101 / 203
学園編
7. ご利益
しおりを挟む
街の警備隊の建物を借りて、詐欺師の取り調べだ。
どうしてこんなことをしたのかと副隊長さんが聞いている横で、オレは大福くんに事情聴取だ。
『キュンキューン?(どうしてあの人と一緒にいるの?)』
『クーン(捕まっちゃったの)』
森の近く、小さな村のそばで隠れて暮らしていたのに、詐欺師に見つかり、捕まってしまった。それで使役獣契約をかけられて、逃げられなくなったけど、嫌なことは特にされていないらしい。ただ、好きなときに昼寝ができないことには文句を言いたいそうだ。狸って夜行性だったよね。
「俺の使役獣だ! 何をしようと俺の自由だ!」
『契約は切ったよ』
「契約はもう切れている」
「うそだ。ブロー、来い!」
使役獣契約があると命令に従ってしまう。けれど契約は無効にしたから、大福くんはオレにくっついたままだ。それを見て怒り狂っている詐欺師を、みんな白けた目で見ている。大福くんに愛情はなく、お金を生む存在を手放したくないんだろう。これが食い倒れツアー中にアチェーリで出会った使役獣の食パンくんなら、飼い主さんは「リンちゃんに嫌われた……」と泣き崩れている。
「神獣様の怒りに触れるようなことをしたのだ。当然だろう」
「くそっ」
もう一度大福くんに使役獣の契約魔法を飛ばしてきたので、それはオレが無効化した。ついでにこっそり、二度と魔法を使えないようにしておこう。それくらいなら、オレにかけられている制約にも反しない。愛情もなく契約するなんて、獣の守護者として許せない。
「ブローをどうするつもりだ……」
「それを判断するのは私たちではない」
そうだよ。これからどうしたいのかは、大福くんが決めることだ。
詐欺師はこのまま王都へと連れていって、騎士団のほうで取り調べるそうだ。どういう処分が下されるのかは分からないけど、オレの手前、軽くはできないだろう。大福くんが辛い思いをしていなかったので、正直どうでもいいんだけど、模倣犯が現れると困るから見せしめにされるんじゃないかな。
詐欺師も捕まったし、後は王都に向けて戻るだけなので、難しいことは忘れて宿のご飯を心置きなく楽しもう。
動物が二匹もいるので、今日は食堂ではなくお部屋にご飯を運んでもらった。こういうとき、騎士だとわがままがとおる。副隊長さんも一緒にご飯だ。
もぐもぐ、もぐもぐ。美味しいねえ。大福くんも美味しそうに食べている。オレと同じ料理で問題ないようだ。でもまたお腹がぽんぽこになるから食べ過ぎないようにね。
「王都に連れて帰ったとして、ブローはどうするべきでしょうねえ」
『野生に返すのはやめてね』
「確かに森の中では目立つな」
土魔法を持っているから、穴を掘って魔物や人間から隠れていたらしい。けれど、白色は目立ってしまう。こうして有名になった以上、また大福くんを探す冒険者も現れるだろう。
お腹もいっぱいになったので、大福くんに今後どうしたいか聞いてみると、このままいろんなところへ行きたいと言う。ずっと隠れるように暮らしてきたから、旅をするのが楽しいらしい。学園のペットになることも提案してみたけど、あちこち行ってみたいそうだ。子どもに可愛がられるペットもいいと思うんだけどねえ。
『いろんなところへ行くのが楽しかったって』
「そうなると、冒険者の使役獣がいいか」
「ですが、この見た目では今後も面倒に巻き込まれますよ。学園に置いておくのがいいのでは?」
『定住したくないんだって。フェゴの王子様は?』
「王族はよくないだろう。ルジェがフェゴに加護を与えたと勘違いされる可能性がある」
食い倒れツアーで出会ったフェゴの王子様は冒険者をしていて、その幼なじみは使役獣が欲しいからずっと探していると言っていたので、いいと思ったんだけどなあ。
でも確かに、王子様と幼なじみはちゃんと理解してくれるだろうけど、フェゴの王様がどんな人なのかは知らないから、どう受け取られるかは分からない。
『うーん、じゃあ王都のギルドに連れていって、誰か飼いたい人を探す?』
「それがいいか」
あそこのギルドは職員さん含めみんな、オレのことを可愛がってくれるから、大福くんのことも可愛がってくれるだろう。それに、ギルド長はオレの正体を知っているし、冒険者たちもウィオとオレのことをよく知っている。
ギルド長の仕事を増やしちゃうけど、許してね。
大福くんを連れて王都に向かっていると、いろんな人に声をかけられる。中でも多いのが――
「よく似てますねえ。氷の騎士様の使役獣も、神獣様の眷属ですか?」
「どちらも違う」
オレは神獣だし、大福くんはオレの眷属じゃないし、どっちも不正解。
オレたちは同じイヌ科だから、銀色と真っ白だとあまり区別がつかない。猫にも見えるし、スピッツにも見える。耳の大きさが違うくらいだ。
だけどすでに、白い生きものは神獣の眷属といううわさが広まっている。あの詐欺師、余計なことしてくれる。せっかくオレの正体がごまかせたと思ったのに、困ったなあ。やっぱりあのときの大きい狐は七色に光らせて、似ても似つかない姿にしておくべきだったかな。
「どちらも可愛いですねえ。触ってもいいですか?」
『キャン!』
「ルジェはいいが、ブローには触れないでくれ」
大福くんは少し怖がっているから、ウィオが触らないようにと注意してくれる。ここはオレが二匹分なでてもらおう。
「いい子だねえ。可愛いねえ。よしよし。どうぞ商談が成功しますように」
『キューン』
オレをなでている商人は、この後に大きな商談を控えているらしい。ご利益がほしいとオレをなでているけれど、本当に期待しているのではなく、ゲン担ぎみたいなものだろう。それが分かるから、大人しくなでられている。決しておやつに釣られたわけじゃないよ。
商売の神様は蛇だった気がするから、オレじゃご利益はないけど、応援するね。
どうしてこんなことをしたのかと副隊長さんが聞いている横で、オレは大福くんに事情聴取だ。
『キュンキューン?(どうしてあの人と一緒にいるの?)』
『クーン(捕まっちゃったの)』
森の近く、小さな村のそばで隠れて暮らしていたのに、詐欺師に見つかり、捕まってしまった。それで使役獣契約をかけられて、逃げられなくなったけど、嫌なことは特にされていないらしい。ただ、好きなときに昼寝ができないことには文句を言いたいそうだ。狸って夜行性だったよね。
「俺の使役獣だ! 何をしようと俺の自由だ!」
『契約は切ったよ』
「契約はもう切れている」
「うそだ。ブロー、来い!」
使役獣契約があると命令に従ってしまう。けれど契約は無効にしたから、大福くんはオレにくっついたままだ。それを見て怒り狂っている詐欺師を、みんな白けた目で見ている。大福くんに愛情はなく、お金を生む存在を手放したくないんだろう。これが食い倒れツアー中にアチェーリで出会った使役獣の食パンくんなら、飼い主さんは「リンちゃんに嫌われた……」と泣き崩れている。
「神獣様の怒りに触れるようなことをしたのだ。当然だろう」
「くそっ」
もう一度大福くんに使役獣の契約魔法を飛ばしてきたので、それはオレが無効化した。ついでにこっそり、二度と魔法を使えないようにしておこう。それくらいなら、オレにかけられている制約にも反しない。愛情もなく契約するなんて、獣の守護者として許せない。
「ブローをどうするつもりだ……」
「それを判断するのは私たちではない」
そうだよ。これからどうしたいのかは、大福くんが決めることだ。
詐欺師はこのまま王都へと連れていって、騎士団のほうで取り調べるそうだ。どういう処分が下されるのかは分からないけど、オレの手前、軽くはできないだろう。大福くんが辛い思いをしていなかったので、正直どうでもいいんだけど、模倣犯が現れると困るから見せしめにされるんじゃないかな。
詐欺師も捕まったし、後は王都に向けて戻るだけなので、難しいことは忘れて宿のご飯を心置きなく楽しもう。
動物が二匹もいるので、今日は食堂ではなくお部屋にご飯を運んでもらった。こういうとき、騎士だとわがままがとおる。副隊長さんも一緒にご飯だ。
もぐもぐ、もぐもぐ。美味しいねえ。大福くんも美味しそうに食べている。オレと同じ料理で問題ないようだ。でもまたお腹がぽんぽこになるから食べ過ぎないようにね。
「王都に連れて帰ったとして、ブローはどうするべきでしょうねえ」
『野生に返すのはやめてね』
「確かに森の中では目立つな」
土魔法を持っているから、穴を掘って魔物や人間から隠れていたらしい。けれど、白色は目立ってしまう。こうして有名になった以上、また大福くんを探す冒険者も現れるだろう。
お腹もいっぱいになったので、大福くんに今後どうしたいか聞いてみると、このままいろんなところへ行きたいと言う。ずっと隠れるように暮らしてきたから、旅をするのが楽しいらしい。学園のペットになることも提案してみたけど、あちこち行ってみたいそうだ。子どもに可愛がられるペットもいいと思うんだけどねえ。
『いろんなところへ行くのが楽しかったって』
「そうなると、冒険者の使役獣がいいか」
「ですが、この見た目では今後も面倒に巻き込まれますよ。学園に置いておくのがいいのでは?」
『定住したくないんだって。フェゴの王子様は?』
「王族はよくないだろう。ルジェがフェゴに加護を与えたと勘違いされる可能性がある」
食い倒れツアーで出会ったフェゴの王子様は冒険者をしていて、その幼なじみは使役獣が欲しいからずっと探していると言っていたので、いいと思ったんだけどなあ。
でも確かに、王子様と幼なじみはちゃんと理解してくれるだろうけど、フェゴの王様がどんな人なのかは知らないから、どう受け取られるかは分からない。
『うーん、じゃあ王都のギルドに連れていって、誰か飼いたい人を探す?』
「それがいいか」
あそこのギルドは職員さん含めみんな、オレのことを可愛がってくれるから、大福くんのことも可愛がってくれるだろう。それに、ギルド長はオレの正体を知っているし、冒険者たちもウィオとオレのことをよく知っている。
ギルド長の仕事を増やしちゃうけど、許してね。
大福くんを連れて王都に向かっていると、いろんな人に声をかけられる。中でも多いのが――
「よく似てますねえ。氷の騎士様の使役獣も、神獣様の眷属ですか?」
「どちらも違う」
オレは神獣だし、大福くんはオレの眷属じゃないし、どっちも不正解。
オレたちは同じイヌ科だから、銀色と真っ白だとあまり区別がつかない。猫にも見えるし、スピッツにも見える。耳の大きさが違うくらいだ。
だけどすでに、白い生きものは神獣の眷属といううわさが広まっている。あの詐欺師、余計なことしてくれる。せっかくオレの正体がごまかせたと思ったのに、困ったなあ。やっぱりあのときの大きい狐は七色に光らせて、似ても似つかない姿にしておくべきだったかな。
「どちらも可愛いですねえ。触ってもいいですか?」
『キャン!』
「ルジェはいいが、ブローには触れないでくれ」
大福くんは少し怖がっているから、ウィオが触らないようにと注意してくれる。ここはオレが二匹分なでてもらおう。
「いい子だねえ。可愛いねえ。よしよし。どうぞ商談が成功しますように」
『キューン』
オレをなでている商人は、この後に大きな商談を控えているらしい。ご利益がほしいとオレをなでているけれど、本当に期待しているのではなく、ゲン担ぎみたいなものだろう。それが分かるから、大人しくなでられている。決しておやつに釣られたわけじゃないよ。
商売の神様は蛇だった気がするから、オレじゃご利益はないけど、応援するね。
1,940
お気に入りに追加
7,461
あなたにおすすめの小説
身代わりで鬼姑と鬼小姑の元に嫁ぎましたが幸せなので二度と帰りません!
ユウ
恋愛
嫁苛めが酷いと言われる名家に姉の身代わりで嫁がされたグレーテル。
器量も悪く、容量も悪く愛嬌と元気だけが取り柄で家族からも疎まれ出来損ないのレッテルを貼られていた。
嫁いだ後は縁を切ると言われてしまい、名家であるが厳し事で有名であるシャトワール伯爵家に嫁ぐ事に。
噂では跡継ぎの長男の婚約者を苛め倒して精神が病むまで追い込んだとか。
姉は気に入らなければ奴隷のようにこき使うと酷い噂だったのだが。
「よく来てくれたわねグレーテルさん!」
「待っていましたよ」
噂とは正反対で、優しい二人だった。
家族からも無視され名前を呼ばれることもなかったグレーテルは二人に歓迎され、幸福を噛みしめる。
一方、姉のアルミナはグレーテルの元婚約者と結婚するも姑関係が上手く行かず問題を起こしてしまう。
実家は破産寸前で、お金にも困り果てる。
幸せになるはずの姉は不幸になり、皮肉にも家を追い出された妹は幸福になって行く。
逆恨みをした元家族はグレーテルを家に戻そうとするも…。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪
山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。
「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」
そうですか…。
私は離婚届にサインをする。
私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。
使用人が出掛けるのを確認してから
「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
黒聖女の成り上がり~髪が黒いだけで国から追放されたので、隣の国で聖女やります~【完結】
小平ニコ
ファンタジー
大学生の黒木真理矢は、ある日突然、聖女として異世界に召喚されてしまう。だが、異世界人たちは真理矢を見て、開口一番「なんだあの黒い髪は」と言い、嫌悪の眼差しを向けてきた。
この国では、黒い髪の人間は忌まわしき存在として嫌われており、真理矢は、婚約者となるはずであった王太子からも徹底的に罵倒され、国を追い出されてしまう。
(勝手に召喚して、髪が黒いから出てけって、ふざけるんじゃないわよ――)
怒りを胸に秘め、真理矢は隣国に向かった。どうやら隣国では、黒髪の人間でも比較的まともな扱いを受けられるそうだからだ。
(元の世界には戻れないみたいだし、こうなったら聖女の力を使って、隣の国で成り上がってやるわ)
真理矢はそう決心し、見慣れぬ世界で生きていく覚悟を固めたのだった。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。