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番外編

12. お正月番外編 中 魔術師の鷹

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 王様がいなくなって、お父さんも仕事に行ったので、お馬さんと走ろう。
 厩舎の人の手も借りて、お馬さんに鞍をつけていたら、副隊長さんが厩舎に来た。

「あれ、ウィオラスとちびっこ」
『副隊長さんもお馬さんに会いに来たの?』
「時間が空いたから、リーネと走ろうかと思って。ちびっこは?」
『王様の兎さんが調子悪いって聞いて来たんだけど、ちょっと反抗期だったみたい』

 副隊長さんがよく分からないって顔をしているけど、それ以上は追及されなかった。王様に関わることだからか、聞かなかったことにするらしい。
 副隊長さんは一緒に走ろうとウィオを誘っている。ウィオのお馬さんと副隊長さんのお馬さんは夫婦だから、一緒に走るのは嬉しいだろうな。
 副隊長さんのお馬さんが連れられてきたので、その背に飛び乗った。

『お馬さん、お久しぶり。元気?』
「ヒンヒンヒーン」
『よかった。何かあったら、いつでも呼んでね』
「ヒーン」

 健康そうだけど、魔物の退治にも行っているだろうから、浄化と治癒をしておこう。
 オレを最初に助けてくれたのはお馬さんだから、困ったときはいつでも頼ってね。

「走るのはリーネの好きなペースでいいですか?」
「ああ。アレクはついていくだろう」

 副隊長さんのお馬さんが走る後を、ウィオのお馬さんがついていく。お城の中のお馬さんのための道を、自由に走っているけど、二人と二頭が楽しそうだから、オレも嬉しい。


 副隊長さんと一緒に思う存分馬で走り回って厩舎に戻ったら、お父さんから連絡があって、魔術塔に向かうことになった。
 お父さんがお城に入ってすぐ魔術塔にお伺いを立ててくれて、あの魔術師さんから「どうぞいらしてください」と返事がきたそうなので、鷹さんに会いに行こう。
 もともとこの後はお城の食堂でお昼ご飯の予定だったから、お昼ご飯の前に鷹さんと面会だ。

 お父さんが厩舎に迎えに来てくれたので、馬車で魔術塔まで移動だ。お城はとにかく広くて、騎士団の訓練場に、お馬さんが走るところもあって、さらに薬草畑もあるらしい。
 魔術塔は騎士団とは反対側のお城の端っこだ。昔から魔術塔と騎士団は仲が悪いらしいんだけど、頭脳派と肉体派の対立なんだろう。こればっかりは、キノコ派とタケノコ派と同じでどちらも譲らないから、きっと和解はありえない。ちなみにオレはタケノコよりの中立派だけど、そう言うとどっちつかずの優柔不断なやつと白い目で見られるので、タケノコ派と名乗っていた。でもどっちも美味しいよね。思い出したらチョコレートが食べたくなっちゃった。

「フォロン侯爵、お待ちしておりました」
「本日は急なお願いを聞いていただきましてありがとうございます」

 魔術塔の前には、魔術師長と鷹さんの契約主の魔術師さんが待っていてくれた。魔術師さんの肩には鷹さんが停まっている。

「まずは中へご案内いたします。ウィオラス様もどうぞ」
『鷹さん、お久しぶり』
『キッ(無事大きくなってよかった)』

 魔術師長がすごく低姿勢で接してくるんだけど、これはオレの正体を知っているな。
 オレを手に入れようとした前の魔術師長と一緒に、魔術塔の人たちは半分が神罰を下されちゃったから、きっとオレのことが怖いのだろう。
 騎士団の人たちにはそういう態度をとられたことがなかったけど、やっぱり戦闘職だと度胸が違うのかな。それだけじゃなくて、子どものころを知っている人が多いから、あんまり怖くないっていうのもありそう。
 じゃあ王様はどうなんだろう。王様だから根性で平気なふりをしているのかな。でも兎さんの治療を頼んでくるくらいだし、恐れてはいないんだろうか。

『オレって王様に怖がられてる?』
「どうだろう。お立場上、そういうことは表に出されないから」
『魔術師長にはすごく怖がられてるよね』

 お父さんはあいまいに笑うだけで答えてくれなかった。まあこの場では答えられないか。
 魔術塔の中に入ると、魔術師ともすれ違うんだけど、魔術師長が案内しているのが元騎士のウィオとあって、みんな困惑して見ている。
 別に道場破りに来たんじゃないから、そんなに警戒しないでよ。

「今日はイシュマと、幻獣のヒョードルにお会いになりたいということでしたが」
「ええ。狐の幻獣のルジェくんが、以前会ったそちらの鷹の幻獣に会いたいということで、面会を申し込みました」
「ヒョードルが、何かいたしましたでしょうか……?」
「幻獣仲間として、会いたがっただけです」

 オレが神罰下しに来たんじゃないかと警戒されているのが見え見えなんだけど、そんなことしないって。お父さんが幻獣とすごく強調して話をしてるのに、通じていないみたいだ。
 魔術師さんが、なんで魔術師長がこんなにオレのことを警戒しているのか不思議がっている。

「あのときに比べると大きくなりましたね。ヒョードル、相手をしなさい」
『ピッ』
「ルジェくんもお話しておいで」
『キャン』

 お父さんも許可をくれたし、ウィオを見ると頷いてくれたので、前のように部屋の隅で鷹さんとお話をしよう。

『あのね、旅先で幻獣に会ったよ』
『ピ(ほお)』

 鷹さんは、他の使役獣に会ったことがないって言っていたから、オレも鷹さん以外には会えないんだろうと思ってたけど、食い倒れツアー中に冒険者が連れている使役獣に会ったのだ。研究者寄りの魔術師よりも冒険者のほうが、使役獣を見つける可能性が高いのだろう。鷹さんの契約主の魔術師さんも、この魔術塔からめったに出ないって前に言ってたし。

 旅先でのことを話すと、鷹さんは羨ましそうにしていた。契約主の魔術師さんがずっと魔術塔にいると、あまり自由に飛び回れないのか。

『ウィオ、オレたまに鷹さんと会いたい。ときどきお屋敷に飛んできてくれないかなあ』
「ルジェ、それは無理だろう」
『でも、鷹さんも飛びたいって思ってる』

 ウィオはオレがただのワガママで言っているのではないと気づいたけど、さっき兎さんがオレのそばにいたいというのを断っているから、幻獣とはいえ特別扱いしていいのか迷っている。

 鷹さんは契約主のことを嫌いではないけれど、自由に空を飛びたいっていう気持ちも捨てられないでいる。
 使役獣は契約主から遠く離れてしまえば、新たな命令を受けることはなくなる。だから通常、契約主は使役獣に対していまず最初に自分から離れることを禁止する。
 オレに会いに行って帰ってこいって命令にすれば、鷹さんは魔術師さんから離れて飛べるけど、魔術師さんは鷹さんを自分から離すことを嫌がって、今までそういう命令をしたことがなかったらしい。多分前の魔術師長から鷹さんも狙われていたんじゃないかな。
 鷹さんの気持ちも分かるけど、魔術師さんの事情も分かるから、自由に飛ばせてあげてとは言えない。人にも魔物にも狙われてしまう鷹さんの安全を、オレは保証できないのだから。

「ウィオラス、どうした」
「ルジェが幻獣仲間にときどきは会いたいと言っています」

 幻獣としては、オレの言葉はウィオしか分からないことになっているので、お父さんは本当はオレの言葉が分かっているけど、ウィオに通訳してもらうという体裁を整えてくれた。
 そしてウィオの返事に、魔術師長が即座に反応した。

「イシュマ、ときどき侯爵様のお屋敷に伺いなさい。それがいいでしょう」
「魔術師長……?」
「イシュマ殿にわざわざ来ていただくのはお仕事に差し支えがあるでしょうから、ときどき鷹の幻獣だけで屋敷を訪ねていただくことは可能でしょうか?」
「それは可能ですが……」

 魔術師さんはお屋敷との間を往復する間に何かあると困るので、渋っている。
 もうあの魔術師長はいなくなったし、魔術師さんには言わないけど、この日に来るって知らせてくれればその往復の安全はオレが保証するよ。

 結局、事情は全く分かっていないけどオレの望みを叶えることを最優先とした魔術師長が押し切る形で、鷹さんのお屋敷訪問が決まった。
 これでオレはときどき鷹さんに会えるし、鷹さんも少しの時間だけど自由に空を飛べる。魔術師さんを心配させないように、ちゃんと連絡をとって会うようにしよう。

『キキッ!(心からの感謝を)』
『キャン!』

 オレが初めて会った幻獣だし、ずっと仲良くしていきたいんだ。これからもよろしくね。
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