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第35話 危機的状況
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食事の後、早速P・Pギルドへ歩を進める。
まずは、最も近いギルドから。
ここにはフリーダムベルが設置されていて、全滅が通用する台としない台は全て把握している。
通用する台は3台のみ。
しかし、その3台には全て先客がいた。
3人は全員が全滅を使用している。
タケシの店でノアの持っていた攻略誌には全滅の方法も載っていた。
当然、ギルド側は全滅の使用を禁止していたが、この3人はスタッフの目を盗んで使っている。
いずれにしても攻略誌に載った以上、全滅が終わるのは時間の問題と考えた方がいい。
俺は、ため息をつきギルドを出た。
次に向かったのはコチンネタンルがあるギルド。
ノアに聞いた所、4枚掛けはまだどの攻略誌にも載っていないと言う。
問い詰められて4枚掛けをノアに教える事にはなってしまったが……
早速4枚掛けを試した所無事通用し、ホッと胸を撫でおろす。
しかし、このギルドは等価交換ではない。
なので、多めに4千枚のメダルを出し交換した。
等価交換ではないギルドなので、本来ならもっと多くのメダルを出したかったのだが、スタッフが俺を疑いの眼差しで見ていた気がしたのだ。
その証拠に、スタッフが俺の後ろで立ち止まる姿を何度も確認している。
フリーダムベルがこのギルドに設置されていた頃、全滅を使用してメダルを出していた時にはそんな事はなかった。
コチンネタンルは基盤の上書きをしたのではない。
連チャンのキモである「DS-90」を後から付けた物だ。
基盤自体は通常となっている。
「DS-90」を試験合格後に後付けした為、コチンネタンルはウラモノに分類された訳だが、コチンネタンルを通常、つまりノーマルに戻すには対策基盤へ取り換えるのではなく「DS-90」を外すだけで可能と手間もコストもそれ程かからない。
故に、規制する側がノーマルに戻す最有力だと思っていたが、まだ戻っていないようで安心した。
内規変更は全ギルド認知しているはず。
当然、そこで働くスタッフも把握しているはずだ。
みなし機の件含めて。
ギルド側も最有力候補だと思っていたのだろう。
エンドユーザーの予想も概ね同じだ。
そうなると、高設定にはまず期待できないし、実際投入していないのだろうな。
だから、メダルを多く出している人物は何か怪しい事をしていないか監視が厳しいと言う所か。
攻略誌には4枚掛けはまだ載っていないから、スタッフはこの攻略法を知らないはず。
4枚掛けの打ち方も少々特殊だから、スタッフは俺を執拗に監視していたのだろう。
途中で切り上げたのは正解だったのかもな。
次いで、マイルドキャッツ設置ギルドへ向かう。
チェリー抜きも攻略誌にはまだ載っていないそうだから、この攻略法もまだ使えるだろう。
時間的にもこのギルドが今日最後となる。
しかし、到着すると『本日定休日』の告知があった。
マイルドキャッツの設置ギルドはここだけではない。
少し足を延ばせば数軒ある。
だが、時間が中途半端だ。
今日は諦めて明日にするかと帰路に就く。
タケシの店でメシを食べて帰るかと歩を進めた。
明けて翌日。
いつもなら朝はゆっくりしてから行動を起こすのだがこの日は違った。
朝イチからフリーダムベルを攻めるのだ。
フリーダムベルが設置されているギルドは、近隣では最早昨日訪ねたギルドのみ。
そのギルドにも全滅が通用する台は3台しかない。
昨日見た限りではその3台を打っていた連中は全員が全滅を使っていた。
となれば、争奪戦が繰り広げられるだろうと予測したからだ。
その為、ギルドが開店する前から並ばなければならない。
フリーダムベルに拘るのは、全滅の効果が高いからだ。
コチンネタンルの4枚掛けは、その成功度が全滅に比べはるかに低い。
マイルドキャッツのチェリー抜きは、成功度こそ100%に近いが効率が良いとは言えない。
だから、全滅が完全に終わるまでは、メインにすると決めたのだ。
他に全滅並みのセット打法があれば良いのだが俺は知らないからな。
問題はスタッフの目を気にしなければならない事だ。
面倒くさがりな俺にしては、面倒極まりないのだが背に腹は代えられない。
それに、全滅が通用しなくなるのはそう遠い未来ではないだろう。
それぐらいの期間であれば、面倒を受け入れるのもやぶさかではない。
そんな事を考えているとギルドへ着いた。
だが、その光景を見て認識が甘かったと実感する。
並んでいる人の数が異常に多いのだ。
そう言えば今日は週末で、世間一般では多くの人が休日にあたる。
こっちの世界に来てから、俺は毎日休日みたいなモノだったから週末は休日と言う事を失念していた。
この時代では、入場抽選なんて物は存在しないだろう。
並んだ順で入場となるはずだ。
ザッと見た所100人程か。
全員がフリーダムベルに行くとは思えないが、全滅が通用する3台を確保出来るかは正直微妙だ。
オープンまでおよそ10分。
もっと早くくれば良かったと後悔するも後の祭り。
一縷の望みを持って列の最後尾に加わる。
オープン時間となり人が雪崩れ込む。
流されるままに入場し、フリーダムベルに一目散に向かう。
だが、やはり通用する3台はすでに確保されていた。
暫く観察していると、全員が全滅を使っている。
これは偶然ではなく、この3人は全滅を使う前提でフリーダムベルを打ちにきた証拠だ。
それは、この3台が空き台になる可能性が限りなく低い事を意味する。
今日は休日だからこの人数なのだろう。
平日ならば、人数は減ると予想できる。
あくまでも予想なので、検証は必要だ。
週明けに検証に来ようとこのギルド後にした。
次に向かったのはマイルドキャッツ設置ギルド。
昨日は定休日だったギルドだ。
流石に二日連続で定休日ではないだろうと予想していた通り今日は開いている。
入店しマイルドキャッツを目指す。
「なっ、なんだこれは」
俺は絶句した。
そこには、電源が落とされ『調整中』と書かれた札が立てられていたのだ。
それも、マイルドキャッツ全台に。
「シマ封鎖ってヤツか」
そう独り言ちる。
ギルドがどこかでチェリー抜きの情報を掴んだが故のシマ封鎖か。
それとも、基盤交換の為の封鎖か。
マイルドキャッツは注射によりウラモノ化された機種だ。
部品を外すだけでノーマル化するコチンネタンルと違い、ノーマルに戻すには基盤の交換が必要だ。
だから、掛かる手間は段違いとなる。
営業中に基盤交換をする事も考えられるが、そんな様子はない。
尤も、営業中に客の前で堂々と基盤の交換なんてしないだろう。
客はウラモノを打ちに来ている。
そのウラモノを衆人環視の前でノーマルに戻すとなれば、ギルドは客に来なくてもいいと言っているようなものだ。
となれば、チェリー抜きをどこかで掴んだと考えられる。
なら、基盤の交換、もしくは新機種への入れ替えが完了するまでシマ封鎖する可能性が高い。
問題は、チェリー抜きがどこまで把握されているのかだ。
マイルドキャッツ設置ギルドは複数ある。
このギルドだけなら問題ないのだが、全ての設置ギルドが把握しているのなら、このギルド同様シマ封鎖か、そうでない場合は基盤の交換が済んでいるのだろう。
検証の為、他のマイルドキャッツ設置ギルドへ向かう。
と、その前に。
途中にコチンネタンル設置ギルドがある。
昨日寄ったギルドとは別で、ここは等価交換だ。
まずは日当を稼ぐかと寄る事にした。
ここもシマ封鎖していないだろうかと不安に思ったがそんな事はなかった。
だが、以前と比べると客が少ない。
いや、少ないどころかゼロだ。
今日、世間は休日だから客は多いはずだ。
最初に行ったフリーダムベル設置ギルドがそれを証明しているし、現にこのギルドでもパチンコの方の客は多い。
今日は回収日なのか?
しかし、俺には関係ない。
4枚掛けに台の優劣は関係ないからな。
早速打ち始める。
最初の千エソでは全て4枚掛けは失敗。
これは、最初の検証でもそうだったし、その後稼いできた時にも同様だったので追加投資。
しかし、次の千エソでも全て失敗した。
個体によって差があるのか、成功しやすい台と、そうでない台があると今までの経験則から学んでいるからこれは許容範囲内。
これまで、4枚掛けを使用した時の最大投資は5千エソ。
あくまでも俺の感覚的な物だが、成功するにはコツがありそのコツにも個体差がある。
一度コツを掴めば後は成功率が上がるのだが、今打っている台は手強そうだ。
5千エソ分のメダルを使い切ったが成功していないのだからな。
もちろん追加投資。
するも、またもや一度も成功せずにメダルは消滅。
この頃には、チラホラと他の客もコチンネタンルを打っていた。
中には早速ビッグボーナスを引いていた者もいたが後が続いていない。
そして、投資が1万エソに達した頃、一つの仮説にたどり着いた。
「対策済み?」
このギルドに限らずだが、俺は引きこもっていた訳だから久しくギルドへは行ってなかった。
その間に対策が施され、客もおかしいと思ったのだろう。
その結果が、この客付きか。
そう考えると辻褄が合う。
いや、そう考えた方が妥当か。
果たしてこのギルドだけなのか。
もしくは、コチンネタンル設置ギルド全てがそうなのか。
いや、昨日のギルドでは通用したから全てではないか。
しかし、その手軽さから一日でノーマル化されていてもおかしくはない。
これも検証の必要があるな。
とりあえず、このまま打ち続けるのは危険だ。
当初の予定通り、マイルドキャッツ設置ギルドへ向かうかとこのギルドを出る。
「あら、ムコウマルさん」
マイルドキャッツ設置ギルドへ向かう道すがら。
ナナとばったり会い声を掛けられた。
制服姿だから仕事中なのだろう。
「おう、ナナ、お疲れさん。 巡回か?」
「いや、あそこのギルドにちょっと」
そう言い、俺が行こうとしたギルドを指さす。
ん?
いくらギャン中と言っても仕事中にギャンブルはすまい。
いや、制服姿だからと言って仕事中とは限らないか。
「お前、その恰好で打つつもりなのか?」
「打つ? あっ、ちゃうちゃう、仕事やで仕事」
「仕事?」
ナナは警官だ。
仕事で行くとなると、あのギルドで何かトラブルでもあったのか?
だとすれば、営業をしていない事も考えられる。
そうなると、また別のギルドへ行かなければならない。
なんか色々と噛み合っていないな。
「あそこのギルドで何かあったのか?」
「何か? いや、別に何もないで」
「なら、ギルドで仕事ってのは?」
「ああ、それはなぁ~」
ナナの仕事と言うのは台の入れ替え後の検査だった。
聞けば、昨日中に台の入れ替えは終わっていて、今日は入れ替え後に違法な事が無いかと検査をするのがナナの仕事らしい。
そして、その検査が合格であれば、晴れてギルドは新台での営業が可能だと言うのだ。
となれば……
「もしかして、そのギルドは今日は休みなのか?」
その検査の時間がどれぐらい掛かるか分からない。
もし休みなら、本当に噛み合っていないな。
「いや、確か認可が降りたら営業するって言ってたで」
そう言う事か。
確かに、入れ替え毎に休みにしていたらギルドも売り上げが無いから困るだろう。
夕方から営業なら時間も短いから、マイルドキャッツにはあまり向かないが仕方がない。
チェリー抜きが通用する間は積極的に打って行こう。
「そうか。 その検査はどれぐらいの時間が掛かるものなんだ?」
「う~ん、せやな。 基盤に封印シールが貼られてるんやけど、そのシールの確認と、剝がされたり破れた跡とかがないか調べんねん。 基盤の位置とか見やすさはメーカーによってまちまちやけど、今回のメーカーの基盤の位置はこれまで比較的見やすい所にあったからそんな時間掛かれへんと思うで」
だから、ギルドが営業し始めるのは夕方ぐらいかなとナナは言う。
夕方からなら閉店まで5~6時間って所か。
マイルドキャッツの攻略法は1ゲームあたり1枚+αのメダルが増える。
チェリー抜きは1枚掛けの低確率ながら、他の小役はもちろんボーナスまでも抽選しているからだ。
現行機の規制では1ゲームあたり4秒のウェイトが掛かる。
単純計算で1時間あたりの消化ゲーム数は900ゲームとなるがそれは少々現実的ではない。
少なく見積もって800ゲームと考えた方が無難か。
なら、最低でも5時間×800枚=4000枚+αのメダルが獲得出来る。
このギルドは確か等価交換だったな。
「ありがとう。 夕方覗きにくるよ」
「ああっ! アタシも仕事ちゃうかったら来たかったのに」
「ん? そうなのか? 何故?」
「ここのギルドの新台入れ替え初日には高設定がゴロゴロあんねん。 まぁ、その分営業時間は短いねんけどな」
「営業時間が短い?」
「せやね、多分3時間ぐらいちゃうかな」
3時間か。
それでも、2400枚+αか。
しかも、ナナの話しによると高設定がゴロゴロあるとの事なので、その高設定を打つ事が出来れば+αの枚数は増える。
悪くない。
悪くないのだが、問題もある。
それは、マイルドキャッツを打てるか?だ。
ナナによると、このギルドの新台には高設定がゴロゴロ入るのは周知されているらしい。
となれば、開店時には多くの人が来るはずだ。
現に、まだ時間があるにも関わらずギルドの前には数人の姿がある。
恐らく、この時間から開店待ちをしているのだろう。
仕方がない。
打てないのは論外だから、俺も今から並ぶか。
幸い、近頃は暑さもマシになってきて、今日は一段と過ごしやすい日だからな。
「おっと、そろそろアタシは行かなアカンから」
「分かった。 お前の分までしっかり出してやるからな」
「えぇっ!ムコウマルさんここで打つの? ええなぁ~」
「はっはっはっ。 ちょっと早いが今から並んで高設定に座ってやるからな」
「今から!? まぁ、その方が確実やもんな。 それじゃ、頑張って」
そう言ってナナはギルドの裏口の方へと向かって行った。
さて、俺も並ぶか。
その前に、開店までの退屈しのぎに目の前のコンビニで新聞を買ってこよう。
新聞を購入し、列の最後尾に加わる。
コンビニに行く前より人数は増えているが、この人数なら間違いなくマイルドキャッツには座れる。
このギルドはこの時代には珍しく、整列入場らしいからな。
新台には高設定がゴロゴロあるとの事だから、後はそのゴロゴロに座れるかどうかだ。
……ん?
……新台?
……高設定がゴロゴロ?
……んん??
俺の記憶だと、この時代にパチンコに設定のある機種は存在しないはず。
だから、パチンコには高設定の概念がない。
高・低設定の概念があるのはパチスロだけだ。
だから、今回の新台入れ替えはパチスロとなる。
新台が入るって事は、以前に設置されていた機種は入れ替えられたって事だ。
つまり、以前の機種は無い事になる。
それがどう言う事か理解した俺は、顔から血の気が引くのが分かった。
「マイルドキャッツが外された」
バサリ、と手にしていた新聞が落ちた音がした。
まずは、最も近いギルドから。
ここにはフリーダムベルが設置されていて、全滅が通用する台としない台は全て把握している。
通用する台は3台のみ。
しかし、その3台には全て先客がいた。
3人は全員が全滅を使用している。
タケシの店でノアの持っていた攻略誌には全滅の方法も載っていた。
当然、ギルド側は全滅の使用を禁止していたが、この3人はスタッフの目を盗んで使っている。
いずれにしても攻略誌に載った以上、全滅が終わるのは時間の問題と考えた方がいい。
俺は、ため息をつきギルドを出た。
次に向かったのはコチンネタンルがあるギルド。
ノアに聞いた所、4枚掛けはまだどの攻略誌にも載っていないと言う。
問い詰められて4枚掛けをノアに教える事にはなってしまったが……
早速4枚掛けを試した所無事通用し、ホッと胸を撫でおろす。
しかし、このギルドは等価交換ではない。
なので、多めに4千枚のメダルを出し交換した。
等価交換ではないギルドなので、本来ならもっと多くのメダルを出したかったのだが、スタッフが俺を疑いの眼差しで見ていた気がしたのだ。
その証拠に、スタッフが俺の後ろで立ち止まる姿を何度も確認している。
フリーダムベルがこのギルドに設置されていた頃、全滅を使用してメダルを出していた時にはそんな事はなかった。
コチンネタンルは基盤の上書きをしたのではない。
連チャンのキモである「DS-90」を後から付けた物だ。
基盤自体は通常となっている。
「DS-90」を試験合格後に後付けした為、コチンネタンルはウラモノに分類された訳だが、コチンネタンルを通常、つまりノーマルに戻すには対策基盤へ取り換えるのではなく「DS-90」を外すだけで可能と手間もコストもそれ程かからない。
故に、規制する側がノーマルに戻す最有力だと思っていたが、まだ戻っていないようで安心した。
内規変更は全ギルド認知しているはず。
当然、そこで働くスタッフも把握しているはずだ。
みなし機の件含めて。
ギルド側も最有力候補だと思っていたのだろう。
エンドユーザーの予想も概ね同じだ。
そうなると、高設定にはまず期待できないし、実際投入していないのだろうな。
だから、メダルを多く出している人物は何か怪しい事をしていないか監視が厳しいと言う所か。
攻略誌には4枚掛けはまだ載っていないから、スタッフはこの攻略法を知らないはず。
4枚掛けの打ち方も少々特殊だから、スタッフは俺を執拗に監視していたのだろう。
途中で切り上げたのは正解だったのかもな。
次いで、マイルドキャッツ設置ギルドへ向かう。
チェリー抜きも攻略誌にはまだ載っていないそうだから、この攻略法もまだ使えるだろう。
時間的にもこのギルドが今日最後となる。
しかし、到着すると『本日定休日』の告知があった。
マイルドキャッツの設置ギルドはここだけではない。
少し足を延ばせば数軒ある。
だが、時間が中途半端だ。
今日は諦めて明日にするかと帰路に就く。
タケシの店でメシを食べて帰るかと歩を進めた。
明けて翌日。
いつもなら朝はゆっくりしてから行動を起こすのだがこの日は違った。
朝イチからフリーダムベルを攻めるのだ。
フリーダムベルが設置されているギルドは、近隣では最早昨日訪ねたギルドのみ。
そのギルドにも全滅が通用する台は3台しかない。
昨日見た限りではその3台を打っていた連中は全員が全滅を使っていた。
となれば、争奪戦が繰り広げられるだろうと予測したからだ。
その為、ギルドが開店する前から並ばなければならない。
フリーダムベルに拘るのは、全滅の効果が高いからだ。
コチンネタンルの4枚掛けは、その成功度が全滅に比べはるかに低い。
マイルドキャッツのチェリー抜きは、成功度こそ100%に近いが効率が良いとは言えない。
だから、全滅が完全に終わるまでは、メインにすると決めたのだ。
他に全滅並みのセット打法があれば良いのだが俺は知らないからな。
問題はスタッフの目を気にしなければならない事だ。
面倒くさがりな俺にしては、面倒極まりないのだが背に腹は代えられない。
それに、全滅が通用しなくなるのはそう遠い未来ではないだろう。
それぐらいの期間であれば、面倒を受け入れるのもやぶさかではない。
そんな事を考えているとギルドへ着いた。
だが、その光景を見て認識が甘かったと実感する。
並んでいる人の数が異常に多いのだ。
そう言えば今日は週末で、世間一般では多くの人が休日にあたる。
こっちの世界に来てから、俺は毎日休日みたいなモノだったから週末は休日と言う事を失念していた。
この時代では、入場抽選なんて物は存在しないだろう。
並んだ順で入場となるはずだ。
ザッと見た所100人程か。
全員がフリーダムベルに行くとは思えないが、全滅が通用する3台を確保出来るかは正直微妙だ。
オープンまでおよそ10分。
もっと早くくれば良かったと後悔するも後の祭り。
一縷の望みを持って列の最後尾に加わる。
オープン時間となり人が雪崩れ込む。
流されるままに入場し、フリーダムベルに一目散に向かう。
だが、やはり通用する3台はすでに確保されていた。
暫く観察していると、全員が全滅を使っている。
これは偶然ではなく、この3人は全滅を使う前提でフリーダムベルを打ちにきた証拠だ。
それは、この3台が空き台になる可能性が限りなく低い事を意味する。
今日は休日だからこの人数なのだろう。
平日ならば、人数は減ると予想できる。
あくまでも予想なので、検証は必要だ。
週明けに検証に来ようとこのギルド後にした。
次に向かったのはマイルドキャッツ設置ギルド。
昨日は定休日だったギルドだ。
流石に二日連続で定休日ではないだろうと予想していた通り今日は開いている。
入店しマイルドキャッツを目指す。
「なっ、なんだこれは」
俺は絶句した。
そこには、電源が落とされ『調整中』と書かれた札が立てられていたのだ。
それも、マイルドキャッツ全台に。
「シマ封鎖ってヤツか」
そう独り言ちる。
ギルドがどこかでチェリー抜きの情報を掴んだが故のシマ封鎖か。
それとも、基盤交換の為の封鎖か。
マイルドキャッツは注射によりウラモノ化された機種だ。
部品を外すだけでノーマル化するコチンネタンルと違い、ノーマルに戻すには基盤の交換が必要だ。
だから、掛かる手間は段違いとなる。
営業中に基盤交換をする事も考えられるが、そんな様子はない。
尤も、営業中に客の前で堂々と基盤の交換なんてしないだろう。
客はウラモノを打ちに来ている。
そのウラモノを衆人環視の前でノーマルに戻すとなれば、ギルドは客に来なくてもいいと言っているようなものだ。
となれば、チェリー抜きをどこかで掴んだと考えられる。
なら、基盤の交換、もしくは新機種への入れ替えが完了するまでシマ封鎖する可能性が高い。
問題は、チェリー抜きがどこまで把握されているのかだ。
マイルドキャッツ設置ギルドは複数ある。
このギルドだけなら問題ないのだが、全ての設置ギルドが把握しているのなら、このギルド同様シマ封鎖か、そうでない場合は基盤の交換が済んでいるのだろう。
検証の為、他のマイルドキャッツ設置ギルドへ向かう。
と、その前に。
途中にコチンネタンル設置ギルドがある。
昨日寄ったギルドとは別で、ここは等価交換だ。
まずは日当を稼ぐかと寄る事にした。
ここもシマ封鎖していないだろうかと不安に思ったがそんな事はなかった。
だが、以前と比べると客が少ない。
いや、少ないどころかゼロだ。
今日、世間は休日だから客は多いはずだ。
最初に行ったフリーダムベル設置ギルドがそれを証明しているし、現にこのギルドでもパチンコの方の客は多い。
今日は回収日なのか?
しかし、俺には関係ない。
4枚掛けに台の優劣は関係ないからな。
早速打ち始める。
最初の千エソでは全て4枚掛けは失敗。
これは、最初の検証でもそうだったし、その後稼いできた時にも同様だったので追加投資。
しかし、次の千エソでも全て失敗した。
個体によって差があるのか、成功しやすい台と、そうでない台があると今までの経験則から学んでいるからこれは許容範囲内。
これまで、4枚掛けを使用した時の最大投資は5千エソ。
あくまでも俺の感覚的な物だが、成功するにはコツがありそのコツにも個体差がある。
一度コツを掴めば後は成功率が上がるのだが、今打っている台は手強そうだ。
5千エソ分のメダルを使い切ったが成功していないのだからな。
もちろん追加投資。
するも、またもや一度も成功せずにメダルは消滅。
この頃には、チラホラと他の客もコチンネタンルを打っていた。
中には早速ビッグボーナスを引いていた者もいたが後が続いていない。
そして、投資が1万エソに達した頃、一つの仮説にたどり着いた。
「対策済み?」
このギルドに限らずだが、俺は引きこもっていた訳だから久しくギルドへは行ってなかった。
その間に対策が施され、客もおかしいと思ったのだろう。
その結果が、この客付きか。
そう考えると辻褄が合う。
いや、そう考えた方が妥当か。
果たしてこのギルドだけなのか。
もしくは、コチンネタンル設置ギルド全てがそうなのか。
いや、昨日のギルドでは通用したから全てではないか。
しかし、その手軽さから一日でノーマル化されていてもおかしくはない。
これも検証の必要があるな。
とりあえず、このまま打ち続けるのは危険だ。
当初の予定通り、マイルドキャッツ設置ギルドへ向かうかとこのギルドを出る。
「あら、ムコウマルさん」
マイルドキャッツ設置ギルドへ向かう道すがら。
ナナとばったり会い声を掛けられた。
制服姿だから仕事中なのだろう。
「おう、ナナ、お疲れさん。 巡回か?」
「いや、あそこのギルドにちょっと」
そう言い、俺が行こうとしたギルドを指さす。
ん?
いくらギャン中と言っても仕事中にギャンブルはすまい。
いや、制服姿だからと言って仕事中とは限らないか。
「お前、その恰好で打つつもりなのか?」
「打つ? あっ、ちゃうちゃう、仕事やで仕事」
「仕事?」
ナナは警官だ。
仕事で行くとなると、あのギルドで何かトラブルでもあったのか?
だとすれば、営業をしていない事も考えられる。
そうなると、また別のギルドへ行かなければならない。
なんか色々と噛み合っていないな。
「あそこのギルドで何かあったのか?」
「何か? いや、別に何もないで」
「なら、ギルドで仕事ってのは?」
「ああ、それはなぁ~」
ナナの仕事と言うのは台の入れ替え後の検査だった。
聞けば、昨日中に台の入れ替えは終わっていて、今日は入れ替え後に違法な事が無いかと検査をするのがナナの仕事らしい。
そして、その検査が合格であれば、晴れてギルドは新台での営業が可能だと言うのだ。
となれば……
「もしかして、そのギルドは今日は休みなのか?」
その検査の時間がどれぐらい掛かるか分からない。
もし休みなら、本当に噛み合っていないな。
「いや、確か認可が降りたら営業するって言ってたで」
そう言う事か。
確かに、入れ替え毎に休みにしていたらギルドも売り上げが無いから困るだろう。
夕方から営業なら時間も短いから、マイルドキャッツにはあまり向かないが仕方がない。
チェリー抜きが通用する間は積極的に打って行こう。
「そうか。 その検査はどれぐらいの時間が掛かるものなんだ?」
「う~ん、せやな。 基盤に封印シールが貼られてるんやけど、そのシールの確認と、剝がされたり破れた跡とかがないか調べんねん。 基盤の位置とか見やすさはメーカーによってまちまちやけど、今回のメーカーの基盤の位置はこれまで比較的見やすい所にあったからそんな時間掛かれへんと思うで」
だから、ギルドが営業し始めるのは夕方ぐらいかなとナナは言う。
夕方からなら閉店まで5~6時間って所か。
マイルドキャッツの攻略法は1ゲームあたり1枚+αのメダルが増える。
チェリー抜きは1枚掛けの低確率ながら、他の小役はもちろんボーナスまでも抽選しているからだ。
現行機の規制では1ゲームあたり4秒のウェイトが掛かる。
単純計算で1時間あたりの消化ゲーム数は900ゲームとなるがそれは少々現実的ではない。
少なく見積もって800ゲームと考えた方が無難か。
なら、最低でも5時間×800枚=4000枚+αのメダルが獲得出来る。
このギルドは確か等価交換だったな。
「ありがとう。 夕方覗きにくるよ」
「ああっ! アタシも仕事ちゃうかったら来たかったのに」
「ん? そうなのか? 何故?」
「ここのギルドの新台入れ替え初日には高設定がゴロゴロあんねん。 まぁ、その分営業時間は短いねんけどな」
「営業時間が短い?」
「せやね、多分3時間ぐらいちゃうかな」
3時間か。
それでも、2400枚+αか。
しかも、ナナの話しによると高設定がゴロゴロあるとの事なので、その高設定を打つ事が出来れば+αの枚数は増える。
悪くない。
悪くないのだが、問題もある。
それは、マイルドキャッツを打てるか?だ。
ナナによると、このギルドの新台には高設定がゴロゴロ入るのは周知されているらしい。
となれば、開店時には多くの人が来るはずだ。
現に、まだ時間があるにも関わらずギルドの前には数人の姿がある。
恐らく、この時間から開店待ちをしているのだろう。
仕方がない。
打てないのは論外だから、俺も今から並ぶか。
幸い、近頃は暑さもマシになってきて、今日は一段と過ごしやすい日だからな。
「おっと、そろそろアタシは行かなアカンから」
「分かった。 お前の分までしっかり出してやるからな」
「えぇっ!ムコウマルさんここで打つの? ええなぁ~」
「はっはっはっ。 ちょっと早いが今から並んで高設定に座ってやるからな」
「今から!? まぁ、その方が確実やもんな。 それじゃ、頑張って」
そう言ってナナはギルドの裏口の方へと向かって行った。
さて、俺も並ぶか。
その前に、開店までの退屈しのぎに目の前のコンビニで新聞を買ってこよう。
新聞を購入し、列の最後尾に加わる。
コンビニに行く前より人数は増えているが、この人数なら間違いなくマイルドキャッツには座れる。
このギルドはこの時代には珍しく、整列入場らしいからな。
新台には高設定がゴロゴロあるとの事だから、後はそのゴロゴロに座れるかどうかだ。
……ん?
……新台?
……高設定がゴロゴロ?
……んん??
俺の記憶だと、この時代にパチンコに設定のある機種は存在しないはず。
だから、パチンコには高設定の概念がない。
高・低設定の概念があるのはパチスロだけだ。
だから、今回の新台入れ替えはパチスロとなる。
新台が入るって事は、以前に設置されていた機種は入れ替えられたって事だ。
つまり、以前の機種は無い事になる。
それがどう言う事か理解した俺は、顔から血の気が引くのが分かった。
「マイルドキャッツが外された」
バサリ、と手にしていた新聞が落ちた音がした。
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