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婚約者の早漏に悩んでます

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小国の姫・私、リリィは悩んでいた。

「……また来ます」

 いつも通り、まるでマニュアルでもあるかのように規則正しい吐息を漏らし、私の上から婚約者が退く。

「アルフォンス様、せめて少しお話しませんか……?」

 男に縋ってみるが返事はなくその背中は遠のいていく。
 ――何度も身体を重ねているのにそれ以上の言葉を交わすこともない。
 心が寄り添うわけでもない。ただ冷たく繰り返される、三擦り半も持たない大国の第一王子・アルフォンスと週に一度行われるこの行為に。

 信じられるだろうか。

 戦争が起これば戦場では自ら指揮を執り、最前に立つ勇敢さと聡明さを兼ね備え、
 政も自ら率先して意見し常に民のためになるよう行動する、齢二十一、大国の太陽・アルフォンス。
 女性のなかでは背が高い私が見上げるほどの長身。張りのあるグレーの髪、グリーンにもみえる碧眼。形のいい顎と唇。それだけの容姿でありながらどこか自信がなさげに憂う表情をみせる姿が、国内外からの人気を更に煽っていた。

 その大人気、愛され王子がまさか、とんでもない早漏だなんて。

 しかも『また来ます』の一言だけ告げて即去って行く淡泊さ。清々しい賢者タイム。
 こんな悲劇があるだろうか。
 始まりと終わりが圧倒的に近い。そしてもの凄く浅いのだ。なにって、ナニが挿ってくる深さが。
 直視したことはないが恐らく先端しか入っていない。その状態での三擦り半だ。

 こんなこと誰にも相談できない。
 もちろん婚約者とはいえ政略結婚相手である大国の王子の下の相談であることは大前提だけれど……その前に私は自分の小さな国からでさえあまり良い印象を持たれていない。
 それは父によく似たこの外見にあった。鋭い目つきに、ピンク色の縦ロール……所謂、おとぎ話にでてくる悪役の姫そのものの容貌。そしてただ口下手なだけなのだが冷徹と印象づけられた口調。

 本当は淡いピンクや慎ましい花のモチーフが好みだけれど『お似合いですよ!』と誂えられた深紅のドレスに肩の凝る絢爛豪華な装飾品の数――齢二十四になった現在、もう今更変えることができないイメージが定着していた。過去に私の婚約が何度も破談になったこと(元々相手に恋人がいたり、もっと豊満な姫が好みだったり……が本音だったみたいだけどなぜか私が冷たすぎるからで破談理由は統一されていた)

 引く手あまたのアルフォンス王子と、嫁き遅れの姫。しかも私のほうが三つも年上。
 すべてが不釣り合いで縁談がきたときは卒倒するかと思った。

 過去に婚約破棄された本音の理由の一つに『お高くとまって味見もさせない』と言われたことがあったので今度こそはと二度目の顔合わせで部屋に連れ込み、既成事実をつくるのに成功した。

 それからだ。アルフォンス王子は週に一度私のもとにやってきて身体を重ねる。
 そこで私にひとつの疑問が湧いた。もしかして、既成事実があるがために彼は愛され王子の名に恥じない優しさ故の義務感で、したくもないのに一生懸命勤めとして果たしてくれているのではないだろうか。

 ……そうだとしたら三擦り半も淡泊も納得がいく。そしてもの凄く申し訳なくなってきた。

 いくら身体を重ねようと心の距離が縮まらないのも当然だ。
 今更婚約破棄はもう勘弁なのでそれは受け入れられないけれど、本音を吐き出して欲しい。
 どんな罵詈雑言でも受け入れる。婚約破棄以外なら。

 ただでさえこの国では継母に嫌われて厄介者扱いなのだ。この数年は本当に邪魔だったようで何度も食事に毒を盛られるわ階段で突き落とされそうになるわ……まあ、つまりこの先生きていくためにこの結婚は必要不可欠。婚約破棄は断じて受け入れられない。
 
 突然本音を聞きたいと言っても口にするはずがないし、婚約者相手に自白剤なんて罪人のような真似はできない。となれば、まずは思う存分発散してもらって、それから本音を聞こう。

 必要なのは『どんな男性でもバッキバキになれて長持ちする薬』だ。
 そうと決まればお父様御用達の精力剤……はルートから用途がすぐにバレそうなので独自にその派生から手に入れることにした。
 
『そして裏ルートを使って材料を集め、漸く完成したのがこの秘薬でございます』
「これが……」

 顔を隠した老婆から小瓶を受け取る。揺れる液体はいかにもな濃いピンク色。

『はい。これを飲めばどんな殿方でもまるでオオカミのように……国王もまだまだお若いですな』
「……このことは他言無用にね」

 お父様、ごめんなさい。そう心の中で謝罪して、今夜の王子を待った。
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