一人では戦えない勇者

高橋

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2章

23話 学年一位なのはなにかの間違い

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 矢萩君との会話で休めたから、拠点へ戻ることにする。
 帰路の途中、外に出たついでだから、ギルドに顔を出すことにした。
 三匹の護衛と縁を伴い、ギルドの扉を開ける。
 空いてる時間とはいえ、いつも通り、人が少ない。
 受付で暇そうにしているギルマスに、相談したいことがある旨を伝えると、二階にあるギルマスの部屋に通された。
 厄介事を警戒しているギルマスに、目線で用件を促される。

「本日伺ったのは、傭兵団を作るにはどうすればいいか教えてもらおうと思いまして」
「傭兵団? クランではなく?」

 クランは、パーティとギルドの間のような位置付けだったと思う。パーティのように、気軽に他の町や国に行けて、ギルドのように、依頼や魔石などの売買が直接できる。

「現状の人数ならクランなんでしょうけど、俺の魔法なら、軍隊規模でも問題ないので、増えてもいいように、最初から傭兵団にしようと思ってます」
「そうか。私も詳しくは知らないが、確か、団旗を用意して、国に申請するだけだったと思うぞ」
「団旗。旗ですか?」
「ああ、軍隊ってのは、複数の旗が必要になる」

 一番最初に必要となるのが、申請にも必要となる団旗。
 傭兵団のシンボルだ。

 次に必要なのは、最も重要な行軍許可旗。
 許可旗とも言う。
 申請して許可が降りたら、その国の許可旗が買える。黒地にその国の紋章なので、黒旗とも呼ばれる。
 この旗を掲げないで進軍すると、反乱軍や盗賊団として討伐されてしまう。
 各部隊に一旒で充分だけど、一般的に、先鋒部隊に一本。左翼と右翼にそれぞれ一本ずつ。指揮官がいる中央に一本。後衛部隊に一本。輸送部隊に一本。別動隊用に一本。予備に一本。と、最低でも七旒ほど買わなくてはいけないそうだ。
 面倒臭いけど、討伐対象になるよりはマシだろう。
 ちなみに、義勇軍や自警団には格安で売ってもらえる。

 次は、行軍旗。
 これは、戦闘時には降ろすらしい。非戦闘時の行軍中のみ掲げる旗で、行軍中の先頭部隊に一本と、最後尾に一本掲げる。なので、先旗と後旗とも言う。
 これは、国際法でデザインが決まっているが、あってもなくても構わないらしい。
 掲げた方が行儀良く見えるから、サービス業である傭兵は、なるべく掲げて移動するようにしている。
 なんでも、平時の国では、雇ってもらえるかどうかは、この旗を掲げるかどうかで決まると言っても過言ではないらしい。

 お次は戦旗。
 戦闘意思があることを示す旗だ。
 元々は東域の風習らしい。
 紫色の生地に龍が描かれた旗で、東では紫旗とか龍旗と呼ばれるそうだ。
 現在では、国際法で、この旗を掲げていない軍に攻撃してはいけない決まりになっているが、戦時下でそんな法が守られるわけもなく、正々堂々の戦いを好む貴族たちくらいしか守っていないらしい。
 それでもこの旗の重要度が高いのは、戦旗を大量に掲げて士気を上げる傭兵団がいるくらい、士気に大きく影響するからだそうだ。
 ……うちって、士気とか関係なく、個人の戦闘能力のゴリ押しで勝ちそう。

 次。帥旗。
 団長がいる場所に掲げる旗だ。
 士気に関わるから、掲げた方がいいと言われた。
 目立ちたくないなぁ。
 この旗は団旗同様、自前で用意して申請しなければいけない。

 次。部隊旗。
 各部隊の旗だ。
 これは、団内でわかってればいいので申請の必要はない。

 ラストは指揮官旗。
 部隊指揮官の旗。トレードマークみたいな感じ。
 申請の必要はないけど、あるのなら、申請しておけば指揮官の名が売れる。

「とまあ、旗だらけだ。知り合いが傭兵団を立ち上げた時も、大変そうだった」

 旗は、ミアとシュェが中心になって作れば、すぐにできるだろう。

「そうだ。この国、というか、王都には、三つの傭兵団がある。ああ、王都を拠点にしているだけで、常にこの国に雇われているわけじゃないぞ。その三つの内の一つは、知り合いが団長だから紹介できる。傭兵団を作るのなら三つとも挨拶しておいた方がいいが、残り二つは自力でなんとかしろ」

 商売敵が増えると、ちょっかいをかける奴がいるから、あらかじめ話を通しておいた方がいいらしい。
 これは、すぐに申請するわけじゃないから、ユリアーナたちが帰ってきたら行こう。



 ギルマスから、申請に必要なお金とか聞いてからギルドを出る。
 拠点への帰り道に、ギルマスから聞いていた大手の商人ギルドがあったから、フラっと立ち寄ってみたけど、大した情報は得られなかった。
 どうやら、東の方に交易路を伸ばしてるらしく、西は帝国の中央までなんだそうだ。
 けど、フラっと立ち寄っただけの相手に、丁寧に教えてくれた。あれかな? ダンジョン攻略パーティって知って、顧客に引き込もうとしてたのかな?
 それなら、と、養殖ドラゴンの魔石を一つだけ買い取ってもらった。
 中白金貨一枚だって。白金貨を初めて見たよ。
 シリアルナンバーが入っているし、偽造防止用の魔力が込められているから、金貨のように偽造するのは難しそうだ。
 縁が言うにはやろうと思えば偽造できるけど、偽造するメリットがないそうだ。
 金貨の偽造だけで充分だろう。

「傭兵団の申請に、団員人数の制限がなくて良かったですね」

 僕と手を繋いで歩く縁が、ギルマスから聞いた話を持ち出す。
 部活みたいに"何人以上いなきゃダメ"、という決まりはなかった。下限人数も上限人数もない。二十人に満たない僕らでも大丈夫だ。

「アリスとテレスを入れても、二十人に届かないもんな」
「"万兵は得易く、一将は得難し"なんて言いますけど、私たちは逆ですよね」

 一万の兵は得難いけど、【軍神】にしろ【武神】にしろ、二日あれば得られるからね。

「数が必要な状況は、どうしましょうかね?」
「【軍神】と【武神】は、数で覆るような戦力じゃないと思うよ」
「大規模な包囲殲滅は無理ですよね」

 相手の規模と包囲範囲によるけど、包囲網に穴ができるだろうね。
 傭兵団を作るからには、ハンニバルの包囲殲滅戦とかやってみたいけどねぇ。

「まあ、それも、広域殲滅魔法で覆せるんですけどね」

 縁は、えげつない魔法をいくつか開発している。
 ダンジョンの深層でいくつか試し打ちしていたけど、どれも禁術に指定されそうな危険な魔法ばかりだったので、我が家の良心たる御影さんとロクサーヌの許可なく使用しない、と約束させられていた。てか、核爆発は、実験する前に止めた。

「水蒸気爆発は禁術指定されませんでしたから、いつかドカーンと使いたいですね」
「この世界の科学技術じゃ、水蒸気爆発のメカニズムは解明されてないようだから、見たらビックリするだろうね」

 科学知識があってもビックリしたけどね。
 安全距離だったのに、衝撃が腹にドカーンときたよ。

「そういえば、カモフラージュの馬車はどうなったの?」

 カモフラージュが必要かどうかという問題もあるけど。

「ああ、それなんですけど、送還魔法をすぐには使えそうにないんで、日本に帰りたい人たちを連れてくのに馬車が必要になりそうです」

 そっか。すぐに送還しようにも、魔力不足で無理ってことになったんだっけ。

「何人くらいになりそう?」
「今日、御影姉さんが聞きに行くそうです」

 なら、それがわかってから作ればいいか。

「試作品は作りましたけど、意外なことに、ユニコーンの魔石と相性が良かったです」
「相性なんてあるんだ」
「ええ。魔法銃に使ってる弾丸の魔晶石は、オークメイジの魔石を使っていたんですけど、オークメイジより、養殖ドラゴンの方が相性が良かったので、作り直しておきました」

 彼らの死も無駄ではなかったのか。

「ドラゴンは、ほとんどの魔道具と相性がいいようで、重宝しています。まあ、大きいから、加工するのが面倒なんですけどね。ただでさえ弾丸サイズまで圧縮するのが面倒なのに、数も作らないとだったので大変でした」

 誉めてほしそうな上目使いを向けられる。答える代わりに頭を撫でた。

「それで? 試作馬車はどんな感じ?」
「とりあえず、箱馬車と幌馬車を作ってみました。どちらもゴムタイヤにして、サスペンションは油圧式です」
「自動車じゃん」
「ええ。途中で"バスを一台作ればいんじゃね?"って思っちゃいましたけど、悪目立ちしそうなのでやめました」

 縁にしては英断。

「ところで、魔石って使い捨てなの?」
「一般的には、中の魔力を使い切ったら交換して捨てますね。けど、私が作る魔石は、充填可能で再利用できますようにするつもりです。未完成ですけど。名称も、『魔晶石』と別にしておいた方がいいくらい別物になる予定です」

 自慢気に無い胸を張ってる妹に、「えらいえらい」と言って頭を撫でる。
 それだけでご機嫌になる安い妹が、ちょっと心配です。
 心配な妹だけど、この再利用できる魔晶石が完成したら、僕の有り余るプラーナを利用して、傭兵団のエネルギー問題が解決する。縁には頑張ってもらいたい。

「今は、ほとんどの魔石の相性を調べ終わったので、あとは、思い付いた物を次々作るだけです」

 ほどほどにね。

「じゃあ、階層主のでっかいドラゴンの魔石は、使い道が決まったの?」
「あれで空母を造ろうかと」

 なにゆえ?

「海がない大陸中域で?」

 海無し県の埼玉に造船所を造る馬鹿はいないよ。
 ……あるかどうかは知らんけど。あるとしたら、そこのオーナーは漱石だ。
 あ、立地的な利点はあるか? 国道沿いなら、あるいは?

「赤城を造りたいなって。あ、兄さんは瑞鶴が好きでしたね」
「うん、まあ。って、そうじゃなくてさ。西大陸へ渡るのに船は必要だけど、それはまだ先の話なんだからさ」

 こいつ、本当に学年一位だったのか?

「では、戦車にします」
「……空母よりはマシか」

 空母より実用的だ。色々と言いたいけど。

「やっぱティーガー? ヒトマルも有りだな」

 10式戦車は見に行けなかったなぁ。見たかったなぁ。

「キングタイガーです!」

 まさかのティーガーⅡだった。

「いえ。どうせなら、オリジナルでティーガーⅢを造るのも有りですね」

 正解は、その先のエンペラータイガーでした。わかるか!

「オリハルコン装甲に、55口径の魔法砲を搭載」

 それ、マウスじゃね?

「いやいや。いっそ、レールガンの三連装にして」

 うん。それ、あのゲームのマウスだよ。いや、マウスⅡになるのか?
 まあ、造っても橋を渡れるか、って問題がある。歴史は繰り返すからねぇ。

「ああ、でも、レールガンはサイズが大きくなるから……」
「……戦車より馬車を優先してね」
「どうせなら、ワゴンブルクに使えるようにしましょうか?」

 必要か?
 馬車を移動する要塞にしても、うちは一人一人が単独で城を落とせる戦力なんだよ?
 止まって守るより、瞬殺した方が早いよ。

「いや、普通ので」

 義妹の"普通"が僕の"普通"と同じであることを祈る。
 たぶん、無駄に終わるけど。
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