私のわがままな異世界転移

とみQ

文字の大きさ
上 下
109 / 135
第1章 人と魔族と精霊と

3ー1

しおりを挟む
「――――なっ! ……美奈!」

  名前を呼ばれていることに気づいて目の焦点が合う。
 気が付くと私の顔の数十センチくらいの所に、めぐみちゃんの顔があった。
  私と目が合ったことで安堵の表情を浮かべるめぐみちゃん。

「もう!  びっくりするじゃないっ!  起きたら美奈が一点を見つめてボーッとしてるんだもん!  気でも狂ったかと思っちゃったわよ!」

「めぐみちゃん……。え?  ……私、寝てた?」

「……疲れてるの?  呼んでも一向に反応なかったし」

  私も色々あって疲れていたので、いつの間にか眠ってしまっていたのかなと思った。
  というか目を開けて寝ていたとか恥ずかしいにも程がある。
  それを思うと急に恥ずかしさが込み上げてきた。
  顔が熱を帯びて、「ふひゅう」とか変な声が漏れた。

「そっか……ご、ごめんね?  私は大丈夫」

  疲れたなんて、とてもじゃないけど言えない。
  めぐみちゃん達は死ぬかもしれないような大変な目に合ったばかり。
  私は色々な気持ちを紛らわしながら、腰に着けた懐中時計を確認してみた。
  するともう夜の12の時になろうかというところだった。
  内心すごく驚いた。
  眠ってしまう前に時間を確認したわけではないけれど、日が暮れてそこまで時間は経っていなかったと思うから、数時間くらいだろうか。

「ねえ美奈、あなたそんな時計持ってたっけ?」

「え?  うん。持ってたよ?」

  めぐみちゃんが不意に私の時計を見てそんなことを言ってきた。
  この時計は村で過ごしていた時に村の人から頂いたものだ。
  誰からもらったのかは、はっきりとは思い出せないけれど、確か村のおじいさんだったと思う。

「そんな事よりめぐみちゃん!  もう大丈夫なの!?」

  何だか呑気に雑談に花を咲かせてしまっていた。
  めぐみちゃんがあまりにも普段通り過ぎて。いや、というか何だか少し呆けてしまっているのかもしれない。それか寝ぼけているのか。
  私は慌てるようにめぐみちゃんに取りついた。
  ぺたぺたと顔や体をまさぐって異常か無いかを確認する。
  といってもそんなことでめぐみちゃんの身体の異常を見つけられたりするわけではないのだけれど、それでもこうして彼女の体温や温もりを感じられることが嬉しかった。

「ちょっと美奈!  くすぐったいってば!  こーいう百合な展開はいいからっ!」

  めぐみちゃんはよく分からないことを言いながら、そんな私の手を掴みゆっくりと振り払う。
  恥ずかしいのかほんのり頬が赤い。それから一つ、こほんと軽い咳払いを入れつつ私から目を逸らすのだ。
  めぐみちゃんのそういう所はすごくかわいいと思う。

「あー、うん。もう万全って感じよ。相変わらず回復力半端ないわ、私」 

  そう言いながらぐるぐると腕を回してみせて、にこやかに笑う。
  そんな彼女の姿に、不意に胸に熱いものが込み上げてきて、そこからはもうダメだった。
  ぽろぽろと止めどなく涙が溢れてきて拭っても湧き水のように、止められなかった。

「ちょっ!?  いきなり泣かないでよ美奈!」

「だって……あの時死んじゃったかと思ったから……」

  狼の魔族に殴られて、姿が忽然と消えて。あの時は本当に消滅してしまったのかと思った。
  けれど結局少しの後再び姿を現し、凄まじい力で魔族を一掃してしまった。

「……そう言えば、結局あの時のことは何だったの?」

  私はふとそんな疑問を口にした。
  めぐみちゃんが助かった今、改めて思えばあれは本当に不思議な出来事だった。
  彼女はそんな私を見て、微笑んでくれた。

「あーそれね。後で説明するわ。とりあえず皆を起こしましょ」

  そう言いめぐみちゃんは未だ眠り続けている隼人くんの方へと向かう。

「え?  安静にしてた方がいいって治療してくれた人が言ってたよ?」

「大丈夫よ。そういう時って大体大袈裟に言うもんなんだから」

  私が引き止めるのも聞かず、ずいずいと隼人くんの所に行き、眠っている彼の肩をトントンと叩いた。

「ちょっと隼人くん!  そろそろ起きて!」

「――ぐっ!?  な、何だ!?  ぐはっ!?  何をする椎名!?  やめろ!」

「……」

  トントンというよりバシバシと形容した方が正しかったかもしれない。
  今まで穏やかに寝息を立てていた隼人くんは跳ねるように飛び起きた。
  起きてからも二、三度彼の頭を叩いたものだから隼人くんは途端に頭を抱えてうずくまった。
  めぐみちゃん完全にわざとだ。
  私はしばし言葉を失う。
  まあそれが彼女らしいと言えばそうなんだけど、何だか他の女の子にバシバシ叩かれてうずくまる彼氏の図を見せられるこっちの気持ちはちょっと複雑だった。

「あら?  大丈夫?」

「お前は……もう少し起こし方というものがあるだろう」

「え、何?  キスでもしてほしかった?」

「なっ!?  ――――あ、あほっ!」

「あほとは何よ!  隼人くんのクセに悪口がダイレクト過ぎるわよっ!」

「で、ではどう言ってほしかったのだっ!」

「え?  そうね……椎名ってば、いつもお茶目なやつだなあ。まあそこが可愛いのだが、次からはもう少し優しく起こしてくれよ?  とか?」

「……やはりあほだな」

「何よ!  あほって言ったほうがあほなんですぅ~」

「……子供か」

  私は二人の馬鹿らしいやり取りを見て、笑うつもりがそうならなかった。
  ほんの少しだけ笑んだ口元は、自分の意思とは違う方向に歪み、途端に視界がぼやけた。
  頬を温かい雫が伝って、それが嫌で乱暴に目元を拭う。声を出したら嗚咽になってしまいそうで。しばらく声を殺していた。  
  何だか今は本当にダメだ。
  二人がそんな私の挙動に気づいて、楽しそうにしていたのに、今はもう罰が悪そうにしている。

「……ほら。隼人くんのあほ」

「私のっ!?  ……せいか。すまない、美奈」

「ち、違うのっ。私、安心したら何だか涙もろくなっちゃって……いやだ……こんな……つもりじゃ……」 

  泣いている場合じゃない。まだまだこの先やるべき事は山積みなんだから。
  涙を止めようとするけれど、そう思えば思うほどダメだった。 
  隼人くんが近づいてきて私の肩にそっと手を置いた。次いでめぐみちゃんの手ももう片方の肩に乗せられた
 
「美奈、私達はもう大丈夫なのだ。心配をかけたな」

「ここまで一人で運んでくれたんでしょ? ありがとね、美奈」 

「――っ!!」

  二人の優しい笑顔を見たらもうダメだ。こんなの反則だ。
  私たちはそのまま肩を組むようにして抱き合った。
  声に出そうとしても声にならない。
  私はそのままコクコクと何度も頷いた。二人が無事なことがこんなにも尊いことなんだって改めて思いしる。
  溢れ続ける涙を吹くことはもう諦めて、私は一度泣けるだけ泣くことに決めたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語

ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。 変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。 ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。 タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

処理中です...