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精霊の愛し子編
47. 水の騎士と水の子
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今日は夕食に部隊長さんが来てくれる。火の子の七歳のお披露目のときに断念した、部隊長さんに会いたいという水の子の希望がようやく叶うのだ。水の子は部隊長さんに会えるのが楽しみなのか、お昼過ぎからソワソワしていた。
「隊長にもお会いしたいです」という火の子の無邪気なお願いに一番目のお兄さんが笑顔でうなずいていたから、きっと副隊長さんも一緒だね。頑張って。
「初めまして。カイです。お会いできて、うれしいです」
「初めまして。カエルラです。私もお会いできてうれしいです。同じ属性の人とは初めて会いましたよ」
消え入りそうな小さな声で挨拶した水の子は、部隊長さんを前に緊張しているようだ。
膝をついて水の子と視線を合わせ「どんな魔法が使えるようになりましたか」と聞いている様は王子様みたいで、水の子が余計に緊張している。
その横で、火の子は副隊長さんに、「こんな魔法が使えるようになった」「この魔法が難しい」と屈託なく話している。副隊長さんは火の子の魔法の先生だから、ときどき騎士団に行って教えてもらっている。
火の子の魔力を考えると、侯爵家のお屋敷でも広さは十分じゃない。このお屋敷、さすが貴族で敷地内に訓練場があるんだけど、火の子やウィオの魔力量なら暴走すれば簡単に訓練場全体を吹き飛ばせるのだ。
オレが結界を張っているから吹き飛ぶことはないんだけど火の子には説明できないので、お屋敷では新しい魔法の練習は禁止して、すでにコントロールできている魔法の練習だけに限っている。
水の子に部隊長さんの本気の魔法を見せてあげたいけど、この国に所属していない水の子をお城にある騎士団の敷地に入れることは難しいらしい。国と国とのご招待になっちゃうからね。
火の子から魔法合戦の様子を聞いた水の子は期待していたみたいだけど、無理そうだ。
オレがゴリ押しすれば行けるけど、無理を押し通してその結果迷惑を被るのはお父さんたちだ。特別扱いに、事情を知らない人たちからやっかみが出てしまう。
やっぱりオレの存在をオープンにしちゃったほうがいいかなあ。
ちなみに火の子の魔法合戦の説明は、弟くんにねだられて何度も話しているだけあって、臨場感たっぷりの実況だ。ウィオが氷をがーって降らせて、部隊長さんが水の膜でその氷をぽよんって防いで、副隊長さんが炎をバンバン降らせてって感じ。
お姉ちゃんがどんな状況か全く分からないと冷めた表情で聞いているのに対して、弟くんと水の子はすごいねと目を輝かせていた。きっと細かい内容じゃなくて、戦闘の雰囲気だけで盛り上がれるんだろうな。
部隊長さんは水の子の緊張をほぐすために、手の上に水を出して、お花とかお城とかいろんな形を作って見せてあげている。手品みたいだ。
「たいちょう、たいちょうもあれできますか?」
「リュカ様、水のように炎の形を変えるのは難しいです。あのようなことができるのは水だけですね」
「おじ上の氷も?」
「形は作れるが、自由自在に変えるのは難しい」
そこは液体と固体の違いだね。炎はそもそも物質じゃないし。
「属性によってできることは異なります。部隊長は水でできることを最大限に利用しているので、魔法の効率がとても良いのです。リュカ様も学園で習うと思いますが、魔法を使うには座学も必要なんですよ」
だからお勉強頑張りましょうね、と言われて、火の子がなるほどという顔をしているけど、オレもへえだな。
豊富な魔力でなぎ倒しちゃうウィオにはない発想だ。副隊長さんは突出して魔力が多いわけじゃないから、いろいろ工夫している実体験からのアドバイスだろうな。
魔法学科のカリキュラムはマダム先生にお願いしてあるけど、マダム先生ならきっとそのあたりをバランスよく教えてくれるでしょう。
部隊長さんの本気の魔法が見られなくてがっかりしている水の子のために、学園が始まったら水の子への魔法指導として部隊長さんを派遣してもらえるように、ウィオが正式に頼んでくれることになった。学園の訓練場なら広さも十分だ。
それを聞いて、いいことを思いついた。
『ねえ、開校式の前夜祭でまた魔法合戦しようよ』
「前夜祭ですか? 私は構いませんが」
前夜祭として、学園の訓練場で魔法合戦すればいいと思うんだ。新入生たちも、あれを見れば魔法の勉強頑張ろうって思えるよね。
いい案だと思ったのに、ウィオに反対された。
「ダメだ。興奮して走り回るだろう。他国の王族の前ではやめてくれ」
ウィオ、ひどーい! 副隊長さんも、そんな納得って顔で見ないでよ。
オレちゃんといい子にできるよ。大人しくしていられるよ。TPOをわきまえられる狐だよ。多分だけど。
ほら、水の子にも見せてあげたいし、お姉ちゃんと弟くんにも見せてあげたいでしょう。やろうよ!
頑張って説得したけど、ウィオは首を縦に振ってはくれなかった。
でも前夜祭自体はいい案だから、何か考えるって。
楽しいイベントになるといいな。
「隊長にもお会いしたいです」という火の子の無邪気なお願いに一番目のお兄さんが笑顔でうなずいていたから、きっと副隊長さんも一緒だね。頑張って。
「初めまして。カイです。お会いできて、うれしいです」
「初めまして。カエルラです。私もお会いできてうれしいです。同じ属性の人とは初めて会いましたよ」
消え入りそうな小さな声で挨拶した水の子は、部隊長さんを前に緊張しているようだ。
膝をついて水の子と視線を合わせ「どんな魔法が使えるようになりましたか」と聞いている様は王子様みたいで、水の子が余計に緊張している。
その横で、火の子は副隊長さんに、「こんな魔法が使えるようになった」「この魔法が難しい」と屈託なく話している。副隊長さんは火の子の魔法の先生だから、ときどき騎士団に行って教えてもらっている。
火の子の魔力を考えると、侯爵家のお屋敷でも広さは十分じゃない。このお屋敷、さすが貴族で敷地内に訓練場があるんだけど、火の子やウィオの魔力量なら暴走すれば簡単に訓練場全体を吹き飛ばせるのだ。
オレが結界を張っているから吹き飛ぶことはないんだけど火の子には説明できないので、お屋敷では新しい魔法の練習は禁止して、すでにコントロールできている魔法の練習だけに限っている。
水の子に部隊長さんの本気の魔法を見せてあげたいけど、この国に所属していない水の子をお城にある騎士団の敷地に入れることは難しいらしい。国と国とのご招待になっちゃうからね。
火の子から魔法合戦の様子を聞いた水の子は期待していたみたいだけど、無理そうだ。
オレがゴリ押しすれば行けるけど、無理を押し通してその結果迷惑を被るのはお父さんたちだ。特別扱いに、事情を知らない人たちからやっかみが出てしまう。
やっぱりオレの存在をオープンにしちゃったほうがいいかなあ。
ちなみに火の子の魔法合戦の説明は、弟くんにねだられて何度も話しているだけあって、臨場感たっぷりの実況だ。ウィオが氷をがーって降らせて、部隊長さんが水の膜でその氷をぽよんって防いで、副隊長さんが炎をバンバン降らせてって感じ。
お姉ちゃんがどんな状況か全く分からないと冷めた表情で聞いているのに対して、弟くんと水の子はすごいねと目を輝かせていた。きっと細かい内容じゃなくて、戦闘の雰囲気だけで盛り上がれるんだろうな。
部隊長さんは水の子の緊張をほぐすために、手の上に水を出して、お花とかお城とかいろんな形を作って見せてあげている。手品みたいだ。
「たいちょう、たいちょうもあれできますか?」
「リュカ様、水のように炎の形を変えるのは難しいです。あのようなことができるのは水だけですね」
「おじ上の氷も?」
「形は作れるが、自由自在に変えるのは難しい」
そこは液体と固体の違いだね。炎はそもそも物質じゃないし。
「属性によってできることは異なります。部隊長は水でできることを最大限に利用しているので、魔法の効率がとても良いのです。リュカ様も学園で習うと思いますが、魔法を使うには座学も必要なんですよ」
だからお勉強頑張りましょうね、と言われて、火の子がなるほどという顔をしているけど、オレもへえだな。
豊富な魔力でなぎ倒しちゃうウィオにはない発想だ。副隊長さんは突出して魔力が多いわけじゃないから、いろいろ工夫している実体験からのアドバイスだろうな。
魔法学科のカリキュラムはマダム先生にお願いしてあるけど、マダム先生ならきっとそのあたりをバランスよく教えてくれるでしょう。
部隊長さんの本気の魔法が見られなくてがっかりしている水の子のために、学園が始まったら水の子への魔法指導として部隊長さんを派遣してもらえるように、ウィオが正式に頼んでくれることになった。学園の訓練場なら広さも十分だ。
それを聞いて、いいことを思いついた。
『ねえ、開校式の前夜祭でまた魔法合戦しようよ』
「前夜祭ですか? 私は構いませんが」
前夜祭として、学園の訓練場で魔法合戦すればいいと思うんだ。新入生たちも、あれを見れば魔法の勉強頑張ろうって思えるよね。
いい案だと思ったのに、ウィオに反対された。
「ダメだ。興奮して走り回るだろう。他国の王族の前ではやめてくれ」
ウィオ、ひどーい! 副隊長さんも、そんな納得って顔で見ないでよ。
オレちゃんといい子にできるよ。大人しくしていられるよ。TPOをわきまえられる狐だよ。多分だけど。
ほら、水の子にも見せてあげたいし、お姉ちゃんと弟くんにも見せてあげたいでしょう。やろうよ!
頑張って説得したけど、ウィオは首を縦に振ってはくれなかった。
でも前夜祭自体はいい案だから、何か考えるって。
楽しいイベントになるといいな。
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