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第24話 タークリーの目論み
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― タークリー視線 ―
「ムコウマルだと?」
「はい、間違いありません。 ⅤIPルームでプレイしたいと。 金もふさわしい額を持ってきています」
「金なら当然だろう。 だが、なぜ?」
「短時間でヒリついた勝負がしたいそうです。 丁半博打ならおあつらえむきだと」
ムコウマル・サトシ。
ヤツはここ「南国」のギャンブルを取りまとめている男。
その名は、ギャンブルに携わっている人間であれば、知らない人間を探す方が困難だろう。
それは、「南国」だけに留まらず、世界中に知れ渡っている。
この男が厄介なのは、その背後に世界から一国の軍と認められる程の軍事力を持つと言われる自警団組織があるからだ。
なんでも、自警団組織を結成するにあたり、世界中の武器弾薬を集められるだけ集めようと計画したらしい。
そして、その金を用意したのがムコウマルだと言うのだ。
我々マフィアも、当然武装はしている。
しかし、一国の軍と認められる程の武力には到底敵わない。
絶対に敵対したくない男だ。
「分かった、俺が行こう」
「南国」は税さえ払えば、一般企業だろうがマフィアだろうが、ギャンブルの運営権が与えられるのだが、その税はとてつもなく重い。
規制が皆無なギャンブル大国である「南国」には、世界中からギャンブラーが訪れる為、莫大な金を落としていく。
重い税を払ってまで、ギャンブルを運営したいと言う輩が多いのは当然だ。
しかし、そんな重い税をまともに払うなんて馬鹿がする事。
適当に払っておけばいいのだ。
もちろん目を付けられるが、そんな時は下っ端を差し出しすように仕向けている。
下っ端なんていくらでも補充できるからな。
「お待たせしました、当賭場を仕切っているタークリーと申します。 はじめまして」
「これはご丁寧に。 ムコウマルだ」
「お噂は聞いていますよ」
「悪い噂だな」
「とんでもございません」
作り笑顔で握手を交わす。
この男、本当に遊びに来ただけなのか?
それとも、何か他の狙いがあるのか?
その笑顔からは、真意は読み取れない。
「ムコウマル様は高レートでお遊びしたいとお聞きしたのですが」
「ああ、そうだ」
「本来なら一見様はお断りしているのですが……」
「金ならある、キャッシュでだ」
「はい、お伺いしています。 ですが、一体どれほどのレートでのご遊技をお求めでしょう」
「どれほどのレート? ミニマムベットはここの通常でいい、MAXベットを青天井にしてくれれば」
「青天井?」
「ああ」
青天井だと。
この男、何を考えている。
ヘタをすれば、この賭場は潰れる事になる。
この要求は断るべきだ。
「それだと賭場が成立しないのですが」
やんわりと断ってみるが、ムコウマルはそんな事はありえないと言う。
確かにその通りだ。
丁半博打の性質上、偏りは必ず生じる。
その場合、場を流すか我々が足りない分を補充する。
流すのはあまり好ましくない。
我々の利益は全くなくなるからだ。
必然的に我々が補充する事になるのだが、リスクはある。
我々には、選択肢がないからだ。
だが、それは普通の丁半博打の賭場の場合だ。
ウチのディーラーは壺を振った時点ではもちろん、壺を開ける際にも出目を操作できるよう訓練をしている。
熟度に個人差はあるが、よほどの人間でもない限り壺を開ける際に操作したとは気づかない。
だから、金銭的リスクは無いに等しいのだが、バレた時のリスクはある。
「イカサマだ!」と言われれば、その噂はたちまち広がり、ウチに来る客は減る、いや、誰も来なくなるだろう。
返答に困っていると、ムコウマルは驚くべき提案をしてきた。
手数料を先に払うと言うのだ。
その額、1億デン。
それだけ勝つ自信があるのかと思えば、負けた場合は返してもらうと言う。
それも、無理を言った迷惑料として、10%は引いても構わないと。
さらに、仮に勝ったとしたら、その1億は全て手数料として払うと言うのだ。
そこまでする意図はなんだ?
本当に遊びにきただけなのか?
部下からは、自分では持ち切れないから人を待機させていると聞いた。
ムコウマルが持っていたのは2億だ。
待たせているのもせいぜい一人か二人だろう。
それなら、計6億。
その内、1億はこっちが預かっているから5億。
多く見積もっても10億と言った所か。
仮に、ムコウマルが10億勝負に出て、額が揃わなくウチが全額補充したとしても払えない額ではない。
流石に10億ともなれば、我々も甚大なダメージを負うが致命的でもない。
ましてや、そうなればこっちは出目を操作できる。
10億丸儲けだ。
本来であれば、ⅤIPルームに信用の無い一見は断っている。
ヒリついた勝負をしたいと言っていたから、10億は使い切るつもり、いや、使いきらせる。
ヤツにとっては大した額でもあるまい。
いずれにせよ、我々には損はない。
存分に遊んで行ってもらおうじゃないか。
そう思い、案内しようとするが、追加で提案をしてきた。
「流し」はなしで頼むと。
ヤツはヒリついた勝負をしにきたのだから、その場面を潰されてはここに来た意味がないと言う。
言い分は尤もだな。
ならば、本当に遊びにきただけなのだろう。
俺はその提案を呑んだ。
テーブルについたムコウマルが早速ベットする。
その額百万。
持って来た金の割には少ないと思ったのだが、最初だから様子見なのだろう。
部下も同意見のようだ。
最初の勝負はムコウマルの負け。
だが、次の勝負でムコウマルは3倍の3百万をベットした。
なるほど。
ここ「南国」でのギャンブルを取り仕切るだけあってバカではないようだ。
マーチンゲールを応用している。
このやり方は資金が豊富にないと出来ない方法だから、資金がある証拠でもある。
この勝負はムコウマルが勝った。
今は完全に天運武運だからそう言う事もある。
俺は、純粋にムコウマルを祝福する。
この調子で気持ちよく遊んでくれ。
次にムコウマルがベットした額は1千万。
守りに入らないのは、本当にヒリついた勝負をしたいのだろう。
1千万ともなれば、我々に入る手数料は50万以上になる。
ⅤIPルームの客は富裕層ばかりで高額なベットは茶飯事だが、一勝負に1千万をベットする客は一握りだ。
今日の客は、その一握りの連中が数名居るから額はすんなり揃った。
ここでも、ムコウマルは負けた。
この負けで、ムコウマルの手持ちの金は9千万と少しと言った所か。
それだけの手持ちでは、次の勝負で3倍の金はベットしてこないだろうと思っていたが、ムコウマルは何の躊躇いもなく3千万をベットした。
そうか、まだ金を持っているヤツを待たせていると言っていたな。
だから、まだ金はあると。
面白い男だ。
少しサービスしてやるか。
俺はディーラーに目配せをする。
これは、ムコウマルに勝たせてやれとのサインだ。
3千万は魅力的だから、ゾロ目を出せとの指示もした。
これで、我々の利益は3百万以上になる。
ディーラーは了解のサインを送ってくる。
コッ
「ピンゾロの丁!」
チッ。
壺を開ける段階で出目を操作するには、バレないようにそれなりの練度が必要だ。
このディーラーは練度がイマイチのようだな。
壺とダイスが触れる音が漏れた。
大丈夫か?
気付かれていないか?
ムコウマルはその手腕でここまで上り詰めた男だ。
些細な事でも気付かれかねない。
だが、そんな不安をヨソにムコウマルに変化はない。
気付かれなかったか。
それとも、気付いたが自分は勝ったからスルーしたのか。
勝たせたのは正解だったな。
ムコウマルは次に1億をベットした。
ハイローラー達も、この額には騒然とした。
額が揃わなければ、我々が補充しなければならない。
ムコウマルは1億ベットしたから、少なくとも5百万以上は手数料として我々に入ってくる。
ゾロ目はさっき出したばかりでもう出せない。
補充金額が5百万以内であれば、例え外れても利益が出る。
そう思っていたのだが、額は揃い、補充するに至らなかった。
流石、一握りのハイローラーが数人いるだけの事はある。
ディーラーに確認すると、ムコウマルは外したとサインが返ってきた。
ここも天運武運だったから、ツイてない男だ。
ムコウマルにとってははした金で、失ったとしても痛くも痒くもないだろうがな。
しかし、天運武運もここまでだ。
これからは毟り取ってやる。
部下にアイツを呼べと指示をする。
アイツはウチの組織で一番の技術を持っている。
それも、壺振りだけではなくどのギャンブルでも技術は一流だ。
まさに、ディーラーになる為に産まれてきたと言ってもいい。
アイツをウチに招き入れる事ができたのは、思いがけない僥倖だ。
壺が開けられる。
確認した通り、ムコウマルの負けだ。
ここで、ムコウマルが俺に言ってきた。
ベットしたい金が足りないから、外で金を持って待機している者を呼んでいいかと。
もちろん問題ない。
俺が了承すると、ムコウマルは電話を掛けだした。
電話が終わったのを見計らってムコウマルに話し掛ける。
「では、その間にディーラーを交代致します」
「ディーラーを交代?」
「ええ、ちょうど交代の時間ですので」
ムコウマルは疑問に思うも、交代の時間だと告げると何も言わない。
了承したのだろう。
例え了承していなくても、ディーラーにも休憩が必要だと押し通していたがな。
「お待たせしました。 宜しくお願いします」
交代したディーラーがやって来る。
そのタイミングで別の部下が耳打ちしてくる。
「ⅤIPルームに用があると言っている者がいるのですが」
ムコウマルに金を持ってきたのだろう。
その事は、言っていたはずなのになぜわざわざ確認しにくる。
「構わん、通せ」
「で、ですが」
「大丈夫だ、こちらのムコウマル様のお連れ様だ」
「わ、分かりました」
少しして、男が入ってきた。
その両手にアタッシュケースを持って。
続いて、同じ鞄を持った男が二人入ってきた。
一人か二人だと思っていたが三人か。
一人多いがそれでも推定6億だ。
10億には程遠い。
だが、三人では済まなかった。
同様のアタッシュケースを持った男達が次々と入ってくる。
「ム、ムコウマル様、こ、これは」
「ん? さっき言っただろ? 外で待たせていた者“達”だ」
その数、合計25人。
一人あたり2億持ってきたとして50億だ。
さすがに、これだけの額は想定外だ。
一体この男は……
「こ、これほどの額をベットされるおつもりですか?」
「もちろんだ、これも言っただろ? ヒリついた勝負がしたいと」
これ程の額となれば、いくらなんでも。
「で、ですが、これほどの額となればベットが揃いません」
「揃わない? そんな時はルールがあるだろ?」
「そ、それはそうですが、ウチとしてもこれほどの額は……」
「それは俺には関係ないだろ? もし俺が勝てばキッチリ頂いていく。 まぁ、勝てればだがな」
くっ。
この男、これが狙いか。
ウチを潰しにきたのか。
ハイローラー共が全員ムコウマルと逆の目にベットしたとしても、とても50億には届かないだろう。
一人あたり1億として10億。
あと40億足りないから、こちらが補充しなければならない。
流石に40億もの額は補充出来ない。
それが、例えゾロ目を出し、手数料を10%徴収したとしてもだ。
いや、ハイローラー共全員がムコウマルと逆の目にベットするとは限らない。
そうなると、40億では済まない。
流すか。
いや待て。
「流し」はなしでとムコウマルは言い、それを俺は呑んだ。
ヤツはこれを想定していたのか。
「問題ないかと」
部下は問題ないと言う。
「そう思うか?」
「ええ、彼は“勝てれば”と言いました、特に策は講じていないのでしょう。 最初の言葉通り、純粋にヒリついた勝負をしたいだけかと」
「しかし、ヤツが50億程度でヒリつくと思うか?」
「確かに彼にとって50億程度の金は失っても痛くも痒くもないでしょう」
「なら……」
「それにディーラーは彼女です、我々に負けはないでしょう。 ボスの采配のタイミングは完璧でした。 これはもはやギャンブルではありません。 必勝です」
うむ。
この部下は俺の右腕的存在だ。
コイツの働きで、我々の組織はここまで成長できたと言ってもいい。
コイツがここまで言うのであれば大丈夫か。
ディーラーの技術も信頼出来るからな。
ならば、その50億全て搔っ攫ってやる。
デン:南国での通貨
1デン=1エソ
「ムコウマルだと?」
「はい、間違いありません。 ⅤIPルームでプレイしたいと。 金もふさわしい額を持ってきています」
「金なら当然だろう。 だが、なぜ?」
「短時間でヒリついた勝負がしたいそうです。 丁半博打ならおあつらえむきだと」
ムコウマル・サトシ。
ヤツはここ「南国」のギャンブルを取りまとめている男。
その名は、ギャンブルに携わっている人間であれば、知らない人間を探す方が困難だろう。
それは、「南国」だけに留まらず、世界中に知れ渡っている。
この男が厄介なのは、その背後に世界から一国の軍と認められる程の軍事力を持つと言われる自警団組織があるからだ。
なんでも、自警団組織を結成するにあたり、世界中の武器弾薬を集められるだけ集めようと計画したらしい。
そして、その金を用意したのがムコウマルだと言うのだ。
我々マフィアも、当然武装はしている。
しかし、一国の軍と認められる程の武力には到底敵わない。
絶対に敵対したくない男だ。
「分かった、俺が行こう」
「南国」は税さえ払えば、一般企業だろうがマフィアだろうが、ギャンブルの運営権が与えられるのだが、その税はとてつもなく重い。
規制が皆無なギャンブル大国である「南国」には、世界中からギャンブラーが訪れる為、莫大な金を落としていく。
重い税を払ってまで、ギャンブルを運営したいと言う輩が多いのは当然だ。
しかし、そんな重い税をまともに払うなんて馬鹿がする事。
適当に払っておけばいいのだ。
もちろん目を付けられるが、そんな時は下っ端を差し出しすように仕向けている。
下っ端なんていくらでも補充できるからな。
「お待たせしました、当賭場を仕切っているタークリーと申します。 はじめまして」
「これはご丁寧に。 ムコウマルだ」
「お噂は聞いていますよ」
「悪い噂だな」
「とんでもございません」
作り笑顔で握手を交わす。
この男、本当に遊びに来ただけなのか?
それとも、何か他の狙いがあるのか?
その笑顔からは、真意は読み取れない。
「ムコウマル様は高レートでお遊びしたいとお聞きしたのですが」
「ああ、そうだ」
「本来なら一見様はお断りしているのですが……」
「金ならある、キャッシュでだ」
「はい、お伺いしています。 ですが、一体どれほどのレートでのご遊技をお求めでしょう」
「どれほどのレート? ミニマムベットはここの通常でいい、MAXベットを青天井にしてくれれば」
「青天井?」
「ああ」
青天井だと。
この男、何を考えている。
ヘタをすれば、この賭場は潰れる事になる。
この要求は断るべきだ。
「それだと賭場が成立しないのですが」
やんわりと断ってみるが、ムコウマルはそんな事はありえないと言う。
確かにその通りだ。
丁半博打の性質上、偏りは必ず生じる。
その場合、場を流すか我々が足りない分を補充する。
流すのはあまり好ましくない。
我々の利益は全くなくなるからだ。
必然的に我々が補充する事になるのだが、リスクはある。
我々には、選択肢がないからだ。
だが、それは普通の丁半博打の賭場の場合だ。
ウチのディーラーは壺を振った時点ではもちろん、壺を開ける際にも出目を操作できるよう訓練をしている。
熟度に個人差はあるが、よほどの人間でもない限り壺を開ける際に操作したとは気づかない。
だから、金銭的リスクは無いに等しいのだが、バレた時のリスクはある。
「イカサマだ!」と言われれば、その噂はたちまち広がり、ウチに来る客は減る、いや、誰も来なくなるだろう。
返答に困っていると、ムコウマルは驚くべき提案をしてきた。
手数料を先に払うと言うのだ。
その額、1億デン。
それだけ勝つ自信があるのかと思えば、負けた場合は返してもらうと言う。
それも、無理を言った迷惑料として、10%は引いても構わないと。
さらに、仮に勝ったとしたら、その1億は全て手数料として払うと言うのだ。
そこまでする意図はなんだ?
本当に遊びにきただけなのか?
部下からは、自分では持ち切れないから人を待機させていると聞いた。
ムコウマルが持っていたのは2億だ。
待たせているのもせいぜい一人か二人だろう。
それなら、計6億。
その内、1億はこっちが預かっているから5億。
多く見積もっても10億と言った所か。
仮に、ムコウマルが10億勝負に出て、額が揃わなくウチが全額補充したとしても払えない額ではない。
流石に10億ともなれば、我々も甚大なダメージを負うが致命的でもない。
ましてや、そうなればこっちは出目を操作できる。
10億丸儲けだ。
本来であれば、ⅤIPルームに信用の無い一見は断っている。
ヒリついた勝負をしたいと言っていたから、10億は使い切るつもり、いや、使いきらせる。
ヤツにとっては大した額でもあるまい。
いずれにせよ、我々には損はない。
存分に遊んで行ってもらおうじゃないか。
そう思い、案内しようとするが、追加で提案をしてきた。
「流し」はなしで頼むと。
ヤツはヒリついた勝負をしにきたのだから、その場面を潰されてはここに来た意味がないと言う。
言い分は尤もだな。
ならば、本当に遊びにきただけなのだろう。
俺はその提案を呑んだ。
テーブルについたムコウマルが早速ベットする。
その額百万。
持って来た金の割には少ないと思ったのだが、最初だから様子見なのだろう。
部下も同意見のようだ。
最初の勝負はムコウマルの負け。
だが、次の勝負でムコウマルは3倍の3百万をベットした。
なるほど。
ここ「南国」でのギャンブルを取り仕切るだけあってバカではないようだ。
マーチンゲールを応用している。
このやり方は資金が豊富にないと出来ない方法だから、資金がある証拠でもある。
この勝負はムコウマルが勝った。
今は完全に天運武運だからそう言う事もある。
俺は、純粋にムコウマルを祝福する。
この調子で気持ちよく遊んでくれ。
次にムコウマルがベットした額は1千万。
守りに入らないのは、本当にヒリついた勝負をしたいのだろう。
1千万ともなれば、我々に入る手数料は50万以上になる。
ⅤIPルームの客は富裕層ばかりで高額なベットは茶飯事だが、一勝負に1千万をベットする客は一握りだ。
今日の客は、その一握りの連中が数名居るから額はすんなり揃った。
ここでも、ムコウマルは負けた。
この負けで、ムコウマルの手持ちの金は9千万と少しと言った所か。
それだけの手持ちでは、次の勝負で3倍の金はベットしてこないだろうと思っていたが、ムコウマルは何の躊躇いもなく3千万をベットした。
そうか、まだ金を持っているヤツを待たせていると言っていたな。
だから、まだ金はあると。
面白い男だ。
少しサービスしてやるか。
俺はディーラーに目配せをする。
これは、ムコウマルに勝たせてやれとのサインだ。
3千万は魅力的だから、ゾロ目を出せとの指示もした。
これで、我々の利益は3百万以上になる。
ディーラーは了解のサインを送ってくる。
コッ
「ピンゾロの丁!」
チッ。
壺を開ける段階で出目を操作するには、バレないようにそれなりの練度が必要だ。
このディーラーは練度がイマイチのようだな。
壺とダイスが触れる音が漏れた。
大丈夫か?
気付かれていないか?
ムコウマルはその手腕でここまで上り詰めた男だ。
些細な事でも気付かれかねない。
だが、そんな不安をヨソにムコウマルに変化はない。
気付かれなかったか。
それとも、気付いたが自分は勝ったからスルーしたのか。
勝たせたのは正解だったな。
ムコウマルは次に1億をベットした。
ハイローラー達も、この額には騒然とした。
額が揃わなければ、我々が補充しなければならない。
ムコウマルは1億ベットしたから、少なくとも5百万以上は手数料として我々に入ってくる。
ゾロ目はさっき出したばかりでもう出せない。
補充金額が5百万以内であれば、例え外れても利益が出る。
そう思っていたのだが、額は揃い、補充するに至らなかった。
流石、一握りのハイローラーが数人いるだけの事はある。
ディーラーに確認すると、ムコウマルは外したとサインが返ってきた。
ここも天運武運だったから、ツイてない男だ。
ムコウマルにとってははした金で、失ったとしても痛くも痒くもないだろうがな。
しかし、天運武運もここまでだ。
これからは毟り取ってやる。
部下にアイツを呼べと指示をする。
アイツはウチの組織で一番の技術を持っている。
それも、壺振りだけではなくどのギャンブルでも技術は一流だ。
まさに、ディーラーになる為に産まれてきたと言ってもいい。
アイツをウチに招き入れる事ができたのは、思いがけない僥倖だ。
壺が開けられる。
確認した通り、ムコウマルの負けだ。
ここで、ムコウマルが俺に言ってきた。
ベットしたい金が足りないから、外で金を持って待機している者を呼んでいいかと。
もちろん問題ない。
俺が了承すると、ムコウマルは電話を掛けだした。
電話が終わったのを見計らってムコウマルに話し掛ける。
「では、その間にディーラーを交代致します」
「ディーラーを交代?」
「ええ、ちょうど交代の時間ですので」
ムコウマルは疑問に思うも、交代の時間だと告げると何も言わない。
了承したのだろう。
例え了承していなくても、ディーラーにも休憩が必要だと押し通していたがな。
「お待たせしました。 宜しくお願いします」
交代したディーラーがやって来る。
そのタイミングで別の部下が耳打ちしてくる。
「ⅤIPルームに用があると言っている者がいるのですが」
ムコウマルに金を持ってきたのだろう。
その事は、言っていたはずなのになぜわざわざ確認しにくる。
「構わん、通せ」
「で、ですが」
「大丈夫だ、こちらのムコウマル様のお連れ様だ」
「わ、分かりました」
少しして、男が入ってきた。
その両手にアタッシュケースを持って。
続いて、同じ鞄を持った男が二人入ってきた。
一人か二人だと思っていたが三人か。
一人多いがそれでも推定6億だ。
10億には程遠い。
だが、三人では済まなかった。
同様のアタッシュケースを持った男達が次々と入ってくる。
「ム、ムコウマル様、こ、これは」
「ん? さっき言っただろ? 外で待たせていた者“達”だ」
その数、合計25人。
一人あたり2億持ってきたとして50億だ。
さすがに、これだけの額は想定外だ。
一体この男は……
「こ、これほどの額をベットされるおつもりですか?」
「もちろんだ、これも言っただろ? ヒリついた勝負がしたいと」
これ程の額となれば、いくらなんでも。
「で、ですが、これほどの額となればベットが揃いません」
「揃わない? そんな時はルールがあるだろ?」
「そ、それはそうですが、ウチとしてもこれほどの額は……」
「それは俺には関係ないだろ? もし俺が勝てばキッチリ頂いていく。 まぁ、勝てればだがな」
くっ。
この男、これが狙いか。
ウチを潰しにきたのか。
ハイローラー共が全員ムコウマルと逆の目にベットしたとしても、とても50億には届かないだろう。
一人あたり1億として10億。
あと40億足りないから、こちらが補充しなければならない。
流石に40億もの額は補充出来ない。
それが、例えゾロ目を出し、手数料を10%徴収したとしてもだ。
いや、ハイローラー共全員がムコウマルと逆の目にベットするとは限らない。
そうなると、40億では済まない。
流すか。
いや待て。
「流し」はなしでとムコウマルは言い、それを俺は呑んだ。
ヤツはこれを想定していたのか。
「問題ないかと」
部下は問題ないと言う。
「そう思うか?」
「ええ、彼は“勝てれば”と言いました、特に策は講じていないのでしょう。 最初の言葉通り、純粋にヒリついた勝負をしたいだけかと」
「しかし、ヤツが50億程度でヒリつくと思うか?」
「確かに彼にとって50億程度の金は失っても痛くも痒くもないでしょう」
「なら……」
「それにディーラーは彼女です、我々に負けはないでしょう。 ボスの采配のタイミングは完璧でした。 これはもはやギャンブルではありません。 必勝です」
うむ。
この部下は俺の右腕的存在だ。
コイツの働きで、我々の組織はここまで成長できたと言ってもいい。
コイツがここまで言うのであれば大丈夫か。
ディーラーの技術も信頼出来るからな。
ならば、その50億全て搔っ攫ってやる。
デン:南国での通貨
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