6 / 57
一章 パンドラ
第六話 神様の知らない世界
しおりを挟む
ユニもアリスとお風呂に入るのは久しぶりだ。
脱衣所でユニに背を向けて服を脱ぐアリスの背中をガン見する。前髪で隠れてわからないがその目は血走っていた。さすがのアリスも、この目を見たらドン引きするだろう。
下着も全て脱いで、生まれたままの姿になったアリスの背中に抱きつきたい衝動に駆られるが、下唇を血が出るほどに噛んで自制する。
『素晴らしいわー。天界でもこんな光景を拝めない』
(そうでしょうとも)
「『私のここ○ンがフル○起するわ!』」
女神と巫女の叫びがハーモニーを奏でた。
「えっと……ユニちゃんも入るのよね?」
自分の肩越しに問うアリスに、サムズアップだけで答える。
籠からタオルを手にして、前を隠しながら風呂へ素早く入り扉を閉める。そのアリスの背中を見送りながら、ゆっくり自分の服を脱ぎ始める。アリスの下着に手を伸ばしかけたが、もう一度唇をかんで自制する。
『巫女によってはー、側仕えの神官に服を脱がせてもらうんだけどねー』
「私の理性がもたん」
その場で襲い掛かる自信がある。
「あっつ!」
扉越しに、アリスにしては珍しい大きな声が聞こえた。
『なーるほどー。そこで足止めするために”温度高めにして”ってアリスちゃんにお願いしたのねー。策士よのー』
普段アリスは、自分で風呂を沸かして、お湯があったかいうちに素早く風呂に入っている。まだ王都で暮らしていた頃の話だが、たまには熱いお湯に入りたいだろうと、アリスが入る前に薪を追加しておいたら、そんなに熱くなっていないのにアリスの肌が真っ赤になっていた。そのことから、アリスは熱い風呂が苦手とユニは知っていた。
「その隙に服を脱いで扉を開ければ、熱さに身悶えするアリスを観賞できる!……あれ?」
勢いよく扉を開くと、期待していた絶景はなく、真っ赤な顔をしてアリスが湯船に肩まで浸かっていた。
(これはこれであり)
『ありね』
女神と意見が一致した。
タオルで体を隠すことなく、堂々とした態度で扉を閉め、掛け湯をして湯船に入る。
二人で入ると少しばかり狭く感じるが、個人宅にある湯船として考えたら十分な広さだ。そもそも、一般家庭に湯船はない。
『ユニー、私の知らない世界をありがとー。ここが天国かー』
「天国ってあるの?」
中央教会では、天国に行くために善行を積みなさい、と教えている。
『ないわよー』
「え? ないの?」
中央教会で散々言われていたので、あるものと思っていた。
「え? ないの?」
中央教会で真面目に勉強していたアリスも驚きだ。
『正確に言うと”あった”だねー。天国に行くための基準ってー、最低ラインでも厳しくってさー。もう何千年も天国に行けた人間がいないからー、なくしちゃったー。維持費も結構かかるしねー』
「え? 遊園地的なとこなの? てか、金の問題?」
『お金じゃなくー、維持するためのエネルギーだよー。遊園地みたいにアトラクションがあるわけじゃなくてー、ただ、なにもない空間でダラダラ過ごしていいよってだけー』
「それ、神様の言う休眠期間じゃないの?」
言い方が少し違うだけで、内容は同じに聞こえる。
『そだよー。あまりにも退屈で清廉な魂達が発狂するんだー。それを見て、私達の休眠期間の内容が決まったんだー』
「いやいや。神様にとっての拷問を、天国って言っちゃダメだよ」
『私達もー、最初はそれがご褒美になると思ってたんだよねー。ところが、天国に来た人間の魂が、もう、バッツンバッツンと弾けるもんだからー、さすがに”これ違くね?”って思って中止にした頃には、天国に来れるような善人がいなくなってたのー』
そして、最近になって維持するエネルギーの無駄遣いと言われるようになり、天国は閉鎖されたそうだ。
『やっぱー、無計画に箱物を作るべきじゃないよねー』
「ローランド王国でも、先王が命令して、未だ作り続けてる庭園があるんだけど、あれみたいなもんなのかな?」
中央教会の教えでは、人間は神を模して作られたらしい。だから、神と同じ失敗をするのだろうか。
「じゃあ、ヴァルハラもないの? 戦死者の館だっけ?」
『ヴァルハラって飲み屋ならあるよー。多分ー、戦神の誰かが人間に教えたのが伝言ゲームで間違って広まったんじゃないかなー? ちなみにー、ヴァルハラのお勧めはスジ煮込みー』
純粋な存在を汚してみたいという欲求から、天国を信じていたアリスに、今の話を伝えてみる。
「そっか、ないんだ」
「え? それだけ?」
思ったよりドライな反応だった。
「うん。教会で教わった話はなんだか胡散臭くて、話半分で聞いてた。あったらいいな、くらい?」
『中央教会では、腹黒いことで有名な法王も天国に行ったことになってるからねー』
「てか、なんでパンドラがそんなこと知ってるの?」
『ユニが授業中に居眠りしてると、視覚情報は閉ざされちゃうけどー、聴覚情報のリンクは生きたままだからねー』
ユニに代わって、授業を聞いていてくれたようだ。
「そんな便利な睡眠学習があるなら、もっと早く教えてよ」
パンドラの親切は、ユニの怠惰で台無しになった。この巫女に、女神の慈愛は伝わらないようだ。
「そういえば、パンドラっていつも私とリンクしてんの?」
『うん。神によっては、日に数回しかリンクしないってのもいるけどー、ユニの言動が面白いから、常に見ていたいし聞いていたいのー』
(笑わせるようなことしたかな?)
『人見知りで人嫌いを自称してるくせに寂しがり屋とかー、もう可愛すぎよ』
「今はアリスがいるから寂しくない」
常に見守っている女神に、嘘を言っても無駄なので本心を言ってみる。
「ユニちゃーん」
笑顔の天使に抱きつかれた。
ユニの薄い胸に当たる珠玉のクッション。
『うらやま!』
今日はパンドラへのご褒美のつもりだから、もう少しサービスしても良いかもしれない。
「パンドラ。アリスに触りたい?」
『愚問!』
「気に入らない返事だわ」
『ごめんなさい。触りたいです。揉みたいです。吸いたいです。ここ○ンを挟みたいです』
なんだかんだで付き合いが長くなったユニも、女神の本心にちょっと引く。
「ん。じゃあ、交代する?」
『いいの? ほんと? 嘘だったらペストばら撒くよ!』
「ほんじゃあ、神降しを要請する」
『受理する』
パンドラの一言と共に、ユニの意識がなにかに引っ張られる。
真っ暗な空間に精神体だけがフヨフヨ漂っている。神降ろしの実験で経験済みだが、あまり気持ちの良い感覚ではない。
『うっしゃー! 揉んだらー!』
元気の良いパンドラの言葉が、ユニの声で聞こえる。
意識を向けてみると、ユニの体が見ている映像がユニの精神体に流れ込む。
ワキワキさせながらアリスに詰め寄るユニの手と、突然口調が変わった幼馴染みに怯えるアリス。
「ほどほどにね」
女神が暴走しそうな気がしたので、一応言っておく。
『だいじょーうぶ! アリスちゃんを堪能するよー! てか、前髪邪魔!』
なにをもって大丈夫なのかわからないし、余計に不安になった。
前髪をかき上げたのか、視界が開ける。
「アリスの処女幕破ったらぶっ殺すよ」
最重要のこれだけは伝えておく。
神の命よりも重い。
「あと、前髪切るなよ」
ユニの対人障壁である前髪も、神の命より重い。
『え? 神様ですか? パンドラ様ですか? え? どうし、ひっ! ちょっ! 胸!』
パンドラによるアリスへのセクハラが本格的に始まった。
(さて、私はどうしよう)
パンドラのご褒美タイムを見学しながら考える。神降しをするのは二度目なので、精神体になるのも二度目だ。前回はすぐに体に戻してもらったので、今回は精神体がどうなっているのか見ようとして……失敗する。
そもそも目という概念がないみたいだ。手を持ち上げて手を見ようとしたのだが、手という概念もないようで、手に該当する部分が動いた感覚もない。
(できる事は、パンドラのセクハラを見学するだけか)
『パンドラさん。聞いてらっしゃるのかしら?』
ユニの体を使って発しているパンドラの声でも、アリスの声でもない、聞いたことのない女性の声がした。
(誰だ?)
声がした方へ意識を向ける。向けたつもりだが、どうも、向いているのかどうか自分では把握できない。自分をはっきりと把握できていないのに、精神体が声の方向へ引きずられる感覚だけは、はっきりとしていた。
「パンドラさん。仕事中に寝ないで下さいな」
(なに? 耳に聞こえた?)
今の声は、自分の耳に聞こえた声だ。
「パンドラさん?」
意識していなかったが、目を閉じていたのか。ゆっくりと瞼を開く。
「スクナビコナ殿からの伝言を、って、聞いていますの?」
声がした後へ振り向こうとして、前髪がないことに気付く。
(パンドラが、切った?)
一瞬、パンドラへの殺意が芽生えたが思い直す。
あの神は頭の悪そうな喋り方をするが、ユニが本当に嫌がることはしない。そのパンドラが、ユニのA○フィールドである前髪を切るなどありえない。
手を目の前に持ち上げようとする。
(動きが鈍い)
「パン、ドラ」
声も上手く出せない。
『今忙しー』
(これってまさか……パンドラの体?)
動きの鈍い腕を動かし、ゆっくりと胸に手を当てる。
明らかにユニより大きい。が、アリスほどではない。
(やっぱり。これって、パンドラの体だ。てか、ほんとに巨乳だったんだ)
胸の大きさで確信するのは癪だ。舌打ちしようとしたが、やはり体が上手く動かない。
(パンドラは私の体を上手く動かすのに……ああ、前に神降ろしした時に言ってたな)
神と人間ではスペックが違う。
神にとっては、人間の肉体を動かすのは簡単だ。手加減すれば。
精神体を、肉体を動かすための動力と仮定した場合、神にとって低スペックである人間の体は、手加減すれば普通に動かせる程度のものだ。精神体の性能を最大限に活かすことはできないが、それなりの反動を気にしなければ、人間の肉体の限界を超えることも可能だ。もっとも、反動で肉体が砕ける場合もあるけど。
対して、人間の精神体が神の肉体に入った場合は、その逆になる。
高性能すぎる肉体の性能を一割も引き出せないどころか、普通に動かすこともできない。ユニは気付いていないが、首を動かしたり腕を動かして胸を触るという動作も、人間の精神体でできる動作としては破格である。
偏にユニとパンドラの相性の良さが成せる業だが、パンドラはともかく、ユニは認めないだろう。
「パンドラさん?」
(さっきから、うるさいな)
なんだか偉そうな女性の声に眉をひそめる。
「そもそも、神に睡眠は不要でしょう。そのような暇があるのなら、神の威光で現世を照らしなさいな。まったく、これだから、災厄の女神なんて呼ばれるんですよ」
「うる、さい……な」
上手く動かせないのは変わらないが、それなりにパンドラの体を動かすコツを掴んだユニが、声の主に顔を向ける。
「うるさいってあなたね……」
「つぅ」
声の主は凄い美人だった。……多分。
ユニの視界には顔に靄がかかったような人が立っていたのだが、顔をよーく見ようとすると頭がズキンと痛む。それでも”なんとなく美人が見えたような気がする”という曖昧な認識だけが残った。
脱衣所でユニに背を向けて服を脱ぐアリスの背中をガン見する。前髪で隠れてわからないがその目は血走っていた。さすがのアリスも、この目を見たらドン引きするだろう。
下着も全て脱いで、生まれたままの姿になったアリスの背中に抱きつきたい衝動に駆られるが、下唇を血が出るほどに噛んで自制する。
『素晴らしいわー。天界でもこんな光景を拝めない』
(そうでしょうとも)
「『私のここ○ンがフル○起するわ!』」
女神と巫女の叫びがハーモニーを奏でた。
「えっと……ユニちゃんも入るのよね?」
自分の肩越しに問うアリスに、サムズアップだけで答える。
籠からタオルを手にして、前を隠しながら風呂へ素早く入り扉を閉める。そのアリスの背中を見送りながら、ゆっくり自分の服を脱ぎ始める。アリスの下着に手を伸ばしかけたが、もう一度唇をかんで自制する。
『巫女によってはー、側仕えの神官に服を脱がせてもらうんだけどねー』
「私の理性がもたん」
その場で襲い掛かる自信がある。
「あっつ!」
扉越しに、アリスにしては珍しい大きな声が聞こえた。
『なーるほどー。そこで足止めするために”温度高めにして”ってアリスちゃんにお願いしたのねー。策士よのー』
普段アリスは、自分で風呂を沸かして、お湯があったかいうちに素早く風呂に入っている。まだ王都で暮らしていた頃の話だが、たまには熱いお湯に入りたいだろうと、アリスが入る前に薪を追加しておいたら、そんなに熱くなっていないのにアリスの肌が真っ赤になっていた。そのことから、アリスは熱い風呂が苦手とユニは知っていた。
「その隙に服を脱いで扉を開ければ、熱さに身悶えするアリスを観賞できる!……あれ?」
勢いよく扉を開くと、期待していた絶景はなく、真っ赤な顔をしてアリスが湯船に肩まで浸かっていた。
(これはこれであり)
『ありね』
女神と意見が一致した。
タオルで体を隠すことなく、堂々とした態度で扉を閉め、掛け湯をして湯船に入る。
二人で入ると少しばかり狭く感じるが、個人宅にある湯船として考えたら十分な広さだ。そもそも、一般家庭に湯船はない。
『ユニー、私の知らない世界をありがとー。ここが天国かー』
「天国ってあるの?」
中央教会では、天国に行くために善行を積みなさい、と教えている。
『ないわよー』
「え? ないの?」
中央教会で散々言われていたので、あるものと思っていた。
「え? ないの?」
中央教会で真面目に勉強していたアリスも驚きだ。
『正確に言うと”あった”だねー。天国に行くための基準ってー、最低ラインでも厳しくってさー。もう何千年も天国に行けた人間がいないからー、なくしちゃったー。維持費も結構かかるしねー』
「え? 遊園地的なとこなの? てか、金の問題?」
『お金じゃなくー、維持するためのエネルギーだよー。遊園地みたいにアトラクションがあるわけじゃなくてー、ただ、なにもない空間でダラダラ過ごしていいよってだけー』
「それ、神様の言う休眠期間じゃないの?」
言い方が少し違うだけで、内容は同じに聞こえる。
『そだよー。あまりにも退屈で清廉な魂達が発狂するんだー。それを見て、私達の休眠期間の内容が決まったんだー』
「いやいや。神様にとっての拷問を、天国って言っちゃダメだよ」
『私達もー、最初はそれがご褒美になると思ってたんだよねー。ところが、天国に来た人間の魂が、もう、バッツンバッツンと弾けるもんだからー、さすがに”これ違くね?”って思って中止にした頃には、天国に来れるような善人がいなくなってたのー』
そして、最近になって維持するエネルギーの無駄遣いと言われるようになり、天国は閉鎖されたそうだ。
『やっぱー、無計画に箱物を作るべきじゃないよねー』
「ローランド王国でも、先王が命令して、未だ作り続けてる庭園があるんだけど、あれみたいなもんなのかな?」
中央教会の教えでは、人間は神を模して作られたらしい。だから、神と同じ失敗をするのだろうか。
「じゃあ、ヴァルハラもないの? 戦死者の館だっけ?」
『ヴァルハラって飲み屋ならあるよー。多分ー、戦神の誰かが人間に教えたのが伝言ゲームで間違って広まったんじゃないかなー? ちなみにー、ヴァルハラのお勧めはスジ煮込みー』
純粋な存在を汚してみたいという欲求から、天国を信じていたアリスに、今の話を伝えてみる。
「そっか、ないんだ」
「え? それだけ?」
思ったよりドライな反応だった。
「うん。教会で教わった話はなんだか胡散臭くて、話半分で聞いてた。あったらいいな、くらい?」
『中央教会では、腹黒いことで有名な法王も天国に行ったことになってるからねー』
「てか、なんでパンドラがそんなこと知ってるの?」
『ユニが授業中に居眠りしてると、視覚情報は閉ざされちゃうけどー、聴覚情報のリンクは生きたままだからねー』
ユニに代わって、授業を聞いていてくれたようだ。
「そんな便利な睡眠学習があるなら、もっと早く教えてよ」
パンドラの親切は、ユニの怠惰で台無しになった。この巫女に、女神の慈愛は伝わらないようだ。
「そういえば、パンドラっていつも私とリンクしてんの?」
『うん。神によっては、日に数回しかリンクしないってのもいるけどー、ユニの言動が面白いから、常に見ていたいし聞いていたいのー』
(笑わせるようなことしたかな?)
『人見知りで人嫌いを自称してるくせに寂しがり屋とかー、もう可愛すぎよ』
「今はアリスがいるから寂しくない」
常に見守っている女神に、嘘を言っても無駄なので本心を言ってみる。
「ユニちゃーん」
笑顔の天使に抱きつかれた。
ユニの薄い胸に当たる珠玉のクッション。
『うらやま!』
今日はパンドラへのご褒美のつもりだから、もう少しサービスしても良いかもしれない。
「パンドラ。アリスに触りたい?」
『愚問!』
「気に入らない返事だわ」
『ごめんなさい。触りたいです。揉みたいです。吸いたいです。ここ○ンを挟みたいです』
なんだかんだで付き合いが長くなったユニも、女神の本心にちょっと引く。
「ん。じゃあ、交代する?」
『いいの? ほんと? 嘘だったらペストばら撒くよ!』
「ほんじゃあ、神降しを要請する」
『受理する』
パンドラの一言と共に、ユニの意識がなにかに引っ張られる。
真っ暗な空間に精神体だけがフヨフヨ漂っている。神降ろしの実験で経験済みだが、あまり気持ちの良い感覚ではない。
『うっしゃー! 揉んだらー!』
元気の良いパンドラの言葉が、ユニの声で聞こえる。
意識を向けてみると、ユニの体が見ている映像がユニの精神体に流れ込む。
ワキワキさせながらアリスに詰め寄るユニの手と、突然口調が変わった幼馴染みに怯えるアリス。
「ほどほどにね」
女神が暴走しそうな気がしたので、一応言っておく。
『だいじょーうぶ! アリスちゃんを堪能するよー! てか、前髪邪魔!』
なにをもって大丈夫なのかわからないし、余計に不安になった。
前髪をかき上げたのか、視界が開ける。
「アリスの処女幕破ったらぶっ殺すよ」
最重要のこれだけは伝えておく。
神の命よりも重い。
「あと、前髪切るなよ」
ユニの対人障壁である前髪も、神の命より重い。
『え? 神様ですか? パンドラ様ですか? え? どうし、ひっ! ちょっ! 胸!』
パンドラによるアリスへのセクハラが本格的に始まった。
(さて、私はどうしよう)
パンドラのご褒美タイムを見学しながら考える。神降しをするのは二度目なので、精神体になるのも二度目だ。前回はすぐに体に戻してもらったので、今回は精神体がどうなっているのか見ようとして……失敗する。
そもそも目という概念がないみたいだ。手を持ち上げて手を見ようとしたのだが、手という概念もないようで、手に該当する部分が動いた感覚もない。
(できる事は、パンドラのセクハラを見学するだけか)
『パンドラさん。聞いてらっしゃるのかしら?』
ユニの体を使って発しているパンドラの声でも、アリスの声でもない、聞いたことのない女性の声がした。
(誰だ?)
声がした方へ意識を向ける。向けたつもりだが、どうも、向いているのかどうか自分では把握できない。自分をはっきりと把握できていないのに、精神体が声の方向へ引きずられる感覚だけは、はっきりとしていた。
「パンドラさん。仕事中に寝ないで下さいな」
(なに? 耳に聞こえた?)
今の声は、自分の耳に聞こえた声だ。
「パンドラさん?」
意識していなかったが、目を閉じていたのか。ゆっくりと瞼を開く。
「スクナビコナ殿からの伝言を、って、聞いていますの?」
声がした後へ振り向こうとして、前髪がないことに気付く。
(パンドラが、切った?)
一瞬、パンドラへの殺意が芽生えたが思い直す。
あの神は頭の悪そうな喋り方をするが、ユニが本当に嫌がることはしない。そのパンドラが、ユニのA○フィールドである前髪を切るなどありえない。
手を目の前に持ち上げようとする。
(動きが鈍い)
「パン、ドラ」
声も上手く出せない。
『今忙しー』
(これってまさか……パンドラの体?)
動きの鈍い腕を動かし、ゆっくりと胸に手を当てる。
明らかにユニより大きい。が、アリスほどではない。
(やっぱり。これって、パンドラの体だ。てか、ほんとに巨乳だったんだ)
胸の大きさで確信するのは癪だ。舌打ちしようとしたが、やはり体が上手く動かない。
(パンドラは私の体を上手く動かすのに……ああ、前に神降ろしした時に言ってたな)
神と人間ではスペックが違う。
神にとっては、人間の肉体を動かすのは簡単だ。手加減すれば。
精神体を、肉体を動かすための動力と仮定した場合、神にとって低スペックである人間の体は、手加減すれば普通に動かせる程度のものだ。精神体の性能を最大限に活かすことはできないが、それなりの反動を気にしなければ、人間の肉体の限界を超えることも可能だ。もっとも、反動で肉体が砕ける場合もあるけど。
対して、人間の精神体が神の肉体に入った場合は、その逆になる。
高性能すぎる肉体の性能を一割も引き出せないどころか、普通に動かすこともできない。ユニは気付いていないが、首を動かしたり腕を動かして胸を触るという動作も、人間の精神体でできる動作としては破格である。
偏にユニとパンドラの相性の良さが成せる業だが、パンドラはともかく、ユニは認めないだろう。
「パンドラさん?」
(さっきから、うるさいな)
なんだか偉そうな女性の声に眉をひそめる。
「そもそも、神に睡眠は不要でしょう。そのような暇があるのなら、神の威光で現世を照らしなさいな。まったく、これだから、災厄の女神なんて呼ばれるんですよ」
「うる、さい……な」
上手く動かせないのは変わらないが、それなりにパンドラの体を動かすコツを掴んだユニが、声の主に顔を向ける。
「うるさいってあなたね……」
「つぅ」
声の主は凄い美人だった。……多分。
ユニの視界には顔に靄がかかったような人が立っていたのだが、顔をよーく見ようとすると頭がズキンと痛む。それでも”なんとなく美人が見えたような気がする”という曖昧な認識だけが残った。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる