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4章
6話 大きい建造物を見上げると口が半開きになる
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太陽の位置から、時刻は昼過ぎくらい。
帰還報告に建物へ入ると、オットマー君が受け付けになにかを訴えていた。
その背中に近づいてみる。
「だから! 蛙顔の野郎が、俺たちの荷物を持ち逃げしたから、全滅したんだよ!」
ほう。僕が?
オットマー君の相手をしている兵士が、チラリと僕を見る。
仮面を外して目礼すると、状況を察してくれたのか、オットマー君に後ろを向くように彼の後ろをチョイチョイと指差す。
オットマー君がゆっくり振り向く。
正面には僕。その隣には仮面を被った氷雨さん。僕の後ろに猫人族の三兄妹がいる。
オットマー君の視線が一人一人確認する。
「お、お前ら、その、ぶ、無事で良かった」
キョドりすぎ。
「怪我をしたのはオットマー君だけだよ」
「そ、そうか。それは良かった」
オットマー君の方は、手当てを受けたのか、折れた右腕を吊るしている。
「それで? 誰が荷物を持ち逃げしたの?」
背負っている荷物を下ろす。
その荷物を「どうぞ」とオットマー君に差し出したら、意味がわからなかったのか首を傾げた。
「ここに戻ってくるまでに話したんだけど、インゴたちは、うちの傭兵団に入るってさ」
「な、じゃあ、パーティはどうすんだよ!」
オットマー君は僕を押し退け、後ろに並ぶインゴたちに怒鳴る。
「リーダーが逃げ出しちまったら、解散するしかねぇだろ」
インゴは呆れ顔で答える。
そりゃそうだよな。
「あ、あれは……あれは、お前たちが悪い。お前らがちゃんと援護していればオーク程度にやられたりしない。そうだ。そもそも、アンゲーリカが一人で突っ込んだのがいけないんだよ。あれで隊列が崩れちまったんだから」
一部納得できる点もあるけど、彼の言葉をキュっと要約すると「俺は悪くない」だ。
「まあ、アンが飛び出したのはまずかったけどよ、お前なら、ああなるのは予想できただろ?」
「親父さんはオークに食われたんだっけ? だからって、飛び出していいわけじゃねぇだろ」
オットマー君の言葉に、ウーテちゃんの顔色が悪くなる。
ひょっとして、三兄妹の父親は、三人の前でオークに食われたのか?
「ともかくさ、悪いのは俺じゃねぇんだから、解散するこたぁねぇよ。クビにするんなら、なにもしてねぇ蛙だろ」
「あんたが逃げた後、この二人がオークを倒してくれたんだよ」
僕を指差すオットマー君の手を、アンゲーリカさんがペチンと叩き落とす。
「あー、とりあえず、帰還報告が先じゃない?」
受け付け前で行列ができてしまったので、提案してみたら、オットマー君だけ反抗した。
面倒だけど、周りに迷惑をかけていることを丁寧に説明してあげると、大人しく帰還報告を済ませて外に移動する。
「三人とも荷物は宿に預けてるの?」
預けてあるなら、宿を引き払いがてら取りに行かないといけない。
「いや。王都に着いたらすぐにギルドで登録して、そのままダンジョンに潜ったから、全員の荷物はそれに纏めてある」
インゴが指す"それ"は、僕の背中の大きな荷物。
「なんか貴重品は入ってる? 思い出の品とか」
「いや、服とか保存食とかだな」
「ほんじゃあ、これはオットマー君への手切れ金代わりにあげちゃっていい?」
「え? けど、着替えとか……」
「うちに来れば、今着てるのよりいい服が支給されるよ」
「ヒサメさんが着てるヤツみたいな?」
服に食いつくなんて、アンゲーリカさんも女の子なんだね。
服といえば、傭兵団の正式装備になってる戦闘衣で少し問題が浮上している。
現在、ユリアーナたちは、全部隊が同じ戦闘衣を着ている。青を基調にした格好いいヤツだ。
これをこのまま全部隊共通の装備にするか、それとも、部隊の運用に合わせて変えるか、はたまた、部隊ごとにカラーリングだけ変えるかで意見が割れている。
問題になった理由はよくわからない。
マーヤが「御主人様が率いる傭兵団なら、全員メイド服にするべき」とメイド好きの僕が喜ぶ提案をしたのが始まりで、「なんでやねん」で終わる話だったのが、「そういえば、なんで全部隊が同じ戦闘衣なの?」と由香が首を傾げて……それがどうして三つの意見に別れたんだっけ?
そもそも、全部隊が同じ戦闘衣ってわけでもないんだよ。
マーヤとその同類はメイド服だし。
縁は高校の制服だし。
シュェは和服だし。
……全部隊を同じ戦闘衣にする必要はないよな。けど、個人単位で好きな戦闘衣にしてしまうと傭兵団として統一感がなさすぎる。
なら、部隊ごとで好きな服にすりゃいんじゃね?
そもそも、統一感がない方が傭兵団っぽいか?
あれ? ベンケン王国で他の傭兵団に挨拶したけど、みんなバラバラの装備だったな。
傭兵団って、そんなもんなのかな?
そうなると、正規軍みたいに揃いの装備があるうちの方がおかしいのか。
「待て。冒険者やってるような貧乏貴族だぞ。そんな高そうな服をただでくれるわけねぇだろ。お前ら騙されてんだよ」
「いや。貴族じゃないって言ったはずだぞ」
「ほら見ろ! こいつはただの詐欺師だ!」
オットマー君は僕を悪者にしたいらしい。
なんか面倒になってきた。
丁度、ダンジョンから正妻様がお帰りあそばされたので、丸投げしちゃう?
「あら、マゴイチも潜ってたの?」
気配が多いとは思ったけど、団員以外にも、ユリアーナの後ろには二十人程の男女がいた。
「えっと……ユリアーナ? どういう状況?」
「それは私が聞きたいのだけど? ヒサメとデートしてたんじゃないの?」
「こっちは成り行きで潜ることになった。ああ、そうだ。この三人を傭兵団で雇いたいんだけど」
僕の後ろにいる三兄妹を紹介して、三人にユリアーナを紹介する。
三人はユリアーナの美しさに終始緊張していたが、僕の正妻と知って驚いていた。
というか、関係ないはずのオットマー君が掴みかかってきた。意味がわからん。
やめなよ。狂信者の殺意が漏れてるの、気づいてないの?
ユリアーナがマーヤの足を踏んでなかったら、君、死んでるよ。
「それで? そっちは?」
オットマー君を無視して、ユリアーナに聞く。視線はユリアーナの後ろの人たち。
「ああ、なんか絡まれた。気にしないで」
「そう言われてもね。そっちの女性は、ギルド前で絡んできた人たちだよね?」
「ええ。あの後、ヒサメに凍らされたんだって? 懲りずに私たちを追いかけてきたんだよ」
ダンジョンでは会わなかったけど、どこかで追い越されたんだろう。
ユリアーナたちは、様子見で地下五階から十階を探索すると言っていた。そこへ、僕らを追い越し、短時間でユリアーナたちに合流したみたい。それができるだけの実力はあるようだ。
「ほんじゃあ、そっちの野郎共は?」
「ナンパされた」
「ダンジョンで?」
「出会いを求める系?」
間違ってるよ。
「んー、どっちも放置でいいか?」
「うん。私たちも面倒になったから放っておくことにしたんだ」
「そか。なら、こっちの三人の面接を頼むよ」
「ん? 合格だよ。けど、そっちの子は不合格」
シレっと三兄妹の隣に並んだオットマー君は不合格。
「な、なんでだよ!」
「ん? 勘だよ。君は、危なくなったら仲間を見捨てて逃げそうだからね」
まさしく。
というか、見てたの?
「その顔からすると、図星かしら?」
首を傾げるユリアーナに、僕はノーコメントで流そうとしたんだけど、三兄妹がコクコク頷いているので、僕も頷く。
「に、逃げてねぇ! 俺は救援を呼びに行っただけだ!」
「リーダーが?」
パーティが危機の時に救援を呼びに行くとしたら、一番戦闘力がないヤツが適任だろう。
今回だと荷物持ちの僕。
「まあ、オットマー君とはここでお別れするつもりだったから。あ、これ、手切れ金代わりね」
そう言ってオットマー君に荷物を押し付ける。
「じゃあ、帰ろうか。そっちの成果は帰ってからでいいだろ?」
「ええ。そっちの話も帰ってから聞かせてね」
オットマー君は文句を言っているが、無視して拠点へ引き上げる。
しかし、呼ばれてもいないのに、なぜか全員ついてきた。
*
要塞を前にしたら、人は、口を半開きにして見上げるものらしい。
重々しい音をさせて門を開く。
四稜郭を前に立ち止まった三兄妹を促し、ユリアーナたちが先に行く。
ユリアーナの後ろに、疲れ顔のフレキたちが続く。
「あんた、いったい……」
門へ向かって歩く僕の背中に、インゴが立ち止まって呟く。
あ、そういえば。
「名乗りはしたけど、ちゃんとした自己紹介がまだだったね」
振り返ると、三兄妹だけじゃなく、その後ろの、ユリアーナが連れてきた冒険者たちも、僕に注目している。
てか、彼らはどうすんの?
まあ、いいや。
「俺は、この傭兵団、『他力本願』の団長で、【支援の勇者】のマゴイチ・ヒラガだ」
情報量が多すぎたのだろうか。
誰も反応しない。
「ぶわっはっ! し、【支援の勇者】って、【支援魔術士】だろ? 見栄張んなよ!」
最初に反応したのはオットマー君。ゲラゲラ笑いながら僕の肩をポンポンする。
なんかイラッとした。
「まあ、この反応は想定済みだけどね。どうする? 傭兵になるのやめとく?」
戸惑う三兄妹に聞くと、オットマー君が「やめとけやめとけ」と三人に向けて言う。
長男のインゴが、妹二人の意思を確認するように視線を向ける。
「おにい。私は傭兵になる」
「ん。私も」
インゴは二人の目を見て頷き、僕に視線を向けた。
「俺たち三人、今日から世話になります。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、妹二人も慌てて兄に倣う。
「はぁ? なに言ってんだよ! お前らは俺と冒険者を続けるんだよ!」
「はぁ……オットマー。その話はもう終わっただろ」
インゴが心底面倒臭そうに答える。
「冒険者のお仲間が欲しいのなら、そっちの連中に頼めばいいだろ」
僕は顎で三兄妹の後ろの連中を指す。
ところで、オットマー君はなんで僕と肩を組んでるの?
ポンポンしてからずっとだけど、門の向こうで狂信者がイラッとしてるんだよ。
ユリアーナが抑えてるから大丈夫だろうけど、あ、振り払ってこっちに来る。
早く話を打ち切らないと、死体が一つ出来上がっちゃうよ。
「そんじゃあ、オットマー君。元気で」
まだなにか言おうとしているオットマー君を無視して、僕の肩に置いた彼の手をソッと払う。
振り返ると、手遅れだった。
狂信者はまだ門の辺りだけど、ストーカー一号と二号はすぐ近くにいた。
おかしいな。二号は、ユリアーナと一緒に門を潜るのを確認したんだけど……。
「うおっ! ビックリした。って、すげぇ可愛いじゃん。君、名前は?」
止める間もなく、仮面を被っていない縁をナンパし始めた。
オットマー君の暴挙に乗っかるように、三兄妹の後ろにいた男たちも、ワラワラと集まり縁と氷雨さんに声をかける。
これ、僕では収拾がつかない。
こうなる前に、なんとかしたかったんだけどなぁ。
悪いことは重なるもので、男たちが僕を押し退ける。
その瞬間、男たちの声が消え、彼らがその場に倒れ伏す。
誰がなにをしたのかはわからない。
立っているのは、僕とストーカー一号と二号と狂信者と狂信者の感染者二名の、計六名。
全員意識があるから〈威圧〉ではないと思う。いや、〈威圧〉も混ざってるっぽい?
というか、【氷の勇者】と【闇の勇者】が勇者なのに強すぎる。
というかというか、インゴたちも巻き込まれてる。
「あー、俺は怒ってないから、落ち着こうか」
「いえ。孫一様がお許しになっても、彼らの無礼は目に余りますので」
答えたのは感染者の片割れ。生徒会書記で僕の側室の姫宮瞳子だ。
「御主人様。これらには仕置きが必要です」
感染源が仮面を外して男たちを見下ろす。
もう充分お仕置きされてるよ。
助けを求めて門から動いていないユリアーナを見ると、〈念話〉で「無理」と言われた。
今日一日、僕と別行動をさせられ、やっと僕に会えるってタイミングでこの状況に出くわしたもんだから、マーヤの機嫌はかつてないほど悪いのだそうだ。
続けて「四稜郭が半壊してもいいのなら無理矢理止める」と言ったユリアーナを慌てて止める。
藁だってことはわかっていても、助けを求めて三兄妹の後ろから動かない女性たちを振り返る。
あれ? 騒ぎに加わろうとしている人族の女性たちを、森人族の女性たちが怯えながら止めている。
あ、そうか。魔術の素養がある森人族から見たら、放出しているマーヤたちのプラーナを正確に感知できているのか。
そっかそっか。ギルド前では、プラーナが外に漏れないように、完全に制御していたから気づかなかったんだろうけど、今になって彼女たちの凄さがわかったんだね。
「ば、化け物……」
あ、違った。凄さがわかったんじゃなく、化け物に見えるのか。
帰還報告に建物へ入ると、オットマー君が受け付けになにかを訴えていた。
その背中に近づいてみる。
「だから! 蛙顔の野郎が、俺たちの荷物を持ち逃げしたから、全滅したんだよ!」
ほう。僕が?
オットマー君の相手をしている兵士が、チラリと僕を見る。
仮面を外して目礼すると、状況を察してくれたのか、オットマー君に後ろを向くように彼の後ろをチョイチョイと指差す。
オットマー君がゆっくり振り向く。
正面には僕。その隣には仮面を被った氷雨さん。僕の後ろに猫人族の三兄妹がいる。
オットマー君の視線が一人一人確認する。
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キョドりすぎ。
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「そ、そうか。それは良かった」
オットマー君の方は、手当てを受けたのか、折れた右腕を吊るしている。
「それで? 誰が荷物を持ち逃げしたの?」
背負っている荷物を下ろす。
その荷物を「どうぞ」とオットマー君に差し出したら、意味がわからなかったのか首を傾げた。
「ここに戻ってくるまでに話したんだけど、インゴたちは、うちの傭兵団に入るってさ」
「な、じゃあ、パーティはどうすんだよ!」
オットマー君は僕を押し退け、後ろに並ぶインゴたちに怒鳴る。
「リーダーが逃げ出しちまったら、解散するしかねぇだろ」
インゴは呆れ顔で答える。
そりゃそうだよな。
「あ、あれは……あれは、お前たちが悪い。お前らがちゃんと援護していればオーク程度にやられたりしない。そうだ。そもそも、アンゲーリカが一人で突っ込んだのがいけないんだよ。あれで隊列が崩れちまったんだから」
一部納得できる点もあるけど、彼の言葉をキュっと要約すると「俺は悪くない」だ。
「まあ、アンが飛び出したのはまずかったけどよ、お前なら、ああなるのは予想できただろ?」
「親父さんはオークに食われたんだっけ? だからって、飛び出していいわけじゃねぇだろ」
オットマー君の言葉に、ウーテちゃんの顔色が悪くなる。
ひょっとして、三兄妹の父親は、三人の前でオークに食われたのか?
「ともかくさ、悪いのは俺じゃねぇんだから、解散するこたぁねぇよ。クビにするんなら、なにもしてねぇ蛙だろ」
「あんたが逃げた後、この二人がオークを倒してくれたんだよ」
僕を指差すオットマー君の手を、アンゲーリカさんがペチンと叩き落とす。
「あー、とりあえず、帰還報告が先じゃない?」
受け付け前で行列ができてしまったので、提案してみたら、オットマー君だけ反抗した。
面倒だけど、周りに迷惑をかけていることを丁寧に説明してあげると、大人しく帰還報告を済ませて外に移動する。
「三人とも荷物は宿に預けてるの?」
預けてあるなら、宿を引き払いがてら取りに行かないといけない。
「いや。王都に着いたらすぐにギルドで登録して、そのままダンジョンに潜ったから、全員の荷物はそれに纏めてある」
インゴが指す"それ"は、僕の背中の大きな荷物。
「なんか貴重品は入ってる? 思い出の品とか」
「いや、服とか保存食とかだな」
「ほんじゃあ、これはオットマー君への手切れ金代わりにあげちゃっていい?」
「え? けど、着替えとか……」
「うちに来れば、今着てるのよりいい服が支給されるよ」
「ヒサメさんが着てるヤツみたいな?」
服に食いつくなんて、アンゲーリカさんも女の子なんだね。
服といえば、傭兵団の正式装備になってる戦闘衣で少し問題が浮上している。
現在、ユリアーナたちは、全部隊が同じ戦闘衣を着ている。青を基調にした格好いいヤツだ。
これをこのまま全部隊共通の装備にするか、それとも、部隊の運用に合わせて変えるか、はたまた、部隊ごとにカラーリングだけ変えるかで意見が割れている。
問題になった理由はよくわからない。
マーヤが「御主人様が率いる傭兵団なら、全員メイド服にするべき」とメイド好きの僕が喜ぶ提案をしたのが始まりで、「なんでやねん」で終わる話だったのが、「そういえば、なんで全部隊が同じ戦闘衣なの?」と由香が首を傾げて……それがどうして三つの意見に別れたんだっけ?
そもそも、全部隊が同じ戦闘衣ってわけでもないんだよ。
マーヤとその同類はメイド服だし。
縁は高校の制服だし。
シュェは和服だし。
……全部隊を同じ戦闘衣にする必要はないよな。けど、個人単位で好きな戦闘衣にしてしまうと傭兵団として統一感がなさすぎる。
なら、部隊ごとで好きな服にすりゃいんじゃね?
そもそも、統一感がない方が傭兵団っぽいか?
あれ? ベンケン王国で他の傭兵団に挨拶したけど、みんなバラバラの装備だったな。
傭兵団って、そんなもんなのかな?
そうなると、正規軍みたいに揃いの装備があるうちの方がおかしいのか。
「待て。冒険者やってるような貧乏貴族だぞ。そんな高そうな服をただでくれるわけねぇだろ。お前ら騙されてんだよ」
「いや。貴族じゃないって言ったはずだぞ」
「ほら見ろ! こいつはただの詐欺師だ!」
オットマー君は僕を悪者にしたいらしい。
なんか面倒になってきた。
丁度、ダンジョンから正妻様がお帰りあそばされたので、丸投げしちゃう?
「あら、マゴイチも潜ってたの?」
気配が多いとは思ったけど、団員以外にも、ユリアーナの後ろには二十人程の男女がいた。
「えっと……ユリアーナ? どういう状況?」
「それは私が聞きたいのだけど? ヒサメとデートしてたんじゃないの?」
「こっちは成り行きで潜ることになった。ああ、そうだ。この三人を傭兵団で雇いたいんだけど」
僕の後ろにいる三兄妹を紹介して、三人にユリアーナを紹介する。
三人はユリアーナの美しさに終始緊張していたが、僕の正妻と知って驚いていた。
というか、関係ないはずのオットマー君が掴みかかってきた。意味がわからん。
やめなよ。狂信者の殺意が漏れてるの、気づいてないの?
ユリアーナがマーヤの足を踏んでなかったら、君、死んでるよ。
「それで? そっちは?」
オットマー君を無視して、ユリアーナに聞く。視線はユリアーナの後ろの人たち。
「ああ、なんか絡まれた。気にしないで」
「そう言われてもね。そっちの女性は、ギルド前で絡んできた人たちだよね?」
「ええ。あの後、ヒサメに凍らされたんだって? 懲りずに私たちを追いかけてきたんだよ」
ダンジョンでは会わなかったけど、どこかで追い越されたんだろう。
ユリアーナたちは、様子見で地下五階から十階を探索すると言っていた。そこへ、僕らを追い越し、短時間でユリアーナたちに合流したみたい。それができるだけの実力はあるようだ。
「ほんじゃあ、そっちの野郎共は?」
「ナンパされた」
「ダンジョンで?」
「出会いを求める系?」
間違ってるよ。
「んー、どっちも放置でいいか?」
「うん。私たちも面倒になったから放っておくことにしたんだ」
「そか。なら、こっちの三人の面接を頼むよ」
「ん? 合格だよ。けど、そっちの子は不合格」
シレっと三兄妹の隣に並んだオットマー君は不合格。
「な、なんでだよ!」
「ん? 勘だよ。君は、危なくなったら仲間を見捨てて逃げそうだからね」
まさしく。
というか、見てたの?
「その顔からすると、図星かしら?」
首を傾げるユリアーナに、僕はノーコメントで流そうとしたんだけど、三兄妹がコクコク頷いているので、僕も頷く。
「に、逃げてねぇ! 俺は救援を呼びに行っただけだ!」
「リーダーが?」
パーティが危機の時に救援を呼びに行くとしたら、一番戦闘力がないヤツが適任だろう。
今回だと荷物持ちの僕。
「まあ、オットマー君とはここでお別れするつもりだったから。あ、これ、手切れ金代わりね」
そう言ってオットマー君に荷物を押し付ける。
「じゃあ、帰ろうか。そっちの成果は帰ってからでいいだろ?」
「ええ。そっちの話も帰ってから聞かせてね」
オットマー君は文句を言っているが、無視して拠点へ引き上げる。
しかし、呼ばれてもいないのに、なぜか全員ついてきた。
*
要塞を前にしたら、人は、口を半開きにして見上げるものらしい。
重々しい音をさせて門を開く。
四稜郭を前に立ち止まった三兄妹を促し、ユリアーナたちが先に行く。
ユリアーナの後ろに、疲れ顔のフレキたちが続く。
「あんた、いったい……」
門へ向かって歩く僕の背中に、インゴが立ち止まって呟く。
あ、そういえば。
「名乗りはしたけど、ちゃんとした自己紹介がまだだったね」
振り返ると、三兄妹だけじゃなく、その後ろの、ユリアーナが連れてきた冒険者たちも、僕に注目している。
てか、彼らはどうすんの?
まあ、いいや。
「俺は、この傭兵団、『他力本願』の団長で、【支援の勇者】のマゴイチ・ヒラガだ」
情報量が多すぎたのだろうか。
誰も反応しない。
「ぶわっはっ! し、【支援の勇者】って、【支援魔術士】だろ? 見栄張んなよ!」
最初に反応したのはオットマー君。ゲラゲラ笑いながら僕の肩をポンポンする。
なんかイラッとした。
「まあ、この反応は想定済みだけどね。どうする? 傭兵になるのやめとく?」
戸惑う三兄妹に聞くと、オットマー君が「やめとけやめとけ」と三人に向けて言う。
長男のインゴが、妹二人の意思を確認するように視線を向ける。
「おにい。私は傭兵になる」
「ん。私も」
インゴは二人の目を見て頷き、僕に視線を向けた。
「俺たち三人、今日から世話になります。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、妹二人も慌てて兄に倣う。
「はぁ? なに言ってんだよ! お前らは俺と冒険者を続けるんだよ!」
「はぁ……オットマー。その話はもう終わっただろ」
インゴが心底面倒臭そうに答える。
「冒険者のお仲間が欲しいのなら、そっちの連中に頼めばいいだろ」
僕は顎で三兄妹の後ろの連中を指す。
ところで、オットマー君はなんで僕と肩を組んでるの?
ポンポンしてからずっとだけど、門の向こうで狂信者がイラッとしてるんだよ。
ユリアーナが抑えてるから大丈夫だろうけど、あ、振り払ってこっちに来る。
早く話を打ち切らないと、死体が一つ出来上がっちゃうよ。
「そんじゃあ、オットマー君。元気で」
まだなにか言おうとしているオットマー君を無視して、僕の肩に置いた彼の手をソッと払う。
振り返ると、手遅れだった。
狂信者はまだ門の辺りだけど、ストーカー一号と二号はすぐ近くにいた。
おかしいな。二号は、ユリアーナと一緒に門を潜るのを確認したんだけど……。
「うおっ! ビックリした。って、すげぇ可愛いじゃん。君、名前は?」
止める間もなく、仮面を被っていない縁をナンパし始めた。
オットマー君の暴挙に乗っかるように、三兄妹の後ろにいた男たちも、ワラワラと集まり縁と氷雨さんに声をかける。
これ、僕では収拾がつかない。
こうなる前に、なんとかしたかったんだけどなぁ。
悪いことは重なるもので、男たちが僕を押し退ける。
その瞬間、男たちの声が消え、彼らがその場に倒れ伏す。
誰がなにをしたのかはわからない。
立っているのは、僕とストーカー一号と二号と狂信者と狂信者の感染者二名の、計六名。
全員意識があるから〈威圧〉ではないと思う。いや、〈威圧〉も混ざってるっぽい?
というか、【氷の勇者】と【闇の勇者】が勇者なのに強すぎる。
というかというか、インゴたちも巻き込まれてる。
「あー、俺は怒ってないから、落ち着こうか」
「いえ。孫一様がお許しになっても、彼らの無礼は目に余りますので」
答えたのは感染者の片割れ。生徒会書記で僕の側室の姫宮瞳子だ。
「御主人様。これらには仕置きが必要です」
感染源が仮面を外して男たちを見下ろす。
もう充分お仕置きされてるよ。
助けを求めて門から動いていないユリアーナを見ると、〈念話〉で「無理」と言われた。
今日一日、僕と別行動をさせられ、やっと僕に会えるってタイミングでこの状況に出くわしたもんだから、マーヤの機嫌はかつてないほど悪いのだそうだ。
続けて「四稜郭が半壊してもいいのなら無理矢理止める」と言ったユリアーナを慌てて止める。
藁だってことはわかっていても、助けを求めて三兄妹の後ろから動かない女性たちを振り返る。
あれ? 騒ぎに加わろうとしている人族の女性たちを、森人族の女性たちが怯えながら止めている。
あ、そうか。魔術の素養がある森人族から見たら、放出しているマーヤたちのプラーナを正確に感知できているのか。
そっかそっか。ギルド前では、プラーナが外に漏れないように、完全に制御していたから気づかなかったんだろうけど、今になって彼女たちの凄さがわかったんだね。
「ば、化け物……」
あ、違った。凄さがわかったんじゃなく、化け物に見えるのか。
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*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
異世界隠密冒険記
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冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
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王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
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