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16.「……君には知られたくなかった」※
しおりを挟むロルフの眉間がぴくりと反応した。途端に訝る様な声色になる。
「誰から聞いた?」
「ミカエル様が……確かに私はロルフ様のことをなにも存じ上げなくて――」
「ミカエル? ……アイツ……ッ、なるほど、君がこんなところにいたのはアイツが関係してるのか」
ロルフはニーナの言葉を遮り、シーツの代わりになっていた胴衣ごとニーナを担ぎあげてしまう。
「ロルフ様……!?」
王太子の名前を出した途端、ロルフの態度が急変した。ニーナはロルフの腕の中でただ狼狽する。
「なにを、どこまで聞いた?」
どこかへ向かっているのか、ロルフはニーナを抱えたまま歩き続けた。
「……赤い満月の日が近づくとロルフ様が苦しむと……そのために私の魔法香水が必要なのだと……」
「それだけか」
ニーナは頷いた。本当にそれだけだ。だからこそ、ロルフのことが知りたかった。
だが、ロルフはそれを拒むようにニーナを見つめた。重なった視線が切なげでなぜかこちらまで胸が苦しくなってくる。ロルフは時折こうして感情の読めない表情をするのだ。
「……君には知られたくなかった」
ぽん、となにかの上におろされた。ニーナはきょろきょろと辺りを見渡すとそこは植物園内の休憩所のような場所で、テーブルとソファーが備えられている。ニーナがおろされたのは布で作られたハンモックの上だった。
ロルフはニーナの脚の間に立ち、その脚が閉じられないようにしてしまう。
広いハンモックはニーナが縦に寝かされても腰までは支えてくれるが、乗り切らない脚だけがぶらぶらと宙に浮いて不安定だ。
起き上がろうにも両脇をロルフの腕が固めているから動けない。
「あ、あの……」
ほぼ服を着ていないこの状況で、この体勢はあまりにも恥ずかしい。
そう目で訴えると、ニーナの視線を絡め取ったロルフが苦笑する。
「これでも我慢したんだがな……」
ロルフは白銀の髪をかきあげて、ため息混じりにいった。
「今から君を抱く。知りたいと言うならいくらでも教えてやる」
「っ、わ、私は……っ、そういう意味では……! あなたの調香師として……」
「本当の俺を知って、君が俺の調香師でいてくれる確証がどこにある? もう黙ってくれ」
言葉を奪う唇は先程のキスよりも深く激しい。
まだなにも話せていない。それなのにこのまま流されてしまうのは嫌だった。
でも、ロルフが指を舐めて、脚の間に滑り込ませる。胴衣を羽織っただけの身体はすぐ暴かれてしまう。不安定なハンモックの上では身を捩るのが精一杯だ。
「んぁっ! ……やっ、いやですっ……いや……」
「こんな姿を見せられてキスだけで終われるほど俺は達観してないんでね」
抵抗した片手を掴まれて、割れ目をなぞっていた指がくっと膣内に侵入してくる。浅いところを擽られると昨日のことを思い出した身体が、ニーナの気持ちとは裏腹に素直に反応した。
「ァッ……んん……っ」
「昨日の今日だ。……簡単に俺を受け入れてくれる」
昨日触れあったときにニーナの敏感なところを知り尽くした長い指がニーナの身体を的確に解していく。時折、芯芽を親指で弾かれニーナは宙に浮いた膝を震わせた。
次第に力が入らなくなり、ロルフの手が膝裏を支える。
カチャッとベルトを外す音がして、ロルフが腰を押しつけた。
指が抜かれたところに、硬い熱が宛がわれている。
「これで本当に王族の手がついた者、になる。俺がいなくなったとしても、この国での君の生活は保障されるだろう」
――いなくなったとき?
「ロルフ様っ、それは――ッ、あぁっ」
体重をかけられニーナの腟内に熱が埋め込まれていく。ちりっとした痛みに顔を歪めると、唇が優しく落とされる。額から頬、そして首筋へ。膝を高く持ち上げられ、脚の指先まで啄むようなキスが何度も繰り返される。慈しむようにされれば痛みが和らいで、同時に埋め込まれた熱の質量がじんわりと身体に少しずつ馴染んでいく。
まるで大切にされているのではと錯覚してしまう手つきだ。一体この人がなにをしたいのか分からない。想像できるだけの情報をニーナはなにもしらないのだ。王族からの生活の保障も、今のニーナにはどうでもいい。
こんなの、仮初めの愛人以下。
ロルフのことをニーナはなにも知らない。どうして切なげな表情をするのか。
言葉の先に続くであろう思いだって、なにひとつ想像すら出来ないのだ。
それなのに身体だけがまるで恋人のように繋がっている。
「……できるだけ早く終わらせる」
苦しげにそう呟いたロルフがニーナの細腰を掴み揺さぶると、ニーナを乗せたハンモックは抽挿を手助けするように緩やかに揺れ始める。体中に口付けられ、しっかりとロルフの熱に馴染んだ身体はロルフが腰を動かす度、甘く痺れるような疼きが溢れ出す。
「やだっ、ロルフ様……やっ……! んぁっ、んん……」
なにも分からないまま、こんな行為をされて感じたくない。そう思えば思うほど身体は敏感になってニーナを追い詰めていく。
華奢な肩の下で揺れる胸を持ち上げるように弄ばれると背中がびくりと背中が反る。
ロルフに触れられるすべてを気持ちのいいものだと身体が覚えてしまっている。
蒼い瞳から熱を孕んだ視線を注がれると今の状況を心底嫌だと思えない自分から目を逸らしたい。
「……っ、そんなに締め付けないでくれ」
ロルフの滴るような色気にあてられてニーナは下腹部に熱が集まってくるのを感じる。ロルフに何度も覚えさせられた限界が近い。
なにかの理由があって魔力を欲しているロルフに、魔力を分け与えるために香水をつくる。そんな自分が 逃げられないように首輪のような『安泰』が与えられようとしている現実に酷く胸が痛んだ。
身体だけが感情を置いて先走る。
「ァアッ、ん……ふっ……ぁ……!」
ニーナが全身を震わせた後、強く抱きしめられ注がれた熱を受け止めた。
熱い吐息が絡まって、視界の隅で美しい銀髪と太陽の光が揺れている。
香水のこと以外でこんなにも切なくなり、苦しいと、知りたいと思ったのは初めてで、ニーナは一筋の涙をこぼして男の背に手をまわした。
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