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揺れてそして

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「なんかさ、戦いたくね? オレは戦いたい。戦いがオレを待ってる気がする。」

「気のせいだと思うぞ。平和で何よりじゃないか。」

 リベラシオンに帰ってきた翌日、特にすることもなく俺たちはレストランのいつもの場所でダラけていた。もちろん次の人探しや設備増強、拠点移動候補探しなどやるべきことはたくさんある。あるのはもちろんわかっている。わかっているが、やる気があるかどうかはまた別問題だ。
 少し前まではとにかく戦力を増やさないと、と思っていたがとても今はそんな気持ちになれない。それはきっとそう、緊張感が全くもってないからだろう。
 ここに拠点を持ってから一度たりとも襲われていないし、道中で襲撃に遭ったこともない。なんなら敵のアドラーもアリーチェもここにいて、みんなして仲良くゲームしている始末。これで一体どうやる気を出せばいいというのか。
 最後にみんなで戦ったのなんて巨大きのこのときくらいで、あとは小型モンスターもアドラーがバッサリ一撃で斬り捨てて終わり。対ヒンメル軍団と言いつつも、この雰囲気はただのピクニックしがちなお気楽パーティだ。

「いい加減平和すぎるんだって! オレはもっとこう戦いたいの! かっこよくオレの弓矢が敵を貫くところを見て欲しいの!」

「うるさいぞ、ルキ。そんなこと言われても、何故か襲撃されないんだから仕方ないだろ。そんなに戦いたいなら襲撃大歓迎って旗でも立てとくか?」

「じゃあシンティアが周りに絵描くね! うさぎさんとかくまさんとか!」

 うさぎとくまの絵とともに襲撃大歓迎と書かれた旗が立っている拠点なんて聞いたことがないが、もうそれはそれでいい気がしてきた。何がどういいのかと聞かれると押し黙るが。
 そう思っている間に、すっかり描く気満々になったシンティアは早速道具屋の方へ走って行った。コケるわよ~、とその後ろをゆっくり歩きながらソフィアもついていく。あの2人が作る旗、となると途端にデザインに不安がなぜか押し寄せてくるが、気のせいだと信じたい。

「そうだわ! せっかくだし、このどさん子等身大人形を隣に置いたらどうかしら。」

「俺が襲う側で敵拠点の入り口にそいつあったら回れ右するけどな。」

「確実にヤベェ拠点だもんな! 絶対ウケるしそうしようぜ!」

 早速入り口にとどさん子を持って出て行くリーナ。存在感のあるそれは、知らない人が夜に見たら確実に悲鳴をあげるだろう。

「てかオレ、気づいちまったわ。超大事なことに。」

「俺も気づいてしまったんだが。絶対ろくでもないということに。」

 こういうときにルキがまともなことを言うわけがない。なんならこの双剣を賭けてもいい。

「いやマジで超大事だから! 聞いてくれ、俺たち、名乗り口上がない!」

 そら見たことか、と俺が目線をルキから外すと、リーナたちが慌ただしく扉を開けて帰ってきた。

「どうした、リーナ。」

「ヒンメル軍がすぐそこまで来てるの! どさん子置いてる場合じゃないわ!」

「すっごいいっぱいいた! すっごい!」

「マジかよ、オレが戦いたいとかフラグ立てちゃったせい?」

「んなわけあるか! どうする、大軍で来られたらこの人数じゃ勝ち目ないぞ……。」

 何かうまいこと追い返せる策でもあればいいが、困ったことにそんなものがパッと思い浮かぶ頭ではない。そもそも、拠点を構えた時点で囲まれたときのことを考えておくべきだったのに、何も用意しなかったツケがここにきて最悪な形になろうとしている。
 考えている時間も、一網打尽にできる兵器もない。あるのは集まってくれた仲間と、それぞれの武器のみだ。

「おかしいですわ! だってアドラーがアゲートからヒンメルの軍を遠ざけてたはず!」

 焦ったようにアリーチェがそう言いながらアドラーを見る。

「何かが起きてやがんな。下手したら俺の軍丸々ここに向かってるかもしれねぇ……。」

「……。参考までに聞くが、どれくらいいるんだ?」

「数えたことなんざねぇが、5千くらいか?」

 5千、対してこちらは数人。これをひっくり返すなんてとてもじゃないが無理だ。いわゆるゲームの負けイベントかと思うくらいの圧倒的な敗北だろう。
 それでも捕まるわけにはいかないのだから困ったものだ。いっそ戦わずここを捨てて逃げるのが一番生存率は高いかもしれない。
 そう考えていると、アドラーが立ち上がってマクシムに話し出した。

「おい、ここに集まった鍛冶屋やら道具屋やらの奴らは今どこかに出かけたりしてるか? それとも全員ここの拠点内にいるか?」

「今出かけている人はいませんね。みなさん今日はそれぞれの店の中にいらっしゃいます。」

「そうか、そいつはラッキーだ。神は俺たちを見捨ててはねえみたいだな。」

 一体どういうことだ、とアドラーに問いかけようとしたその時、突然周りの空気が振動しているような妙な感覚が俺たちを襲った。

「まぁ、こうするしかないですわよね。」

「酔ったら悪りぃな。ちょっとだけ耐えてくれや。」

 そう言うアドラーの声とともに振動は段々と大きくなっている。自分や地面が揺れているわけではないのに、何故かガクガクと揺れているような不思議な感覚に、俺は話すこともできない。
 それはアドラーとアリーチェ以外も同じようで、みんな目を閉じたり跪いたりと苦しそうにしている。

「もっとうまく使えたらよかったんだがなぁ。真面目に練習しとくべきだったかぁ?」

「そうですわね。それにしても、これでわたくしたちの計画は……。」

「仕方ねえさ、また考えればいい。」

 そろそろか、と言うアドラーの呟きとともに俺は完全に意識を手放した。
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