上 下
114 / 203
学園編

閑話 たぬたぬの冒険 2

しおりを挟む
「騎士団第三部隊小隊長のヴィンセントだ。王都まで同行してもらおう」
「騎士様、なぜですか!」
「では聞くが、なぜ神獣の眷属とうそをついている?」
「うそではありません! 本当に神獣様の眷属です」

 騒がしくて目が覚めた。出発するからと起こされたけど、眠くてまた寝てしまっていたらしい。たくさんのニンゲンに取り囲まれていて、みんな怒っていて怖い。でも、とってもいい匂いがする。どこからだろう。くんくん。

『狸って、どういうことー!?』
『くぅーん』

 見つけた。あのギンイロだ。近くに行きたい。なのに身体が動かないよ。助けて。
 近づきたいのに身体が動かなくて焦っていたら、ギンイロと同じ毛色のニンゲンに抱き上げられた。

「よく似ている。このお腹は、病気か?」
『食べ過ぎなだけだよ。ぽんぽこりんになってるよ』
『きゅーん』
『大丈夫? 嫌なことはされてない?』

 ギンイロにすごく心配されているけど、嫌なことってなんだろう。美味しいご飯をたくさんもらって、楽しいよ。ニンゲンやマモノに襲われることもないし。
 でも、お昼寝をもっとしたいな。そうしたらもっともっと幸せなのに。

『契約は切ったから。好きなところに行けるよ』
『くーん?』

 契約とは何か分からないでいたら、教えてくれた。あの身体が勝手に動いちゃったり、動きたくても動けなくなったりするのが、契約らしい。
 それはもう切れたというから動いてみたら、自由に動けた。うれしい。うれしくてギンイロに体当たりしたら、一緒にころころ転がっちゃった。楽しいな。

『これからどうしたい?』

 ギンイロと一緒にいたいけど、それはダメだと言われてしまった。だったら、今のままがいいな。毎日見る景色が変わって、いろんなご飯をもらえて、楽しい。

『子どもたちがたくさんいるところで、可愛がられるのがいいと思うんだけど』

 でもそれだと、毎日同じ景色で、同じご飯でしょう。それに小さいニンゲンは乱暴だからいやだ。だったら今のほうがいいよ。
 だけどこのままはダメらしくて、いちどオウトに行くことになった。そこで新しい契約主を探すらしい。
 勝手に身体が動く契約は嫌だと言ったけど、してないと危険だからしないといけないと言われてしまった。

『嫌な命令はしない、美味しいご飯をくれる人を探してもらうからね』
『きゅぅ』

 仕方がない。またあの森に返されて、へんなニンゲンに捕まるといけないから、我慢しよう。


 オウトのギルドという大きなニンゲンがたくさんいるところが、次の巣穴になった。ここで新しい契約主を探すらしい。

「これ、たぬたぬの首輪がわりに。最近毛が増えてきて、リボンが埋まっているでしょう」
「冬毛になってるのかしらね。ありがとう」
「氷の騎士様の狐くんを参考に、母に縫ってもらったの」
「たぬたぬ、首輪を換えようね」

 契約の証には、こうして首に飾りをつけるそうだ。動くのに邪魔にならなければ、なんでもいい。

「きゃあ、可愛い。たぬたぬ、よく似合ってるよ」
「白いからどんな色でも似あうわね。今度は別の色を縫ってもらってくるわ」

 ここのニンゲンたちは、よく僕をなでる。通りがかりにさらっとなでていく。優しくなでてくれるから、心地いい。ここで、こうして、みんなに癒しを提供するのが、僕のお仕事らしい。
 お仕事を頑張ると、ご飯をもらえる。

「たぬたぬー。今日は何が食べたい?」
『んー、きゃん』

 このニンゲンは、新しい契約主を探す間の、仮の契約主だ。美味しいご飯をくれるから、気に入っている。
 いつも、こうしてたくさんの食べものを並べて、僕に好きなものを選ばせてくれるのだ。
 今日は干し肉にしよう。前にもらったときに美味しかったから、きっとこのお肉も美味しいはずだ。

「よっしゃー! 俺の干し肉を選んだぞ!」
「どこで買ったんだ? 教えろよ」
「秘密だ秘密。たぬきー、その干し肉は俺が買ったんだ。新しい飼い主にしてくれよな」
「一回くらいで調子に乗るな!」
「この干し魚をやってもらえないか? 狐が気に入っているやつだから、きっと狸も気に入るだろう」
「特別扱いはなし。ご飯はそこのかごに入れておいて」

 もぐもぐ。美味しい。もっと食べたいけど、ギンイロに食べすぎだと言われたから、いまはこれくらいにしておこう。
 干し肉を食べたら、眠くなった。ここに来て一番うれしいのは、お昼に寝ても起こされないことだ。
 寝床として用意されたかごの中に入って、布の下に隠れれば、寝る準備が整う。襲われないように、全身を隠すのだ。

「たぬたぬのお昼寝の時間だから、みんな静かに」
「起きたら触らせてくれよ」
「それは、たぬたぬの気分次第」

 ここのニンゲンはいつも騒がしい。寝る邪魔をしないでほしいな。

「狸は寝たのか」
「ギルド長。さっきご飯を食べて、いま寝たところです」
「しばらく世話をしてみてどうだ? 冒険者の使役獣としてやっていけそうか?」
「無理だと思います。警戒心が全くありません」
「そんな感じだな」

 もう、うるさくて寝られないじゃないか。静かにしてよ。

「ラーク村の調査はどうだったんですか?」
「やはり、あそこにいた狸だった。連れていかれた時期と冒険者の特徴が一致した」
「そうでしたか」
「飢えているのを見かねて、村の人間が野菜や残りもののご飯をやっていたらしいから、おそらく狩りをしたこともないんだろう」
「あー、そんな感じですね。ネズミを見て逃げましたから」
「隠れていたつもりらしいが、尻と尻尾が丸見えだったそうだ。神の使いかもしれないからと世話してもらえていなかったら、生き残れなかっただろう」
「今も尻尾が出ちゃってるの、多分気づいてないですよねえ」

 そんな哀れな狸がいるのか。僕はしっかり狩りも穴掘りもできるから、もし会うことがあったら、先輩としてやり方を教えてあげよう。

 でもまずは、お昼寝だ。
 起きたらきっとまた美味しいものが食べられる。
 冒険、楽しいな。幸せだな。



――――――――――――

いつも「いいね」「エール」「コメント」で応援してくれてありがとう。
尻尾を振ってお礼を伝えるよ。ありがとふりふりキャン!

気温が安定しない五月、大型連休も終わってメンタルも不安定になりがちな五月。
ちょっとしんどいなって思ったら、お気に入りのもふもふを眺めて、心を落ち着けてね。そして、大福くんのように、美味しいご飯を食べて、ゆっくり寝よう。
みんなが笑顔で過ごせますように。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わりで鬼姑と鬼小姑の元に嫁ぎましたが幸せなので二度と帰りません!

ユウ
恋愛
嫁苛めが酷いと言われる名家に姉の身代わりで嫁がされたグレーテル。 器量も悪く、容量も悪く愛嬌と元気だけが取り柄で家族からも疎まれ出来損ないのレッテルを貼られていた。 嫁いだ後は縁を切ると言われてしまい、名家であるが厳し事で有名であるシャトワール伯爵家に嫁ぐ事に。 噂では跡継ぎの長男の婚約者を苛め倒して精神が病むまで追い込んだとか。 姉は気に入らなければ奴隷のようにこき使うと酷い噂だったのだが。 「よく来てくれたわねグレーテルさん!」 「待っていましたよ」 噂とは正反対で、優しい二人だった。 家族からも無視され名前を呼ばれることもなかったグレーテルは二人に歓迎され、幸福を噛みしめる。 一方、姉のアルミナはグレーテルの元婚約者と結婚するも姑関係が上手く行かず問題を起こしてしまう。 実家は破産寸前で、お金にも困り果てる。 幸せになるはずの姉は不幸になり、皮肉にも家を追い出された妹は幸福になって行く。 逆恨みをした元家族はグレーテルを家に戻そうとするも…。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】

小平ニコ
ファンタジー
大学生の黒木真理矢は、ある日突然、聖女として異世界に召喚されてしまう。だが、異世界人たちは真理矢を見て、開口一番「なんだあの黒い髪は」と言い、嫌悪の眼差しを向けてきた。 この国では、黒い髪の人間は忌まわしき存在として嫌われており、真理矢は、婚約者となるはずであった王太子からも徹底的に罵倒され、国を追い出されてしまう。 (勝手に召喚して、髪が黒いから出てけって、ふざけるんじゃないわよ――) 怒りを胸に秘め、真理矢は隣国に向かった。どうやら隣国では、黒髪の人間でも比較的まともな扱いを受けられるそうだからだ。 (元の世界には戻れないみたいだし、こうなったら聖女の力を使って、隣の国で成り上がってやるわ) 真理矢はそう決心し、見慣れぬ世界で生きていく覚悟を固めたのだった。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。