上 下
31 / 74

その瞬間を永遠に

しおりを挟む
「では気を取り直してヒラソルに向かいたいんだが……。聞いてるかおまえら。」

 一夜明けて出発の準備をしながら俺はみんなに問いかけた。というのも朝からずっととある話題で俺以外大盛り上がりをしており、全く出発準備をしている気配がないからだ。
 今日中にハチミツを手に入れて帰りたいというのに、こいつらはまだ焚き火の後始末さえしていなかった。

「マジでオレもドキドキしたもん! おまえは誰より可愛いよって! しかも抱きしめながらだぜヤベエ!」

「何が凄いって彼女じゃない女の子にやったところよね~。お姉さんバレないと思って超至近距離で見てたけどほんとドキドキしたわ~。」

「スレッスレで見てたもんねソフィア! シンティアもだけどー!」

 いっぱいいっぱいで本当に気づかなかった自分が恥ずかしい。というかどういう神経をしていたらそんな至近距離であんなシーンを見れるのかわからない。
 もうこの話はやめてくれと願いながら俺は仕方なく焚き火の後始末を始めた。担当はローテーションしているから本来なら今日はソフィアのはずだが、本人はもう話に夢中でこちらを見向きもしない。
 次俺のときに絶対代わってもらおうと心に決めて水魔法で火消しをする。そんなに大きな焚き火ではなかったからか火はすぐに消えてくれた。
 あとは綺麗に掃き掃除やら食べられない魚の骨などをゴミ袋に入れて、できる限り来たときの状態に戻せば完璧だ。
 これも今日はルキが当番の日だが、ルキも同じく話に夢中でこちらのことなど全くもって見もしない。まぁソフィアとルキにはこいつらも原因ではあったが助けてもらったし、恩返しということにしておいていいかもしれない。

(ソフィアはクナイでルキは弓で俺を射ったけどなぁ……。)

 味方にやられて気を失うことになるなんて思いもしなかった。ある意味貴重な体験だったかもしれないが、こんなことは二度とごめんだ。
 口にはしないものの心の中で少し文句を言いながら掃除をしていると、視界の隅でルキが何かをバッグから取り出しているのが見えた。じゃーんとみんなに見せびらかしながら取り出したそれはどう見てもただの携帯だ。

「実はオレあのシーン連写で撮ってたからね! 動画と悩んだけど後で見返した時に便利なのは写真かなって。ちなみにちゃんとシンティアとソフィアはオレの加工技術で消えてる。」

「消せ今すぐ消せ携帯壊れろ消せ。」

 一体何をしてくれてるのか。一枚ならまだしも連写。確かに思い返してみるとあのとき微かにカシャシャシャシャと機械音みたいなものは聞こえていた。それを気にする余裕がなかったので何の音だろうとも思わなかったが。
 必死にルキから携帯を奪おうと掃除をやめて手を伸ばすが、身長差のせいで携帯に手が届きそうにない。ホレホレと上に上げてくるルキに若干イラつきながら俺は奪うのを諦めた。
 というか、携帯。すっかり忘れていたがあると便利だろとリベラシオンの道具屋で全員分買っておいたものだ。そのときにみんなで電話番号とかを登録したあと満足してずっとポケットにいれていた。
 こうしてみんなでいるときは見る必要もないものだが、先ほどからやけに通知を知らせる振動が伝わってきている。このタイミング、嫌な予感しかしないが見ないわけにもいかず俺は携帯を取り出した。
 するとこの五人とマクシムを入れたチームチャットに、案の定さっき言っていた写真が送られてきていた。

(やっぱり写真かよ! 無駄に加工うますぎて本当にツーショットになってるの凄いけども。)

 これを急に見せられるハメになったマクシムのことも考えてあげてほしかった。多分俺以上に何を見せられているんだろうと困惑しているに違いない。
 俺はソッと再び携帯をポケットにしまって後片付けの続きを始めた。あと少し綺麗にしたら出発準備完了だ。
 こんなにコンパクトになるなんて最近の折りたたみ椅子はすごいな、と感心しながら畳んでいく。どういう構造になっているのかわからないが、畳んでしまえば手のひらほどの大きさで、分厚さも数センチにまでなっている。
 それらをバッグに入れて、水魔法で洗ったコップも布巾で綺麗に拭きながら入れればもうあとはすることはなさそうだ。

「後始末終わったしヒラソルに今度こそ向かうぞ。」

「待ってフィン! 私今真剣なの。ちょっと待って欲しい。」

「いいけど、何してるんだよリーナ。」

 怠そうに立ち上がったルキたちと違い、リーナはいつになく真剣な表情で携帯を見つめていた。何か操作をしているあたり壊れたとかではなさそうだ。
 何か変な風になってしまったとかだろうか、と気になってリーナの携帯を覗き込む。するとひたすらルキから送られてきた連写の写真をスライドしているのが見えた。

「いやホントに何してるんだおまえは。」

「どれアイコンにしてどれホーム画面にしてどれ背景にしようかなって。」

「やめろこんなもん設定すんな! ほら行くぞ!」

「でも……。」

 何がそんなに諦めきれないのかわからないが、リーナはしぶしぶと立ち上がりながらも携帯からは目を離さない。見ながら歩いてもいいがコケるなよ、とだけ言って俺も歩き出そうとしたそのとき、再び携帯が震えた。
 なんだろうか、と取り出して見てみるとそれはマクシムからのチャットで。

『青春してる場合ですか。早く私のハチミツを手に入れてきてください。いいですか、糖度はもちろんのことヒラソルに咲いている花の……。』

 長すぎて読む気にもなれなかったが、怒っていることだけはなんとなく感じる。
 なんとしてでも今日こそはヒラソルにたどり着くぞ、と俺たちはようやく歩みを進めた。この方角で合っていますようにと祈りながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Archaic Almanac 群雄流星群

しゅーげつ
ファンタジー
【Remarks】 人々の歴史を残したいと、漠然と心に秘めた思いを初めて人に打ち明けた――あの日、 私はまだ若く、様々な可能性に満ち溢れていた。 職を辞し各地を巡り、そして自身のルーツに辿り着き、河畔の草庵で羽筆を手に取るまでの幾年月、 数多の人と出会い、別れ、交わり、違えて、やがて祖国は無くなった。 人との関わりを極限まで減らし、多くの部下を扱う立場にありながら、 まるで小鳥のように流れていく積日を傍らから景色として眺めていた、 あの未熟でちっぽけだった私の後の人生を、 強く儚く淡く濃く、輝く星々は眩むほどに魅了し、決定付けた。 王国の興亡を、史書では無く物語として綴る決心をしたのは、 ひとえにその輝きが放つ熱に当てられたからだが、中心にこの人を置いた理由は今でも分からない。 その人は《リコ》といった。 旧王都フランシアの南に広がるレインフォール大森林の奥地で生を受けたという彼の人物は、 大瀑布から供給される清水、肥沃する大地と大樹の守護に抱かれ、 自然を朋輩に、動物たちを先達に幼少期を過ごしたという。 森の奥、名も無き湖に鎮座する石柱を――ただ見守る日々を。 全てを遡り縁を紐解くと、緩やかに死んでいく生を打ち破った、あの時に帰結するのだろう。 数多の群星が輝きを増し、命を燃やし、互いに心を削り合う、騒乱の時代が幕を開けた初夏。 だからこそ私は、この人を物語の冒頭に据えた。 リコ・ヴァレンティ、後のミッドランド初代皇帝、その人である。 【Notes】 異世界やゲーム物、転生でも転移でもありません。 クロスオーバーに挑戦し数多のキャラクターが活躍する そんなリアルファンタジーを目指しているので、あくまで現世の延長線上の物語です。 以前キャラ文芸として応募した物の続編更新ですが、ファンタジーカテゴリに変更してます。 ※更新は不定期ですが半年から1年の間に1章進むペースで書いてます。 ※5000文字で統一しています。およそ5ページです。 ※文字数を揃えていますので、表示は(小)を推奨します。 ※挿絵にAI画像を使い始めましたが、あくまでイメージ画像としてです。 -読み方- Archaic Almanac (アルカイクxアルマナク) ぐんゆうりゅうせいぐん

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

【悲報】人気ゲーム配信者、身に覚えのない大炎上で引退。~新たに探索者となり、ダンジョン配信して最速で成り上がります~

椿紅颯
ファンタジー
目標である登録者3万人の夢を叶えた葭谷和昌こと活動名【カズマ】。 しかし次の日、身に覚えのない大炎上を経験してしまい、SNSと活動アカウントが大量の通報の後に削除されてしまう。 タイミング良くアルバイトもやめてしまい、完全に収入が途絶えてしまったことから探索者になることを決める。 数日間が経過し、とある都市伝説を友人から聞いて実践することに。 すると、聞いていた内容とは異なるものの、レアドロップ&レアスキルを手に入れてしまう! 手に入れたものを活かすため、一度は去った配信業界へと戻ることを決める。 そんな矢先、ダンジョンで狩りをしていると少女達の危機的状況を助け、しかも一部始終が配信されていてバズってしまう。 無名にまで落ちてしまったが、一躍時の人となり、その少女らとパーティを組むことになった。 和昌は次々と偉業を成し遂げ、底辺から最速で成り上がっていく。

処理中です...