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番外編

3. ヌイグルミ

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 開校式が終わって、王都のお屋敷に戻ってきている。2番目のお兄さんも王都で用事があるらしくって今は王都だ。

 ウィオは火の子のそばにいるので、火の子が学園に入学するまでは王都の侯爵家のお屋敷に住み、3年後に火の子が入学して寮に入るときに移住する。
 そのウィオが住む学園長の家を学園の中に建てるにあたって、お兄さんがウィオの希望を聞いている。

「ここの離れと同じでいいかな?」
「あれほど部屋数はなくていいと思います」
『えー、結婚して子どもが出来たら、もっと部屋が必要でしょう?』
「……」
「……」

 あ、これは結婚する気ないな。そしてお兄さんも無理だと思ってるっぽいぞ。

『これから歴代の学園長が住むなら、今後そういうこともあるでしょ』
「そ、そうだね。次の学園長は家族がいるかもしれないよね」

 お兄さんの必死のフォローにも、ウィオは我関せずって顔だ。人間不信はそう簡単には治らないか。
 ウィオの恋愛事情はさておいて、学園長の家は離れと同じ感じで建てることになった。

「ルジェは何か要望はないのか?」
『うーん、芝生のお庭でゴロゴロしたい』
「それは作るよ。でもあまり広くはできないなあ」
『いいよ。お兄さんのお屋敷に行けば広いお庭があるでしょう?』

 お兄さんの住むお屋敷は、自治領の領主のお屋敷ということで、とても広い。岩山の上にお屋敷というかドイツの何とか城みたいなお城を建設中で、土魔法を使える人が大活躍している。
 そこにはオレというか神獣の住処として聖殿も作られている。開校式で大々的に存在をアピールしちゃったから、住まないと分かっていても作らないといけないらしい。
 いろんな国からオレへの貢物がお兄さんの所に届いているらしいので、聖殿はその貢物の倉庫になる予感。

「そういえばルジェくん、隣国の著名な彫刻家がね、ルジェくんの像を作りたいんだって」
『オレの像?』
「ほら、開校式の時に翼の生えた姿を披露したでしょう。それを形に残しておきたいってことらしいんだけど、どうする?」
『勝手に作るならいいよ』

 もう一回あの姿を披露しろって言われてもやらないよ。披露したから何があるってわけじゃないけど、ああいうのはごくごく稀に見るからいいのであって、いつも見てたら有り難味が薄れるでしょ。
 でもどうせ像になるなら、やっぱり九尾にしておけばよかったかなあ。
 それに、いつもの小さな狐のオレはあの時の神獣様の眷属という噂が広まっているらしいので、色も変えておくべきだったかも。
 九尾で虹色とかにしたら派手で、今のオレとは似ても似つかない感じになったはずだよね。

「兄上、その彫刻家にルジェのいつもの姿の像も一緒に作ってもらいたいのですが」
『え?なんで?』
「可愛いルジェを形にしたいと思うのはおかしいか?」

 おかしくないよ!オレ可愛いもんね。像にしたいよね。
 でも、どうせならヌイグルミのほうがいいなあ。

『はい、どうぞ。この雪はずっと解けないから飾っておけるよ』

 雪でオレそっくりの原寸大の像を作ってウィオに渡す。お澄ましお座りしている像だよ。
 ウィオが可愛いって言ってくれて嬉しいから大サービス。

「それは、あの時ウィオラスの足元にいたルジェくんかな?」
『そうだよ。いくつでも作れるよ。だからね、像じゃなくてヌイグルミを作ってほしいな』

 オレのヌイグルミ、絶対かわいいよね!グッズにしたら売れると思うんだ。

 と思っただけど、神獣様をヌイグルミにして売るというのは畏れ多くてダメって言われちゃった。
 その代わりに、学園のエンブレムにもなっている普通の狐のヌイグルミが作られることになった。
 エンブレムの狐は学園創設者で初代学園長の使役獣がモチーフになってますって宣伝されているので、由来は明らかにオレなんだけど、ただの狐ならいいらしい。
 そこの違いがよく分からないけど、ヌイグルミが可愛いなら許す。


 そして出来上がった狐のヌイグルミは、やっぱり可愛かった。
 お座りしている狐はオレじゃないってことで、銀色じゃなくてクリーム色の布で作られているんだけど、キタキツネみたいな色でこれはこれで可愛い。

 このヌイグルミは学園で売って、運営費の一部にする。
 お父さんが紹介してくれた財務担当の人がとても仕事ができる人らしくって、お金になりそうなことを聞きつけるとすっ飛んでくるのだ。
 今回も、ヌイグルミの話が出た数日後にはお屋敷に、ヌイグルミを作るそうですがって聞きに来たんだよね。眼鏡をクイってしながら、原価がこれくらいですので、販売価格はこれくらいでどうでしょうって。
 ウィオは任せるって丸投げしてた。ウィオは冒険者やってたのに、金銭感覚がお坊ちゃんだから当てにならないもんね。

 その売るためのヌイグルミの試作品を渡されたので首の部分をくわえて受け取ったら、なんだかムズムズするぞ。
 気づいたら、ヌイグルミをくわえたまま頭をぶんぶん振り回していた。

「ルジェ、何をやっているんだ。目が回るぞ」
『なんでか振り回さないといけない気がして』

 なんだかわからないけど、やらなきゃいけない気がする。きっと本能だね。ぶんぶん。
 お母さんが笑ってるけど止まらないんだ。
 
 気が済むまで振り回していたら疲れちゃったから、ヌイグルミを置いて、顎を乗せて寝っ転がる。
 おお、高さがちょうどいい感じだ。

「まあみて。ルジェちゃんがルジェちゃんに顎を乗せてるわ」
「可愛いな」

 ふふ。みんなが可愛いって言ってくれて嬉しい。でも今眠いから、また起きたらね。
 尻尾をパタッと一回振って、オレは睡魔に身を任せた。
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