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プロローグ

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「大丈夫ですか!?」
「???」
「ちょっと待っていて下さい」
「???」


少しすると俺の前にペットボトルに入っている水が差しだされた。


「これを飲んで下さい」


どうやら目の前の男は俺に水を飲ませたいようだ。


「そこの自販機で買ったばかりですから大丈夫ですよ」
「あ……ありがとう」


取り敢えず礼を言い、水を喉に流し込むが水ではなくスポーツドリンクだった。

それにしても、なぜこの男は俺にスポーツドリンクを飲ませたのだ?
それに、言葉も少しおかしい。
が、理解は出来る。
なまりの強い方言なのだろう。


「意識はしっかりしてそうですね、どこか具合が悪い所はないですか?」
「あ、あぁ、大丈夫、で、す」
「よかった。でもそれスポーツドリンクを飲んで涼しい場所で休んだ方が良いですよ」
「わ、分かった、ありが…とう」
「今日も暑いですからね、熱中症でしょう」
「熱中症?俺が?」
「えぇ、そうじゃないかと。突然僕の目の前に現れたかと思えば足元がフラついていましたから」


突然現れた?俺が?
確か俺は4国会談の議場に向かっていたはず……

そうだ!会談はどうなった!?
4国統一が成るかどうかの重要な会談は!!??


「では、僕はこれで」


去って行く男の背中を眺めていると違和感を覚える。
その違和感は瞬時にある仮説へと俺を導いた。

異世界転生。

目から脳に伝わる情報が訴えてくる。
仮説は正しいのだと。
なるほど、今の俺はまさしくその状況の中に居るのだろう。
それを理解するのは容易だった。

俺は異世界転生モノを良く読んだし、アニメでも良く観た。
だから理解出来たのだ。
目に映る光景は異世界転生モノでは良くある中世ヨーロッパ風……


では無い。


目の前には高層建築が立ち並び、空を見上げれば飛行機雲。
俺がいた世界となんら変わる事のない現代的な風景。
そもそも中世にはペットボトルもスポドリも存在しない。

では、何故異世界へ転生したのだと理解できた理由。
それは今見ている風景。
目に映る情景は確かになんら変わらないように見える。
だが目を凝らすと違うのだ。

まず文字。
俺が理解している文字を決定的に崩した様な文字が看板に書かれてある。
だが、不思議と読める
どうやら飲食店の看板らしい。
「らしい」と言うのはあくまでも俺が理解出来る範疇での話だからだ。
俺が飲食店だと思っていても、こちらの世界では全く違う意味の可能性もある。
それを確かめる為にその看板を掲げている施設に近づく。
やはり飲食店の様だ。
中を覗くと数人が食事をしているのが見える。

そして、決定的に違うのが治安。
俺がいた「南国サザン」では人の生死に関わる事件は多々あったのだが頻発する程では無かった。
しかし略奪の類は日常茶飯事だ。

この世界には無人の販売機自動販売機が存在する。
俺の国では無人の販売機なんて存在しない。
いや、過去には存在したのだが、時代と共に消えた。
販売機内の現金や商品を略奪する者が後を絶たなかったからだ。

それもそのはず。
自衛手段を持たない只の機械は恰好の的だ。
セキュリティーをいくら強化してもハナから略奪目的の輩には無意味だからだ。

治安維持組織はあるものの、それは主に対外国人ギャンブラー
自国民に対しては、富裕層を除けば機能しているとは言い難い。

だが、こっちでは無人の販売機自動販売機がそこかしこに有る。
荒らされた形跡なども全く無い。

人の生き死に関わる事件も皆無のように思える。
道行く人々の様子がそれを肯定しているからだ。

だが、このあたりは表向きだろう。
裏がなければ表は成り立たないように、この世界にも裏は確実に存在するはずだ。
そして、どちらかと問われれば間違いなく俺は裏の住人だ。

当然ながら、俺は幾度となく命の危機に面してきた。
だが、その都度潜り抜けてきた。
まぁ、全て無事無傷とは決して言えた物では無いがこうして命が続いている。
その経験則からまずは落ち着く事が重要だと学んでいる。

そう、落ち着け。
落ち着くのだと自分に言い聞かせる。
己の知識を総動員し、今いる状況を冷静にぶ・ん・せ・き……

出来るかぁ!
落ち着けるかぁ!!

理解と納得は別物なのだ。




*******




この世界は終わりに向け歩を進めている。
全ては生まれた瞬間から終わりに向かっているのだ。
それこそ有機物から無機物まで。
そして、それはこの惑星も例外では無い。

このまま何もせずに終わりを待つのか。
まぁ、それはそれで良いだろう。
多くの人間がそうなのだから。
俺に出来る事はその終わりまでの過程をどう過ごすか。
出来る事なら平穏に過ごしたい。
そう平穏……
平穏に…

と、そんな事を考えていた過去の俺はとんだ世間知らずの甘ちゃんペロペロ。
「平穏?何っすかギャグっすか?」と鼻で笑われる始末。
平穏は日々の争いに奪われ、無事ではあるが身体は傷だらけ。

おおよそ悪と呼ばれる事は一通り手を染めてきたが、一つだけこだわりがある。
それは、殺しだ。
人を殺めた事だけはない。
俺は殺しだけはするなと、周りに常々指示してきた。
だが、その指示を深読みした者達が暴走し、人を殺めた事はあったようだが真意は定かではない。

まぁ、「社会的に殺した」事は数多くある為、怨まれる覚えも無限にある。
故に命を狙われた数など最早覚えていないが全て返り討ちにしてきた。
そんな事を繰り返している内に、俺は裏社界の事実上トップに躍り出た。

そう。
俺はこの世界で暗躍する裏の王なのだ。
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