110 / 203
学園編
閑話 赦し 3(部隊長視点)
しおりを挟む
ネウラ特別部隊の隊員の選考が進む中、国の西側に神獣様の眷属が現れたという情報が密偵によってもたらされた。
神獣様が眷属をお持ちだとは聞いたことがない。フォロン侯爵家に確認したところ、やはり聞いたことがないそうだ。だが直接神獣様に確認することは避けたい。きっと神獣様ならご自身で確認に出向かれるだろう。その結果、神の眷属を騙ったことに対して神罰が下されるのは、なんとしても避けなければならない。何度も神罰を下されては、この国がもたない。
「ヴィンセント、確認に行ってほしい」
「ですが、私では本物かどうかの判断ができません」
「王都に連れてくるだけでいい」
「それはできますが、目撃した者たちから一気にうわさが広がります。場合によっては国への批判になりかねません」
冒険者の使役獣を取り上げることは許されない。それはかつての魔術師長が幻獣だと思われていた神獣様にしようとしたことだ。
ウィオラスに同行してもらうしかないだろう。神獣の加護をもらった学園の学園長として、ウィオラスが否定すれば、周りも納得するに違いない。神獣様には知られずに、ウィオラスだけを向かわせることができないか、フォロン侯爵に相談してみるしかないな。
そう思ったが、結局出発前に神獣様に知られてしまい、ウィオラスとともに眷属を騙る動物のもとまで出向かれた。そしてその動物と王都に戻られた。
「神獣様はお怒りではなかったのか?」
「ブローと名付けられた白い狸の幻獣が、冒険者から粗末に扱われていなかったため、お怒りにはなられませんでした」
「そうか。それは何より。それでその幻獣はフォロン侯爵家か?」
「いいえ。王都の冒険者ギルドで新しい契約主を探すことになり、ウィオラスが連れていきました」
ヴィンセントから陛下への直接の報告を、団長とともに聞いているが、今回のことは神獣様の勘気には触れなかったようだ。みながホッと息を吐いたのが、とても印象的だった。あの小さな愛らしい狐が、国の中枢にある者にこれほどの緊張をもたらすのだ。
「一点報告があります。神獣様はフェゴの王子殿下とお知り合いのようです。幻獣を預けてはどうかと提案されていました」
「宰相、フェゴから神獣様と接触したという連絡は来ていたか?」
「冒険者として活動されている第三王子殿下と、少しの間行動を共にされたと」
「冒険者の使役獣にしてはどうかという話の流れでしたので、おそらくその殿下でしょう」
その提案はウィオラスが却下したようだが、そこで名前が上がるほどに親しいということか。学園ができた今、フェゴへ移住されることはないだろうが、神獣様がこの国にとどまる保証はどこにもないということだ。そのことに思い至ったみなの表情が硬い。
「この先は冒険者ギルドとともに対応にあたる。ご苦労だった。ハイウェル、フォロン侯爵とともに、神獣様へ謝罪を伝えてきてくれ」
「畏まりました」
実際に事を起こしたのは冒険者だから、冒険者への処罰はギルドが行うことになる。
いつものように、近衛騎士団長が陛下の名代として神獣様に会い、謝罪を伝えることになった。
陛下への報告が終わり、団長の部屋に場所を移してヴィンセントからさらに詳しいことを聞いている。
だがときどき、ヴィンセントの目に映る神獣様が本当に私たちと同じなのか、疑わしくなることがある。それほどに神獣様が気を許していらっしゃるのか、それともヴィンセントが畏怖を感じていないのか。
「使役獣が粗末に扱われていないと分かってからは、なんの動物かということにしか興味はなさそうでした」
「それは、我々にとっては幸いだが」
「白くて毛がふわふわの狸でしたので、本当にちびっこにそっくりです。前情報なく眷属と言われれば信じましたね」
「そうか」
「人間がまじめな話をしているそばで、一緒に遊んでいましたが、毛玉が転がっているようでしたよ」
「そ、そうなのか」
「二匹そろって、ひっくり返って食べ過ぎのお腹を見せながら寝ているのを見ると、ちょっと憎らしくなりましたね。のん気なところまで似なくていいのに」
神罰が下されるかどうかの瀬戸際だと警戒していたのは過剰だったのかと感じるほどの軽い言葉に、団長も混乱している。
「と、とにかく、神獣様はお怒りではないんだよな?」
「まったく気にしていませんでしたよ。商人たちにおやつをもらってはなでさせて、ご機嫌でした」
神獣様と親しいヴィンセントが言うのだ。本当に気にしていらっしゃらなかったのだろう。
神罰につながるような事態にならず、それ自体は喜ばしいが、ならば一体何が勘気に触れるのかがよく分からない。日頃は人懐っこく、細かいことにはこだわらない大らかな面をお持ちであるがゆえに、特定を困難にしているのだ。
「いったい何が逆鱗に触れるのか、よく分からないな」
「今回のことが問題ないのなら、ウィオラスを傷つけるようなことをしなければ、大丈夫じゃないですか?」
「そうだといいんだが」
それなら分かりやすいのだが、実際にやって確かめるわけにもいかないので、このまま綱渡りが続くのだろう。
神獣様が眷属をお持ちだとは聞いたことがない。フォロン侯爵家に確認したところ、やはり聞いたことがないそうだ。だが直接神獣様に確認することは避けたい。きっと神獣様ならご自身で確認に出向かれるだろう。その結果、神の眷属を騙ったことに対して神罰が下されるのは、なんとしても避けなければならない。何度も神罰を下されては、この国がもたない。
「ヴィンセント、確認に行ってほしい」
「ですが、私では本物かどうかの判断ができません」
「王都に連れてくるだけでいい」
「それはできますが、目撃した者たちから一気にうわさが広がります。場合によっては国への批判になりかねません」
冒険者の使役獣を取り上げることは許されない。それはかつての魔術師長が幻獣だと思われていた神獣様にしようとしたことだ。
ウィオラスに同行してもらうしかないだろう。神獣の加護をもらった学園の学園長として、ウィオラスが否定すれば、周りも納得するに違いない。神獣様には知られずに、ウィオラスだけを向かわせることができないか、フォロン侯爵に相談してみるしかないな。
そう思ったが、結局出発前に神獣様に知られてしまい、ウィオラスとともに眷属を騙る動物のもとまで出向かれた。そしてその動物と王都に戻られた。
「神獣様はお怒りではなかったのか?」
「ブローと名付けられた白い狸の幻獣が、冒険者から粗末に扱われていなかったため、お怒りにはなられませんでした」
「そうか。それは何より。それでその幻獣はフォロン侯爵家か?」
「いいえ。王都の冒険者ギルドで新しい契約主を探すことになり、ウィオラスが連れていきました」
ヴィンセントから陛下への直接の報告を、団長とともに聞いているが、今回のことは神獣様の勘気には触れなかったようだ。みながホッと息を吐いたのが、とても印象的だった。あの小さな愛らしい狐が、国の中枢にある者にこれほどの緊張をもたらすのだ。
「一点報告があります。神獣様はフェゴの王子殿下とお知り合いのようです。幻獣を預けてはどうかと提案されていました」
「宰相、フェゴから神獣様と接触したという連絡は来ていたか?」
「冒険者として活動されている第三王子殿下と、少しの間行動を共にされたと」
「冒険者の使役獣にしてはどうかという話の流れでしたので、おそらくその殿下でしょう」
その提案はウィオラスが却下したようだが、そこで名前が上がるほどに親しいということか。学園ができた今、フェゴへ移住されることはないだろうが、神獣様がこの国にとどまる保証はどこにもないということだ。そのことに思い至ったみなの表情が硬い。
「この先は冒険者ギルドとともに対応にあたる。ご苦労だった。ハイウェル、フォロン侯爵とともに、神獣様へ謝罪を伝えてきてくれ」
「畏まりました」
実際に事を起こしたのは冒険者だから、冒険者への処罰はギルドが行うことになる。
いつものように、近衛騎士団長が陛下の名代として神獣様に会い、謝罪を伝えることになった。
陛下への報告が終わり、団長の部屋に場所を移してヴィンセントからさらに詳しいことを聞いている。
だがときどき、ヴィンセントの目に映る神獣様が本当に私たちと同じなのか、疑わしくなることがある。それほどに神獣様が気を許していらっしゃるのか、それともヴィンセントが畏怖を感じていないのか。
「使役獣が粗末に扱われていないと分かってからは、なんの動物かということにしか興味はなさそうでした」
「それは、我々にとっては幸いだが」
「白くて毛がふわふわの狸でしたので、本当にちびっこにそっくりです。前情報なく眷属と言われれば信じましたね」
「そうか」
「人間がまじめな話をしているそばで、一緒に遊んでいましたが、毛玉が転がっているようでしたよ」
「そ、そうなのか」
「二匹そろって、ひっくり返って食べ過ぎのお腹を見せながら寝ているのを見ると、ちょっと憎らしくなりましたね。のん気なところまで似なくていいのに」
神罰が下されるかどうかの瀬戸際だと警戒していたのは過剰だったのかと感じるほどの軽い言葉に、団長も混乱している。
「と、とにかく、神獣様はお怒りではないんだよな?」
「まったく気にしていませんでしたよ。商人たちにおやつをもらってはなでさせて、ご機嫌でした」
神獣様と親しいヴィンセントが言うのだ。本当に気にしていらっしゃらなかったのだろう。
神罰につながるような事態にならず、それ自体は喜ばしいが、ならば一体何が勘気に触れるのかがよく分からない。日頃は人懐っこく、細かいことにはこだわらない大らかな面をお持ちであるがゆえに、特定を困難にしているのだ。
「いったい何が逆鱗に触れるのか、よく分からないな」
「今回のことが問題ないのなら、ウィオラスを傷つけるようなことをしなければ、大丈夫じゃないですか?」
「そうだといいんだが」
それなら分かりやすいのだが、実際にやって確かめるわけにもいかないので、このまま綱渡りが続くのだろう。
1,744
お気に入りに追加
7,461
あなたにおすすめの小説
身代わりで鬼姑と鬼小姑の元に嫁ぎましたが幸せなので二度と帰りません!
ユウ
恋愛
嫁苛めが酷いと言われる名家に姉の身代わりで嫁がされたグレーテル。
器量も悪く、容量も悪く愛嬌と元気だけが取り柄で家族からも疎まれ出来損ないのレッテルを貼られていた。
嫁いだ後は縁を切ると言われてしまい、名家であるが厳し事で有名であるシャトワール伯爵家に嫁ぐ事に。
噂では跡継ぎの長男の婚約者を苛め倒して精神が病むまで追い込んだとか。
姉は気に入らなければ奴隷のようにこき使うと酷い噂だったのだが。
「よく来てくれたわねグレーテルさん!」
「待っていましたよ」
噂とは正反対で、優しい二人だった。
家族からも無視され名前を呼ばれることもなかったグレーテルは二人に歓迎され、幸福を噛みしめる。
一方、姉のアルミナはグレーテルの元婚約者と結婚するも姑関係が上手く行かず問題を起こしてしまう。
実家は破産寸前で、お金にも困り果てる。
幸せになるはずの姉は不幸になり、皮肉にも家を追い出された妹は幸福になって行く。
逆恨みをした元家族はグレーテルを家に戻そうとするも…。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】
小平ニコ
ファンタジー
大学生の黒木真理矢は、ある日突然、聖女として異世界に召喚されてしまう。だが、異世界人たちは真理矢を見て、開口一番「なんだあの黒い髪は」と言い、嫌悪の眼差しを向けてきた。
この国では、黒い髪の人間は忌まわしき存在として嫌われており、真理矢は、婚約者となるはずであった王太子からも徹底的に罵倒され、国を追い出されてしまう。
(勝手に召喚して、髪が黒いから出てけって、ふざけるんじゃないわよ――)
怒りを胸に秘め、真理矢は隣国に向かった。どうやら隣国では、黒髪の人間でも比較的まともな扱いを受けられるそうだからだ。
(元の世界には戻れないみたいだし、こうなったら聖女の力を使って、隣の国で成り上がってやるわ)
真理矢はそう決心し、見慣れぬ世界で生きていく覚悟を固めたのだった。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。