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1章 最強中年は敗北を求める
第7話 最強中年はクリテリウムに参加する
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クリテリウムにエントリーしてから二週間。
みっちり高速巡行トレーニングを行ってレース当日を迎えた。
レース会場は食べ物関係の出店があり、人も予想以上に多くてお祭りみたいな状況であった。
これだけ混雑していれば人探しは不可能だろう。
あらかじめ待ち合わせ場所を決めていて良かったと思う。
私は待ち合わせ場所の受付に向かった。
そして受付の脇で西野が私を迎えてくれた。
「おはよう。惨敗するところを見物に来たわよ」
「おはよう。今日は勝つと言っているのだがな」
「無理無理、そんなに甘くないから。それより受付しなさいよ」
西野に促されて受付でタイム計測用のチップとゼッケンを受け取る。
チップをフロントフォークに取り付けた後、ゼッケンの取り付けを西野にお願いした。
ゼッケンは背中に安全ピンで付けなければいけないが、自分でやると一度ジャージを脱がないと出来ないからだ。
場内放送がありレース前のライダーズミーティングが開催された。
レース中の注意事項を教えてくれるのか。
説明に従ってヘルメットのあご紐を調整して装着具合を調整する。
続いて車検を受ける。
係の人がブレーキやハンドルの等の各所のガタの確認を的確に行ってくれる。
ライダーズミーティングに車検……なんだかプロになった気分だな。
そして、いよいよレース開始時間が迫ってきた。
私と同じビギナークラスに参戦する選手が次々にコースインする。
私はレースに慣れていないので、全員がスタートラインに整列した後に一番後方に並んだ。
まずは集団走行に慣れないといけないからな。
参加者全員が整列し、いよいよレーススタートだ。
ピストルの音と同時に一斉に走り出す。
今回のレースはローリングスタートだから一週目は先導車に続いてゆっくり走行する。
レースは8周回、そのうち1周回はローリングスタートだから実質7周回。
走行時間でいえば10分程度だ。
海岸通りで30分以上高速巡行出来る様になっていた私なら十分戦える。
後の問題はレース慣れしていない事だけだ。
このローリングスタートの間に集団走行に慣れる事に専念しよう。
ゆっくりとはいえ、時速30kmでコースを周回していく。
今の私にとっては大した事はないが、それなりの速さである。
そしてホームストレートに戻り再びピストルの音がなる。
リアルスタート、ここからが本当の勝負だ!
前を走っている選手が腰を上げ、急激に加速する。
私も必死に加速するが一気に距離を開けられた。
コーナーを曲がり、バックストレートで時速45kmまで上げるが全く追いつかない。
バックストレートで離されないって事は、巡行速度は互角だと言える。
ヘアピンコーナーに差しかかった所で、先を走る集団が一気に減速したので一瞬だけ追いついた。
だが、ヘアピンコーナーの立ち上がりで再び離される。
既に目測で30m程離されている。
もう、集団後方で得られるドラフティング効果は期待出来なくなったから、自力で巡行するしかない。
海岸通りで一人で走っていた時は感じなかったのに、今は重苦しいほどに空気の壁を感じる。
何とか2周回を終えて再びバックストレートに差し掛かるが速度が伸びなくなった。
まだ実質3分くらいしか走っていないのに時速30km程度しか出ない。
全身からとめどなく汗が吹き出し、3時間ぐらい走った後と同じくらいに体が重たい。
既に他の選手は半周近く先を走っている。
何とかホームストレートに戻った所で係員が笛を鳴らしながら旗を振っている……残念だがラップアウトの合図だ。
係員の指示に従ってコース外に出た。そして、計測チップをバイクから外し、ゼッケンは係員の人に外してもらった。はぁ、勝つどころかレースにすらならなかったなーー
「お疲れ様」
レースが終わり、西野が普通に出迎えてくれたのが辛い。
レース前に勝つと言い切っていたのに、結果が完走すら出来ずにラップアウトだったから何も言えない。
「落ち込んでいるの?」
「いや……」
返事をしない私を心配したのだろう、西野が顔色を窺うように私を見上げている。
仕事では何度も負けながらも『最強』と呼ばれるまでになったのだ。
負けたくらいで落ち込む程弱くはない。
だけど今回のレースは負けてすらいなかった。
勝負の舞台に上がる事すら出来ていなかったのだ。
私はコース脇で呆然としながら、上級クラスで走る選手を眺めた。
誰にも負けたくないと闘志剥き出しで必死に走る選手の姿を見て、次第に熱い想いがこみ上げてくる。
最近の若者は軟弱で、少し努力させただけで根を上げる情けない奴らだと決めつけていたが、それは間違いだった。
此処にいるじゃないか! ガッツのある若者! 私が全力で戦ってもいい相手が!!
負けても、次こそは勝とうと這い上がる必死な若者たちが……
この若者達に恥じない走りが出来る様になりたい。
この若者達が相手なら、例え負けても自分を誇れる。
私は立ち上がり西野に手を差し伸べた。
「みっともない姿を見せたお詫びに焼きそばを奢るよ」
「別にお詫びなんていらないわよ。猛士の恥ずかしい姿を拝めて楽しかったわよ」
「なら止めるか?」
「焼きそばは食べるわよ。お腹空いたもの」
私と西野は二人で焼きそばを買いに行くのであったーー
みっちり高速巡行トレーニングを行ってレース当日を迎えた。
レース会場は食べ物関係の出店があり、人も予想以上に多くてお祭りみたいな状況であった。
これだけ混雑していれば人探しは不可能だろう。
あらかじめ待ち合わせ場所を決めていて良かったと思う。
私は待ち合わせ場所の受付に向かった。
そして受付の脇で西野が私を迎えてくれた。
「おはよう。惨敗するところを見物に来たわよ」
「おはよう。今日は勝つと言っているのだがな」
「無理無理、そんなに甘くないから。それより受付しなさいよ」
西野に促されて受付でタイム計測用のチップとゼッケンを受け取る。
チップをフロントフォークに取り付けた後、ゼッケンの取り付けを西野にお願いした。
ゼッケンは背中に安全ピンで付けなければいけないが、自分でやると一度ジャージを脱がないと出来ないからだ。
場内放送がありレース前のライダーズミーティングが開催された。
レース中の注意事項を教えてくれるのか。
説明に従ってヘルメットのあご紐を調整して装着具合を調整する。
続いて車検を受ける。
係の人がブレーキやハンドルの等の各所のガタの確認を的確に行ってくれる。
ライダーズミーティングに車検……なんだかプロになった気分だな。
そして、いよいよレース開始時間が迫ってきた。
私と同じビギナークラスに参戦する選手が次々にコースインする。
私はレースに慣れていないので、全員がスタートラインに整列した後に一番後方に並んだ。
まずは集団走行に慣れないといけないからな。
参加者全員が整列し、いよいよレーススタートだ。
ピストルの音と同時に一斉に走り出す。
今回のレースはローリングスタートだから一週目は先導車に続いてゆっくり走行する。
レースは8周回、そのうち1周回はローリングスタートだから実質7周回。
走行時間でいえば10分程度だ。
海岸通りで30分以上高速巡行出来る様になっていた私なら十分戦える。
後の問題はレース慣れしていない事だけだ。
このローリングスタートの間に集団走行に慣れる事に専念しよう。
ゆっくりとはいえ、時速30kmでコースを周回していく。
今の私にとっては大した事はないが、それなりの速さである。
そしてホームストレートに戻り再びピストルの音がなる。
リアルスタート、ここからが本当の勝負だ!
前を走っている選手が腰を上げ、急激に加速する。
私も必死に加速するが一気に距離を開けられた。
コーナーを曲がり、バックストレートで時速45kmまで上げるが全く追いつかない。
バックストレートで離されないって事は、巡行速度は互角だと言える。
ヘアピンコーナーに差しかかった所で、先を走る集団が一気に減速したので一瞬だけ追いついた。
だが、ヘアピンコーナーの立ち上がりで再び離される。
既に目測で30m程離されている。
もう、集団後方で得られるドラフティング効果は期待出来なくなったから、自力で巡行するしかない。
海岸通りで一人で走っていた時は感じなかったのに、今は重苦しいほどに空気の壁を感じる。
何とか2周回を終えて再びバックストレートに差し掛かるが速度が伸びなくなった。
まだ実質3分くらいしか走っていないのに時速30km程度しか出ない。
全身からとめどなく汗が吹き出し、3時間ぐらい走った後と同じくらいに体が重たい。
既に他の選手は半周近く先を走っている。
何とかホームストレートに戻った所で係員が笛を鳴らしながら旗を振っている……残念だがラップアウトの合図だ。
係員の指示に従ってコース外に出た。そして、計測チップをバイクから外し、ゼッケンは係員の人に外してもらった。はぁ、勝つどころかレースにすらならなかったなーー
「お疲れ様」
レースが終わり、西野が普通に出迎えてくれたのが辛い。
レース前に勝つと言い切っていたのに、結果が完走すら出来ずにラップアウトだったから何も言えない。
「落ち込んでいるの?」
「いや……」
返事をしない私を心配したのだろう、西野が顔色を窺うように私を見上げている。
仕事では何度も負けながらも『最強』と呼ばれるまでになったのだ。
負けたくらいで落ち込む程弱くはない。
だけど今回のレースは負けてすらいなかった。
勝負の舞台に上がる事すら出来ていなかったのだ。
私はコース脇で呆然としながら、上級クラスで走る選手を眺めた。
誰にも負けたくないと闘志剥き出しで必死に走る選手の姿を見て、次第に熱い想いがこみ上げてくる。
最近の若者は軟弱で、少し努力させただけで根を上げる情けない奴らだと決めつけていたが、それは間違いだった。
此処にいるじゃないか! ガッツのある若者! 私が全力で戦ってもいい相手が!!
負けても、次こそは勝とうと這い上がる必死な若者たちが……
この若者達に恥じない走りが出来る様になりたい。
この若者達が相手なら、例え負けても自分を誇れる。
私は立ち上がり西野に手を差し伸べた。
「みっともない姿を見せたお詫びに焼きそばを奢るよ」
「別にお詫びなんていらないわよ。猛士の恥ずかしい姿を拝めて楽しかったわよ」
「なら止めるか?」
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私と西野は二人で焼きそばを買いに行くのであったーー
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