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5章 2年目の終わり。それは夢の終わり。

第63話 先頭集団追走

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 レース中に協力関係となった青いジャージの選手3名とローテーションをしながら先頭集団を追いかける。
 30秒毎に先頭交代しながら1分30秒が経過した。
 前の選手が肘で合図したので、右側面から前に出る。
 一気に風圧を受けて減速しそうになるが足に力を込めて踏ん張る。
 500Wのパワーで30秒持ちこたえれば良いのだったな。
 サイコンのパワー表示とタイムを時々確認しながらパワーを維持する。
 大丈夫と言ったが結構ギリギリだな。何とか30秒耐えて肘を突き出し、後続の選手に合図を送った。
 私の右側を協力している選手3人がスッと通過する。
 危ない、危ない、気を緩めたら乗り遅れそうになった。
 慌てて緩めた足に力を込めて3人の後ろに続く。
 先頭よりは足を休められるが、4人だと完全に空気抵抗を減らせないから結構体力がいる。
 協力してくれた3人の選手は綺麗に先頭交代をしている。
 良くチームで先頭交代の練習しているのだろう。
 先頭交代のロスを最低限に抑えているのだ。
 先頭交代で前に出る後続選手は急加速しないで一定のパワーで走って、先頭の選手が足を休めて減速して後ろにつく方法だ。
 普段練習しているローテーションとはタイミングが違って難しい。
 普段は後続の選手が加速しながら追い抜いて、先頭の選手が速度を維持したまま交代している。
 私と東尾師匠、利男は3人全員がスプリントが得意だからだ。
 慣れていない方法だが、私が交代のリズムを乱す訳にはいかない。
 必要なパワーを出すだけでギリギリだけど、交代のタイミングをずらさない様に集中する。
 1分30秒が過ぎて、再び自分が先頭を引く番になる。
 先頭の選手の合図にタイミングを合わせて右脇に出て先頭を走る。
 最初より30秒が長く感じるのがキツイ。だけど耐えられる。
 インターバルトレーニングで経験している事だからだ。
 完全に追いつくまで後4m、先頭集団に近づいたから急に足が楽になる。
 そのまま90度コーナーに突入した。1周目の最終コーナーだな。

「あと少しです。一気に追いましょう!」

 後方から声をかけられたので、コーナーを抜けた後の立ち上がりの加速で4人同時にスプリントした。
 そして、4人同時に先頭集団の最後尾に飛びついた。
 はぁ、はぁ。
 何とか先頭集団に復帰出来たな。一人だったら絶対に追いつけなかっただろう。
 協力してくれた3人に感謝したいが、息が切れて声が出ない。

「先頭集団に復帰出来たけど、大丈夫ですかお兄さん?」

 相手チームのリーダー的な選手に声をかけられるが、息が乱れて直ぐには返事が出来ない。
 ゆっくり集団内で足を休めて、なんとか息を落ち着けた。

「お陰で集団に復帰出来たよ。有難う」
「こちらこそ、足の消耗を減らせて助かりましたよ」
「どうして私を誘ってくれたのですか?」

 私は3人に疑問をぶつけた。他にも遅れた選手は沢山いた。
 中には私より実力がありそうな選手だっていたのに。

「諦めてなさそうだったからね。それに遅れた切っ掛けになった選手に文句を言わなかったのが決め手かな。周りの選手に敬意を払えない相手とは組みたくないですよ」
「愚痴ってばかりで何もしない人とは組みたくないからね。集団内で楽をしたいってだけの相手だと協調出来ないよ」
「体格が良くて結構鍛えている様に見えたからね。先頭を引くにはパワーがいるからね。本気で競技に取り組んでるって見た目で分かるよ」

 3人がそれぞれ私と協力した理由を教えてくれた。
 嬉しいな。
 本気で競技をしている若い選手に認めてもらえるなんてな。

「そう言ってもらえると嬉しいよ。この後はどうします」

 協力の条件は先頭集団の追走までだ。この後は決めていない。

「私達は前に出る予定です。また先頭集団から遅れたくないですからね」
「都合よく一緒に先頭集団を追いかけてくれる相手が見つかるとは限らないですからね」
「ホビーレースで後ろ走っている選手は、プロと違って直ぐ諦めちゃいますからね」

 彼らは前に出るのか。
 今の自分の状態で一緒にいたら、彼ら3人の足を引っ張るだけだ。
 どうやらここでお別れのようだ。

「そうか、頑張って下さい。私は自分のペースで出来るだけ先頭集団に残ろうと思う」
「そうですか。頑張って下さい」
「お先に失礼します」
「ありがとう御座いました」

 そう言って3人が先頭集団の前の方に進んでいった。
 凄いな。私は先頭集団の追走で疲れ切っているから、集団後方で足を休めないと折角追いついた先頭集団から遅れそうなのに。
 ここから先は再び一人の戦いだ。
 折角先頭集団に復帰出来たのだ。出来るだけ粘らないとな。
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