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2章 進化する中年レーサー

第14話 初めて手にした順位

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 今日は前回足切りとなったクリテリウムに再挑戦する日だ。
 この1か月間、師匠とトレーニングしたり、西野とヒルクライムを楽しんだりして結構成長したと思う。
 そうは言っても前回の成績を考えれば、前回同様のビギナークラスで完走がやっとだろう。
 最初から負ける気はないが、前回みたいに過度の期待はしないでおこう。
 会場に着くと東尾師匠と西野が出迎えてくれた。
 そして、出会って直ぐに東尾師匠が腕を組み私に問う。

「必殺技は完成したかい?」
「必殺技は完成してないけど、相棒なら完成したよ『深海の潜水者ディープシー・ダイバー』だ」
「完璧だね。スプリント専用機って見た目で、名前もバイクの色と合っている」

 ロボットアニメで新機体を披露する様なノリで、師匠にディープリムホイールでパワーアップした愛車を披露した。

「二人で何やってるのよ。猛士、子供っぽくなった? 東尾なんかに合わせなくても良いのに」
「俺は親しみやすい感じで良いと思うけどな」
「アニメっぽいノリも師匠の教えだからね。それに、仕事じゃないから威厳はいらないだろう?」
「それはそうだけど……」

 西野がムスッとする。
 西野がこういう子供っぽいノリを好きでないのは分かるけど、結構楽しいのだよ。
 世代の差を越えて趣味で盛り上がるのは楽しいものだ。
 レースの準備があるので雑談を終えて、受付、車検、試走と的確に進める。
 参加するのは初めてではないし、レース常連の仲間が同行しているから安心感が違う。
 そして、私が参加するビギナークラスの招集が始まった。
 今回の参加選手は20名。
 私は前回同様に集団の後ろに並び、レース開始の時間を迎えた。
 最初のローリングスタートで心拍数と呼吸を整える。
 そのまま何事もなく一周目を終え、リアルスタートを迎える。
 第一コーナーを抜け、バックストレートに入った所で目の前の集団が加速を始める。
 私もすかさず下ハンドルを握り、腰を上げて加速する。
 師匠に習ったトレーニングの効果もあるのだろうが、ホイール交換の効果が絶大だ。
 こんなにも軽くペダルが回せるのか。
 バックストレートは集団の後ろでドラフティング効果が得られたので足を休められた。
 続くヘアピンコーナーで前走者と距離が詰まり減速する。
 ここで減速するとホームストレートでの加速が辛くなるが想定の範囲内だ。
 速く走れもしないのに、走りやすいように前に出るような自分勝手な走りで、他の選手に迷惑をかけられない。
 元々実力が無いのにハンデを背負うのは賢いとは言えないが、ロードレースは選手同士敬意を持てる走りをしなければいけない紳士のスポーツなのだから……
 ホームストレートに戻っても集団から離されず追えている。
 今日は誰も逃げなかったので、目の前の集団はローテーションを行いながら適度な速さで走っている。
 まぁ、私にとってはギリギリ追える速さなのだけど。
 毎回直線部分に差し掛かる度に、時速45kmまで一気に加速するってビギナー詐欺だろ。
 コーナリング速度だって時速30kmを下回らないから原付より速いのだぞ。
 周回を重ねて6周目、リアルスタートから数えると5周目の時点でバテ始めてしまった。
 加速が鈍りバックストレートの立ち上がりで20m離されてしまう。
 ここで私のレースは終了だな。
 ドラフティング効果が得られない状況で集団を追う力など私には無い。
 だけど、もう一つの勝負が残っている。
 ラップアウトとの戦いだ。
 ファイナルラップの8周回に入ればラップアウトは無くなる。
 だから、この7周回目を持ちこたえられれば完走は出来る。
 一人で集団の速度に対抗するのは非常にキツイ。
 だけど、前回のレースと違ってディープリムホイールを装着している。
 抜群の空力性能で巡行性能が上がるこのホイールなら、集団の巡行速度との差を最小限に留められる。
 第一コーナーを抜けたところで、観戦していた東尾師匠と西野が激励を飛ばす。

「足切りになったら奢りね」
「バックストレートで爆発しろ!」

 西野の応援は……彼女なりの激励だと解釈しよう。
 師匠のアドバイスは理解出来た。私も同じ考えだよ。
 そして、西野達が応援してくれたコーナーを抜けバックストレートに入った。
 ここでスプリント能力のする。
 下ハンドルを握り、腰を浮かせ上体を下げる……深海に潜るダイバーの様に!
 バイクを必死に振りながら、一気に時速55kmまで速度を上げる。
 ファイナルラップ前の7周回目……目の前には誰もいない……だけど、そこには明確な目標があった。
 私は全速力でバックストレートを駆け抜けた。
 バックストレートから続くヘアピンコーナーで、速度が乗ている分、今まで周回より激しくブレーキをかける。
 キィィィィッ!
 ディスクブレーキが甲高い悲鳴を上げたが、何とか減速を終えてヘアピンコーナーを抜ける。
 一人旅で前の選手との距離を気にしないで済むから、自由にコーナリング速度を上げられる。
 何とかホームストレートに戻ったが、既に力尽きている。時速35kmを維持するのがやっとだ。
 でも、これでいい。私は7周回目のスタート地点をそのまました。
 そう、足切りにならなかったのだ。
 ゴールでもない7周回目のバックストレートでスプリントする事で、足切り基準の半周差を解消してホームストレートに戻れたからだ。
 初めてのファイナルラップ。もう足切りはない、そのまま一人旅を続けて何事もなくゴールした。

『20人中20位』

 一言でいえばビリだ……それでも嬉しかった。
 今回初めて順位が付いたのだ。
 それはDid Not Finish……『未完走DNF』より一歩前進した証なのだからーー
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