43 / 101
4章 2年目の中年レーサー
第43話 新メンバーの顔合わせ
しおりを挟む
レース会場で知り合った新メンバーの顔合わせの為、チームメンバーでヤビツ峠を走る事にした。
集まったのは私と西野、北見さん、南原さん、木野さん、鈴木さんの6名だ。
東尾師匠は最上位クラスで走れる実力があるから、最近はトップレベルのサイクリストと一緒に走る事が多くなり、私達と一緒に走る事が少なくなったのは残念だ。
まぁ、SNSでつながりはあるし、レースの時は会えるから疎遠になった訳ではないのだけど。
「ちょっと年甲斐もなくこんな可愛い女の子誘ってるのよ!」
ひまりちゃんを見た西野が咎める様に言う。
「いや、誘ったのは南原さんだよ」
「自分が猛士さんにお願いーー」
「でも許可したのは猛士でしょ」
南原さんの発言を遮って西野が私を責める。
「ご迷惑でしたでしょうか?」
「迷惑じゃないわよ。私も女性サイクリストが増えるの嬉しいから。私は西野綾乃、皆からはノノって呼ばれているわ。宜しくね」
西野がひまりちゃんに挨拶をする。
「良かったです。鈴木ひまりと申します」
「私は北見勇登。チームのお目付け役のお節介なオッサンだよ」
続いてひまりちゃんと北見さんが自己紹介した。
私と南原さん木野さんの3人は、レース会場で既に挨拶しているから自己紹介を割愛した。
新メンバーのひまりちゃんは大学生で南原さんより一歳年下の20才だ。
愛らしい顔立ちで大学ではモテるのだろうな……大学では。普通であれば男性陣から質問攻めになるのだろう。
だけど、ここにいるのは変なロードバイクマニアのオッサン集団だ。
私と木野さんと北見さんの3人はひまりちゃんのロードバイクに群がった。
ひまりちゃんのロードバイクが長距離や荒れた路面で楽に走れる様に設計されているエンデュランスモデルだったからだ。一般的には珍しくないロードバイクだが、ホビーレーサーはあまり購入しないタイプなので、どうしても気になってしまう。
「エンデュランスモデルですよ。レース会場では見かけないから、近場で見れて感動ですよぉ」
「見どころはここだな。ここに振動吸収機構が組み込まれているのさ」
「なんだか特殊メカが満載で結構熱いですね」
「レースモデルは空力を追求して似たような形状ばかりですけど、エンデュランスモデルは複雑な形状でたまりませんなぁ」
「メーカーによって設計思考に違いがあってロマンがあるよな!」
「楽に走る為のロードバイクの方が凄い機構が満載なのは不思議ですね」
「こいつは楽に走る為のバイクじゃない。石畳の上を速く走る為のレースマシンなんだぜ」
私と木野さんと北見さんの3人で熱く語る。
ひまりちゃんのロードバイクは、ただのエンデュランスモデルではなく、石畳区間があるクラシックレースで勝利する為のレーシングバイクだったから尚更だ。
「ちょっと! 鈴木さんを放置して何3人で盛り上がっているのよ!」
西野に注意される。すっかり忘れていた。
西野と南原さんが相手してくれてると思って安心してたからかな。
「ロードバイク談義で盛り上がって放置して済まなかったな、ひまりちゃん」
「ひまりちゃん?! なんで知り合ったばかりなのに名前呼びなのよ!」
西野に詰め寄られる。
困ったな。前回参加したレース会場で南原さんをからかう為に「ひまりちゃん」と呼んだ事が裏目に出たか。
今更呼び方を変更するのも不自然だよな。
「南原さんがそう呼んでいたから合わせただけだよ。ノノと同じであだ名みたいなものだ」
「本当なの南原!」
私の苦し紛れの説明を聞いた西野が、今度は南原さんに詰め寄る。
「本当です。自分が本名を聞く前にひまりちゃんと紹介したので……」
「本名を聞く前? 南原と鈴木さんはどの様な関係なの?」
「……この前のレース会場で知り合ったばかりです」
西野に問い詰められて、南原さんが鈴木さんとの関係を渋々話した。
ひまりちゃんは南原さんと親しげに話していたが初対面だったのか。
南原さんは、この前の私と木野さんのレースを見ないでナンパしていた?
それは流石に想像出来ないな……
「ごめんなさぁい。私が気軽に話かけちゃったから誤解させちゃいましたか?」
ひまりちゃんが可愛い声で謝る。
これが男性陣だけなら和むのだろうな。
「猛士ぃ~。何も確認しないで連れて来たの?」
「まぁ、良いではないか。悪い人じゃない事は確認済だ。年齢が近い南原さんに任せるよ」
「南原が責任とるなら良いわよ。泣かせるんじゃないわよ」
「分かりました。頑張ります」
「ありがとう御座いますぅ、猛士さん!」
「猛士さん?! 名前で呼ばせているの?」
「呼ばせてはいない。呼ばれているだけだ」
最早何を言っているのか自分でも分からない。
西野がひまりちゃんを嫌がっているのか歓迎しているのか分からない。
放置しても、親し気にしても不満なようだ。
「4人揃って何やってるんだよ。木野君が暇そうにしているぞ」
北見さんに指摘されて放置された木野さんに気付く。
「済まない。それでは走りに行こうか」
私の合図で峠を走り始めた。
いつものメンバーはさっさと視界から消えてしまった。
上り坂で遅いのは私と……ひまりちゃんか。
ひまりちゃんはレースをしない人なので、あまり速くはなかった。
具体的に言うと、私と同じ程度の走力だ。
つまり、私はひまりちゃんの後ろに張り付いて走っている。
南原さんに任せると言っておきながら、結局私とひまりちゃんの二人で走っている。
これはかなり恥ずかしい状況だな。
集まったのは私と西野、北見さん、南原さん、木野さん、鈴木さんの6名だ。
東尾師匠は最上位クラスで走れる実力があるから、最近はトップレベルのサイクリストと一緒に走る事が多くなり、私達と一緒に走る事が少なくなったのは残念だ。
まぁ、SNSでつながりはあるし、レースの時は会えるから疎遠になった訳ではないのだけど。
「ちょっと年甲斐もなくこんな可愛い女の子誘ってるのよ!」
ひまりちゃんを見た西野が咎める様に言う。
「いや、誘ったのは南原さんだよ」
「自分が猛士さんにお願いーー」
「でも許可したのは猛士でしょ」
南原さんの発言を遮って西野が私を責める。
「ご迷惑でしたでしょうか?」
「迷惑じゃないわよ。私も女性サイクリストが増えるの嬉しいから。私は西野綾乃、皆からはノノって呼ばれているわ。宜しくね」
西野がひまりちゃんに挨拶をする。
「良かったです。鈴木ひまりと申します」
「私は北見勇登。チームのお目付け役のお節介なオッサンだよ」
続いてひまりちゃんと北見さんが自己紹介した。
私と南原さん木野さんの3人は、レース会場で既に挨拶しているから自己紹介を割愛した。
新メンバーのひまりちゃんは大学生で南原さんより一歳年下の20才だ。
愛らしい顔立ちで大学ではモテるのだろうな……大学では。普通であれば男性陣から質問攻めになるのだろう。
だけど、ここにいるのは変なロードバイクマニアのオッサン集団だ。
私と木野さんと北見さんの3人はひまりちゃんのロードバイクに群がった。
ひまりちゃんのロードバイクが長距離や荒れた路面で楽に走れる様に設計されているエンデュランスモデルだったからだ。一般的には珍しくないロードバイクだが、ホビーレーサーはあまり購入しないタイプなので、どうしても気になってしまう。
「エンデュランスモデルですよ。レース会場では見かけないから、近場で見れて感動ですよぉ」
「見どころはここだな。ここに振動吸収機構が組み込まれているのさ」
「なんだか特殊メカが満載で結構熱いですね」
「レースモデルは空力を追求して似たような形状ばかりですけど、エンデュランスモデルは複雑な形状でたまりませんなぁ」
「メーカーによって設計思考に違いがあってロマンがあるよな!」
「楽に走る為のロードバイクの方が凄い機構が満載なのは不思議ですね」
「こいつは楽に走る為のバイクじゃない。石畳の上を速く走る為のレースマシンなんだぜ」
私と木野さんと北見さんの3人で熱く語る。
ひまりちゃんのロードバイクは、ただのエンデュランスモデルではなく、石畳区間があるクラシックレースで勝利する為のレーシングバイクだったから尚更だ。
「ちょっと! 鈴木さんを放置して何3人で盛り上がっているのよ!」
西野に注意される。すっかり忘れていた。
西野と南原さんが相手してくれてると思って安心してたからかな。
「ロードバイク談義で盛り上がって放置して済まなかったな、ひまりちゃん」
「ひまりちゃん?! なんで知り合ったばかりなのに名前呼びなのよ!」
西野に詰め寄られる。
困ったな。前回参加したレース会場で南原さんをからかう為に「ひまりちゃん」と呼んだ事が裏目に出たか。
今更呼び方を変更するのも不自然だよな。
「南原さんがそう呼んでいたから合わせただけだよ。ノノと同じであだ名みたいなものだ」
「本当なの南原!」
私の苦し紛れの説明を聞いた西野が、今度は南原さんに詰め寄る。
「本当です。自分が本名を聞く前にひまりちゃんと紹介したので……」
「本名を聞く前? 南原と鈴木さんはどの様な関係なの?」
「……この前のレース会場で知り合ったばかりです」
西野に問い詰められて、南原さんが鈴木さんとの関係を渋々話した。
ひまりちゃんは南原さんと親しげに話していたが初対面だったのか。
南原さんは、この前の私と木野さんのレースを見ないでナンパしていた?
それは流石に想像出来ないな……
「ごめんなさぁい。私が気軽に話かけちゃったから誤解させちゃいましたか?」
ひまりちゃんが可愛い声で謝る。
これが男性陣だけなら和むのだろうな。
「猛士ぃ~。何も確認しないで連れて来たの?」
「まぁ、良いではないか。悪い人じゃない事は確認済だ。年齢が近い南原さんに任せるよ」
「南原が責任とるなら良いわよ。泣かせるんじゃないわよ」
「分かりました。頑張ります」
「ありがとう御座いますぅ、猛士さん!」
「猛士さん?! 名前で呼ばせているの?」
「呼ばせてはいない。呼ばれているだけだ」
最早何を言っているのか自分でも分からない。
西野がひまりちゃんを嫌がっているのか歓迎しているのか分からない。
放置しても、親し気にしても不満なようだ。
「4人揃って何やってるんだよ。木野君が暇そうにしているぞ」
北見さんに指摘されて放置された木野さんに気付く。
「済まない。それでは走りに行こうか」
私の合図で峠を走り始めた。
いつものメンバーはさっさと視界から消えてしまった。
上り坂で遅いのは私と……ひまりちゃんか。
ひまりちゃんはレースをしない人なので、あまり速くはなかった。
具体的に言うと、私と同じ程度の走力だ。
つまり、私はひまりちゃんの後ろに張り付いて走っている。
南原さんに任せると言っておきながら、結局私とひまりちゃんの二人で走っている。
これはかなり恥ずかしい状況だな。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる