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2章 進化する中年レーサー
第15話 時間を忘れてしまったひと時
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レースを終えた私は、西野と師匠のもとに戻って愛車を近くの地面に置いた。
「完走しちゃったじゃない!」
「完走おめでとう。素晴らしいスプリントだったよ」
「ありがとう二人共」
西野と師匠それぞれとハイタッチする。
ビリでギリギリ完走でも、お互いに盛り上がれるのがホビーレースの良いところだよな。
これがプロのレーサーだったら、ひんしゅくもので来季の契約に影響が出るのだろうけど。
「バイク見ておくから食事行ってきな」
「師匠は食事どうするのですか?」
「俺はレース直前には食べない主義だから行ってきな」
「盗まれない様にしっかり見ておきなさいよ」
私と西野は師匠の好意に甘えて、少し遅い昼食を取りにレース会場内を散策した。
前回は焼きそばにしたけど、今回はどうしようかな。
レースの疲れで沢山食べれそうもないな。
場内を見渡すとパンが売っているのが目に入った。パン一個だけなら食べきれるな。
「今日はパンにするよ」
「小食なのね。私はホットドッグにするわ。当然セットで」
西野はホットドッグにポテト、更に炭酸飲料とカロリー盛りだくさんのセットを昼食に選んだ。
師匠のもとに戻り、並んで座って食事を始める。
私達が戻った事で師匠は入れ替わりで試走に向かった。
隣でホットドッグに噛り付く西野を見て思う。
こんなに食べ続けて、どうしてスタイルが維持出来るのだろう?
自分自身が太りやすい体質だから気になってしまう。
「ノノはいつも沢山食べるよな。太らないのが不思議だよ」
「太る方が不思議よ。毎週こんなにカロリーを消費しているのに」
西野がスマホを見せる。
これはサイクリングデータが記録出来るアプリか。
消費カロリーが毎週7,000キロカロリー……西野は何を目指しているのだ?
しかも見せてくれたデータには身長、体重も表示されているのだけど……
見せられているコッチが恥ずかしさと緊張で固まる。
自転車アプリの使い方を教えてくれるのは教えてくれるのは有り難いのだけどね。
その後も暫くデータを見せてもらったが、一つ気になる数値が目に入った。
理由は圧倒的に高い数値が表示されていたからだ。
「この獲得標高って数値がバグっている様に見えるけど?」
「んっ、普通じゃない。先月と同じで2万mくらいの数値が出ているし」
「獲得標高って上った高さで合ってるよな?」
「当然じゃない」
「この前上ったヤビツ峠で換算すると、毎月25回以上走っている事になるけど」
「大体そのくらいね。でも私が普段走っているのは箱根よ。ヤビツ峠は猛士に合わせて遠征しているだけだから」
「そうだったのか。毎回誘われるから西野が良く走っている峠だと思っていたよ」
「普段は2か月に1回くらいしか走らないわよ」
いつも遅い私に付き合ってくれているだけでも有難いのに、わざわざ遠征してくれていたのか。
嬉しい事だが、どうしてこんなに親切にしてくれるのだろう?
南原さんも東尾師匠も同じだけど……
「こんにちは、楽しそうですね」
突然見知らぬ男性に声をかけられ、私の思考は遮られた。
第一印象は35才くらいの温和な人。細身な体型だからヒルクライムが好きな人に見える。
私と西野がヒルクライムの話をしていたから興味を持ったのだろうか?
「こんにちは、ヒルクライムお好きなのですか?」
「大好きですよ。週末は色々な峠に走りに行ってますよ」
「私はやっと峠を上れる様になったところですよ。えっとーー」
「木野です。始めまして」
見知らぬ男性ーー木野さんが軽く会釈した。
「中杉です。宜しく木野さん」
「西野よ」
木野さんがつけているヘルメット、どこのメーカーのだろう。
元々ロードバイクのヘルメットってキノコっぽい見た目になりやすいけど、似合っていなくてキノコ感が強いな。
失礼な考えが頭をよぎった直後ーー
「キノコっぽいですかね?」
木野さんが私の視線に気づいた様だ。
一瞬の事とはいえ、失礼な事をしてしまった。
キノコっぽいと思っていたのは事実なので返答に困ってしまう。
「お気遣いなく。この愛用のヘルメットが似合っていなくて、キノコ感満載の見た目なのは事実ですからねぇ。仲間からもたまに弄られますよ」
木野さんが自分のヘルメットを指差しながら、優しい口調で話す。
物腰の柔らかさから伝わる良い人感……少し言葉を交わしただけだけど木野さんは良い人だと思う。
ヒルクライムは苦手だが、木野さんとは仲良くなれそうだ。
「今度一緒に峠を走りましょう? 木野さんと一緒に走ってみたくなりました」
「もう一緒に走っているけどね」
もう一緒に走っている? 何時の事だ?
この前ヤビツ峠を走っている時、一緒に走っていたのに気づかなかったとか?
「猛士気づいていなかったの? ずっと先頭走っていたじゃない?」
「えっ、木野さんビギナークラスで出場していたのですか?」
「参加してたよ。スプリント力が無いから4位になってしまったけどね」
私と同じレースを走っていたのか。しかも4位!
見るからにクリテリウムが苦手なクライマー体型なのに私より速いのか。
私も負けていられないな。
圧倒的にレベルが違う師匠とは違って、同じランクのレースに出場している尊敬出来る先輩の登場で、更にレースへの情熱が燃え上がった。
「おーい、俺のレースはどうだった?」
大声を出しながら師匠が戻ってきた。
まさか、話し込んでいる間に師匠のレースが終わってしまったのか?!
「混戦で良く見えなかったけど、結局何位だったの?」
西野がしれっと返事をする。
西野も師匠のレース見ていなかったはずだが?
適当な事を言って誤魔化そうとしているのか?
「ぶっちぎりの一位だっただろうが!」
結局、見ていなかった事がバレてしまったーー
「完走しちゃったじゃない!」
「完走おめでとう。素晴らしいスプリントだったよ」
「ありがとう二人共」
西野と師匠それぞれとハイタッチする。
ビリでギリギリ完走でも、お互いに盛り上がれるのがホビーレースの良いところだよな。
これがプロのレーサーだったら、ひんしゅくもので来季の契約に影響が出るのだろうけど。
「バイク見ておくから食事行ってきな」
「師匠は食事どうするのですか?」
「俺はレース直前には食べない主義だから行ってきな」
「盗まれない様にしっかり見ておきなさいよ」
私と西野は師匠の好意に甘えて、少し遅い昼食を取りにレース会場内を散策した。
前回は焼きそばにしたけど、今回はどうしようかな。
レースの疲れで沢山食べれそうもないな。
場内を見渡すとパンが売っているのが目に入った。パン一個だけなら食べきれるな。
「今日はパンにするよ」
「小食なのね。私はホットドッグにするわ。当然セットで」
西野はホットドッグにポテト、更に炭酸飲料とカロリー盛りだくさんのセットを昼食に選んだ。
師匠のもとに戻り、並んで座って食事を始める。
私達が戻った事で師匠は入れ替わりで試走に向かった。
隣でホットドッグに噛り付く西野を見て思う。
こんなに食べ続けて、どうしてスタイルが維持出来るのだろう?
自分自身が太りやすい体質だから気になってしまう。
「ノノはいつも沢山食べるよな。太らないのが不思議だよ」
「太る方が不思議よ。毎週こんなにカロリーを消費しているのに」
西野がスマホを見せる。
これはサイクリングデータが記録出来るアプリか。
消費カロリーが毎週7,000キロカロリー……西野は何を目指しているのだ?
しかも見せてくれたデータには身長、体重も表示されているのだけど……
見せられているコッチが恥ずかしさと緊張で固まる。
自転車アプリの使い方を教えてくれるのは教えてくれるのは有り難いのだけどね。
その後も暫くデータを見せてもらったが、一つ気になる数値が目に入った。
理由は圧倒的に高い数値が表示されていたからだ。
「この獲得標高って数値がバグっている様に見えるけど?」
「んっ、普通じゃない。先月と同じで2万mくらいの数値が出ているし」
「獲得標高って上った高さで合ってるよな?」
「当然じゃない」
「この前上ったヤビツ峠で換算すると、毎月25回以上走っている事になるけど」
「大体そのくらいね。でも私が普段走っているのは箱根よ。ヤビツ峠は猛士に合わせて遠征しているだけだから」
「そうだったのか。毎回誘われるから西野が良く走っている峠だと思っていたよ」
「普段は2か月に1回くらいしか走らないわよ」
いつも遅い私に付き合ってくれているだけでも有難いのに、わざわざ遠征してくれていたのか。
嬉しい事だが、どうしてこんなに親切にしてくれるのだろう?
南原さんも東尾師匠も同じだけど……
「こんにちは、楽しそうですね」
突然見知らぬ男性に声をかけられ、私の思考は遮られた。
第一印象は35才くらいの温和な人。細身な体型だからヒルクライムが好きな人に見える。
私と西野がヒルクライムの話をしていたから興味を持ったのだろうか?
「こんにちは、ヒルクライムお好きなのですか?」
「大好きですよ。週末は色々な峠に走りに行ってますよ」
「私はやっと峠を上れる様になったところですよ。えっとーー」
「木野です。始めまして」
見知らぬ男性ーー木野さんが軽く会釈した。
「中杉です。宜しく木野さん」
「西野よ」
木野さんがつけているヘルメット、どこのメーカーのだろう。
元々ロードバイクのヘルメットってキノコっぽい見た目になりやすいけど、似合っていなくてキノコ感が強いな。
失礼な考えが頭をよぎった直後ーー
「キノコっぽいですかね?」
木野さんが私の視線に気づいた様だ。
一瞬の事とはいえ、失礼な事をしてしまった。
キノコっぽいと思っていたのは事実なので返答に困ってしまう。
「お気遣いなく。この愛用のヘルメットが似合っていなくて、キノコ感満載の見た目なのは事実ですからねぇ。仲間からもたまに弄られますよ」
木野さんが自分のヘルメットを指差しながら、優しい口調で話す。
物腰の柔らかさから伝わる良い人感……少し言葉を交わしただけだけど木野さんは良い人だと思う。
ヒルクライムは苦手だが、木野さんとは仲良くなれそうだ。
「今度一緒に峠を走りましょう? 木野さんと一緒に走ってみたくなりました」
「もう一緒に走っているけどね」
もう一緒に走っている? 何時の事だ?
この前ヤビツ峠を走っている時、一緒に走っていたのに気づかなかったとか?
「猛士気づいていなかったの? ずっと先頭走っていたじゃない?」
「えっ、木野さんビギナークラスで出場していたのですか?」
「参加してたよ。スプリント力が無いから4位になってしまったけどね」
私と同じレースを走っていたのか。しかも4位!
見るからにクリテリウムが苦手なクライマー体型なのに私より速いのか。
私も負けていられないな。
圧倒的にレベルが違う師匠とは違って、同じランクのレースに出場している尊敬出来る先輩の登場で、更にレースへの情熱が燃え上がった。
「おーい、俺のレースはどうだった?」
大声を出しながら師匠が戻ってきた。
まさか、話し込んでいる間に師匠のレースが終わってしまったのか?!
「混戦で良く見えなかったけど、結局何位だったの?」
西野がしれっと返事をする。
西野も師匠のレース見ていなかったはずだが?
適当な事を言って誤魔化そうとしているのか?
「ぶっちぎりの一位だっただろうが!」
結局、見ていなかった事がバレてしまったーー
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