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堂々としていられると気づかない

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 あれからムキになって武器まで取り出したルキをなんとか宥めつつ俺たちは次の目的地探しを始めた。また掲示板に貼られた依頼をこなしつつともおもったが、まだこの拠点に人が少ないからか全然依頼がきていない。
 エニグマの協力により倉庫問題が解決した今、やはり欲しいのは装備品を作ることのできる人物だろう。ずっとここに来てから言っているし、いい加減一人くらい鍛冶屋に出会っておきたいものだ。
 できれば武器の強化やアレンジが得意な人で、防具は一から作れるような人だと嬉しい。そしてさらに腕が良ければもう何も言うことはない。
 そんな有能な鍛冶屋がそこらにいるとは思えないが、ここはアゲート共和国。鉱山の国ということもあり他の国よりも武器や装備を作って生計を立てている人が多くいると聞く。

「やっぱり鍛冶屋狙い撃ちするなら鉱山街が一番だろうか。」

 机に広げられた地図を見ながら呟く。ここから一番近そうな場所は、と探してみると南東の方に大きめの鉱山街があるようだ。
 距離的にはコリエンテと同じくらいに見えるので一日くらい歩けば着くだろう。もちろん何事もなければの話だが。

「ここが一番近そうだ。くら……くらい……?」

「クライノートですね。鉱山のふもとにある大きめの街です。他の鉱山街とは違って珍しい宝石がたくさん採れると聞きます。」

「珍しい宝石だと!」

 それはアクセサリーを作る人間として行かないわけにはいかない。それがたとえ険しくめげそうになる道のりであったとしても、見たことのない宝石があるというなら是非とも行ってみたい。
 思わず興奮してガタッと立ち上がると、それにびっくりしたかのようにルキとエニグマの動きが止まった。

「おいおい急に立ち上がんなよビビったわ……。ほらキミのせいでアドラーも思わず動き止まってるし。」

 その言葉に謝ろうと口を開いたとき、思わず今言われた言葉を頭の中で反芻した。

(キミのせいでアドラーも思わず動き止まってる……? アドラー……?)

 アドラー、それはここにいるはずのない人物名のはずだ。きっとエニグマと言い間違えたのだろう。
 そう信じつつ座っているみんなを見ていくと、リーナとマクシムの間に座って優雅に紅茶を飲んでいるアドラーの姿が目に入った。

「いやなんでアドラーがいんだよ! いつからいたんだよ、てか普通に馴染んで座ってるしおまえらもなんか行動するとかあるだろ! 何受け入れてんだよ!」

「相変わらず全てに突っ込むねぇ、フィン・クラウザー。疲れない?」

「今まさに疲れ果てたわ!」

 普通に考えてありえない状況に思わず机をバンッと叩く。俺たちを追ってきている張本人が、まさか拠点で仲間に囲まれながら紅茶を飲んでいるなんて誰が想像できたか。
 その紅茶どこのブランド? などと呑気に聞いているリーナに軽く目眩を覚えつつ、俺はいつ戦闘になってもいいように双剣に手を伸ばした。
 するとそれに反応したようにアドラーも飲んでいたカップを置いて手を動かす。その手が行く先は武器かそれとも隣にいるリーナか、と緊張しながら見ていると、アドラーはフッと馬鹿にした笑みを浮かべてティーポットを手に取った。

「おいおい、せっかくのティータイムなのに双剣を手にするたぁ不粋じゃねぇの、フィン・クラウザー。なぁ、リーナちゃんよ?」

「そうよ、フィン。ほらこの紅茶でも飲んで落ち着いて。」

「いや逆になんでおまえらはそんな落ち着いてんだよ! 順応性高いどころじゃないぞ!」

 まさかの2杯目を注ぎ出したアドラーと一緒になって飲み出したリーナに頭が痛くなってきた。自分の首を狙っている敵と何故仲良くティータイムをしなければならないのか。

「いやーあんまりにもナチュラルに入ってきたからオレも思わずこういうものなんだって受け入れちゃったっていうか?」

「受け入れんな!」

「こんな美味しいスイーツ持ってこられたら追い返せないわよ。ほんと美味しいこれ。」

「シンティアもこれには負ける。美味しいもん。」

「お姉さんもスイーツには目がなくて……。」

「いや買収されてんじゃねえよ! 何か入ってたらどうすんだ!」

 やけに大人しくしていると思えば見事にスイーツで買収されている女性陣とマクシム。普通は敵が持ってきたものなんて怪しくて食べないと思うが、こいつらには警戒心なんてものが一欠片もないらしい。
 特にこの中では常識人だと思っていたマクシムに関しては、あらゆるハチミツをかけて片っ端からケーキのようなものを貪っている。さっきまで朝食であれだけハチミツを食べたというのにだ。
 そのあまりにも緊張感とかけ離れた空気に俺も思わず武器をしまい椅子に座り直した。一体何故立ったのかも思い出せないくらいには脳も混乱している。

「で、何故ここにいる?」

 そう今できる精一杯の冷静さで俺はアドラーに問いかけた。

「そんな睨むなよぉ。俺にもいろいろ事情ってモンがあるんだぜ? てわけでクライノートには俺も着いてくからよろしくなぁ。その間はまぁ捕まえたりしねぇから安心しろや。」

「いや信じられるかそんな言葉! それにそんな核心を何も言わない説明で納得できるわけがないだろう!」

 ふざけているとしか思えない言葉の数々に俺の精一杯の冷静さは一瞬で消え去った。

「おいおい柔軟性は大事だぜぇ? 今のヒンメル知ってっかぁ? 上は現場を知った気でいるだけの頭が固いクソ野郎どもばかり、下はまさに使い捨ての駒。そんなんと一緒になりてぇのかよ?」

「キミが言っていい言葉じゃないと思うけどねソレ。キミこそ使い捨てにしてきた張本人じゃん。あ、この紅茶は貰うけど。」

「違いねぇなぁ。ま、ダメってんなら勝手に着いてくから気にすんなよ。」

「気にしまくるわ!」

 本当ならここで殺し合いが始まってもおかしくはないメンバーで仲良くクライノートまで行けるわけがない。というかここでいっそアドラーを倒せたらと思うが、仲間が見事に買収されている状態で俺1人戦っても負けるだけだ。
 かといってここで仲良く冒険へ行くわけにもいかない。想像もしていなかったこの状況から目を背けたくて俺は荷物を持ち席を立った。

「相手にしてられるか。俺はもう行くからおまえらも早く来いよ。」

「おや、もう行くのですか? クライノートへの道のりは今までよりキツイと思いますので気をつけてください。」

「んだよもう行くのかぁ? じゃあ俺もついてくっかぁ。」

「おまえは来るな!」

 仕方ないといったように立ち上がるアドラーと多分俺の仲間たち。とりあえずいつでも双剣は抜けるようにしておこう、と気を張り巡らせながら俺はレストランを後にした。
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