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39.最終話「愛している」※
しおりを挟むオレンジ、ピーチブロッサム、ローズ、ジャスミン……嗅いだ瞬間に幸せな気持ちになる香りは数え切れないほどある。
けれど、こんなにも満たされて、思わずふりかえってしまうほど切ない気持ちになるのはきっと、この先も彼だけなのだろうとニーナは思う。
それだけ愛している人と肌を重ねられることがこんなに幸せだなんて、きっと彼に出会うことがなければ知らなかった。
「ぁっ……はっ、ァ……んんっ! ……ぁあっ」
婚約者の寝台の上でニーナはまた腰を震わせた。ガクンっと大きく痙攣させると、細腰を掴んだ男が嬉しそうに口角をあげる。
香り立つような色気を滴らせる表情にニーナはとことん弱かった。
(やだっ、私また……!)
ロルフはニーナの弱点を熟知しているかのように腰を押し付け、逞しい昂りで最奥を押し上げた。果てたばかりで敏感になりすぎている身体はその刺激を受け止めきれずニーナは声にならない声をあげて小さな体を縮こまらせた。
額や頬にキスが降ってききて、ニーナは無意識にロルフの首に腕を回す。白銀の髪から優しく愛しい香りがして思わずすり寄った。
「どうしてこう君は……ああだめだな。可愛くてしかたない」
余韻に甘く震えるニーナをロルフは愛しげに抱きしめる。
繋がったまま熱は硬さを増すものだから微動でさえ刺激になってニーナはまた軽く果ててしまう。
「また達してしまったのか? 何度も夫を置いていくなんて悪い子だ」
「だって……っ、ロルフ様が……ァっあっあ」
「本当に可愛いな……もっと呼んでくれ、ニーナ」
指を絡めて覆いかぶさる熱にニーナも応えようと必死にしがみつく。垣間見えるロルフの表情が愛し気で、気持ちよくなってくれているみたいで嬉しい。
「ロルフさ、ま……キス、したいです」
ニーナがそう強請ると唇に優しくキスをしてくれる。最初は戸惑ったキスも、今ではロルフに合わせて懸命に舌を絡める。ニーナの小さな舌はロルフが器用に絡めとって、舌先で撫でたり吸ったりしているうちにくたりと力が抜けてしまう。
「少し乱暴に動くがいいか……?」
絡めた指にキスをされて、ニーナは小さく頷いた。ロルフはニーナを抱きしめて更に密着するとそのまま激しく抽挿を開始した。ばちゅばちゅと粘着質な音が響いて、与えられる刺激の強さに目の前がチカチカする。
「んぁっあっアッ! ッ~~――ひっ……もっ、だめっ……ッ!」
ニーナが腰を跳ね上がらせて呆気なく果ててしまうと、その腰を掴んでロルフは更に昂りを深く埋め込んだ。涙で滲んだ視界の中でロルフが短い吐息を溢して小さく震えた。その表情は今まで見たどんな顔よりも色気があって、甘くて、それだけでニーナはまたお腹の奥が疼いてしまう。それが顔に出ていたのか、ロルフは二度目を求めてニーナの頬に口付ける。
「……いいか?」
「ァッ、もっ、動かないでくださっ……む、りぃ……ッ」
ニーナの蕩けた瞳を承諾と捉えたロルフは言葉よりも前に膝裏に手をかけると、一度も離れずまた深く繋がった。
ふたりの体が離れたのはもう朝方だった。もう何度求め合ったのか数えてもいない。
ロルフの腕に抱かれてニーナはその美しい横顔を眺めていた。睫毛まで美しい銀色で、空の旅でみた虹を纏った雲を思い出す。
目が合ったロルフはニーナの額にキスを落とし、喉で小さく笑う。
「いつもより緊張するって言ってたのに、あんなにも淫らになるんだな」
「み、淫らなんて……っ、でも、ドキドキして、ずっと気持ちよくて、へんですよね」
肌を重ねたのは初めてではなかったのに、ずっと胸が早鐘を打っていた。触れられる全てが愛しくて恥ずかしくてでも欲しくて……そんな矛盾に肌の下がずっと疼いていた。みるみる赤くなるニーナにロルフはまたくすりと笑う。そしてニーナの手を自分の左胸に触れさせた。
「俺もだ。君に触れる度、今だって君のこの美しい翡翠の瞳と目が合う度心臓がどうにかなりそうだ。……変だな」
白い肌の下では心臓が高鳴っている。ニーナと同じように彼も緊張し、そして求めてくれているのだと改めて感じて、なぜか少しだけ泣きそうになってしまう。
「……すべて片付いたら、君はどうしたい? 王室付きの調香師になるのも、別に店を持つのも……ああ、少しの間一緒に旅に出るのもいいな」
ロルフは新たな国王を支えるべく公爵の爵位を賜り、もう既に近々隣国との貿易の準備が進められるなどウィルデン王国にとっての改革を進めているという。
そんな国内外に大きな影響力をもつロルフの腕に抱かれ贅沢すぎる問いにうーんと唸る。
「ロルフ様の調香師であることは変わりません……でも、そうですね……きっとどれも素敵です」
「時間はいくらでもあるからゆっくり考えてくれ。ニーナが望んでくれるならなんだって叶えてみせる。君が隣にいてくれて、空を飛べるなら……俺はなんだってできる気がするんだ」
頬に口付けられて、ニーナからもお返しにと鼻先に口付ける。それだけでロルフは幸福を嚙み締めるような表情をした。
「……ニーナ、愛している。この命つきるまで側にいさせてくれ」
「私も愛しています。ずっとずっと、ロルフ様だけです……側にいてくださいね」
ニーナの頭を撫でるロルフが幸せそうに微笑んだ。どこかあどけない表情にニーナもつられて笑う。
窓の外では朝日が昇っている。新しい朝がつれてきた香りは幸福の象徴で、ニーナは胸いっぱいにその香りを詰め込んだ。
――真実の愛は、信じること。信じられること。お日様の香りのように、優しく寄り添うこと。
国を挙げて行われたふたりの結婚式は多くの国民の憧れの対象になった。
白銀の竜と純白のドレスを纏う猫調香師は新たな伝説となって、その愛を歴史に刻み、太陽の香りの香水は真実の愛の象徴としてウィルデン王国の発展に大きく貢献することになるのはまだ少し先の話になる。
終
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