110 / 285
3章
21話 お風呂回2
しおりを挟む
ヴィンケルマンの村を出発して二日。
今日は、子供たちと布の染色をして楽しかったです。
「明日の昼にはフーベルトゥスの村に到着する予定よ」
お風呂でユリアーナさんから行軍予定を聞かされる。
前を隠すことなく堂々と仁王立ちした姿は美しい。
尻尾をマーヤさんに洗われていて尚、美しい。
かく言うわたくしは、ミアの蜘蛛足を洗うのに忙しいので、横目でチラッと見ただけだ。
それでも一瞬見蕩れてしまう。ヴィンケルマンの前族長の息子が執着していたのもわかります。
「あ、あのシュェちゃん。そこは自分で」
ミアが恥ずかしそうな顔で振り向く。
おっと。いつの間にか蜘蛛のお尻を洗っていた。人に洗われるのが恥ずかしいようで、普段は柄の長いブラシで洗っているが、時々、いや、ほぼ毎日、わたくしがこうして洗っている。
「ブラシではちゃんと洗えないでしょう?」
特に、今日のように染料が身体中に付いてしまった日は、念入りに洗ってあげないと。
そう。これはミアの為でもある。決してわたくしの欲望の為では……ごめんなさい。嘘です。毎日ミアの体を洗いたいです。ミアの美しい肌に合法的に触れる機会を、わたくしが逃すはずありません。下半身の蜘蛛の体を洗い終わったら、上半身の白い肌を……ふへっ。
「シュェ姉さん。目が怖いですよ」
「ふわぁ! ちょ、シュェちゃん?」
真横からした声に、ビックリしてミアのお尻をギュッと掴んでしまった。慌ててミアに謝り声の方を向くと、ユカリ様がわたくしの胸をジッと見つめていた。
「ミア姉さんの胸、少しですけど大きくなりましたね」
わたくしの胸を見ながら、ミアの胸の話をするんですか?
「そうですね。マゴイチ様に毎日可愛がっていただいてま……なんですか?」
「いえ。一緒に可愛がってもらってるのにシュェ姉さんは大きくならないなぁ、とか、考えてません」
言ってますよ。考えてなかったとしても、言ったらダメです。
「ミア姉さんがおっきくなったのは、兄さんのお陰ではなく、シュェ姉さんが毎日エロい手つきで洗ってるからでは?」
「仮にそうだとしても、それだと、自分で洗ってるわたくしの胸が大きくならないのは、なぜでしょうか?」
自分で言いながら落ち込む。
「なら、私の胸で試してみましょう」
ユカリ様がほんのり膨らんだだけの胸を張って提案する。まるで名案のように。
「あの……洗いませんよ」
わたくしが洗ったからミアの胸が大きくなったとは思えないですしね。残念ながら、わたくしの胸が証明しています。
「そもそも、大きくなっても、いずれ重力に負けるんですから」
「あ、それ、駄馬姉妹が対策してますよ」
「え?」
初耳です。
人馬族と蜘蛛人族専用の深い湯船を見ると、駄馬姉妹が他の人馬族の子と楽しそうにお喋りしている。フーベルトゥスでも双子に対する差別があったはずですけど、いつの間にかすっかり打ち解けています。彼女たちは彼女たちで、わだかまりを解決したのでしょう。
「あ、対策って……」
駄馬姉妹を見ていて気づいた。
「そうです。プラーナを体に纏って魔力の鎧を作る技術である〈魔装術〉の応用です」
その〈魔装術〉を下乳に集中させることで、下から支えるようにしている。
「あれなら、クーパー靭帯が衰えても垂れることなくロケットのままです。なんなら、クーパー靭帯が切れても大丈夫。しかも、肩が凝らない」
「……ユカリ様は、つまり、あれをやってみたいから胸を大きくしたい、と?」
ユカリ様が力強く頷く。
「先日、ちょっとショックなことがあって」
なぜだかわからないけれど、続く言葉はわたくしにもダメージがありそうなので、片膝をついたまま足に力を入れて踏ん張る。
「由香由希が"胸がちょっと大きくなった"と言っていたんです」
「グッ」
立たなくて良かった。立ってたら膝から落ちてました。
これはショックです。あの二人はあのまま成長しないと思っていたのに。
その由々しき事態を確認しようと見渡しても、二人はお風呂にはいない。そうでした。この時間は夕食の仕込みで忙しいから、料理担当は食後にお風呂に入るのでした。
「しかも、"縁ちゃんより大きくなった"と」
「なん、ですって……」
お風呂場のタイルに手をついてなんとか体を支えるけど、気持ち的には踞りたい。
「このまま、クーちゃんみたいになってしまうのでしょうか」
聞きたくないです。
視界の隅に件の幼女が歩いている。その胸がほんの僅かではあるけど、揺れる。
自分の胸を見る。
僅かな膨らみを下から掬い、放す。
……揺れない。
「なので、少しでも大きくなる方法は試したいんです」
残念ながら、その方法はハズレです。わたくし自身が証明しています。
「あの」
ミアが遠慮がちに口を挟む。
「マゴイチ様は、大きすぎてもダメみたいですよ」
「「詳しく!」」
「ひあっ!」
いけない。親友を驚かせてしまった。
「ミア。詳しく教えて」
「う、うん。あのね、御主人様が一番好きなのは、女の子の恥じらう姿、って言ってたよ」
知りたかったことではないけど、これはこれで気になるので先に聞きましょう。
「そういえば、ミア姉さんって、兄さんと二人で話すことが多いですね」
ストーカーは、仕事中でもマゴイチ様を監視しているから、ミアとマゴイチ様が二人で会ってることも知っているのでしょう。
「昼休憩の時に少しお話しするだけだよ」
ストーカーを恐れてか、ミアが早口で言い訳する。
大丈夫よ。ユカリ様も、側室を積極的に増やしたいハーレム推進派ですから。側室同士が仲良くないとハーレムが崩壊してしまうので、過ぎた我が儘を言わない限り、口出ししないわよ。
「他に、マゴイチ様はなんて言ってましたか?」
「えっと……シュェちゃんは、"胸の大きさを気にして恥ずかしそうに胸を隠す姿が可愛い"って」
恥ずかしいというより、他の子と比べられたくなくて隠してたんですよ。だって、ロジーネさんの後で抱いてもらうと、絶対比べるでしょう?
「あと、"三本目の角が伸びて強くなった"って」
額の真ん中から生え始めた角は、ここ数日で急速に伸びて、元々の左右に生えてる二本角より太く長い角になりました。ついでに身体能力も上がったみたいだけれど、ユリアーナさんとの組手以外、戦闘には参加していないので、いまいち実感が乏しいです。
「"左右の角も綺麗で好きだけど、真ん中の角も格好良くて好き"、とも言ってたよ」
「他には?」
もっとちょうだい。
「"ニホン人に近い顔つきだから安心する"とか、"背中のラインが綺麗"とか、"服のセンスがいい"とか」
ニマニマが止まりません。
「私! 私は? 兄さんは私のことなんて言ってましたか?」
「ああ、えっと……」
ミアが困ったように目を逸らす。
「"将来が心配"と」
でしょうね。
「ほ、他には?」
「その……"折角の美貌も、恥じらいがないと魅力半減"と」
「はん? え? 半減? そんなに減るんですか?」
確かに、半減は言い過ぎでは? ユカリ様の美しさは、ユリアーナ様に勝るとも劣らないはずです。
「"恋愛感情があると言っておきながら、兄の前で全裸で仁王立ちしても平気な妹には、魅力よりも将来の心配しかない"と」
ああ、なるほど。ここでも恥じらいですか。
これはユカリ様を弁護できません。
「違うんです。大好きな兄さんに全て見てもらえる喜びが勝って、恥ずかしいと思えないんです」
ミアと目が合う。たぶん同じことを考えているのでしょう。頷き合い、口を開く。
「「将来が心配です」」
「うー。お二人だって、ベッドでは将来が心配になる顔をしてますよ」
あー、はい。知ってますよ。
「兄さんなら心配ないと思いますけど、あんな顔をさせられながら兄さんに捨てられたら、って思わないんですか?」
答えはわかってるでしょうに。ん? 違いますね。ユカリ様は経験していないんでしたね。
「ユカリ様は、性感強化を受けたことはありますか?」
マゴイチ様が手を出していないのに性感強化を受けたことがある人は、結構います。初めて性感強化を使った時の城の侍女や、リコさん、狼部隊の方々もそうですね。あと、数に入れたくはないですけど、【拳の勇者】もその一人です。
大半がいずれ手を出すであろう人たちですけど、その中にユカリ様は入っていない。いないですよね? このストーカーなら、やらかしたお仕置きで受けていそうです。
「ないです。何度かお願いしたんですけど、ダメでした。全力の性感強化を受けたいのに」
こいつダメだ。
「ユカリ様。性感強化は、十段階になっています。普段私たちが受けているのは、四から五です」
「え? 半分でアレなの?」
言いたいことはわかる。全力じゃないのに全員返り討ちされているんですから。
「六を受けたことがあるのは駄馬姉妹と緊縛エロフ母娘だけです。七になると、駄馬姉妹しか知らない世界です」
「だから、みなさん、あの二人に一目置いているのですか?」
悔しいけれど、マゴイチ様の全力に一番近いのはあの駄馬姉妹ですからね。
「ちなみに、八以上は?」
「前人未到です」
人のままでいられるか、という問題もあります。
というか、駄馬姉妹の七も、十秒だけ意識があっただけで、耐え切ったわけではありません。
「えと、それって、【鬼神】でも【蜘蛛神】でも耐えられない?」
三本目の角が生えて、わたくしのクラスは【鬼神】になりました。ミアもいつの間にか【蜘蛛神】になってました。
「【鬼神】も【蜘蛛神】も三までしか耐えられません。ついでに言いますと、【狼神】でも四。【狐神】でも五です」
ユリアーナ様とマーヤさんは妊娠中ですので、戦線から離れていますが参考までに。
「一応聞いておくけどロジーネ姉さんは?」
【猫神】にして【闇神】にして【毒神】のあの方は。
「二です」
「弱っ!」
「マゴイチ様も加減が難しいのか、よく三になります」
「それで私の仕事が増えるのかぁ」
「まあ、すぐ撃沈するお姉ちゃんの話はともかく、性感強化の話です。性感強化には、マゴイチ様が気づいていない副次効果があります。普段、わたくしたちは、マゴイチ様からのパスによって、マゴイチ様の感情の色を見ることができます」
区切るとユカリ様は首肯して先を促す。
「あくまで色が見えるだけです。しかし、性感強化を使うと、マゴイチ様のその時の感情が流れ込んでくるんです」
快楽と共に、わたくしたちを大切に思う感情が心に直接流し込まれます。
「それは……凄そうですね」
「凄いですよ。捨てられる心配がないのがわかりますし、離れたくなくなります」
嘘偽りのない生の感情ですからね。絆されてしまいます。
「ん? てことは、【拳の勇者】も兄さんの感情を?」
「でしょうね。ただし、わたくしたちへの感情とは別物だと思いますよ。そうですね……"彼への殺意はない"と言っていましたから、嫌悪感でしょうか?」
ひょっとしたら無関心だから、空っぽの感情が叩き込まれたかも……いえ、それはないですね。【拳の勇者】に対しては、負の感情しかないでしょう。
自分で振っておいて、【拳の勇者】に対する興味がなくなったのか、ユカリ様は「へぇ」で済ませました。もう少し興味を持ってください。
「ともかく、兄さんに性感強化を使ってもらえれば、兄さんが私をどれだけ大切にしているかわかるってことですね?」
こいつ、突る気だ。
「「将来が心配です」」
結局、胸が大きすぎるとダメな理由は聞きそびれた。
今日は、子供たちと布の染色をして楽しかったです。
「明日の昼にはフーベルトゥスの村に到着する予定よ」
お風呂でユリアーナさんから行軍予定を聞かされる。
前を隠すことなく堂々と仁王立ちした姿は美しい。
尻尾をマーヤさんに洗われていて尚、美しい。
かく言うわたくしは、ミアの蜘蛛足を洗うのに忙しいので、横目でチラッと見ただけだ。
それでも一瞬見蕩れてしまう。ヴィンケルマンの前族長の息子が執着していたのもわかります。
「あ、あのシュェちゃん。そこは自分で」
ミアが恥ずかしそうな顔で振り向く。
おっと。いつの間にか蜘蛛のお尻を洗っていた。人に洗われるのが恥ずかしいようで、普段は柄の長いブラシで洗っているが、時々、いや、ほぼ毎日、わたくしがこうして洗っている。
「ブラシではちゃんと洗えないでしょう?」
特に、今日のように染料が身体中に付いてしまった日は、念入りに洗ってあげないと。
そう。これはミアの為でもある。決してわたくしの欲望の為では……ごめんなさい。嘘です。毎日ミアの体を洗いたいです。ミアの美しい肌に合法的に触れる機会を、わたくしが逃すはずありません。下半身の蜘蛛の体を洗い終わったら、上半身の白い肌を……ふへっ。
「シュェ姉さん。目が怖いですよ」
「ふわぁ! ちょ、シュェちゃん?」
真横からした声に、ビックリしてミアのお尻をギュッと掴んでしまった。慌ててミアに謝り声の方を向くと、ユカリ様がわたくしの胸をジッと見つめていた。
「ミア姉さんの胸、少しですけど大きくなりましたね」
わたくしの胸を見ながら、ミアの胸の話をするんですか?
「そうですね。マゴイチ様に毎日可愛がっていただいてま……なんですか?」
「いえ。一緒に可愛がってもらってるのにシュェ姉さんは大きくならないなぁ、とか、考えてません」
言ってますよ。考えてなかったとしても、言ったらダメです。
「ミア姉さんがおっきくなったのは、兄さんのお陰ではなく、シュェ姉さんが毎日エロい手つきで洗ってるからでは?」
「仮にそうだとしても、それだと、自分で洗ってるわたくしの胸が大きくならないのは、なぜでしょうか?」
自分で言いながら落ち込む。
「なら、私の胸で試してみましょう」
ユカリ様がほんのり膨らんだだけの胸を張って提案する。まるで名案のように。
「あの……洗いませんよ」
わたくしが洗ったからミアの胸が大きくなったとは思えないですしね。残念ながら、わたくしの胸が証明しています。
「そもそも、大きくなっても、いずれ重力に負けるんですから」
「あ、それ、駄馬姉妹が対策してますよ」
「え?」
初耳です。
人馬族と蜘蛛人族専用の深い湯船を見ると、駄馬姉妹が他の人馬族の子と楽しそうにお喋りしている。フーベルトゥスでも双子に対する差別があったはずですけど、いつの間にかすっかり打ち解けています。彼女たちは彼女たちで、わだかまりを解決したのでしょう。
「あ、対策って……」
駄馬姉妹を見ていて気づいた。
「そうです。プラーナを体に纏って魔力の鎧を作る技術である〈魔装術〉の応用です」
その〈魔装術〉を下乳に集中させることで、下から支えるようにしている。
「あれなら、クーパー靭帯が衰えても垂れることなくロケットのままです。なんなら、クーパー靭帯が切れても大丈夫。しかも、肩が凝らない」
「……ユカリ様は、つまり、あれをやってみたいから胸を大きくしたい、と?」
ユカリ様が力強く頷く。
「先日、ちょっとショックなことがあって」
なぜだかわからないけれど、続く言葉はわたくしにもダメージがありそうなので、片膝をついたまま足に力を入れて踏ん張る。
「由香由希が"胸がちょっと大きくなった"と言っていたんです」
「グッ」
立たなくて良かった。立ってたら膝から落ちてました。
これはショックです。あの二人はあのまま成長しないと思っていたのに。
その由々しき事態を確認しようと見渡しても、二人はお風呂にはいない。そうでした。この時間は夕食の仕込みで忙しいから、料理担当は食後にお風呂に入るのでした。
「しかも、"縁ちゃんより大きくなった"と」
「なん、ですって……」
お風呂場のタイルに手をついてなんとか体を支えるけど、気持ち的には踞りたい。
「このまま、クーちゃんみたいになってしまうのでしょうか」
聞きたくないです。
視界の隅に件の幼女が歩いている。その胸がほんの僅かではあるけど、揺れる。
自分の胸を見る。
僅かな膨らみを下から掬い、放す。
……揺れない。
「なので、少しでも大きくなる方法は試したいんです」
残念ながら、その方法はハズレです。わたくし自身が証明しています。
「あの」
ミアが遠慮がちに口を挟む。
「マゴイチ様は、大きすぎてもダメみたいですよ」
「「詳しく!」」
「ひあっ!」
いけない。親友を驚かせてしまった。
「ミア。詳しく教えて」
「う、うん。あのね、御主人様が一番好きなのは、女の子の恥じらう姿、って言ってたよ」
知りたかったことではないけど、これはこれで気になるので先に聞きましょう。
「そういえば、ミア姉さんって、兄さんと二人で話すことが多いですね」
ストーカーは、仕事中でもマゴイチ様を監視しているから、ミアとマゴイチ様が二人で会ってることも知っているのでしょう。
「昼休憩の時に少しお話しするだけだよ」
ストーカーを恐れてか、ミアが早口で言い訳する。
大丈夫よ。ユカリ様も、側室を積極的に増やしたいハーレム推進派ですから。側室同士が仲良くないとハーレムが崩壊してしまうので、過ぎた我が儘を言わない限り、口出ししないわよ。
「他に、マゴイチ様はなんて言ってましたか?」
「えっと……シュェちゃんは、"胸の大きさを気にして恥ずかしそうに胸を隠す姿が可愛い"って」
恥ずかしいというより、他の子と比べられたくなくて隠してたんですよ。だって、ロジーネさんの後で抱いてもらうと、絶対比べるでしょう?
「あと、"三本目の角が伸びて強くなった"って」
額の真ん中から生え始めた角は、ここ数日で急速に伸びて、元々の左右に生えてる二本角より太く長い角になりました。ついでに身体能力も上がったみたいだけれど、ユリアーナさんとの組手以外、戦闘には参加していないので、いまいち実感が乏しいです。
「"左右の角も綺麗で好きだけど、真ん中の角も格好良くて好き"、とも言ってたよ」
「他には?」
もっとちょうだい。
「"ニホン人に近い顔つきだから安心する"とか、"背中のラインが綺麗"とか、"服のセンスがいい"とか」
ニマニマが止まりません。
「私! 私は? 兄さんは私のことなんて言ってましたか?」
「ああ、えっと……」
ミアが困ったように目を逸らす。
「"将来が心配"と」
でしょうね。
「ほ、他には?」
「その……"折角の美貌も、恥じらいがないと魅力半減"と」
「はん? え? 半減? そんなに減るんですか?」
確かに、半減は言い過ぎでは? ユカリ様の美しさは、ユリアーナ様に勝るとも劣らないはずです。
「"恋愛感情があると言っておきながら、兄の前で全裸で仁王立ちしても平気な妹には、魅力よりも将来の心配しかない"と」
ああ、なるほど。ここでも恥じらいですか。
これはユカリ様を弁護できません。
「違うんです。大好きな兄さんに全て見てもらえる喜びが勝って、恥ずかしいと思えないんです」
ミアと目が合う。たぶん同じことを考えているのでしょう。頷き合い、口を開く。
「「将来が心配です」」
「うー。お二人だって、ベッドでは将来が心配になる顔をしてますよ」
あー、はい。知ってますよ。
「兄さんなら心配ないと思いますけど、あんな顔をさせられながら兄さんに捨てられたら、って思わないんですか?」
答えはわかってるでしょうに。ん? 違いますね。ユカリ様は経験していないんでしたね。
「ユカリ様は、性感強化を受けたことはありますか?」
マゴイチ様が手を出していないのに性感強化を受けたことがある人は、結構います。初めて性感強化を使った時の城の侍女や、リコさん、狼部隊の方々もそうですね。あと、数に入れたくはないですけど、【拳の勇者】もその一人です。
大半がいずれ手を出すであろう人たちですけど、その中にユカリ様は入っていない。いないですよね? このストーカーなら、やらかしたお仕置きで受けていそうです。
「ないです。何度かお願いしたんですけど、ダメでした。全力の性感強化を受けたいのに」
こいつダメだ。
「ユカリ様。性感強化は、十段階になっています。普段私たちが受けているのは、四から五です」
「え? 半分でアレなの?」
言いたいことはわかる。全力じゃないのに全員返り討ちされているんですから。
「六を受けたことがあるのは駄馬姉妹と緊縛エロフ母娘だけです。七になると、駄馬姉妹しか知らない世界です」
「だから、みなさん、あの二人に一目置いているのですか?」
悔しいけれど、マゴイチ様の全力に一番近いのはあの駄馬姉妹ですからね。
「ちなみに、八以上は?」
「前人未到です」
人のままでいられるか、という問題もあります。
というか、駄馬姉妹の七も、十秒だけ意識があっただけで、耐え切ったわけではありません。
「えと、それって、【鬼神】でも【蜘蛛神】でも耐えられない?」
三本目の角が生えて、わたくしのクラスは【鬼神】になりました。ミアもいつの間にか【蜘蛛神】になってました。
「【鬼神】も【蜘蛛神】も三までしか耐えられません。ついでに言いますと、【狼神】でも四。【狐神】でも五です」
ユリアーナ様とマーヤさんは妊娠中ですので、戦線から離れていますが参考までに。
「一応聞いておくけどロジーネ姉さんは?」
【猫神】にして【闇神】にして【毒神】のあの方は。
「二です」
「弱っ!」
「マゴイチ様も加減が難しいのか、よく三になります」
「それで私の仕事が増えるのかぁ」
「まあ、すぐ撃沈するお姉ちゃんの話はともかく、性感強化の話です。性感強化には、マゴイチ様が気づいていない副次効果があります。普段、わたくしたちは、マゴイチ様からのパスによって、マゴイチ様の感情の色を見ることができます」
区切るとユカリ様は首肯して先を促す。
「あくまで色が見えるだけです。しかし、性感強化を使うと、マゴイチ様のその時の感情が流れ込んでくるんです」
快楽と共に、わたくしたちを大切に思う感情が心に直接流し込まれます。
「それは……凄そうですね」
「凄いですよ。捨てられる心配がないのがわかりますし、離れたくなくなります」
嘘偽りのない生の感情ですからね。絆されてしまいます。
「ん? てことは、【拳の勇者】も兄さんの感情を?」
「でしょうね。ただし、わたくしたちへの感情とは別物だと思いますよ。そうですね……"彼への殺意はない"と言っていましたから、嫌悪感でしょうか?」
ひょっとしたら無関心だから、空っぽの感情が叩き込まれたかも……いえ、それはないですね。【拳の勇者】に対しては、負の感情しかないでしょう。
自分で振っておいて、【拳の勇者】に対する興味がなくなったのか、ユカリ様は「へぇ」で済ませました。もう少し興味を持ってください。
「ともかく、兄さんに性感強化を使ってもらえれば、兄さんが私をどれだけ大切にしているかわかるってことですね?」
こいつ、突る気だ。
「「将来が心配です」」
結局、胸が大きすぎるとダメな理由は聞きそびれた。
0
お気に入りに追加
128
あなたにおすすめの小説
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
異世界営生物語
田島久護
ファンタジー
相良仁は高卒でおもちゃ会社に就職し営業部一筋一五年。
ある日出勤すべく向かっていた途中で事故に遭う。
目覚めた先の森から始まる異世界生活。
戸惑いながらも仁は異世界で生き延びる為に営生していきます。
出会う人々と絆を紡いでいく幸せへの物語。
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~
ふりたけ(振木岳人)
ファンタジー
「……あの子を、シリルの事を頼めるか? ……」
騎士王ボードワンが天使の凶刃に倒れた際、彼は実の息子である王子たちの行く末を案じたのではなく、その後の人類に憂いて、精霊王に「いわくつきの子」を託した。
その名はシリル、名前だけで苗字の無い子。そして騎士王が密かに育てようとしていた子。再び天使が地上人絶滅を目的に攻めて来た際に、彼が生きとし生ける者全ての希望の光となるようにと。
この物語は、剣技にも魔術にもまるで秀でていない「どん底シリル」が、栄光の剣を持って地上に光を与える英雄物語である。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ドグラマ3
小松菜
ファンタジー
悪の秘密結社『ヤゴス』の三幹部は改造人間である。とある目的の為、冷凍睡眠により荒廃した未来の日本で目覚める事となる。
異世界と化した魔境日本で組織再興の為に活動を再開した三人は、今日もモンスターや勇者様一行と悲願達成の為に戦いを繰り広げるのだった。
*前作ドグラマ2の続編です。
毎日更新を目指しています。
ご指摘やご質問があればお気軽にどうぞ。
異世界隠密冒険記
リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。
ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる