106 / 135
第1章 人と魔族と精霊と
アリーシャの過去2
しおりを挟む
アリーシャから見たライラという女性は、物腰も柔らかく、温和な印象を受けた。
それに、随分若く見える。
副団長とは、アリーシャにとっては俄には信じがたい出来事だった。
彼女の胸中は決して穏やかでは無い。
そんな最中、ライラの表情が柔らかい微笑みを作った。
それが酷くアリーシャの癇に触った。
「アリーシャで構わない。しかし副団長とはな。よほど剣の腕が立つのか?」
ぶっきらぼうに答えるアリーシャに、ベルクートが嬉しそうにニヤリと笑んだ。
「そうだ。こいつは入団僅か一年で我が国の剣術師範の腕前まで行った言わば剣の天才ってやつさ。単純な技の競い合いとなるともはや俺でも敵わねえよ。」
ベルクートがさらっとそんな事を言う。
アリーシャは内心驚愕しつつもそれでもやはり半信半疑な気持ちもあった。
だが普段は明るく少しふざけた部分もあるベルクートだが、剣の事にかけては嘘や冗談を言うような人ではない。
アリーシャは無意識に奥歯を強く噛み締めていた。
「ベルクート様、ご謙遜を。私があなたから一本取った事などまだ一度もないでしょう?」
訝しげなアリーシャの表情を察してか、さらりとベルクートの発言にフォローを入れるライラ。
だがそれは今のアリーシャにとっては逆効果だ。
その発言にはアリーシャから見ると、剣に対する自身と余裕を感じざるを得ない。
「はははっ! まあ実戦ではまだ負ける気はねえよ! ただ、技の競い合いで敵わねえって言ったのは本音だ。アリーシャ、お前ももう十三歳だ。王家の血筋としてそろそろ本格的にヒストリア流剣術を習得していくべきだと思うんだ。そこで、ライラに教わるのはどうかと思ってる」
「――は? 私が……こんな者に?」
豪快に笑いつつ言うベルクートの言葉はアリーシャには俄には信じられない事だった。
それは自然と声が漏れ出てしまうほどに。
副団長をこんな者扱いなど。彼女に対して侮蔑となる表現にも関わらず、そう言わずにはいられなかった。
「そうだ。お前の剣は俺やと違って速さと技のキレが優れている。教わるならライラのようなタイプに教わった方が伸びると思ったんだ。王の許可は取ってある。後はお前次第だ」
アリーシャは俊巡した。
いきなりそんな事を言われてもライラとは今日会ったばかり。
何よりアリーシャは尊敬するベルクートから教わる事を願っているのだ。
その上で、更に父の許可を得ているという事実もアリーシャの気を逆撫でさせた。
父は最近全く剣の手合わせをしてくれなくなってしまったのだ。
幼いアリーシャにとってそれは、自分が見捨てられたのだと。容易にそんな想像を掻き立てられることたのだ。
更にライラに師事するという事。それはこれからの自身の剣の腕前を左右する事に直結する。
尚更即答は出来なかった。
ライラは思考を巡らせているアリーシャを見つめつつ薄く微笑んだ。それからこんな提案を申し出てきたのだ。
「アリーシャ。そんな事を突然言われても困ってしまうでしょう? 大丈夫よ、決めるのはあなたで構わないのですから。ただ、もしよろしければ、一度手合わせいただけないかしら。私もアリーシャの剣の腕前を見てみたいですもの」
「……」
それはアリーシャも望む所だと思った。
僅か一年でヒストリア流剣術師範まで辿り着いたライラの剣の腕前とはどれ程のものなのか。
自然と握る剣に力がこもる。最早あれこれ考える必要などない。
「――承知した。ではライラ、私からも手合わせお願いしたい」
アリーシャは最後は迷いなくライラの申し出を受けた。彼女の瞳が一際大きく輝いた。
「――ふむ。中々のものね」
「?? 何か言ったか?」
何かを呟いたライラの顔を伺うが、彼女は薄く微笑むだけ。首を左右に振る。
「いいえ。何も。さあ、やりましょうか」
「――分かった」
二人は互いに前に出て向き合い一つ握手を交わす。
いよいよだ。
手が触れあった途端、アリーシャの身体に緊張が走る。
普段から幾人もの剣の道を志す者達と手合わせをしているアリーシャだから分かった。
このライラという剣士は、やはりベルクートが言うように強い。
だが今更引き下がる訳にもいかない。当然そんな気など毛頭ないのだが。
相当剣を使い込んでいる者の感触。それに呼応するように、アリーシャの肩が震えた。
ライラの手を離し、互いに視線を交えた後、二人は訓練場の木剣に手を掛けた。
アリーシャの脳裏に、ライラの微笑がやけに焼きついていた。
それに、随分若く見える。
副団長とは、アリーシャにとっては俄には信じがたい出来事だった。
彼女の胸中は決して穏やかでは無い。
そんな最中、ライラの表情が柔らかい微笑みを作った。
それが酷くアリーシャの癇に触った。
「アリーシャで構わない。しかし副団長とはな。よほど剣の腕が立つのか?」
ぶっきらぼうに答えるアリーシャに、ベルクートが嬉しそうにニヤリと笑んだ。
「そうだ。こいつは入団僅か一年で我が国の剣術師範の腕前まで行った言わば剣の天才ってやつさ。単純な技の競い合いとなるともはや俺でも敵わねえよ。」
ベルクートがさらっとそんな事を言う。
アリーシャは内心驚愕しつつもそれでもやはり半信半疑な気持ちもあった。
だが普段は明るく少しふざけた部分もあるベルクートだが、剣の事にかけては嘘や冗談を言うような人ではない。
アリーシャは無意識に奥歯を強く噛み締めていた。
「ベルクート様、ご謙遜を。私があなたから一本取った事などまだ一度もないでしょう?」
訝しげなアリーシャの表情を察してか、さらりとベルクートの発言にフォローを入れるライラ。
だがそれは今のアリーシャにとっては逆効果だ。
その発言にはアリーシャから見ると、剣に対する自身と余裕を感じざるを得ない。
「はははっ! まあ実戦ではまだ負ける気はねえよ! ただ、技の競い合いで敵わねえって言ったのは本音だ。アリーシャ、お前ももう十三歳だ。王家の血筋としてそろそろ本格的にヒストリア流剣術を習得していくべきだと思うんだ。そこで、ライラに教わるのはどうかと思ってる」
「――は? 私が……こんな者に?」
豪快に笑いつつ言うベルクートの言葉はアリーシャには俄には信じられない事だった。
それは自然と声が漏れ出てしまうほどに。
副団長をこんな者扱いなど。彼女に対して侮蔑となる表現にも関わらず、そう言わずにはいられなかった。
「そうだ。お前の剣は俺やと違って速さと技のキレが優れている。教わるならライラのようなタイプに教わった方が伸びると思ったんだ。王の許可は取ってある。後はお前次第だ」
アリーシャは俊巡した。
いきなりそんな事を言われてもライラとは今日会ったばかり。
何よりアリーシャは尊敬するベルクートから教わる事を願っているのだ。
その上で、更に父の許可を得ているという事実もアリーシャの気を逆撫でさせた。
父は最近全く剣の手合わせをしてくれなくなってしまったのだ。
幼いアリーシャにとってそれは、自分が見捨てられたのだと。容易にそんな想像を掻き立てられることたのだ。
更にライラに師事するという事。それはこれからの自身の剣の腕前を左右する事に直結する。
尚更即答は出来なかった。
ライラは思考を巡らせているアリーシャを見つめつつ薄く微笑んだ。それからこんな提案を申し出てきたのだ。
「アリーシャ。そんな事を突然言われても困ってしまうでしょう? 大丈夫よ、決めるのはあなたで構わないのですから。ただ、もしよろしければ、一度手合わせいただけないかしら。私もアリーシャの剣の腕前を見てみたいですもの」
「……」
それはアリーシャも望む所だと思った。
僅か一年でヒストリア流剣術師範まで辿り着いたライラの剣の腕前とはどれ程のものなのか。
自然と握る剣に力がこもる。最早あれこれ考える必要などない。
「――承知した。ではライラ、私からも手合わせお願いしたい」
アリーシャは最後は迷いなくライラの申し出を受けた。彼女の瞳が一際大きく輝いた。
「――ふむ。中々のものね」
「?? 何か言ったか?」
何かを呟いたライラの顔を伺うが、彼女は薄く微笑むだけ。首を左右に振る。
「いいえ。何も。さあ、やりましょうか」
「――分かった」
二人は互いに前に出て向き合い一つ握手を交わす。
いよいよだ。
手が触れあった途端、アリーシャの身体に緊張が走る。
普段から幾人もの剣の道を志す者達と手合わせをしているアリーシャだから分かった。
このライラという剣士は、やはりベルクートが言うように強い。
だが今更引き下がる訳にもいかない。当然そんな気など毛頭ないのだが。
相当剣を使い込んでいる者の感触。それに呼応するように、アリーシャの肩が震えた。
ライラの手を離し、互いに視線を交えた後、二人は訓練場の木剣に手を掛けた。
アリーシャの脳裏に、ライラの微笑がやけに焼きついていた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
ハクスラ異世界に転生したから、ひたすらレベル上げしながらマジックアイテムを掘りまくって、飽きたら拾ったマジックアイテムで色々と遊んでみる物語
ヒィッツカラルド
ファンタジー
ハクスラ異世界✕ソロ冒険✕ハーレム禁止✕変態パラダイス✕脱線大暴走ストーリー=166万文字完結÷微妙に癖になる。
変態が、変態のために、変態が送る、変態的な少年のハチャメチャ変態冒険記。
ハクスラとはハックアンドスラッシュの略語である。敵と戦い、どんどんレベルアップを果たし、更に強い敵と戦いながら、より良いマジックアイテムを発掘するゲームのことを指す。
タイトルのままの世界で奮闘しながらも冒険を楽しむ少年のストーリーです。(タイトルに一部偽りアリ)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
お帰り転生―素質だけは世界最高の素人魔術師、前々世の復讐をする。
永礼 経
ファンタジー
特性「本の虫」を選んで転生し、3度目の人生を歩むことになったキール・ヴァイス。
17歳を迎えた彼は王立大学へ進学。
その書庫「王立大学書庫」で、一冊の不思議な本と出会う。
その本こそ、『真魔術式総覧』。
かつて、大魔導士ロバート・エルダー・ボウンが記した書であった。
伝説の大魔導士の手による書物を手にしたキールは、現在では失われたボウン独自の魔術式を身に付けていくとともに、
自身の生前の記憶や前々世の自分との邂逅を果たしながら、仲間たちと共に、様々な試練を乗り越えてゆく。
彼の周囲に続々と集まってくる様々な人々との関わり合いを経て、ただの素人魔術師は伝説の大魔導士への道を歩む。
魔法戦あり、恋愛要素?ありの冒険譚です。
【本作品はカクヨムさまで掲載しているものの転載です】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる