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4章 2年目の中年レーサー
第54話 想定外の脱落者
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ここから先は私が得意な下り区間だ。だが、油断は出来ない。
足を動かさなくても時速50km以上出るのだ。
コーナーで曲がり切れない可能性がある。
慎重にブレーキをかけて減速しながらコーナーを抜けていく。
西野の話によれば、既に20人以上通過している。
先頭の東尾師匠がかなりペースを上げて先導してくれているが、まだまだ前を走る選手達は見えない。
中々追いつかないので焦りを感じるが、仲間達は淡々と走り続けている。
今は仲間を信じるしかないか。
そして下り区間を終え、再び平地区間に突入した。
下り区間では森林に囲まれて前方が確認しづらかったが、平地区間では前方が見渡せる。
前の選手は大体1km先くらいか……上り区間で遅れた分は下りで挽回する予定だったが、大分遅れていたようだ。
「ここは俺達に任せてもらうよ。行くぞ南原君!」
「はいっ、北見さん」
オールラウンダーの北見さんとタイムトライアルスペシャリストの南原さんが先頭に躍り出る。
平地での独走力が高い二人がチームを牽引する事で、この平地区間で一気に追いつこうという作戦だ。
北見さんと南原さんの二人が綺麗にローテーションしながら先頭を走る。
「猛士さん、二人が頑張ってくれている間に回復しましょう」
「そうだぜ、休めるのは今だけだ。ゴール前はハードな展開になるからな」
「善処しますよ」
東尾師匠と利男の言う通りだ。
この先の最終区間はアップダウンが激しいコースレイアウト。
東尾師匠が一番得意なコースだが、恐らく利男も得意だろう。
短いアップダウンが続くコースは、インターバル耐性が高い選手が得意だ。
だから、同じようにインターバル耐性が重要なクリテリウムに参戦している利男も得意なはずだ。
元々実力不足の私が二人と一緒に走るには、仲間のアシストを受けて足が回復するのを待つしかない。
だから、ひたすら仲間の後ろで黙って走り続けた。
そして、平地区間の終わりが見えた所で急に速度が落ちた。
後少しで前の選手に追いつくところだったのに、何が起きたのだ?!
そう思ったのは私だけでは無かったようだ。
「おいっ、南原君。どうした?! 速度が落ちてるぞ!!」
「すみません……もう無理そうです」
「らしくねぇな。これくらいでへばる実力じゃねぇだろ?」
「すみません」
前方から北見さんと南原さんの会話が聞こえる。
遅れ始めたのは南原さんだった。
持久力に自信がある南原さんが遅れるのは珍しい。
アシストを受けているとはいえ、私がついていける速度なのだ。
普段の彼の実力からすると考えられない。
「無理すんな! 後は俺達が想いを引き継いで走り切る!!」
すかさず利男が南原さんを気遣う。
想いを引き継ぐってのはアニメかなにかの影響だろうか……それでも彼が心配している事には変わりはない。
「堅司、無理は良くない。後は俺が先頭を引くから」
そう言って東尾師匠が先頭を走る。
「すまねぇ。南原君は俺が面倒みるから先に行ってくれ」
北見さんが南原さんに合わせて速度を落とす。
文句を言いながらも、北見さんが一番心配しているではないか。
謎の不調が気になるが、北見さんが一緒なら安心だ。
「アシストありがとう御座いました」
そう言って二人の脇を通り抜けて前に出た。
そのまま3人で走り、最後のアップダウン区間の入口で、何とか先行する20人の最後尾を捉えた。
ここからが最後の勝負所だ!
「500Wで行く。猛士さんいけますか?」
東尾師匠が私に問いかける。
500Wか……今のコンディションなら何とか出せるパワーだ。
「行けます!」
出来るだけ呼吸を乱さない様に短く答えた。
「分かった。私が巻き起こす風に合わせろ!」
私の風に合わせる? 師匠は一体何を言っているのだ?
「分かった。燃え上がるぜ!」
「利男には師匠の言葉の意味が分かるのか?」
「意味は分からない。だけど、心意気は分かるさ!」
私には師匠の言葉の意味も、利男が言っている事も分からない。
レースに残ったのが感覚派の二人しかいないから、具体的に説明してくれる仲間がいない。
さて、どうしたものか……
「とにかく気楽にタイミング合わせて走ればいいさ! ノリだよノリ!」
ふっ、ノリか。利男の言う通り気楽に走ってみよう。
東尾師匠、利男の後ろに続いて短い上り坂を駆け上がる。
黙ってついていくと、師匠の宣言通りサイコンに500W前後の数値が表示される。
これは凄い事だと思う。
私が500Wのパワーで上れるという事は、先頭で風圧を受けている東尾師匠はそれ以上のパワーを出して上っているという事。
恐らく600W前後で走っているのだろう。
それに、何故か普段より前に進む感覚がある。
何故だか分からないが気分良く走れている。
利男の言った通りノリで二人を追いかけているだけなのだが。
でも、お陰で何とか走り切れそうだ。
ゴールは近いーー
足を動かさなくても時速50km以上出るのだ。
コーナーで曲がり切れない可能性がある。
慎重にブレーキをかけて減速しながらコーナーを抜けていく。
西野の話によれば、既に20人以上通過している。
先頭の東尾師匠がかなりペースを上げて先導してくれているが、まだまだ前を走る選手達は見えない。
中々追いつかないので焦りを感じるが、仲間達は淡々と走り続けている。
今は仲間を信じるしかないか。
そして下り区間を終え、再び平地区間に突入した。
下り区間では森林に囲まれて前方が確認しづらかったが、平地区間では前方が見渡せる。
前の選手は大体1km先くらいか……上り区間で遅れた分は下りで挽回する予定だったが、大分遅れていたようだ。
「ここは俺達に任せてもらうよ。行くぞ南原君!」
「はいっ、北見さん」
オールラウンダーの北見さんとタイムトライアルスペシャリストの南原さんが先頭に躍り出る。
平地での独走力が高い二人がチームを牽引する事で、この平地区間で一気に追いつこうという作戦だ。
北見さんと南原さんの二人が綺麗にローテーションしながら先頭を走る。
「猛士さん、二人が頑張ってくれている間に回復しましょう」
「そうだぜ、休めるのは今だけだ。ゴール前はハードな展開になるからな」
「善処しますよ」
東尾師匠と利男の言う通りだ。
この先の最終区間はアップダウンが激しいコースレイアウト。
東尾師匠が一番得意なコースだが、恐らく利男も得意だろう。
短いアップダウンが続くコースは、インターバル耐性が高い選手が得意だ。
だから、同じようにインターバル耐性が重要なクリテリウムに参戦している利男も得意なはずだ。
元々実力不足の私が二人と一緒に走るには、仲間のアシストを受けて足が回復するのを待つしかない。
だから、ひたすら仲間の後ろで黙って走り続けた。
そして、平地区間の終わりが見えた所で急に速度が落ちた。
後少しで前の選手に追いつくところだったのに、何が起きたのだ?!
そう思ったのは私だけでは無かったようだ。
「おいっ、南原君。どうした?! 速度が落ちてるぞ!!」
「すみません……もう無理そうです」
「らしくねぇな。これくらいでへばる実力じゃねぇだろ?」
「すみません」
前方から北見さんと南原さんの会話が聞こえる。
遅れ始めたのは南原さんだった。
持久力に自信がある南原さんが遅れるのは珍しい。
アシストを受けているとはいえ、私がついていける速度なのだ。
普段の彼の実力からすると考えられない。
「無理すんな! 後は俺達が想いを引き継いで走り切る!!」
すかさず利男が南原さんを気遣う。
想いを引き継ぐってのはアニメかなにかの影響だろうか……それでも彼が心配している事には変わりはない。
「堅司、無理は良くない。後は俺が先頭を引くから」
そう言って東尾師匠が先頭を走る。
「すまねぇ。南原君は俺が面倒みるから先に行ってくれ」
北見さんが南原さんに合わせて速度を落とす。
文句を言いながらも、北見さんが一番心配しているではないか。
謎の不調が気になるが、北見さんが一緒なら安心だ。
「アシストありがとう御座いました」
そう言って二人の脇を通り抜けて前に出た。
そのまま3人で走り、最後のアップダウン区間の入口で、何とか先行する20人の最後尾を捉えた。
ここからが最後の勝負所だ!
「500Wで行く。猛士さんいけますか?」
東尾師匠が私に問いかける。
500Wか……今のコンディションなら何とか出せるパワーだ。
「行けます!」
出来るだけ呼吸を乱さない様に短く答えた。
「分かった。私が巻き起こす風に合わせろ!」
私の風に合わせる? 師匠は一体何を言っているのだ?
「分かった。燃え上がるぜ!」
「利男には師匠の言葉の意味が分かるのか?」
「意味は分からない。だけど、心意気は分かるさ!」
私には師匠の言葉の意味も、利男が言っている事も分からない。
レースに残ったのが感覚派の二人しかいないから、具体的に説明してくれる仲間がいない。
さて、どうしたものか……
「とにかく気楽にタイミング合わせて走ればいいさ! ノリだよノリ!」
ふっ、ノリか。利男の言う通り気楽に走ってみよう。
東尾師匠、利男の後ろに続いて短い上り坂を駆け上がる。
黙ってついていくと、師匠の宣言通りサイコンに500W前後の数値が表示される。
これは凄い事だと思う。
私が500Wのパワーで上れるという事は、先頭で風圧を受けている東尾師匠はそれ以上のパワーを出して上っているという事。
恐らく600W前後で走っているのだろう。
それに、何故か普段より前に進む感覚がある。
何故だか分からないが気分良く走れている。
利男の言った通りノリで二人を追いかけているだけなのだが。
でも、お陰で何とか走り切れそうだ。
ゴールは近いーー
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