私のわがままな異世界転移

とみQ

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第2章 覚醒

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  結局あの魔族は私の覚醒を確認すると、そのまま姿を消してしまった。 
  今思えば最初から奴の目的は私達の覚醒にあったのではないかと思えた。
  最後の奴の呟きから次の行動も予測できる。
  ――急がないと。
  焦燥感には駆られるものの、今の私は体から力が溢れ、充足感で満たされている。
  単純に覚醒とは凄いものだと思った。
  あの魔族にさえ出会わなければかなり興奮していたかもしれない。いや、どうだろうか。
  自分自身、割と何事に対しても感動が薄い性格をしている。どちらかと言えば情緒に乏しいのだ。
  そんなだから恐らく、そういったことはないだろう。
  それよりも、そんな事よりも。今は絶望的な気持ちの方が強かった。
  一命はとりとめたが、果たして良かったと言えるのか。
  椎名と工藤に目をやれば、共に沈黙している。
  恐らく致命傷は受けてはいない。
  暫くすれば動けるだろう。別に近くで確認したわけではないが、何故か感覚的にそうだと思った。
  妙だ。
  思いの外頭がクリーンで、落ち着いている。
  これも覚醒の影響か。
  先程までは常に不安な気持ちが込み上げてきてばかりだったというのに。
  まるでドーピングが何かだ。後々体に尋常でない影響が出たりしなければいいが。
  そんな事を考えながら気絶している二人の元へと歩いていく。
  結局あの魔族の最終的な目的は何なのか。
  覚醒させて、その後いたぶって私達を殺すつもりなのか。
  殺そうと思えばいつでも殺せた。それは確実だろう。だがそうしなかった。
  手加減とかそういう次元ではない。
  私達は奴に何も出来なかったのだ。
 更に驚くべき事に私達が異世界からやって来た事を知っていた。
  もしかしたら私達はあの魔族にこの世界に呼ばれたのだろうか。
  その辺りの事は今考えても仕方無しだ。
  とにかく今は動こう。
  私は気絶している二人を両の肩に抱えた。
  大丈夫だ。実際持ってみると思っていたよりもずっと軽い。
  手提げの鞄を二つ所持している程度の負担にしか感じない。
  移動に支障が無いことを確認した私はそのまま反転し、来た道を戻っていく。
  少し駆け足程度のつもりがかなりの速度が出た。
  何も持たない状態だと一体どのくらいの速度になるのか。
  しかも息すら切れていない。
  昨日美奈を背負って山を下っていた時とは大違いだ。
  びゅうびゅうと耳に届く風切り音が妙に心地よかった。
  さて。ここからどうするか。
  まずは村に戻る。できるだけ早く。
  来た道を戻るだけだ、魔物の心配もそこまではないはずだ。
  もし遭遇しても今の私ならばショートソード一本でも大抵の魔物は何とかなるだろう。
  とにかく今は村に帰還し、美奈の毒を回復させるのが先決だ。
  グリアモールはきっとネストの村へ向かっている。
  美奈に何か手出ししようとしている可能性が高い。
  やつは私達を監視していたようなことを言っていたが、それならば今現在美奈がどういう状況か分かってもいそうだが、何にせよ奴に美奈を一人の状態で会わせたくはなかった。
  もし仮に私達を殺すつもりがないにしても村の人達はどうか分からない。
  私達が戻るのが遅く、皆殺しにされている可能性も否定はできないのだ。
  色々なことが頭の中を駆け巡りながらあらゆる可能性を模索していく。
  なんだろう。やけに冷静だ。
  これも覚醒の影響なのだろうか。
  先程まではあんなにも不安と恐怖の気持ちが強かったというのに。
  今は心の中が妙に凪いで、落ち着いている。
  もしかしたら死ぬかもしれないとさえ思うのに、それすらも客観視している自分がいるのだ。
  グリアモール。
  それでも奴は強敵だ。
  あんな未知の生物にどう立ち向かっていくのかと今でも思う。
  だが不思議なものだ。
  あれだけ椎名と工藤がやられるのを目の当たりにしておいて、四人がある程度万全な状態で揃うということができれば或いはと思ってしまうのだ。
  今の自分の能力とも照らし合わせて、もしかしたら、と。
  私は前を見据えながら踏みしめる足に更に力を込めた。
  とてつもなく足が軽い。気分が高揚している。
  覚醒することによって身体能力が十倍に膨れ上がると仮定すれば、ここから村までの距離はせいぜい二十キロ。
  普通の人が走れば二時間もあればたどり着ける距離だ。
  ということは今の私ならば、そこまで無理し過ぎずとも三十分もあれば村に戻る事が可能だ。
  あっという間に洞窟を抜けた。
  視界が拓けると斜陽が目に射し込んできた。
  まだ夕方、日が沈む前だ。
  時計を確認すると時刻は6時。
  流石に運動不足の私は少し息が切れてきたが、このペースで行けばそこまで体力を減らすことなく村に辿り着けるだろう。
  その時肩に担いだ二人がぴくりと動いた。
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