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3章 レースチームを立ち上げる中年

第35話 サバイバルレース

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 8周目、先頭集団が通過する。
 師匠は……先頭集団の中央付近でローテーションに加わっている!
 スタート直後よりスピードが落ちたからだろうか、淡々と走っている様に見える。
 それでも私達より明らかに速いのだけど。師匠が持ち直して良かった。

「師匠ならいける!」
「東尾さーん!」
「まだ13周も残ってるわよ!」

 私と木野さんの声援と……西野の何かは気にしないでおく。
 続いて第2集団が通過する。
 先頭集団から1名脱落したから11人で走っていると思ったが、逆に8人に減っている。
 第2集団からも更に3人脱落したということか?
 人数も減り集団の力が弱まっており、選手達に激しい疲労が伺える。
 体力の低下を表す様にタイム差も10秒に開いている。
 私達3人は周囲の観客と一緒に声援を送った。完走出来ると良いな。
 更に待つこと30秒……やっと第3集団がやって来た。集団の8名全員がやっと走っている様子だ。
 だが、なんと声をかければ良いのだろう。
 タイム差を考えれば、既にこの周回でラップアウトが確定したと言ってよいからだ。

「最後まで頑張って!」

 西野が声援を送る。
 そうだな、完走出来なくても最後まで声援は送ろう。

「ファイトォ!」
「頑張って下さい!」

 私と木野さんも声援を送り、第3集団の選手を見送った。
 だがホームストレートでラップアウトになり、第3集団の8名全員が係員の案内でコース外へ退場していった。
 事前に西野が言っていた様に厳しいレースだな。
 まだ、20周の内8周しかしていない。
 それなのに参加した30名中13名がラップアウトとなりコースから去っているのだ。
 残り13周もあるのでレースは淡々と展開すると思っていたが実際は違った。
 先頭集団の選手が足が回復する度にアタック合戦を繰り返して速度を上げるのだ。
 遂に15周目で第2集団までもラップアウトとなってしまった。
 まさに生き残りをかけたサバイバルレースだな。
 先頭集団は更に人数を減らして7人となっている。
 いや、もはや集団とは言えないな。実質7人でレースを行っているようなものだ。
 残り3周、スプリントが苦手な選手が速度を上げる。
 スプリント勝負にならない様に逃げきるつもりのようだ。
 7人が綺麗に一直線に並んで走行している。
 師匠は……少し遅れている。

「負けるなぁ!」
「踏ん張って!」
「何やってるの! 弟子は完走したわよ!」

 他の選手から遅れ気味な師匠に声援を送る。
 師匠はインターバル耐性は高いが持久力はあまり高くない。
 急加速の連続より、巡行速度を上げ続けられる方が苦手なのだ。
 残り2周、僕達の前を選手が通過するが……師匠が遅れている!
 先頭の5名が通過した後、師匠と他の選手1名の二人が遅れて通過した。
 流石に限界だったのだろう。
 今までの周回より明らかに速度が落ちている。

「師匠! まだ追えます!」
「5秒差! まだいけます!」
「弟子が見てるわよ~」

 師匠のピンチだ。今こそ声援の力が必要だ! 私と木野さんの声援に力が入る。
 そして迎えたファイナルラップ。
 先頭の5名の選手が更に加速を始める。
 20周目なのに今までで一番速い速度で走っている!
 師匠ともう一人の選手は二人で前後に並んで走って来た。
 もう先頭に追い付くことはないだろうが完走は確定した。

「師匠スプリント頑張って下さい!」
「最後です!」
「最後くらい見せ場作りなさいよ!」

 私達の声援を聞いても師匠は動かず、ひたすら前の選手のドラフティングに付いている。
 このまま前の選手の後ろで足を休めて6位狙いだな!
 そして、続々とホームストレートに戻って来た先頭の選手達がスプリントを開始した。
 迫力満点のスプリント勝負で非常に興奮したが、メインのお楽しみはこれからだ。
 ホームストレートに戻って来た師匠ともう一人の選手。
 ここで師匠の必殺技が炸裂する!
 遠くから声援を送るが……師匠が減速した?!
 何故かスプリントをせず、それどころか減速した師匠。
 もう一人の選手がゴールラインを通過して、続いて師匠がゴールする。
 結局、師匠は7位となったかーー
 レースが終わり師匠が戻って来た。

「お疲れ様師匠。凄いレースでした」
「凄かったです。でも必殺技のスプリント見たかったなぁ」
「東尾にしては頑張ったじゃない」

 私と木野さんは師匠の健闘を称えたが西野は微妙だ。
 西野は何故か東尾師匠に対して冷たい。
 チームを結成してから特にだ。
 そんな西野を気にせず、師匠がスプリントしなかった理由を教えてくれた

「木野さんは俺のスプリント見た事なかったか? 今回は御免な。一緒に走った相手が、途中ずっと前を引いてくれたからな。最後スプリントする訳にはいかないだろ?」

 そういう事だったのか。
 師匠はいつも軽い感じの話し方をするし、スプリント時は荒々しい人だが、紳士的な走りをするのだよな。

「おーい、エリートクラスで生き残るとは、中々やるじゃないか!」
「凄い写真が取れましたよ。エリートクラスはコーナリングの姿勢も違ってカッコ良いですね」

 写真を撮りに行ってた北見さんと南原さんも戻ってきた。
 帰宅後に写真を整理して送ってくれる事になったので、チームメンバーで写真フォルダを共有する事にした。
 後は木野さんの表彰式だけだなーー
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