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3章 レースチームを立ち上げる中年

第34話 最上位クラスを観戦する

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 さて次は師匠のレースだ。
 前回エキスパートクラスで優勝しているから。
 今回は最上位のエリートクラスで参戦だ。
 北見さんと南原さんは、それぞれ写真を撮りにゴール前と最終コーナー付近に向かっていった。
 私と西野と木野さんの3人は第2コーナーを抜けたバックストレートの入口付近に陣取った。
 西野がお菓子と飲み物を取り出す。私はアウトドア用の簡易チェアを3人分用意した。

「ボロボロの東尾に楽しくヤジを飛ばすわよ!」

 ヤジ?
 私と木野さんには声援を送っていたのに?! しかもボロボロだって?
 でもヤジを飛ばす機会は来るのだろうか?
 いくら上のクラスに上がったとはいえ、エキスパートクラスでぶっちぎり優勝を果たしたのだ。

「ヤジだって? 優勝は無理でも結構良い順位になると思うけど?」
「ボロボロは言い過ぎだけど、厳しいレースになると思いますよ」
「その通り! だから何周持つか賭けましょう」

 木野さんも厳しいレースになると思っているのか。
 それだけ最上位クラスは特別なのか?
 でもヤジを飛ばす必要はないよな?

「普通に応援しよう。完走出来る様に」
「そうですね。全員完走で帰りましょう!」
「私は15周でドロップすると思うわ」

 西野は遠慮ないな……
 パァーン!
 ピストルの音が会場に鳴り響いた。
 師匠のレース展開について話している間にレースが開始されたのだ。
 ローリングスタートで速度を落とした集団が私達の前を通過する。
 いた、師匠だ!
 ロードバイクを含めた全身が赤い師匠は目立つ。

「師匠!」
「東尾さん!」

 私と木野さんが声援を送ると、師匠が前を向いたまま頭を下げて反応した。
 派手好きな師匠なのに地味な反応しかしないのは、集団走行でよそ見や手放しは危険だからだ。
 それでも、位置取りは集団の先頭付近だったし、ニヤニヤしていたから上位を狙っている事は分かる。
 そして1周を終えリアルスタートを迎えた。
 爆発的に加速する先頭集団。
 一気に第1コーナー、第2コーナーを抜けて私達の前を通過し始めた。
 師匠は何処だ? あまりの速さに見失う。
 既に大半の選手が先頭集団から遅れ。第2、第3集団と小さい集団に分断されている。

「師匠は何処に?」
「私も見失ってしまいましたねぇ」
「一応先頭集団にいたわよ」

 何だ私と木野さんが見逃す程の状況で、師匠を見つけられる程度には良く見てくれているではないか。
 西野も師匠を心配してくれているのだろうな。
 3周目、再び先頭集団が私達の前を通過する。
 先頭集団の10名の中に師匠がいる。
 いや、正確に言うと先頭集団の中ではなく最後尾だ。

「頑張れ師匠!」
「ファイトですよぉー」
「15周踏ん張りなさいよ」

 再び声援+αを送る。
 初めて見る師匠の余裕のない横顔……これが師匠の本気か?
 師匠達先頭集団が走り去った5秒後、10名程の第2集団が通過する。

「5秒差! まだ追えるわよ!」

 西野が第2集団に声援を送る。師匠には送らないのに……

「今の集団ノノの知り合いがいたのか?」
「いないわよ。同じ趣味で頑張っている選手には声援を送りたくなるでしょ。周りの観客も同じで声援を送っているじゃない?」

 そういう事なら納得だな……いや、納得出来ないだろう。
 ゲスト扱いだが師匠は同じチームだ!
 他の選手に声援を送る理由は理解出来たけど師匠も応援しようよ。

 更に5名程の第3集団が通過したので、私と木野さんも西野と一緒に声援を送った。
 第3集団は第2集団から更に5秒遅れている。
 先頭からはたったの10秒差だけど、平均時速45kmでは125mの差がつくのだ。
 このままのペースで離されたら後4周程度でラップアウトが適用されてしまう。
 全部で20周回の内、まだ3周目なのに……
 その後も選手が観戦している私達の前を通過していく。
 ただでさえ遅れているのに集団ではないので、空気抵抗を減らすためのローテーションを行えないのだ。
 挽回出来ず、次の周回でラップアウトとなるだろう……それでも周囲の観客と一緒に声援を送った。
 そうしている内に先頭集団が戻って来た。
 早いな、私達のレースより1周20秒程早いのではないか?
 先頭集団は既に1名減って9名になっていたが、師匠は無事に先頭集団に残っていた。

「頑張れー!」
「負けるなー!」
「遅れ始めてるわよ!」

 師匠は私達が送った声援に反応しなかった。
 何かに嚙みつくのではないかと思えるように、大きな口を開けて荒い呼吸をしている師匠。
 既に声援を聞く余裕が無いのだろう。
 それでも声援を送るのを止める事はしない。

「東尾持たなそうね。このままだと全員外れかな」
「ノノ! 師匠を信じようよ」
「そうですよ。まだまだ先頭集団に残れているのだから凄いですよ!」
「ギリギリ完走が持ち味の猛士の師匠だからね。東尾も師匠としてギリギリ完走の見本を見せないとね」

 何か吹っ切れたのか、西野が益々遠慮なく毒を吐くようになったな。
 話込んでいる間に第2集団が通過する。
 先頭集団との差は5秒を維持か……少しレース展開が落ち着いたのだろうか。
 続く第3周集団は先頭から15秒差。更に差を開けられている。
 このままでは後3周程度でラップアウトになる計算だ。無事に完走出来る様に声援を送った。
 残りの集団から遅れた5名の選手は4周目でラップアウトとなってしまった。
 残り25名……最上位クラスなだけあって激しいレースだな。
 自分自身のレースより観戦の方が時間を忘れて白熱してしまう。
 レース中は余裕が無いけど、落ち着いて観戦するとレース展開が良く見えて面白いからだ。
 これもレース参加の醍醐味の一つだな。
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