一緒にいる【雷の勇者】がいない。ざっと見渡しただけだけど、見える所にはいないようだ。
まあ、いつも一緒にいるように見えても、本当にいつも一緒にいるわけではないだろうから、気にする必要はないか。
視線を右に向けると、ゾフィーアちゃんが、フンスと拳を握って僕を見ていた。
なんだかよくわからないけど、とりあえず拍手しておいたら、満開の花のような笑顔が咲いた。
「兄さん。幼女を堕とすのは……」
拍手しただけじゃん。
「兄さんの手が早くなってて心配です」
「俺は常に受け身だよ」
自分から口説きにいくのは……あまりない、はず。あれ? 思い起こしてみたら、結構あるぞ。
「マルレーン姉さんにも、早速、手を出しちゃってますよね?」
ですね。
でもね、彼女の場合、僕が押し倒されて襲われそうになってたんだよ。生憎、僕にはマゾっ気がないので、性感強化で返り討ちにしたんだけどね。
「あ、あの、勇者様。見てくださいましたか?」
いつの間にかゾフィーアちゃんが目の前にいた。てか、気配出して。ビクってなったよ。
「う、うん。見てたよ。強くなったね」
ゾフィーアちゃんの場合、最初から強かったけど、魔法どころか魔術も一切使えなかった。
……たった二日で強くなりすぎじゃね?
「ひょっとして、成長チートの加減を間違えた?」
成長期の体に過度な負担をかけてしまうかもしれないので、成人前、十四歳未満の子供たちには弱めの成長チートを使っている。
でも、ゾフィーアちゃんの成長速度は、それを越えているような気がした。
「おそらく、【土の勇者】への嫌悪感が、ゾフィーアちゃんへの成長チートに流れていたのでは?」
僕の魔力制御はまだまだ下手くそだから、無意識に強弱が出てしまう。
「あれ? 同時期に成長チートを本格的に使うようになったマルレーンは、ここまで強くなってないよね?」
「マルレーン姉さんは、この二日間、午前中はダウンしてましたから」
あの露出狂メイド、全裸で天幕の外に出ようとしたので慌てて止めたよ。僕に露出癖はないのです。
秘めてこその秘め事だと思うのですよ。
で、止める際に、強行手段として、ちょっとばかし強めの性感強化を使ってしまい、二日連続で虚ろな目のまま馬車に運ばれていた。復帰に半日を要したので、強化期間は実質一日だ。
でで、現在、僕の斜め後ろでおすましメイドをしている彼女と話し合った結果、露出プレイをしたくない僕の妥協案として、ノーパンノーブラは許可。局部の露出は不許可となった。
これでもかなりの妥協だ。だって、ほぼ裸のエロメイド服をミアに発注してやがったんだもん。
発注は取り消さなかったけどね。
完成が楽しみだけどね!
……緊縛とノーパンノーブラだと、どっちが健全なんだろう?
「緊縛エロフを、脱がして、縛って、ヒッポグリフに吊るして、お空の散歩をするのは良くて、地面の上での野外露出はダメなんですか?」
「他の男に見せたくないんだよ」
「お空の散歩は、コンラートさんが偶然見ちゃって、ビルギットさんにボコられてましたよ」
え? マジで? なんかすいません。
「ハーロルトも目撃しちゃって、御影姉さんに“忘れなさい”って笑顔で言われて、泣いてましたよ」
うん。ごめんね。
「勇者の物語が好きなヴィンツェンツには、“物語のような、まともな勇者はいないのでしょうか?”って相談されました」
ほんとごめん。夢を壊してしまい、申し訳なく思っています。
「あと、駄馬部隊の野外スパンキングも、結構目撃されてます」
ごめんなさい。以後、気をつけます。
あと、ゾフィーアちゃんの耳を塞いで。すっごい興味津々だよ。
「あー、ゾフィーアちゃん? もう、アレは怖くない?」
わざとらしいけど、なんでもいいから話題を変えたい。
「はい。次は子作りが怖いので教えて下さい」
まんじゅう怖いみたいに言うなよ。
「こう言えばいいって、お姉様が言ってました」
軍師の家系が無駄な献策をしやがった。
てへ、じゃねぇよ。明日も昼まで足腰立たなくしてやる。
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ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
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ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
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神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
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グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
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